06 小鳥との出会い
「うーん……見つからないなぁ」
ある日の午前中、ハルとマサは本屋に来ていた。
ハルはマサと別れ、元の世界に戻るための手がかりを探していた。
しかし、そんな記述はどこにもなく、ハルはため息をついた。
「やっぱり、そんな簡単には見つからないよね……」
探すのをあきらめたハルは、マサと合流するため、店内を歩く。
やがて、座って本を読んでいるマサを見つける。
「あっ、いた! マサ、そろそろ行こうか……」
ハルが話しかけても、読むのに集中しているのか、マサは気づかずにいた。
本を読んでいるマサは、絵になるくらい凛々しかった。
そんなマサに、ハルは見とれてしまっていた。
「ん? ハル、いつからそこにいたんだ」
「す、少し前くらいからだよ」
「なら、声くらいかけてくれてもいいだろ」
「かけたよ。でも、集中しているみたいだったから……」
「それは悪かったな」
「そうだ、どんな本を読んでいたの?」
マサは本を閉じ、表紙をハルに見せる。
そこには、『すぐにできる格闘技』と書かれていた。
「格闘技の本かい!」
さっきまで、見とれていた自分が恥ずかしくなったハルであった。
そして、マサの本だけ買って、ハルたちは店を出た。
少し早い昼食をとるため、近くのカフェに入る。
「はぁー……どうやったら、手がかりが見つかるのかなぁ」
「そんな焦らなくてもいいじゃねぇか」
「焦るよ! この世界の両親に会ったら、私ごまかせる自信ないもの」
「そんなもんかねぇ」
首を傾げるマサを見ながら、ハルは頼んでいたパンケーキを頬張る。
「うーんっ! おいしい!」
「さっきまで泣きそうだったのが、もう喜んでるな」
「おいしいものは、人を幸せにするよねぇ」
「すみません、ちょっといいですか?」
話しかけられた二人は、声のした方を向く。
そこには、小柄で白髪の毛先が水色の、白い羽の生えた少女が立っていた。
淡い水色のワンピースを着て、とても可愛らしい少女である。
後ろには、長身で眼鏡をかけた男性も一緒にいた。
「えっと、どちら様?」
「はじめまして、俺は高木と言いますこっちの羽の生えた子が、ユミです」
「は、はじめまして……私は神崎ハルです。こっちは猫のアニマのマサ」
自己紹介を終えて、ハルはユミを見つめる。
「あなたもアニマなの?」
「はい。私はインコとイルカのアニマです」
「そっか、確か鳥人もいるって前に聞いたような……」
ハルが思いだそうとしている時、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ? 今二つの名前を言ったよね」
聞かれたユミは、少し表情を曇らせ頷く。
「研究所の人は、私みたいなのを『キメラ』と呼んでいました」
「キメラ?」
また聞きなれない単語に、ハルは首を傾げる。
「アニマにも、いろんな種類がいるんだね」
「それより、私たちもご一緒していいですか?」
「いいですよー!」
そして四人でテーブルを囲んだ。
「急にお邪魔してすみません……」
「気にしないでください。でも、どうして私たちに声をかけたんですか?」
「それは、あなたたちが契約した人たちだとわかったからです」
「えっ?」
「私たちアニマは、近づいたら気配でわかるものなんですよ」
「そ、そうなのマサ」
「まぁ、集中していれば、な」
「へぇー……」
ハルがぽかんとしていると、ユミが真剣な眼差しで見つめてきた。
「実は、お二人に協力してもらいたいことがあるんです」
「協力?」
ハルが聞き返すと、ユミは頷く。
「私たち、研究所の人たちに追われていて、今はなんとか逃げてるところなんです」
「ユミがキメラなのをいいことに、実験しようとしているんだ」
「実験って、一体……」
そのフレーズに、ユミが顔をしかめて歯を食いしばった。
「表向きは実験って言っていますけど、本当は人体実験みたいなものですよ……」
それを聞いたハルは、ゴクリとつばを飲んだ。
「それで、あなたたちに逃げる手助けをしてほしいんです」
話を聞いて、ハルとマサは顔を見合わせる。
少ししてハルが口を開く。
「話はわかりました。ここだとなんですから、一度私の家に来てもらえますか?」
「本当ですか! もちろん行きます!」
「協力するかどうかは、それからだな」
マサの言葉に全員頷き、会計をして店を出た。
家に帰ると、ハルは留守電が入っていることに気づく。
「あれ、誰からだろう」
ボタンを押すと、女性の声が聞こえた。
「ハルちゃん、お母さんたち海外出張が決まったから、家のことよろしくね」
それは、この世界にいるハルの母親からだった。
留守電はそこで終わり、ハルは胸をなでおろした。
「よかった……これで両親の件は解決したよ」
ハルは、三人に振り向き手招きをする。
「どうぞ、中に入ってください。しばらくここにいても大丈夫ですから」
「ハル?! いきなりどうした!」
「ありがとうございます!」
ユミたちは感謝していたが、マサは驚きを隠せなかった。