01 近道は人生のわかれ道
だんだん日も暮れる頃、一人の女性がコンビニの前を通っていた。
彼女の名前は、神崎ハル。大学生である。
「今日は少し遅くなっちゃったし、近道でもしようかな」
そしてハルは、コンビニを曲がって、暗い路地に入る。
すると、目の前に黒い穴が出現した。
何の前触れもなく、だ。
「えっ……?」
その穴はどんどん大きくなり、周囲の物を吸いこんでいく。
「に、逃げないと!」
だが逃げようとするも間に合わず、穴の中に飲みこまれてしまう。
「きゃぁぁーっ!」
★★★
しばらくして、ハルは目を覚ました。
「……あれ、ここってさっき通ったコンビニ?」
ハルが倒れていたのは、あのコンビニの前だった。
しかし、視線を感じたハルは、周りを見回す。
それは歩いていた人たちの視線だった。
「はわわっ!」
自分が座りこんでいたことに気づいたハルは、慌てて立ち上がる。
すると、一人の女性が声をかけてきた。
「あなた、大丈夫?」
「へ、平気です! 失礼しましたーっ!」
恥ずかしくなったハルは、急いでその場から逃げだした。
「はぁ……はぁ……ここまでくれば、もう大丈夫……」
人気のない通りまで走ってきたハルは、深呼吸をする。
だが、近くのビルから爆発音が聞こえた。
「大丈夫じゃなかったーっ!」
叫んだハルは、驚きと振動で尻もちをついた。
すると、ビルから何者かが降りてくる。
「だ、誰……?」
通りが暗かったため、その人物の姿はよく見えなかった。
しかし、月明かりがその姿を照らす。
「ね、猫耳?」
「あぁ? あんた、なにしているんだ」
その人物は、猫耳としっぽの生えた、右目に眼帯をした青年だった。
「あ、あの……もしかして何かの撮影なんですか?」
「なにのんきなこと言ってるんだ。とにかくここから逃げろ!」
青年は怒鳴ったが、ハルはわけがわからず首を傾げる。
それに呆れた青年だったが、気配に気づき振り向く。
「やっと追いついたぜ」
「ここで、くたばっちまいな!」
今度は三人組が、ビルから降りてきた。
その三人組も青年と同じ、体から動物の耳としっぽが生えている。
そのうちの一人が、にやりと笑い手を前に突きだした。
「炎よ、目の前の敵を焼き払え!」
突然炎が放たれ、ハルたちに向かっていく。
「きゃぁ、なんなのこれ!」
「ちっ」
青年は炎を避けながら、ハルを抱えて空へ跳びあがった。
そしてそのまま、建物に着地しながら逃げていった。
「あっ、待ちやがれ!」
★★★
「ひーっ、怖い怖いーっ!」
「少し静かにしてくれ。集中できないだろ」
「そんなこと言われても困るんだけど!」
青年は少しむすっとして、ハルを睨んだ。
「このまま落としてもいいんだぞ」
「ごめんなさい。静かにしてます」
「ふんっ、最初からそうしてればいいんだ」
それから二人の間に、気まずい空気が流れる。
やがて、あるビルの屋上で青年はハルをおろした。
「や、やっと地上だよ」
ハルはふらふらしながら、その場にへたりこんだ。
「大げさだな。そんなに怖かったのか?」
「怖いに決まってるでしょ! 普通の人は、あんなことできないよ!」
ハルは怒鳴り、ずっと考えていたことを青年に聞いた。
「あなた一体何者なの? あの人たちとどういう関係?」
「あんたには関係ないだろ」
「あるよ! 巻きこまれたんだから」
そして、ハルは辺りを見回す。
「これって、撮影とかじゃないの?」
「そんなわけないだろ。まだ状況がのめていないんだな」
猫の青年は、ハルと視線を合わすようにしゃがんだ。
「俺はマサ。猫のアニマだ」
「アニマ?」
聞きなれない単語に、またハルは首を傾げた。
「それについては、俺が説明しよう」
「今度は誰?!」
現れたのはオレンジの長髪に、犬耳としっぽの生えた青年だった。
「俺はレン、犬のアニマだ。はじめまして、お嬢さん」
「は、はじめまして……」
ハルはつい返事をしてしまったが、慌てて我に返る。
「ち、違う違う! さっきから『アニマ』ってなんなの?」
「『アニマ』というのは、この世界にいる獣人のことだ。他にも鳥人もいるぞ」
「なんか、ファンタジーの世界みたいだね……」
「ふむ……この世界のことを知らないとなると、君は別世界から来たんだな」
「別世界?」
ハルはぽかんとしていたが、思い当たることがあった。
「は、はい! いきなり黒い穴に吸いこまれました」
「だとすると、困ったことになったな」
「え?」
レンはあごに手を当てて、眉間にしわを寄せた。
「アニマは、人間と契約をすると本来の力が出せるんだが、別世界の人間でも契約できるかどうか……」
「け、契約ってなんですか?!」
「そこにいるアニマとのことだよ」
レンは座っているマサを指さした。
「はぁ? 俺はそいつとの契約なんて嫌だぜ」
「そ、そんなはっきり断らなくても……」
あまりにはっきりと断られたので、ハルは肩を落とした。
それを見ていたレンは、ハルに近づき優しく肩に手を置く。
「しかし、契約していないから君は追われているんだろ?」
言われたマサは、図星だったためそっぽを向く。
「君にとっても、良いことだと思うんだが。契約の指輪は持っているんだろ」
マサは渋々ポケットから小さな指輪を取り出した。
「わぁ、キレイ!」
ハルが触れようとすると、すぐポケットにしまってしまう。
「触るな。あんたには関係のないことだ」
「さっきもそう言っていたよね。なんでそんなに私のこと……」
「ようやく追いついたぜ」
ハルが言い終わる前に、例の三人組が追いついてきた。