第九十九幕 お宝奪取ゲーム
《今回のルールは此方! “お宝奪取ゲーム”ゥゥゥ!!!》
「「「ワアアアァァァァァッ!!」」」
選手と同時に発表されたルール、“お宝奪取ゲーム”。何となく想像は付きやすいゲームかもね。
司会者さんは今回のルールの詳細を説明する。
《もう予想も付いているでしょう! ボルカ・フレムさんとメリア・ブリーズさんには“お宝”となる“球体”を渡します! そこからは簡単! 相手からそれを奪い、そのまま逃走すれば勝利の単純なルール! 自分の陣地に運び込まれるまでに取り返せば負けにはなりませんが、指定ポイントに持ち込まれたらその瞬間に問答無用で敗北となります! シビアに行きますよ~! なお、お宝は常に自分で持っていてください! どこかに隠したりとかした場合、五分で自動的に負けとします! 相手が持っている場合には制限時間とかありませんが、一度手にした相手のお宝を捨てるとか隠すとかもしないでください! “常に自分で持つ”と言うのは自分のも相手のも含めますよ!!》
ルール自体は単純だけど、お宝は肌身離さず持っていなくちゃいけないみたい。それは自分のも相手のも同じく。
要約するとお宝は常に持つ。相手から奪って陣地の指定ポイントに置く。それが肝だね。
シンプルだからこそ奥が深いって感じのルールだ。
《さて! ルール説明は大事ですけど、そんなものよりさっさと試合を見たいと言う気持ちは犇々と伝わっております!! それでは始めましょう!! “魔専アステリア女学院”! 炎の天才ボルカ・フレム選手vs風の疾走者メリア・ブリーズ選手! よーい……スタァァァトォォォッ!!!》
「「「オオオオォォォォォォォッッ!!!」」」
合図と共に開戦。ボルカちゃんとメリア先輩の戦い……!
映像伝達の魔道具により、ステージの様子が映った。
*****
──“住宅街ステージ”。
「……此処が今回のステージか。盗人らしく住宅街って訳だな」
転移の魔道具にてアタシは今回のステージへと到達した。
周りにあるのは家やショッピングモール。舗装された道が連なり、塀も完備されている。至ってシンプルな住宅街だ。
んで、此処がアタシの陣地的な場所。ちゃんと指定ポイントもあるんだな。当たり前か。
(隠れる場所は多いし、探すのは一苦労だ。ルミエル先輩みたいに魔力から探知する能力か、イェラ先輩みたいに気配を掴む力を高められれば良いけど、今のアタシじゃまだまだだから自分の足で探すか)
そう考え、アタシは住宅街へ踏み出す。
メリア先輩の武器は箒による機動力。そして広範囲の風魔法。火のアタシとじゃ質量次第で掻き消されるか逆に燃え上がるかの相互関係。
それを踏まえた上で作戦を組み立てなきゃな。何よりメリア先輩は逃げ足がマジで早いから一度お宝を取られたらその時点で一気に形勢が不利になっちゃうしな。
そんな感じで長考しながら住宅街を行く。
当然、全体的に警戒はしているぜ。隠れる場所が多い分、バッタリと出会す可能性はあるからな。
流石に陣地近くには居ないだろうし、ちょっと速度を上げっか。
(多分先輩は箒で移動するよな。下もだけど、空もちゃんと見ておかなきゃならないか)
そんな目立つやり方で来るのかは疑問だけど、先輩ならやり兼ねない。今回は隠れる必要も特にないしな。
いや、逆に隠れて奇襲を狙うとか? けど一対一のタイマンだしあんまし意味成さないか~。
結局コツコツ探してかなきゃならないって訳だ。
言ー事でメリア先輩を──
「“ダウンバースト”!」
「……!」
見つけようかなって思った矢先、向こうの方が先に仕掛けてきていた。
やっぱり速いな。メリア先輩!
「結構隠れながら行ってたんですけど、もう見つかっちゃいましたか」
「ふふん。風が君の居場所を教えてくれてたんだよ!」
風がアタシの場所を教えた……単純に考えて風の流れから読み解いたって感じかな。魔力や気配の探知以外に風や火での探索方法もあるからね。
基本的に箒で移動するメリア先輩には全体を包み込める風魔法は相性バツグンって訳だ。
アタシの火による探知は屋外じゃあんまり意味成さない。だって外って基本的に風吹いてるし。常日頃から風を感じているメリア先輩の専売特許。先手は打たれちゃったな。
「さあ! お宝を頂戴! 先輩命令だよ!」
「立場を利用したハラスメントだー! 聞きませんけどね! “ファイアボール”!」
「あ、やったなー!」
「先に仕掛けてきたのはそっちッス!」
「そうだった!」
軽い戯れとして火球を放ち、先輩はヒラリと箒で避ける。
やっぱ空の相手は地上と違って狙いにくいなー。ポジション的には向こうの方が有利だ。
ま、今回は周りの建物を破壊してもペナルティとかは無し。構わず仕掛けるとしますか!
「“フレイムトルネード”!」
「炎の竜巻! 風の扱いなら負けないよ! “トルネード”!」
熱風と風が鬩ぎ合って衝撃を散らし、周りの建物が倒壊していく。
派手で見た目的には映えているけど、住宅街ステージの意味があんまりないな。と言っても建物を利用する方法はメリア先輩相手じゃあまり意味ないかもな。
でもやるだけやってみるとすっか。
「よっと」
「あ! 建物の中に!」
今のうちに移動し、建物から建物へと進んでく。上から建物を破壊されたら無意味だけど、その分の時間は稼げるからな。
上手く隙を突いて嗾けるとしようか。
「“ウィンドブラスト”! うーん、ハズレ!」
破壊の風が迫り、建物が倒壊。けどそこにアタシは居ない。とっくに別の建物に入ってっからな。
近場の建物を狙うだろうと判断して勘で待機場所を決めた。次に破壊されたら仕掛ける。
「“ウィンドキャノン”!」
「しめた……!」
隣の建物が破壊。その間に飛び出し、今回は魔術スタイルだから手に魔力を込めた。
「“ファイアボール”!」
「……!」
火球を放り、空中のメリア先輩に直撃。初級魔法だから威力は控えめだけど、怯ませる事には成功した。
その隙を更に突くよう嗾ける。
「“フレイムランス”!」
「炎の槍~!」
下方から槍を立たせて穿つ。
空中は広くて移動も自由自在だけど、メリア先輩の行動範囲を推測して囲うように仕掛ければ避ける事は出来なくなる。
逃げ場を狭め、更なる魔力を込めた。
「“ファイアショット”!」
「わわっ!」
火球を放ち、それが着弾と同時に破裂。炎の爆発が起こって衝撃波が飛び散り、バランスを崩したメリア先輩が落下する。
地上まで誘い出せば此方のもの。ま、誘い出したというよりは引き摺り落としたって感じだけどな。
何はともあれ炎の剣を作り出し、足へ炎を込めて加速。先輩の眼前へ迫り行く。
「……っと。ボルカちゃんのテリトリー……!」
「そッスね!」
すれ違い様に炎剣を振り抜いて仕掛け、先輩はギリギリで躱す。
常に風を感じているだけあって反応速度も中々。瞬時に風が引き起こされてアタシの体は舞い、そのまま吹き飛ばされて建物を突き抜けて行く。
魔力でガードを固めてるからダメージは少ないけど、近付くだけで一苦労だな。
「だったら吹かされるより前に加速して進むか」
炎をターボのように使い、先輩との距離を詰め寄る。
勢いで周りの瓦礫は巻き上がり、炎剣を突き出して突撃。しかし先輩は風の壁を貼っており、アタシは弾かれるように飛ばされた。
とても良いクッションにぶつかったような感覚。改めて先輩の風魔法の実力、かなり上澄みだ。
「そんじゃ……」
「グルグル回ってるね~」
間隔を空けて炎を噴出し、円を描くように翻弄。全方位に風の壁を貼っているとして、何処かは薄い場所もあるだろうという我ながら単純な考え。
定期的に仕掛けては弾かれてを繰り返し、厚い薄い関係無い所で影響が及んだ。
「……っ」
「……!」
急に壁が解かれたのだ。
それもその筈。アタシのそれなりに重い一撃を完全に防ぐ程の風魔法。それを全方位に貼っているとしたら魔力の消費がかなり多くなるだろうさ。
想定外のチャンスだけど、大いに利用させて貰うッス!
「そこォ!」
「ちょっとは加減してよね……!」
炎剣を突き出し、今度は先輩を吹き飛ばす。吹き飛んだらお宝を取れないからなるべく避けたかったけど、微量の風魔法で自ら弾かれたみたいだ。
応用力も高いッスね。
「けどこの距離なら……!」
「追い付かれるよね……!」
僅かな魔力で風を起こし、アタシはそこを一点突破。さっきまでなら弾かれたかもしんないけど、弱っている今なら余裕はある!
「名付けて“炎突猛進”!」
「なにそれー!?」
風を突き抜け、メリア先輩の懐を炎剣で裂く。それによって先輩の持っているお宝が飛び出した。
「あー! 何で隠し場所分かったのー!?」
「勘ッス! あと普通に隠すなら懐かなって思いました!」
「ちょっとー!」
それを奪取し、アタシもダッシュ。
前にも言ったように、アタシの魔法や魔術は体外に放出するよりは体内に留めて自分の身体能力を底上げするのが主体。
今回は空中のメリア先輩を狙うのもあって少し消耗しちゃったけど、基本的な攻撃は既に作られている炎剣と前述した身体能力だからこのまま自陣へと逃げれば勝ちになる!
「逃がさないよー!」
「……っと。相変わらず速いッスね……!」
箒の操作に大きな魔力は使わない。だからこそアタシの後を消耗した状態で追っても成立する。
けど、色々と罠は設置しておく。逃走の時にも策を張り巡らせるってのはルミエル先輩に習った事だからな!
バロンセンパイの時の応用みたいなもの!
「“トラップフレイムタワー”!」
「……っ。火柱……!」
後方へ無数の火柱が立ち上る。それに気を取られているうちに住宅街の建物の中へと入り込み、更にアタシの存在を見失わせる。
今の先輩に建物を破壊する術はないからこのまま指定ポイントへ直進あるのみ!
「……けど、そう簡単には行かないですよね……!」
「当たり前だよね!」
そして指定ポイントで待ち構えていた先輩。
考えてみれば当然の事。わざわざ後を追うんじゃなく、来るのが分かっている場所で待機すれば鉢合わせる。
多少は回復したかもしんないし、もう遮蔽とかも関係無い。此処からが正念場。
「“ウィンドミサイル”!!」
「……ッ!」
風が撃ち出され、爆発するように暴風が吹き荒れて辺りを吹き飛ばす。
マジもんのミサイル並み。住宅街がメチャクチャだ。けど、アタシにはまだ余裕がある!
魔力を込め、先輩へと突き出す。
「──“ファイアエクスプロージョン”!」
「……! 炎の爆発魔法!? そんな応用が……!?」
炎と爆発は違う。結果的に熱が生まれたりするだけで爆発魔法自体はジャンル的に言えば“無属性”。
だからこそ様々な魔法と組み合わせる事を可能とする。向こうが風からなるミサイルの爆発なら、こっちは炎の爆発!
粉塵が突き抜け、両者にとっての目眩ましと化す。
アタシは魔力を込めて加速。一気に駆け抜け、自陣の指定ポイントへとお宝を設置した。
「……!」
「これで……アタシの勝ちッス!」
置いた瞬間に背後からミサイルが。これは直撃する……と思った矢先、アタシ達は会場へと転移の魔道具で戻っていた。
《勝者!! ボルカ・フレムゥゥゥッ!!! なんとなんと! 自分の先輩を打ち倒し、次に駆け上りましたァァァ!!!》
「あー! 負けちゃったー!?」
「よっしゃあーっ!」
結果、アタシの勝利が決まった。
けど、最後にあれを受けてたら意識は失ってたかもしんないし、基本的な魔力出力や発見時点からアタシはメリア先輩の後手に回るしかなかった。
魔力消費によってなんとか勝てただけで、基本的な性能はまだまだアタシの方が下みたいだな。やっぱり名門“魔専アステリア女学院”はルミエル先輩とイェラ先輩だけじゃないって訳だ。
「くぅ~! 個人戦で都市大会まで行けなかったのは初めて! 団体戦は頑張るから個人戦は私の分まで頑張って!」
「ウッス! ……って、先輩は中等部二年なんスから去年都市大会まで行ったなら地区敗退が初めてなのは当たり前でしょうに」
「あ、そっか!」
とは言え、中等部の一年生で都市大会までは普通に考えたらとてつもない所業。今回はアタシやティーナ、ビブリーが居るから麻痺してるけど、平然とヤバい事してんだよな~。
何はともあれ、メリア先輩との対決は一先ずアタシの勝ちって感じ。次以降は分からないし、今回の貴重な勝利はしかと受け取らなくちゃな!




