第九十八幕 仲間同士の試合
「………」
物陰に隠れ、周りの様子を窺う。さっき居た距離からして隠れられる範囲は近場の建物くらい。それは向こうも気付いている筈。
私もルーチェちゃんも十数メートルくらいしか離れていないだろうし、次の行動が結果を大きく左右するのは間違いないよね。
この僅かな時間でルーチェちゃんの次の動きを推測してみる。
彼女が使えるのは聖魔法に光魔法。主な攻撃手段は光魔法からなる光球や剣とか、形を変えて様々な力とする物。
聖魔法は回復手段としか使ってなかったけど、攻撃に転ずる可能性はあるよね。具体的なやり方はこの短時間じゃ思い付かないけど。
一先ず警戒しておくのは光魔法の方かな。それがルーチェちゃんのメインウェポン。ペナルティにならないよう、村人さん達が居ない場所に撃ち込むだけで私の行動が制限されちゃう。だからやられる前にやらなくちゃ。
それにより、私が導き出した答えは至ってシンプルな物。
「“森林創成”……!」
ママに魔力を込め、村の全体に森を生み出した。
勿論村人さん達や建物は巻き込まないように調整してね! 及ぶ危害の範疇はどこからどこまでなのか分からないけど、ゲームのルール的に最低限傷付けなければ成立すると思う。
聖魔法や光魔法では埋め尽くすように場を制圧する事は出来ない。これで私に有利な地形が作られた。
そして視界とか色々制御されちゃうとなると、
「……当然、仕掛けるしかないよね……!」
光の爆発が起こり、近くの樹が吹き飛ばされた。その樹は燃えるように焼失。
そうなるとあそこにルーチェちゃんが居る事になる。私は迅速に駆け抜け、木々に隠れながらティナを偵察に寄越す。
光の爆発があった壁の裏には──
(……! 誰も……居ない……じゃ、無い! 自分の脱出に使ったんじゃなくて、遠距離に放って陽動したんだ……!)
光の爆発はあったけど、それは私への牽制や陽動の役割を担うもの。
つまりルーチェちゃんの本当の居場所はこの場所を狙えるポイント……!
そしてティナが見つかっちゃうと、魔力の糸から私の居場所が逆探知される。
急いで共有した感覚を戻し、横から声が聞こえてきた。
「見つけましたわ! ティーナさん!」
「……っ。ルーチェちゃん……!」
声だけが。
当たり前だよね。姿を見せたらペナルティ。声だけでも少しは減点されるかもしれないけど、完全な認識はしてないから多分ノーペナルティの可能性の方が高い。
その瞬間、私の方へ二つの光球が飛んできた。
ちゃんと左右から挟み込む形で私に自分の居場所は明かさないようにしてある。流石だね……!
ダメージを食らったらその分の減点が痛い。だから守り優先!
「“包容新樹”」
樹で体を覆い、光の爆発から私自身を守護。
樹の中で再びティナと感覚を共有し、ルーチェちゃんの居場所を探す。既にヒント自体は出ているもんね。さっきの爆発地点と左右から狙える箇所。撃った瞬間に移動しているとしても、行動範囲は限られる筈。そこを基準に嗾ける。
「“円錐森林生成”!」
「……!」
円錐形に森を生成し、広範囲を覆い尽くす。
村人さん達を巻き込んでいないのは変わらず、ルーチェちゃんが移動しそうな範囲全てを囲んだという訳。
周りを傷付けない。けれど隙間無く埋め尽くす事で行動せざるを得ない状況を作り出す。
「……!」
すると、複数箇所で光の爆発。錯乱させようって魂胆は分かるけど、同時に爆発したなら中心部分にある所が居場所って教えているようなもの。
ルミエル先輩のように手から離れた魔力を操る事はとても難しいからね!
「見つけた……!」
「……っ。おそらくもう見つかってますわね……!」
一人言を呟くルーチェちゃん。ティナの存在に気付いたかな。だからそこ目掛けて狙いを定める。
「“針葉樹”!」
「針の樹……!?」
名前はそのままだけど、本当に針からなる樹を打ち込んだ。
直撃はさせないように気を付けてるけど、ダメージは与えるつもり!
「……ッ!」
「当たった……!」
文字通りの針葉樹にてルーチェちゃんの体が傷付き、ダメージと発見によるペナルティで更に減点。
友達を傷付けるのは悪い気がするけど、それを踏まえた上での勝負。手を抜く方が失礼だよね。人が多いから覚えたての炎魔法は使えないけど、その代わりに植物魔法で一気にケリを付ける!
「“大地分断”!」
「……! 足元が……!」
根を張り、ルーチェちゃんの立っている土台を切断して持ち上げる。
これで周りには人も居なくなった。切り離した場所は植物魔法で舗装したから周りに悪い影響も及ばない。支える樹もトンネルみたいにして、通行の妨げにもならないようにしてある。
アフターケアも完備。そしてフリーになったルーチェちゃんには特大の植物魔法を叩き込む!
「……ふふ、受けて立ちますわ! ティーナさん!」
「“樹海の拳”!」
「“聖なる光の波動”!」
無数の植物を集めて拳とし、空中のルーチェちゃんへ。
彼女は聖魔法と光魔法の合わせ技で迎撃体制となり、波打つ二つの魔力が迫り来た。
空中で二つの力は鬩ぎ合い、一際大きな爆発と共に私達は包まれ、気付いた時には会場に立っていた。
「「………!」」
《試合終了ォォォ!!! 非情に……! 非ッ情に良い所でしたが!! 残念ながら制限時間に到達してしまいましたァーッ!!!》
「「「アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッ…………!!!」」」
落胆のような歓声のような声が届き、相変わらず会場が揺れる。
最後に互いの攻撃が鬩ぎ合ったんだけど、どうやら制限時間に達しちゃったみたい。
うーん、なんか不完全燃焼。でもこれがルールだから甘んじて受け入れるよ。
《それでは! 早速結果発表と行きましょう! お二人の持ち点は最初から100Pとし、そこからペナルティや行動から加点、減点していきます!》
それは最初の説明通り。最初は100P持っていたんだ。妥当な感じの数字。
減点は発見や村人さん達への被害。加点は相手へ通した攻撃とか、こっちが見つけた場合。これは結構拮抗しているかもしれないね。
《では! モニターの方をご覧下さい!》
「「………」」
結果発表は映像の魔道具から。確かに司会者さんが口で言う訳にはいかないよね。大変だもん。
モニターの方へ視線を向け、私とルーチェちゃんのポイントが変動していく。
発見による減点と加点で数字が変わり、細かい採点で一〇〇を超えたり九〇前後を行ったり来たり、まだまだ序盤だからここから更にスコアが積み重なっていく。
【発見ペナルティ、マイナス換算
ティーナ:計-10
ルーチェ:計-5】
「わ、私の方が多く見つかっちゃったの……?」
「やりましたわ!」
「やっぱりちょっと派手に動き過ぎたかも……」
【加害ペナルティ、マイナス換算
ティーナ:計0
ルーチェ:計-3】
「ウソ!? 当たってしまいましたの!?」
「そっか。光魔法だと破壊した時の瓦礫の破片があるんだ。植物は焼き消えたから影響にならなかったけど」
「そうでしたの~!」
ここまで拮抗している……けど私が少し不利かな。
そして次の点数が最後のものとなる。
【ダメージ換算、プラスマイナス
ティーナ:計+5
ルーチェ:計-5】
【合計点数
ティーナ:計95P
ルーチェ:計87P】
《勝者! ティーナ・ロスト・ルミナスゥゥゥ!!!》
「「「ワアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!」」」
「……え? や、やったー!」
「くぅっ……確かに戦闘では差がありましたものね……最後のぶつかり合いが決まってさえいれば~!」
ドキドキの結果発表は、どちらも大きなポイントではあったけど私が少しリードして勝利した!
ルーチェちゃんと一緒に個人戦に挑めなくなるのは寂しいけど、これが勝負の世界なんだよね……。
「してやられてしまいましたわ……! ティーナさん! 私に勝ったのですから一気に頂点へと駆け上がってしまいなさい!」
「わ、分かった! 頑張るよ!」
ルーチェちゃんに言われ、グッと握り拳を作って約束する。
どこまでやれるかは分からないけど、このまま勝ち上がる事が負けていった人達の為だもんね!
私とルーチェちゃんの勝負はこれで決着。でも次もまだある……。
「私達は終わったけど……」
「皆様も順調に全員勝ち上がりましたものね。こうなるのも定めなのでしょう」
「ハハ、まさか先輩とやる事になるなんてな!」
「天才を謳われるボルカちゃんに負けないよー! ここは先輩としての威厳を見せなきゃ!」
別ブロックでの試合も、“魔専アステリア女学院”同士の対決が行われようとしていた。
私達だけがそうなんじゃなくて、勝ち上がって行くとどうしてもこう言う機会に直面しちゃうんだね。実力があるからこその出来事だからありがたい事だとは思うけど、ちょっと複雑。
でもだからこそ真剣に取り組む。ボルカちゃんとメリア先輩。両方応援したいしどっちにも負けて欲しくない。けどそれは仕方無い事。
《それでは! 次の試合は──》
とは言え、まだ出番じゃない。もう少し後かな。
他のチームの試合を観戦しつつ、二人による試合も始まろうとしていた。
《さあ! 次なる試合は、またもやチーム同士の対決! 全員の実力があるからこそ! この様な場面に当たります! ボルカ・フレムvsメリア・ブリーズゥゥゥ!!!》
「「「ワアアアアァァァァァァァァッッ!!!」」」
紹介が入り、会場が一段と盛り上がる。
仲間同士の対決。それがついに始まっちゃった。
ボルカちゃん達も私とルーチェちゃんの試合はこんな気持ちで見ていたのかな。




