第九十五幕 送別会
──“部室”。
数日経ち、私達は自分達で飾り付けした部室に集まっていた。
手作りのお花とか、魔法で作り出したそれっぽい物とか色々。
そう、今日はルミエル先輩とイェラ先輩の送別会。この日を境に、もう先輩達はほとんど部活には来なくなる。
受験勉強とか人によっては就職活動とかで暇が無くなるんだもんね。必然的に学院内でもあまり会わなくなるだろうし、全員が集まるのはこれが最後だ……。
ちょっとしんみりしちゃったかな。せっかくだもん。笑顔で送り出したいよね。
ふふ、先輩程の人をを送り出すって言うのも烏滸がましいかな。
でも、手作り感満載だけどちゃんと準備は整えたよ!
「迎えにはレヴィア先輩とリタル先輩とボルカちゃんが行ってるんだよね。うぅ……ドキドキしてきた……」
「貴女、毎回ドキドキしてるわね。既に先輩達も送別会の事は知ってるんだもの。そんなに緊張する事はないじゃない」
「そ、それはそうだけどさぁ……」
そう、ルミエル先輩達も送別会の事は知ってるから別にサプライズという訳にもならないんだけど、寂しさとか色々な感情が乗ってドキドキしているんだと思う。
ウラノちゃんの胆力も流石だなぁ……私も彼女を見習って平静を保たないと!
そして部室の扉が開いた。
「あら、みんなお揃いで。一体何事かしら?」
「既に全て把握しているだろうに、何故ルミは意味深気に反応する」
「ちょっとした遊び心よ♪」
「ルミらしいがな」
やって来た先輩達二人。ルミエル先輩はまるでサプライズを受けたような表情だけど、イェラ先輩が言うように周知の事実。それもまた先輩らしいね。ふふ、イェラ先輩と同じような感想になっちゃった。
一先ず先輩達はやって来たし、送別会が始まる。
「それでは先輩方! 今までありがとうございました! 先輩達のお陰で私達はここまで強くなれました!」
「ダイバース最強の先輩の名に恥じないよう、これからもやってきます!」
「新人戦でも好成績を収めて見せますわ!」
「……ありがとうございました」
まずは後輩として私、ボルカちゃん、ルーチェちゃん、ウラノちゃんが話す。
そこに続くよう、メリア先輩達もお別れの言葉を発した。
「先輩達が居なくなるなんて寂しくなるよー!」
「今までありがとうございましたぁ~」
「高等部はこれから私と……来年はリタルだけになってしまいますけど、せめて代表決定戦までは勝ち上がれるように努力します」
「ふふ、各々の目標を胸に頑張りなさい。今生の別れという訳ではないのよ。今後暇が出来たら面倒なOBとして時々顔を覗かせるわ!」
「“面倒な”は必要だったか? まあ、初等部からの思い入れがあるこの学院。私は分からないが、理事長の娘であるルミは卒業しても何度か呼ばれたりする事もあるかもしれないな」
別れは惜しいけど、私達に目的があるように先輩達にもあるんだよね。
だから涙は流さない。そう、先輩達とはまた会えるかもしれないから……先輩達……“とは”……?
なんだろう。まるで他の誰かにはもう会えないみたいな思考。ダメダメ。そんな事考えちゃ。今は先輩達の華道だもん。
「それでは、私達から花束と寄せ書きを贈呈します!」
「本当にお疲れ様でしたー!」
「お疲れ様ですわ!」
「お疲れ様でした……」
「私達からも!」
「どうぞですぅ~」
「お世話になりました」
「綺麗なお花……ふふ、ダメね。年を取ると涙脆くなっちゃって……」
「まだまだ若者の範疇だろう。魔族の血縁を思えば赤子に等しいぞ。……だが、ありがとう。後輩達」
花束と寄せ書きを渡し、ルミエル先輩は少し涙ぐむ。
私達もつられそうになり、グッと堪えてみる……けど、耐えられなかった。
「グス……本当にありがとうございました……」
「泣くなよ……ティーナ……」
「そう言うボルカさんだって……」
「ルーチェさんも……」
「ふふ……ウラノちゃんもね……」
「うえーん!」
「メリア。流石に号泣し過ぎでは……」
「グス……レヴィア先輩は少し涙を浮かべてるだけですね~」
「言うな。次期“魔専アステリア女学院”高等部ダイバース部の部長として堪えているんだ……!」
私だけじゃなく、みんなも耐えられなくなっている。やっぱり寂しいよね。半年くらいの付き合いの私達でもこうなっちゃうんだもん。
先輩達なんか特にそう。
ルミエル先輩は目頭の雫を拭い、笑顔を浮かべて言葉を返す。
「本当にこの子達の先輩で良かったわ。ありがとうね。貴女達♪」
「胸を張って卒業出来るというもの。まあ、学院自体にはあと半年は居る事になるんだがな」
これで送別会は終わる。もうルミエル先輩、イェラ先輩達と一緒に部活動をする事は無くなっちゃうんだね……。
なんだか不思議な感覚。明日からは先輩達が来なくなっちゃうなんて……。役職柄二人は部活を空ける事もしばしばあったけど、それでも殆ど毎日一緒に居たから実感が湧くまでどれくらい掛かるんだろう。
元々部員の人数も少ないし、本当に……寂しくなっちゃう……。
「それじゃあね。みんな。イェラが言ったように学院にはまだ暫く居るから、道中とかで会ったら気軽に話し掛けて頂戴! 後輩達はみんな可愛いけれど、貴女達はその中でも特別よ♪」
「はい。ルミエル先輩……!」
花束と寄せ書きを大事そうに抱え、ルミエル先輩とイェラ先輩が部室を去る。
もう先輩の作った美味しいクッキーやジュースも楽しめなくなっちゃうんだ……。先輩の背中を眺め、またしんみりとしちゃった。
けど、気持ちは切り替えなくちゃ……!
「先輩達の為にも、新人戦では良い所まで行こう……!」
「ああ。本選より試合数は少ないし、他の選手達も経験が足りないんだ。アタシ達ならやれる!」
「ですわ!」
「そうね」
「よーし! 新人戦では先輩の私が引っ張って行くからね~! リーダーはボルカちゃんのままで良いけど!」
「応援してますよ~。皆さん~」
「頑張れよ!」
ルミエル先輩達に恥ずかしくないよう、後輩であり、教え子である事を知らしめすよう、私達が頑張らなきゃ!
新人戦まで後少し。送別会が終わり、私達はまた新たな一歩を踏み出すのだった。
*****
「ルミエル先輩達との部活動も終わっちゃったね」
「ああ、そうだな。終わっちゃったな」
「先輩達や……私達の卒業式の後も、こんな感じの会話をするのかな」
「アタシ達なら十分に有り得るな。ほぼ毎日一緒に居るし、気付いたら同じような話をしてるなんて事もしばしばだ」
「ふふ、そうだね」
今日の部活動も終わり、私とボルカちゃんは寮部屋でお話していた。
前まではあんまりお部屋で話す事はなかったけど、一緒に旅行とかに行ったりしてこの感覚も慣れたの。
今日はボルカちゃんだけだけど、暇があればルーチェちゃんやウラノちゃんとも一緒に居る事は多いかな~。
「……ところでボルカちゃん。夕御飯食べたばかりなのにお菓子を食べれるんだ……。よく入るね」
「そうかー? いや~、デザートみたいな感じでついつい手が進んじゃうんだ。そうだな。オートで発動するボウジキ魔法。“燃え打つ杭の神”が行われたんだ」
「それってただの食いしん坊じゃ……」
「アタシじゃない。この疼く右手が勝手にだな」
「それはやってる人の言い訳……」
食用旺盛なのは良いんだけど、健康上の問題が気掛かり。
でも私達の年齢ならまだあまり気にする必要も無いのかな? ボルカちゃんはよく動くからそう言う意味でも問題無いと思うけどね~。
「ま、お菓子を好きなだけ食べられるのも今のうちなんだ。歳が来ると食えなくなる~って嘆く声もよく聞こえるしな~」
「そうなんだ~。じゃあ今のうちに食べておいた方が良いね~。私はお腹いっぱいだから食べれないけど」
「そうか~? ま、いっか」
そう言う話を聞いたりするんだね~。
ルミエル先輩達との別れを惜しみつつ、そんな感じのお話をして過ごす。
その後にお風呂に入ったり、お風呂上がりにまたボルカちゃんがおやつを食べたり……って、ホントによく食べるんだね。
だけどそれがエネルギーになってあの身体能力に繋がるのならなんか納得かも。
「んじゃ。また明日な~。ティーナ」
「うん。じゃあね~。ボルカちゃん」
そして挨拶を交わし、ボルカちゃんも自分の部屋に戻る。
私も自室で課題を終わらせ、ベッドに横になる。隣にはママとティナと……ボルカちゃん。
「……最近、ママとティナはあんまり話さなくなったね……。新しく私の親友のボルカちゃんが加わったんだよ」
『エエ、ソウネ。良イ事ダワ』
『ワーイ。新シイ仲間ダー』
『よろしくな!』
なんとなく元気がないママとティナに、元気なボルカちゃん。
ふふ、楽しい。楽しいんだよね。きっと。みんなと居るのはきっと楽しい。楽しいんだよ。楽しいの。
寂しくないし悲しくないし辛くないから。
あ、そうだ。ボルカちゃんのお部屋も決めないとね。
「そうだね。ボルカちゃんの部屋はここかな?」
『ホントかー? そりゃ良いぜ!』
「ふふ、嬉しそう」
ママやティナとも仲良くなれそう。ティナは私だから元々仲良しなんだけどね!
部屋を決めた辺りで眠気が出てくる。うん。今日も色々あった。一番大きいのはルミエル先輩達との送別会。昼間も思ったけど、明日からは部活に来ないなんて、信じられない。部活自体が初めてだからこう言う体験も初めて。
これもまた成長に繋がるのかな。
色々あった新学期の初頭。新人戦もすぐにやって来る。今学期も頑張ってやって行くよ!




