第九十四幕 新学期
──“新学期”。
「で、あるからして、何事もなく無事に休暇を終えて“魔専アステリア女学院”は再開し──」
新学期の始業式、理事長とは違う、学院長のお話を聞きながら私達は過ごしていた。
まだまだ残暑が続くとか今学期も健康的にとか、大事なんだろうけどちょっと退屈なお話。
二時間程で日程は全部終わったけど、体感時間はもっと長く感じたよ……。
始業式の日は授業も殆ど無く、今日は午前中で帰れるの。少ない授業も終わり、私は学院の自室に帰って来た。あの後、部活動はあるけどお家で過ごす事も多かったからね~。ほんの数日だけど、旅行とかで空けてたのもあって久し振りって感じ。
すぐに準備をし、ダイバースの部活動へ向かった。
「やっほー。ボルカちゃん。みんな」
「来たか……って、寮に荷物を置きに戻っただけだから三十分も経ってないけどな~」
長期休暇の時にも部活動はあったから、クラスメイトは兎も角みんなとはあまり久し振りって感じはないね。
準備運動と魔力の精神統一を軽く終え、練習開始。
でも結構自由でお話とかは普通にやれるよ~。ルミエル先輩の方針が楽しくって感じだからね。寧ろダイバースでの魔法や魔術はリラックスしたり平常時でもパフォーマンスが出来なくちゃ本番には向いてないんだって。
理由は迷宮とか謎解きとか探索とかそう言ったルールもあるから。長期に渡る試合もあったりで常に気を張ってたら精神が磨り減って最後まで持たないからとか。奥が深いね~。
なので私はボルカちゃん達とお話ししながら練習する。それもまた鍛練の一つなんだね。
「いよいよ始まったね~。二学期!」
「ああ。二学期は授業期間が一番長いけど、その分イベントが目白押しだ。今月に開かれるダイバースの新人戦とか来月には体育祭とか、来月の終わりと再来月の頭に掛けて数日間の文化祭・学院祭があったり、二度目の長期休暇前には中等部一年生での冬合宿とか、とにかく色々あるんだ」
「そ、そんなに……。盛り沢山だね。と言うか文化祭と学院祭って分けるんだ」
「ちょっと違うからな~。ま、やる事はあんま変わんないし、だったらいっその事一纏めにしちまおうぜって言う魂胆だ」
二学期のイベントは本当に多いみたい。
新人戦が終わったらすぐに体育祭に入って、その後には文化祭と学院祭の兼任。そしてお休み前には冬合宿とやら。
その上でレベルの高い学業や魔導業。楽しいとは思うけど、大変だね~。
「ま、今は目先の新人戦に集中しなくちゃな。前に言ってた炎魔法の練習するんだろ? 付き合うぜ!」
「ホント! ボルカちゃん!」
「あたぼーよ。アタシ達親友だろ?」
「うん!」
そう、レモンさんとルミエル先輩に言われてから少しずつ炎魔法の練習はしていた。けれどここまで全然成果無し。
仮に炎を出せてもそれを実践レベルまで持って行かなきゃならないから先は長いね。
新人戦までもう一週間も無いからなるべく早く身に付けたいんだけどね~。
でも炎のエキスパートであるボルカちゃんが手伝ってくれるなら心強いよ!
「んじゃ、まずは何よりイメージだ。実物を見た方がイメージ湧くだろうし、使ってみるぞ。“ファイア”!」
「フムフム……」
魔法なのでボルカちゃんも魔法スタイル。
杖を振るって近くの物に点火。メラメラと焔が揺らめいて燃え盛る。
火傷しないように気を付けながら近付き、限界地点まで寄って熱を感じる。
ボルカちゃんと一緒にやったり、炎についての解像度は高い方だと思うから、後はこれを再現するだけ。
「……“ファイア”!」
【……ティロリン♪ しかし反応は無かった……──」
「残念な感じのナレーションやめて~!」
ママやティナに魔力を込め、それを炎にイメージで変換。その結果、何も起こらず不発に終わった。ボルカちゃんのナレーションが響く……。
いつもこうなっちゃうんだよね~。一体何が違うんだろう?
それから暫くやってみるけど成果は無し。ウラノちゃんやルーチェちゃんにも見て貰ったけど、一向に進展はない。
「うーん……ダメか。それじゃ、まずは原点回帰だ。今まで通りの魔法を使って、その感覚を炎に移行してみよう」
「う、うん。やってみる……!」
ママに魔力を込め、お花を咲かせる。そしてティナに魔力を込め、感覚を共有。そのまま飛び回る。
この感じを覚えてみて……それをそのまま炎に!!
「“ファイア”!」
「しかし効果は無かった」
「やめてってば~!」
またもや不発。
もうホントにどうすればいいの~!? 何度やってもダメ! 心が折れちゃいそうになる!
するとママとティナを見ていたウラノちゃんが一つ提案をした。
「貴女の人形魔法だけど、そちらの人形とそちらの子で使える魔法が違うのよね。だったらまた別の、炎魔法専用のお人形が必要になるんじゃないかしら?」
「「………!」」
言われてハッとする。
確かにママとティナで使える魔法は違う。厳密に言えばママはママの植物魔法。ティナはティーナだから自分の感覚と共有しているだけだけど、種類によって使える魔法が違うなら可能性はある……!
……そして、私が持つお人形には心当たりもある。
小さい頃、私がよく遊んでいたお人形は二つ。けれどティナは私。私達は“二つのお人形”と“私”。つまり“三人”で遊んでいたの。
ティナが私である以上、お人形はもう一つある。それはティナとは別の“私自身”。
そう考えながら魔力を集中させてみる。昔遊んだお人形。それと炎のイメージ。
「……! この感覚……前みたいな……!」
「ティーナの体が光ってる!?」
「魔力を込めているようね。この光の感覚からどのエレメントにも属さない存在。何かを生み出す力だわ」
「それでは、これが炎魔法専用の物となりますの!?」
私の中から何かが産まれてくるような感覚。……嗚呼、そうだった。
私は昔、私から私を作ったんだ。なぜかとても寂しくて、知らないうちに魔力で永続的な私が産み出された。
私の存在が私の中から分離した物。今から出てくるお人形は……それこそが、私やママとよく遊んだもう一つのお人形さん。
私のナカでそれが形成される。
「これが……新しいお友達……?」
「お、おお……お?」
「何と言うか、似てるわね。ボルカさんに」
「そっくりですわ」
私の中から産まれたお人形はボルカちゃんにそっくりな見た目をしていた。
何でだろう。よく分からないけど、確かに炎魔法は使えそうな雰囲気。
「……も、もしかして……炎魔法の参考がボルカちゃんだったから……」
「あー……あり得るな~。ティーナの人形魔法って……そうか。魔力からこの世に留まる人形を作り出すモノだったんだ。だから思い出が形になる」
私にママにボルカちゃん。“人”との思い出が“形”になった事で産まれた“魔法”。それが私の核心。“人形魔法”。
あれ……そうなるとママは……──そこでまた、思考を閉ざす。これ以上考えちゃダメな気がする……何となく……みんなの前で考えたら大きな迷惑を掛けちゃうような気がする。だから私は思考を停止した。
私が新しいお人形を作った。それで済む話。体調を崩したママも一時的に私の作ったお人形の中に入っているだけ……なんだよね。きっと。
「とにかく、その力を使ってみようぜ。ティーナ! あの的に火球を当ててみてくれ!」
「うん……! “ファイアボール”!」
『………』
ボルカちゃんに魔力を込め、それを的目掛けて放出。
イメージは火。熱い炎の球体。
瞬間、放たれた魔力には火が宿り、示した的は燃え盛って焼失した。
……って事は……!
「やった……やったよ! ボルカちゃん! みんな! 成功したー!」
「ああ、やったな! ティーナ!」
「お見事ですわ!」
「あの威力。既に実践でも十分使える代物ね」
初めて……ではないのかな? レモンさん達と戦った時に使ったかもしれないから。
何にせよ、炎魔法は無事に成功した! しかも威力十分で本番にもやれそうな力!
「ボルカちゃんのお陰だよ~。ボルカちゃんが居てくれたから炎のイメージがしやすかったんだ!」
「へへ、そう言われると悪い気はしないな。ティーナの人形は何処と無くティーナ自身に似ているし、アタシもそこの仲間入りだな!」
「ふふ、そうなるね!」
ボルカちゃんがママ達の仲間入り……なんか不思議な響き。でも私としても良いかなぁって思ったり。
ふふ、ボルカちゃんが二人でお得な感じ。……あれ? そう言えば、ボルカちゃんとお人形は別の存在。だったらママが元に戻ったらこのお人形はどうなっちゃうの……? ……。──やめておこう。またなぜか気分が少し沈んじゃった。せっかく魔法が成功したんだし、今はそれを喜ばなくちゃ!
ここから更に炎魔法を極めればきっと役に立てる!
「上手くやれたようね。さて、私達による残り僅かな指導期間。ビシバシやって行くわよ!」
「あ、はい……」
「ちょっとちょっと。テンション下げないでよ~」
そう、まだまだビシバシやられる。
力が付いていく実感はあるけど、ホントに大変だね……。
そんな感じで始まった新学期。ルミエル先輩達とは短い期間の部活動だけど、それでもいつもの日常って感じだよ!




