第八十九幕 各国のトップ戦力
──天井は満天の星空だった。
無数の星達が流れ落ち、キラキラと煌めく。赤に蒼に紫白と色とりどり。まるで宝石箱を引っくり返したかのような光景を前に私はフッと一息吐く。
何処かで超新星爆発でも起こったのかしら。星から生まれた黄金の塵が天を覆い、遠目から見ても分かる程にゆっくりと高速で漂う。幻想的な光景。
此処が今回のステージ。舞台は宇宙。重力の影響は少なく、体がフワフワリと舞い上がるような感覚に包まれた。
再現されただけであり、本物の宇宙ではないから問題無く活動可能。今は上も下も分からない宇宙空間に居るから浮いているけれど、星に近付くとちゃんと重力が発生しているのが分かる。動きに支障は来さないわね。
「………」
まずは手始めに魔力探知。身を隠すため魔力の漏出を抑えている子や、来るなら来いの心構えで特に抑えようともしていない子など様々。取り敢えず私はその気配を追うだけ。
宇宙空間っぽい環境を再現しているだけで実際の広さは無限に等しいくらいもない。私の探知も十分に働くと思うわ。
そして何を隠そう、私自身が来るなら来いで構えているタイプの存在。同じ思考の子が居ればすぐにでも見つけて辿り着く筈よ。
そう、例えば──
「……各国のリーダー達がね♪」
──次の刹那、私の眼前を流星のような火球が通り過ぎた。天文学的には火球も流星も同じような物なのだけれどね。
それを避けた束の間、何処からともなく黒い魔力のような何かが迫り、それも躱した瞬間に空間その物にヒビが入った。
それらの攻撃は何も私だけを狙った物ではない。たまたま軌道上に私が居ただけ。
フフ、まさか早くも全員が揃うなんて驚き。
「ラゴンさんにブラドさん。シルヴァさんだったかしら。初めまして。私はルミエル・セイブ・アステリアと申します」
『その名前は既に世界的に広まってるよ』
「知らない方がモグリというもの」
「この場に居る全員が知っている」
「あらそう。有名人で良かったわ♪」
それを仰有っている方々も知らない人はそうそう居ない存在。傍から見たら有名人同士のおかしな会話ね。
何はともあれ、自己紹介は終わり。それじゃあ試合と行きましょうか。此処まで来れる時点で頭脳や探索力の方は問題無い。なので代表戦は単純に力量を測る試合が多いのよ。
「それでは、始めましょうか」
「『「………!」』」
魔力を込め、魔弾を撃ち込む。
三者は飛び退くようにそれを避け、背後の小さな星が砕けた。
あくまで再現された物。強度も本物の星より遥かに劣るから結構簡単に壊れるわね。言うなら私達の一挙一動が隕石相当の力になってるとかかしら。
因みに此処の星の強度は私達の世界で言うところの山並みね。
「“破壊”!」
「……!」
シルヴァさんが呪文を告げ、宇宙空間に再びヒビが入って崩壊する。
殺める事は無いにせよ、あれを食らったら体の一部が欠損してしまうかもしれないわね。現代魔導なら治せるかもしれないけれど、それまでスゴく痛そうだから食らいたくないわ。
そう、シルヴァさんの魔術。
「それが世にも珍しい“破壊魔術”ね。刃物とかとはまた別に、物の強度関係無く“破壊”という現象をそのまま引き起こす力。だからこそ如何なる防御も意味を成さない」
「あァ。そうだな。強いは強いんだが、当たりどころが悪ければ殺めてしまう可能性もある。だからテメェのようなほぼ確実に避けられる、もしくは当たっても致命傷は避けられる存在にしか使わねェ。後はダンジョン攻略とかのルールの時に壁を破壊したりだな。だから主に使うのは此方だ」
『『『…………!』』』
そう告げ、複数の存在を産み出した。
これもまた一つの力。そう、この魔術。
「……ゴーレム。だけじゃないわね。ミノタウロスからケンタウルス。それがもう一つのこれまた珍しい魔術……“創造魔術”」
「あァ」
創造魔術。それがシルヴァさんのもう一つの力。
生物無機物関係無く産み出す事を可能とし、今みたいに兵力を創り出したり建物とかを作ったりも叶う。なんでもありの便利な魔術ね。
「これが彼、破壊と創造を司る魔族のトップ。シルヴァ・フィーニスさん!」
「誰に向かって俺の紹介をしているんだ。ルミエル・セイブ・アステリア」
「世界の向こう側かしら」
「噂に違わず変わり者のようだ」
「失礼しちゃうわ」
土塊を放り、宇宙空間に消え去る。
彼が生み出した兵力は既に始末した。本物と遜色無いけれど、私達の前じゃ相手にならないわね。
そう、私“達”。つまりみんながそれらを倒したという事。全員が敵同士だものね。
「兵力を増やされては困るな。大会のルール自体が破錠してしまうよ」
彼、魔物の国のトップ。ヴァンパイア族のブラド・ナイトさん。金髪赤目の王道ヴァンパイア。クールでカッコいいと人間や魔族、エルフ族の子達からも人気みたい。
妬けちゃうわね。私も容姿は整っている方だと思うけれど、女の子ばかりで殿方が全く寄って来ないんですもの。学校は女学院だから分かるけれど、外に出てもそうなのはおかしいと思わない?
ともかく、ブラドさんは持ち前の腕力でゴーレムを引きちぎって砕き、ミノタウロスの角を折って消し飛ばした。
『一人居るだけで国家戦力の力となりうる彼奴がちゃんと従って参加しているだけで少しウケるかもね』
「この場に居る子達は全員そうでしょうに」
『貴女は同い年、なんなら年上に対しても“子”って言うのをやめたらどう?』
「ふふ、何かしっくりくるのよ。ラゴンさん」
彼女、幻獣の国の頂点、ラゴン=ドラルさん。
今は人間態になって参加しているけれど、立派な純正龍族。多分本気になったら本来の姿を解禁するんじゃないかしら。
名前や本来の姿の見た目から最初は男の子って思われる事が多いらしいわ。大変よね~。
そんな彼女は人間態には似つかわしくない鋭い爪で創造されたモンスター達を切り裂き、牙で食い千切り、火炎で焼き払っていた。
「人間態はかわいい女の子なのに、戦い方は荒々しいわよね。傍から見たら異常な光景よ。女の子がモンスターを食い千切ってる様なんて」
『別に良いでしょ。それが私の個性なんだから。それに、この姿でドラゴンとしての能力を使うと一部の人間からはもっと“口の中見せてー!”とか、“俺を爪で引っ掻いてー!”とか、“僕と人間態で一緒に水浴びしない?”とか言われるんだよ。評判は悪くないの』
「評判だけに留めて置きましょうか。戦闘中とかゲーム中は仕方ないとして、実際に行動に起こすのは止めた方が良いわよ」
『何故貴女の言う事を聞かなければならないのかな。ただでさえエルフの者達に言われて仕方無く衣服を纏ったり人間態ではなるべく人に近付けていると言うに』
「つまり変身直後とかは裸体なのね。まあそれが普通なんでしょうけど、あまり需要に応え過ぎると龍の純血が人間や他の種族との混血になってしまうわよ?」
『それはどういう事だ?』
「そうねぇ~。シルヴァさんとブラドさんはどう思う?」
「「俺達に振るな! それは同じ性別同士で話してろ!」」
「あら、息ぴったり」
種族は違っても同性。ついつい話し込んでしまったわね。
シルヴァさんとブラドさんも同性だから息が合ってるみたい。フフ、相性に性別は関係無かったわね。色んな国の方達と交流出来る機会だからとても楽しくなってしまったわ。
「ふふ、楽しいわね♪」
「『「………!」』」
楽しいけれど、勝つのが目的。私の役目。だから会話が終わってすぐにでも仕掛けなくちゃね。お話は試合の後でゆっくりしましょう。
不意打ちの形になってしまっても悪いから、何の変化もさせていない通常の魔力を打ち付けたわ。
「急に仕掛けてくる。思うところがあるのか、大した技ではないがな」
「全く。気紛れなお嬢様だ」
『会話をして油断したところを突くか。狡猾な者だ』
「意図を理解するか曲解するかの二択ね。構わないけれど」
距離を置き、ラゴンさんは再び口に火炎を溜めた。
『カッ!』
「相変わらず女の子らしくない絵面」
火球が放たれ、近隣の星々が焼失。本物の星ではないけれど、前述した事を踏まえれば複数の山が燃え去ったも同然。
威力はお墨付きね。
「今のところ単純な技の出し合いくらいしかしてないな。どの道避けられるから意味の無い応酬だ」
「そう言いながらテメェも参加してんな。ブラド。“創造”」
「ふふ、みんなで見せ合いっこね♪」
ブラドさんが黒い魔力を槍のように放ち、シルヴァさんが壁を創造して守護。上方向からラゴンさんが火炎を放射し、躱した私達は散り散りになる。
けれどそうね。全員が全員実力者。ブラドさんの言う通り、このまま続けても進展するのは少し後になるかもしれないわ。
私は全然構わないけれど、レヴィアさんも心配と言えば心配。イェラと合流しているならその心配は全部無くなって思う存分戦えるけれど、あまり長居は出来ないわね。残念ながら。
今のところ他の子達が使っているのは小手調べくらいの技。それなら私がみんなを本気にさせれば良いだけ。
私は魔力を込めた。
「──“エクスプロージョン”」
「『「………!?」』」
単純な高威力、広範囲の魔術を用いれば文字通り起爆剤となりうる。故の爆発魔術。
白い光が宇宙空間を包み、さながら超新星爆発のように広がった。
熱と衝撃はこの空間内での千里を越え、広範囲の星々を飲み込む。少し後には私の周りに超空洞が作られた。
威力は落としたけれど、第一試合の時よりは三倍くらいの強さにしてある。……そして、もう少し強くしても良かったかもしれないわね。
「様子見からいきなり威力を上げやがったな……!」
「お淑やかなのにお転婆なお嬢様だ……!」
『噂に違わぬ力だね……!』
「ふふ、ちゃんと自分に降り掛かる分は防いだのね。おめでとう」
パチパチパチパチと手を叩き、防いだ子達の様子を見る。
破壊魔術で爆発その物を粉砕したシルヴァさん。自身を魔力で覆って防いだブラドさん。自分の衝撃波をぶつけて相殺したラゴンさん。三者三様、各々の方法でちゃんと防いだ。
フフ、でもやる気にはなる。ならざるを得ないわよね?
「これもほんの小手調べ……この程度でヘタってはいないでしょう? 国を率いる子達♪」
「また“子”扱いか……!」
「少しカチンと来たかもね」
『挑発なのは見え透いているが……敢えて乗ってあげるよ……!』
エクスプロージョンは起爆剤として優秀。相手によっては起爆する前に消えてしまうけれど、この子達ならその心配も無い。
挑発だと分かっていても苛立つものよ。冷静さは失わずに苛立っているから、幾分やりにくいかもしれないわね。
でもそれが私の狙い。この子達を本気にさせ、勝負その物を手っ取り早く終わらせる為。
「さあ、続行しましょうか」
「受けて立つァ!」
「同じく」
『無論だ……!』
当然、私もちゃんと戦うつもり。挑発したんですもの。それに乗るだけの価値があると態度で示さなきゃ。
私達による代表戦、決勝。なるべく早く終わるように頑張ってみるわ。




