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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第八十七幕 混戦

「「「“フレイム”!」」」

『“ローガ”!』


 彼と彼女達。この場に居る全員が放ったのは炎のエレメント。どの威力も高く、代表戦らしい力。複数の熱によって氷雪ステージは一変、通常の山岳ステージみたいになったわ。

 フフ、良いわね。高い力にゾクゾクする。まだまだ楽しめる。そして私も成長出来るわ。


「“ファイア”」

『「……!」』


 炎魔術を放ち、それらの火炎を掻き消した。

 同じ火であっても最終的に決めるのは質と量。インスピレーションが湧いて明確なイメージが出来る今の私の魔術は更に先の領域へと移行する。


『まさか炎という分野で自分が押し負けるなんてね』

「これが最強のダイバースプレイヤー……!」


 良い反応をしてくれるわね。特に魔物さんは火の扱いには自信があったでしょう。彼がそう言ってくれるのなら私の炎は最上位の物と証明されたも同然。

 さて、まだまだ試合は続行中よ。


「全員が敵の今試合だけれど、あなた達が協力して私へ攻めても良いのよ? 実力差はそれくらいだからね」

『最終的に試合を決めるのは勝率。取り零す訳にはいかないよ』

「私達に勝とうとしている脳内がおめでたいな!」


 誰が何人落とすか。それが最終的な結果を決める為、私にこの四人を落とされたくないのも彼らの心情。

 協力したとして、二人以上落とされたら私が一気に有利になるものね。私への狙いを多くするとは言え、隙を突いたら即座に別の人達を狙おうと言う魂胆みたい。

 それも作戦。間違いないわね。


「フフ、どちらにせよ、私はあなた達を一人も取り逃がす訳にはいかないわ」

『逃げないさ』

「逃げるか!」


 炎剣が振るわれ、空中に停滞して輪が広がる。その全てが槍と化した。

 エルフの子達は矢を射、遠隔操作で自由にけしかける。その全てを私は魔力の衝撃波で吹き飛ばした。


「はあ!」

「遠距離が無駄と判断しての近距離攻撃。悪くない考えね」


 砂塵の中からレイピアをもちいて仕掛け、手首に触れてそっといなす。

 二方向の物もかわし、左右の二人は弾き飛ばす。


「まずは一人ね」

「……ッ!」


 反応させない程の速度で魔力を撃ち込み、その意識を奪い去る。

 これで私達に1ポイント。厳密に言えばポイント制ではないけれどね。まあ勝率は上がったわ。


「くっ……仲間が一人やられてしまった……!」

「これで“魔専アステリア女学院”が一歩リード……だったら、先にあの長身を……!」

「……! 待て! 早まるな!」


『此方に来たか。好都合だ!』

「はあ!」


 そう、これもまた今回のルールの醍醐味。比較的勝てそうな相手に挑み、キル数を稼ぐ事で個人に勝てなくてもチームで勝利するというもの。

 でも冷静さを欠いては足元を掬われるのは自分自身になる。


『はっ!』

「……ッ!」


「馬鹿者め……!」


 この場に居る子達の中でも彼は私を除いて一番強いもの。

 知能も魔法も身体能力も。エルフちゃん達が個々の実力が高いのは間違いないのだけれど、無策に突っ込んでは逆にやられてしまうわ。

 だけどこれで彼も一人分倒した事になる。誰も取り逃がさないとは言ったけれど、全員を私一人で倒す事は結果的に叶わなかったわね。残念。

 でもその分、この二人は私一人で倒さなくちゃね。此処に来たエルフちゃん達は彼女だけ。そして私と彼は互いに一人ずつ倒した。つまり狙いは──


『先に点を取るとしよう』

「……っ。やはりそう来るか……!」


 彼女になるという事。私相手じゃ時間も掛かるし、そもそも勝てる見込みが少ない。勝つつもりでいてもね。

 なのでまず確実に一人を倒す方向にチェンジするのは正しい戦法。でもさっきも言ったように、足元を掬われるのは誰でも訪れるのよ。彼も彼女も私自身も。


「はっ!」

『……!』


 エルフちゃんがレイピアを振るって炎剣を弾き、近距離で魔力の塊をぶつける。

 私を除いて一番強い彼であっても、相手も同じ代表選手。実力に特筆した大きな差がある訳でもない。

 私が言いたかったのは“無策で突っ込んでは返り討ちに遭う可能性が高まる”という事。冷静さはいつも大事よ。焦って勝負を急いではこうなってしまうんだもの。

 でも、


「二人だけで楽しむなんて妬いちゃうわ。私も混ぜて♪」

「『……!』」


 魔力を放ち、足元から全ての大地を吹き飛ばす。

 空中に二人は投げ出され、私は冷静に魔力を込めた。当然、あの二人以外の全てにも警戒はしているわ。この戦闘範囲の大きさ。他の子達が集まってきてもおかしくない状況は常に続いているもの。

 此処でケリを付けて他の戦場に行かなくちゃね。既に戦っている場所があるなら、そちらで決着が付いていてもおかしくない。少しでも勝率を上げて置かなくちゃ後々に響くわ。

 だから自由が利き難くなる空中へと誘い出した。魔法や魔術で浮けるとして、切り替えまでに時間は生じる。そしてそれなら私の方が早く済むわ。


「──“チェインウェーブ”」

「『───!』」


 第一波が突き抜けて空中へと舞い上がった山の欠片と彼と彼女を押し退け、続くように迫った第二波で完全に打ちのめす。

 一回の魔力で複数回の攻撃が向かうこの魔術は便利よ。守護しているならそれを破る事が出来るし、何もしていないなら複数の攻撃が直に来る。

 それなりの実力者でも意識は失ってしまう事でしょう。衝撃波が去った後、飛んでいった転移の光は一つ……あら。


「流石のタフさね。魔物のあなた。強靭な肉体。あれを受けて意識を保っているなんて」

むしろほぼノーダメージだった状態の自分を此処まで一気に追い詰めるなんてね。化け物染みている』

「あら失礼しちゃうわ。花も恥じらう乙女に向かって化け物なんだなんて。小悪魔ちゃんって呼んで♡」

『魔王と呼ぶ方がしっくり来るだろう』


 彼はまだ意識を保っていた。中々やるじゃない。けれど乙女心を理解していないわね~。褒め言葉的なニュアンスでも化け物って呼ばれるのが嬉しい訳ないのに。

 でももう途切れ途切れ。此処は一思いにトドメを刺しましょうか。横取りされたら勿体無いもの。

 魔力を込めた瞬間、彼の見た目が変化した。


『君にならこの姿で戦っても良さそうだ……ついでにこのステージの全プレイヤーを倒すとしよう』


「……へえ。まだ見せてくれるの」


 真の姿的な力。見たいと言えば見たいけれど、パワーアップされてイェラ達に迷惑を掛ける訳にもいかない。

 なので魔弾にてトドメの一撃を与えてみたけれど、膨大な力の前じゃあまり意味を成さなかったわね。仕方無いわ。


『隠してはいたけど、別にとてつもない変化がある訳じゃない。ただ巨大化するだけだ。それが自分の力……!』


「巨人族の末裔って訳ね。フフ、確かに炎の剣を使う巨人の神話はあったわね。あなたがそれという事」


 巨人族。この世界では別に不思議じゃない存在。

 小さい子でも三メートル以上あって最大なら星並みの存在もあると言う種族。そして彼は世界を焼き尽くしたとされる、チーム名にもある巨人。スルトの末裔と言ったところね。


『まだまだご先祖様程の力は有していないけれど、このステージを焼き尽くす事くらいは容易い……!』


「でしょうね。彼の“世界樹ユグドラシル”を焼いちゃった伝承もあるもの。血を有するならそれくらいの所業は容易い」


『そうだね。だから自分は今その力を解禁した』

「お見事♪」


 身の丈の数倍はある炎剣をもちい、振り回す。その余波だけで周りにある雪山が溶けて蒸発した。

 凄まじい威力ね。存在するだけでこの熱量。魔力による防御を貼ってなかったら観客の前で衣服が焼き消えて恥ずかしい姿を晒すところだったわ。

 取り敢えず、今やるべき事は空中戦ね。

 魔術で宙に浮き上がった瞬間に長い炎剣が振り抜かれた。


「飛ぶまでの間待ってもくれないの」

『そんな猶予を与えていたら君には勝てないからね』


 炎剣は風魔術からなるクッションで防ぎ、軌道を逸らす。

 瞬時にその風を己に纏い、彼の懐へと迫った。


「的が大きくなっただけよ」

『……ッ!』


 反応させる間もなく魔力を込めた拳で打ち抜き……そうね。ご先祖様が一〇〇メートルくらいだとしたら彼は五〇~八〇メートル程度かしら。

 その体を殴り飛ばして複数の山を崩落させる。


「拳ははしたなかったわね。乙女らしく、次はビンタにしましょうか」

『この体を殴り飛ばされるなんて初めての経験だ……腕力も凄まじいと来た』

「そう言われるのも傷付くわ。やっぱり此処は魔術で華麗にやりましょうか」

『見映えを優先されるとはね。心外だ』

「強く、美しくよ。そうする事で憧れを持ってくれる子が現れて次世代も豊かになる。卒業間近だから今の私がやれる方法で魅せなきゃ」


 山の崩落と共に起き上がり、体勢を少し低くして構える。

 低いと言っても巨大なのは変わらないんだけれどね。私の存在をより見据えると言う感じかしら。


『戦いながらも先の事だけを考えている。自分の事は眼中に無いみたいだ』

「いいえ。ちゃんと見てるわよ。だから集中しているもの」

『“自分”じゃない。“自分”の事を……だ』

「その上でちゃんと見てるのよ」


 彼の言う自分。それは他人か己か。どちらにしても私は見ている。

 戦況としては彼が巨大化した影響で熱が広がって地表が丸見え。隠れ蓑となる雪も無いから他の子達の動きもよく分かる。ほら、遠方で竜巻が起こったもの。至るところで戦闘は繰り広げられていて、おそらく既に他のプレイヤー達は私か彼のどちらかが倒れた時、もしくはトドメの直前に出られるように待機している筈。出てこないのは巻き込まれない為。そうなると待機場所は……半径五〇〇メートルから一キロの間。


「そうね。じゃあもうこの場は終わらせましょうか」

『何を……?』


 魔力を込め、体外へ溢れた物もちゃんと包み込むように取り入れる。

 半径一キロの間を消し飛ばしましょうか。


「“エクスプロージョン”」

『……!』


 力は抑える。殺めてしまっては失格になってしまうのと、尊い命は絶対に奪いたくないから。

 その上の爆発魔術。熱と衝撃を弱め、意識を奪う事にけたモノ。範囲は私の場所から半径一キロ。彼には怯ませる事くらいしかやれないけれど、今消え去った複数の光が倒した証明。

 ふふ、思ったより少なかったわね。“新月日影学園”の人が二人。“スルトル”の子が一人と“エルフォシア”の子が一人だけね。となると残りの主力はイェラ達と戦っているかも。


『……まさか、味方が居るかもしれないと言うのに爆発魔術を使うとは』

「大丈夫よ。イェラ達は私の方に来ないから」

『信用されていないのか?』

「逆よ、逆。彼女は私の勝利を確信してくれているの。今の戦況が例えイェラ達以外の全員vs私であったとしてもね。そして漁夫の利を狙おうともしていない。だから此処に来る事は無いでしょうと確信していた。信頼には信頼で答えなくちゃね」

『そうか』


 イェラ達が来ない理由は、私を心配していないから。それは良い意味で。

 心配すると言う行為は決して悪い事じゃないけれど、その分神経を使ったり試合中はデメリットも多くなる。

 だけど私の勝利を彼女達が確信してくれる事で心配にかれる負担が減り、私も思う存分戦える。これもある種の信頼の形。

 だから私は相手に集中出来る。


「終わらせましょう。炎の巨人さん」

『……自分の名はルトーだ』

「そう。ルトーさん」


 名前を教えてくれたわね。今後会う機会があるのかも分からないけれど、将来的には魔物の国とも外交はしていくつもりだから名前を知っておくのは良い事。

 代表に選ばれた全員が将来的には成功を約束されているような存在。コネを作ろうと言う人達も少なくないけれど、私は普通に仲良くなりたいわ。

 その為にもちゃんと敬意を払ってトドメを刺す。


「──“魔王の”──」

『……やはり君は……』


 属性に変換させていない魔術を使い、炎の巨人さんを打ち飛ばす。

 彼は青く変色させた炎剣を構え、それを一気に振り抜く。やるじゃない。この場で更に温度の高い青い炎に変えたのね。

 でも残念。私の魔術はそれくらいでは止められない。

 青い炎剣の余波によって周りの山は熔け、切り崩れるように崩落。私の魔術はそれを突き抜け、青い炎を飲み込むように消し去って彼の巨体も包み込んだ。


「あなたはとても強かったわ♪」

『───』


 双方の衝撃波で山岳地帯が消し飛び、辺りは更地となる。

 彼の姿は光に包まれて消え去った。転移したようね。よって私の勝利は確定する。

 これで相手の数は“新月日影学園”が二人。“エルフォシア”の四人。“スルトル”の二人が減った事になる。

 残りの相手数は“新月日影学園”三人。“スルトル”一人。“エルフォシア”一人。私達が三人。

 悪くないわね。試合は順調に運ばれて行くのだった。

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