第八十五幕 代表戦・第一試合
入場者とルールが発表され、各ブロックごとにチームが分かれた。
ブロックは予選大会や代表決定戦の成績に応じて決められており、一回戦から最強vs最強みたいな試合にはならないようにしてあるんだって。
ちゃんとエンターテイメントとして楽しませるように心掛けているね~。
《それではやって参りましょう! 代表戦、第一試合! 人間の国代表“ハーデシウス学院”vs魔族の国代表“ダークロス学園”vs幻獣の国代表“ワイバーンドラクル”vs魔物の国代表“ヒュドレーン”! スタァァァァトォォォッッッ!!!》
「「「わああああああああああああああああァァァッッッ!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッ!!!」」」
『『『キュオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッッ!!!』』』
『『『ガギャアアアアアアアアアアァァァァァァァッッッ!!!』』』
一回戦開始と共に会場は更に沸き立つ。
全ての種族の歓声が巻き起こり、会場全体は割れるように大きく揺れ広がった。
一回戦はまだルミエル先輩達の出番じゃないみたいだけど、全員が代表に選ばれる程の実力者なのは変わらない。多分私なんかじゃ足元にも及ばない程のレベルの高さなんだろうね。
そして人間の国と魔族の国は学校みたいだけど、幻獣の国と魔族の国は一つの団って感じみたい。確かに参加国は学校対抗じゃなくて、あくまで“チーム”としての括りだもんね。
そのチーム同士の戦闘はかなり激しい物となり、最終的にステージの形が殆ど残らないという結果になった。
何というか……予想はしていたけどスゴい試合だったね……。一挙一動で地形破壊は当たり前。あの中に巻き込まれたら一瞬でやられちゃうよ……。
《さぁて!! 激しい一試合目でしたが、試合はまだまだ続きます!! 何と言っても四十七ものチームがありますからね!! サクサク続々と進めて行きますよ~!!!》
それから第二試合。第三試合と続いて行き、数試合を終え、全てが見所しかない物だった。
そしてついにルミエル先輩達がステージの上に立つ。
《さあ! ついに来ましたァーッ!! 今までの試合全てが目玉でしたが、今回もまた目玉も目玉、大目玉!! 人間の国代表、“魔専アステリア女学院”!!! 魔族の国代表、“新月日影学園”!!! 幻獣の国代表“エルフォシア”!!! 魔物の国代表、“スルトル”!!! このチームが一戦交えます!!!》
「「「どわああああああああああああああああァァァッッッ!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!!」」」
『『『キャオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッッッ!!!』』』
『『『グギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァッッッ!!!』』』
一際大きな大歓声が巻き起こり、次の試合で戦う代表チームが出揃った。
ルミエル先輩率いる“魔専アステリア女学院”。相手は“新月日影学園”と“エルフォシア”に“スルトル”と言う三チーム。
魔族の人達は全体的に前髪で顔を隠してるね。髪色は灰色か黒で全体的に暗い雰囲気を醸し出していた。
“エルフォシア”に居るのは、所謂幻獣や霊獣じゃなくて、全員が尖った耳。つまりエルフ族で構成されたチームみたい。
“スルトル”は長身な人型の魔物が一人に鋭い牙や爪を持つ方々の集いって感じ。でも数は全員合わせて三人しかいない。
傍から見たら“召喚師”辺りの人が連れているように見えるけど、人型なのに人間や魔族じゃないって雰囲気が漂っていた。間違いなく魔物と断言出来るような不思議な感覚。
チーム人数で言えばルミエル先輩達と“スルトル”が三人。魔族の人達は全部合わせて五人だけで、“エルフォシア”は控えを含めてそれなり。こんな人達を相手にルミエル先輩達はどこまでやれるんだろう……。
《それではDブロック第一試合──スタァァァトォォォ━━━━ッ!!!》
司会者さんの言葉と同時にルミエル先輩達は転移。目の前にある映像伝達の魔道具からなる巨大モニターにステージの様子が映し出されていた。
ついにルミエル先輩達の試合が開始される。
*****
──舞い降りた白銀の世界に足跡が着く。日の光が銀世界に反射して輝き、熱を持たぬ淡い光が私の体を包み込んだ。
フッと呼吸をすると白い息が天へと上り感じる肌寒さ。会場との寒暖差に身が震える。けれど火照った体。数分なら心地好い感覚が勝るわね。
此処は雪と氷のステージ。会場とは真逆の季節。国によっては今がこの季節かしら。
そんな氷雪ステージで私はポツンと一人ぼっち。代表戦では通常戦のようにチームが一つの場所に転送される訳じゃない。チームプレーも大事だけれど、個々の実力を測るのも目的だものね。
だから直前まで如何様な方法で合流するかを考えるチームも少なくない。それぞれで売りにしている強さが違うから。
そして“魔専アステリア女学院”で私達世代が売りにしているのは個人プレー。単純に個人的な実力の高さからそれを好んでいるの。
さて、そんな事を考えながらも私はザッザクと雪道を行く。全てが白くて平衡感覚が狂いそうね。実際、この体感からして私の転送地点は少し斜面になっているみたい。
(今回の相手は“新月日影学園”。“エルフォシア”。“スルトル”。あの子達が相手ね。そうなると戦い方は──)
対戦相手のチーム名を頭の中で反復し、それぞれの得意とする戦法を思い浮かべる。
代表戦まで来ると個々も全員強いけれど、その中でチーム戦を得意とするのはエルフォシア。何かしらの方法でチームメイトと合流する事を狙って来る筈。
そして魔族の国はその国民性からして基本的に個々を優先する。戦いが好きな種族だからね。……けれど、今回の試合で一番好戦的なのは──
「……来たわね」
次の瞬間、私の居る雪山に炎の槍が突き刺さり、発火して一気に溶かした。
雪山はぬるま湯の波となって雪崩が起こり、私は魔術で空中浮遊して槍が飛んできた方向を見やる。
「あなたが今回の相手ね。私に会いに来てくれたのかしら?」
『ああ、そうだね。最強に挑戦したいと言うのが好奇心。自分が君の近くに転送されて良かったよ』
長身の男性。赤毛混じりの黒髪に赤い目。褐色の肌。身長は三メートルはありそうだけれど、魔物でそれは小さいくらい。これが人間態と言ったところかしら。
狙いは私。魔物も魔族に負けず劣らず好戦的な種族だものね。最強へ挑戦したい心意気は分かるわ。
自分で最強を謳うのもあれだけど、私が最強であるのなら今まで私にやられた人達もそんな私の後輩達にも箔が付くというもの。私の存在がみんなの評価に直接繋がるのよ。それはとても誇らしい。
私は魔術を解いて着他する。
『さあ、やろうか』
「そうね。お手柔らかに」
見た目だけで性別は不明だけれど、一応“彼”としましょうか。彼は魔力から炎の剣を作り出し、私との距離を詰めるように駆け寄る。
そのまま通り抜けるように振り抜き、私は魔力でガードした。
『はっ!』
「長い剣」
刀身は五メートル程かしら。全体的な長さは六メートルと少し。それを軽々振るう魔物の腕力。
横目で周りを見れば雪崩も蒸発しており、次なる攻撃は既に眼前へ迫っていた。
『貰った』
「何もあげてないわよ」
『そうか。それは残念だ』
リンボーダンスのように仰け反り、通り抜ける炎剣の揺らめきが髪を揺らす。
前髪が焦げなくて良かったわ。あの火力だと傍に居るだけで熱を感じるもの。氷雪ステージにはピッタリだけれどね。
『まだその気になっていない様子。余裕のある佇まい。自分としても心外だな』
「そんな事無いわよ。その剣で斬られたら火傷しちゃうわ」
『本来はそれで済まないが、ルール上殺生は禁止されているからね。そもそも殺す気になったとしても自分はルミエル・セイブ・アステリアをやれないだろう』
「物騒な話ね。ほらほら、スマイルスマイル♪」
『その余裕を消し去るのが自分の当面の目標だ』
炎剣を横に薙ぎ、雪を踏み込んで巻き上げ加速する。
一直線に刺突が放たれ、私は紙一重で躱す。相手は片手から両手持ちへ切り替えて切り上げ、回転を交えて横に薙ぎ払う。熱によって雪は溶け、距離を置いた私との距離を詰めて振り下ろした。
「やるわね」
『一撃も当たっていないけどね』
「それはお互い様じゃない」
『君は攻撃を仕掛けようとすらしていないだろう』
「そうね。それじゃあ今から仕掛けるわ」
懐へ踏み込み、魔力を込めた球体で撃ち抜いた。けれど、防がれてしまったわね。
『なんの属性にも変化させていない魔力。まだまだ様子見の段階を抜け出していないか』
「様子見は大事よ。あなたこそ炎剣での一点張り。率直に言えば体術のみで戦っているじゃない」
『それが自分の戦闘スタイルなんでね。魔物としての本能、単純な力で一点集中。ただひたすらに突き進むのみ』
「良い心掛けだわ。私も人間らしく攻め立てようかしら。混血だけど」
『血なんて関係無い。世界を救った英雄の血筋だろうと世界を焼き尽くした怪物の血筋だろうと、最終的に決めるのは自分自身なのだからね』
「フフ、同感ね」
炎剣が横に薙ぎ払われ、遠方の雪山が溶けて崩れ落ちる。
せっかくの白銀の世界なのに所々に土色が表れてしまっているわね。それにこの破壊範囲、私の仲間達か他のチームか。誰かが集まってきてもおかしくない。
ま、その時はその時で戦うだけ。そもそも他のチームが集まっているならそのチーム同士で戦闘が始まる可能性もある。私を全員で囲むやり方も作戦の一つだけど、意外と代表戦ではそうする方達が居ないのよね。何故なら誰もが自分を信じ切っているから。知略や数の多さだけでは篩に掛けられて脱落してしまうのが関の山なの。シビアよねぇ。
『ハァ!』
「ふふっ」
縦に炎剣が振り下ろされ、斬撃が飛んで焼き斬る。通り道となった地面には谷が形成され、フツフツと煙が上がっていた。
氷雪ステージだから炎の威力が映えるわね。あの剣が常に熱を発しているから少し暖かいわ。
『最強に勝ち、自分が最強の名を踏襲するとしよう』
「最強って立場も大変よ。常に勝利し続けなければ手の平なんてドリルみたいに高速回転させられるもの。立場によるプレッシャーにあなたは耐えられるかしら?」
『さあね。ルミエル・セイブ・アステリアが居るから一度もその立場になった事が無いんだ。なってみなくちゃ分からないさ』
「ごもっともな意見ね」
彼の言っている言葉も正しい。なった事が無い存在の気持ちを理解しろと言うのが無理な話。理解して欲しいならその立場を明け渡せと言うのも当然ね。
けれどイェラや私を最強と慕ってくれる後輩達に良い格好し続けたいもの。そう簡単に明け渡す気はないわ。
代表戦、第一試合。まだまだ始まったばかりね。




