第八十一幕 お泊まり会
──“屋敷”。
街から進み、郊外に出て建物の少ない道を抜け、私達は私のお家に着いた。
既に日も暮れている時間帯で、今日帰ると連絡したらすぐに馬車を寄越してくれたからあまり遅くならずに済んだよ!
「「「お帰りなさいませ。ティーナお嬢様」」」
「「「及び、ご友人の方々。よくぞお越し下さいました」」」
「ただいまー!」
「此処がティーナん家……やっぱティーナって全然そこそこじゃないレベルのお嬢様だったんだな……」
「立派な屋敷を所有しておるのだな」
「おおお……大っきい」
「何をそんなに驚いているんだろうね~」
「そうですわね。別段普通で御座いますわ」
「金持ち共め……! ……なんてな」
私の家。そこには広いお庭や今の時期にピッタリなプール。誰が造ったのかも分からない石像とかトピアリーが飾ってある。
少し行けば農園やお花畑もあって、昔はよく遊んだな~。いつから遊ばなくなったんだっ──そこまで考え、思考を停止させる。
何となく思い出したく無くなった。何でだろう。でもこれもたまにある事だから保留。今は招待したみんなをもてなさなきゃ!
「取り敢えず上がって上がって~。おもてなしするよ~!」
「そんじゃ遠慮無く。お邪魔しまーす!」
「お邪魔します」
「お邪魔しますわ!」
「そうか。靴は脱がぬのだな。邪魔する」
「お、お邪魔します……」
みんなが上がり、ボルカちゃんは興味深そうに私の家を見ていた。
「此処がティーナの家か~。色々ありそうだな! 探検するぞ~!」
「アハハ……目ぼしい物なんて無いよ」
そんなにジロジロ見られてもなんだよね~。
ある物と言ったら照明のシャンデリアとか絵画とか、ホントにお屋敷と言ったらこれ! みたいな物しかない。
あ、でも片付けられてないならドールハウスとか、ジオラマとかオモチャの食器類とか。お人形遊びする時のセットは置いてあるかも。ママやティナじゃなくて、普通のオモチャとしてのお人形さん。
「取り敢えずお客さんの部屋……は人が来るかもしれないから、私の部屋に行こ!」
「お、早速本元調査か!」
「如何様なお部屋なのか、楽しみですわ!」
「そんな大袈裟な感じじゃないよ~。二人とも!」
「と言うか、もう夜とも言える時間帯なのにお客さんとか来るんだ」
「うん。たまに帰って来たパパがよく話してたりするよ~」
「たまに帰宅してその上で商談……社会って大変ね」
雑談しながら私の部屋へ。
約四ヶ月振りくらいの帰宅。そう言う意味でもちょっと楽しみ。もう何度も見ている部屋なんだけどね~。やっぱり自分のお家ってホッとする。
雑談しながら進み、私の部屋の前に来てこのドアを開けた。
「ここが私の部屋だよ!」
「此処がティーナの……!」
「部屋ですわ!」
部屋に入り、出迎えるのは沢山のぬいぐるみやお人形さん。
ちゃんとドールハウスがあり、みんなの為の街もあるよ! 四ヶ月くらいだけど、久し振りの対面だ!
「何というか、想像通りっちゃそうだけど、全体的にファンシーな感じだな」
「可愛いお人形さんとぬいぐるみですわね」
「ちゃんと本棚やベッドもある……それは当たり前ね」
「可愛いお部屋です!」
「女子らしい風貌ではないか」
「えーと、レモンさんも女の子ですよね……」
みんなの感想はぬいぐるみ達に注目しているね。確かに私のお部屋はそんな感じなのかな。そう言うの好きだし。
取り敢えず、お友達を招くなんて初めての体験。こういう時は最初にお茶やお菓子を用意するんだよね。
「待ってて! 今お菓子とか持ってくるから!」
「ってもそろそろ夕飯だろー? 夕飯前にお菓子食べて食えんのかー?」
「あ、そう言えばそうだった。じゃあお茶持ってくる!」
「ティーナじゃなくて使用人さん達が持ってくるんじゃねえのー?」
「……ほ、ホントだ。私達が帰って来た瞬間から用意されてる……! 流石この家のみんな……!」
処世術の本はあくまで個人宅に対しての物しか書かれておらず、使用人さん達が居る場合はまた別って感じ。
なのでお茶を持ってくる必要は無く、しばらく雑談したりお人形さん達の街を案内して過ごした。
このままでも楽しいけど、ここはルーチェちゃんを見習って行動してみようかな。
「……あのね、夕飯までお屋敷の案内しよっか! まだ初めてで場所もよく分からないし!」
「お、良いな。そんじゃ、さっきも言ったようにティーナの屋敷探検だ!」
「フフン、私も構いませんわ!」
「そうね。お手洗いの場所とかは知って置いた方が良いもの」
「ご友人の家を案内されるなんて初めてです!」
「良いぞ。ルーチェ殿の部屋も愉快だが、屋敷内も気になる」
やった! 勇気を出して言ってみたら快く了承してくれた!
ティーカップを使用人さん達に預け、私達は私のお家探索に赴く。
「と言っても大まかな設備はルーチェちゃんの別荘と同じ感じだね~。どちらかと言えばお庭に注目したいんだけど、もう夜だし、そろそろご飯だからお風呂とかトイレとかの大事な場所がメインだね」
「ハハ、そりゃ違いないな。そんじゃ出発だー!」
「おー! ……って、今回は私が仕切らなきゃ!」
ボルカちゃんに主導権を握られ掛けたけどなんとか奪取。日常生活に必要なトイレやお風呂。ウラノちゃん好みの書斎とかみんなでワイワイするパーティールームとか色々。
そんなこんなしているうちに夕御飯の時間となり、みんなでダイニングへと集まる。食事を終え、食後の休憩としてまた私の部屋に集まっていた。
「いや~。美味かったな~。ティーナん家の飯。一流シェフの料理って感じだ!」
「ふふ、そう言って貰えると私も嬉しいな~。あまり家に帰れないパパの代わりに昔から面倒見てくれる人達で、みんな優しいの!」
「そっか~」
満足して貰えたみたいで何よりだよ~。昔からの世話役さんが褒められると私も嬉しくなっちゃう。
その後少しの休憩を経てお風呂に入る……んだけど……。
「……フム、私の国とは些か違うようだな。湯殿から排水溝に直結していない」
「日の下はお風呂やトイレのこだわりでも有名だもんね~。宿泊施設とか大勢の人が集まる場所じゃ最近は増えてきてるけど、基本的に浴槽と排水溝が一緒だからシャワーとか体を洗ったりとかもお風呂の中でやるんだよ」
「成る程。映像伝達からなる魔道具で、海外の物語系列の番組を見る時、泡風呂に入っているのが多いのはそれが理由なのか」
「私のお家とも少し違いますね。どちらかと言えばエルフであるお母さんの故郷の在り方を尊重していて、なるべく自然に近い形でお風呂に入るんです」
「そうなんだ~。それは種族的な意味合いで違うんだね。確かに寮生活じゃなくて、自分の家の作法があるなら違和感覚えるかも」
「はい。でも新鮮で楽しそうです!」
「気持ちいいよ!」
ヒノモトのレモンさんやエルフとハーフのエメちゃんは私達の一般的なお風呂とは違うみたい。国柄や文化の違いだね。
今から突貫工事で床と排水溝を繋げるのは無理だけど……ママの植物魔法で自然空間は演出してみよっかな。
「そんで、誰から入る? それとも全員で入るか~? この広さなら収まりきるとは思うけど」
「あ、そうだね。この期間中や寮ではみんなで入ってるし、一緒で良いんじゃないかな? レモンさんとエメちゃんが嫌じゃないならだけど」
「私は構わぬぞ。私の国では数百年くらい前までは混浴が当たり前だったらしいからな。誰かと入るのに躊躇いは無い」
「私も良いですよ。いつもお母さんと一緒に入ってますし、その……友達と一緒に入ってみたいから……」
お風呂に入る順番決めだけど、それはみんな一緒に入る事になった。
ある意味今まで通りだね。今日はレモンさんとエメちゃんが居るから私としても新鮮!
だったらとそのまま脱衣場で衣服を脱ぎ、みんなで一緒にお風呂に入る。ママの植物魔法で自然を張り巡らせてみたよ!
「雰囲気、良いな~」
「落ち着きますわ~」
「そうね。悪くない」
「ああ、良い空気だ」
「うん。落ち着く~」
「でしょでしょ! エメちゃんの言葉を参考にしてみたの! 自分家だからやれる事だね!」
普段はやらない事をやってみた。魔力は自然に消えるし、ボルカちゃん達以外の人が居ないからやれるの!
そんなボルカちゃんは周りを見渡す。
「けど、使用人さん達もお付きなんだな。流石に女性スタッフだけだけど」
「昔からこんな感じだね~」
「ちょっと緊張します……」
「その様なものでしょうに」
「ルーチェさんはね」
「フハハ、愉快愉快。これなら一人で入る時も寂しくはないな」
周りに居る使用人さん達はルーチェちゃん以外気になっていた。
でも確かにそうだよね~。こんなに人に囲まれてお風呂入るのって世間一般からしたら普通じゃないんだって寮生活で分かったもん。
「ま、いっか。にしてもレモン。君の体はスゴいな。イェラ先輩やバロン先輩程じゃないにせよ、かなり筋肉質だ。けれど体つきは女性らしくてゴツさを感じさせないときた。この腹筋とか」
「ひゃん……! あ、あんまり触らないでくれ。くすぐったいのは苦手なんだ……」
「へえ。そうだったんだー」
「うひゃ……! や、やめ……!」
「何してるのボルカちゃん……」
「賑やかで良いですね~」
「エメちゃんも色白でしなやかな体してるんだね~」
「ティーナさんこそ色白で可愛らしいですよ。あ、でも少し焼けてる」
「昨日まで海や山に行ってたからね~」
レモンさんの筋肉質な体にエメちゃんの綺麗な体。こうして見ると鍛え方も様々。参考にしよーっと。
そんな感じで楽しく浴場での時間は過ぎていくのだった。
そしてそのお風呂上がり、着替えや歯磨きを終えた私達はリビングの方に行き、使用人さん達が集まっていた……あれって……。
「ん? なんか人がめっちゃ集まってんな~。全員使用人さんや執事さんにメイドさんだけど」
「どうかしたのでしょうか?」
「さあ?」
ボルカちゃん達は疑問符を浮かべている。確かに普通はよく分からない事だよね。
でも間違いない。
「パ、お父さんが帰って来たのかも……忙しくて滅多に帰れないんだけど……」
「「「………!」」」
「「……!」」
人だかりの理由。それはパパが帰って来たから。
忙しくてあまり家に帰られないんだけど、珍しく。本当に珍しくたまたま私が帰宅した日にパパも帰って来たんだ!
私達のお泊まり会。それは楽しく過ごせているし、ママ以外にもお友達の紹介が出来るね。




