第八十幕 服屋と図書館
食後、私達は街中を歩いていた。
と言うのも、デザートを含めて結構食べたから運動を兼ねた……お散歩みたいなものかな?
見慣れた街だけど、みんなで一緒にお話ししながら歩くだけで結構楽しいね。
「他、なんか欲しいのあるかー? アクセサリーとか化粧品とか……って、ルーチェ以外そう言う事する面子でもないか。まだ12~13だしな」
「フフン、私は大人びてますからね!」
「マセてるとも言うけどなー」
私達の年齢的にまだお化粧品とか、オシャレとかにもあまり力を入れる頃合いじゃない。ちょっとはお手入れとかもするけど、ガッツリはやらないもんね。
してもヘアピンとかヘアゴムとかそれくらい。ルーチェちゃんは髪型的にも家柄的にもかなり気合いを入れてると思うけど、アイシャドウとか口紅とかを塗ったりはしていないもんね。
「私服でも探すか~? 普段着は制服かジャージだから長期休暇や休日くらいしか着る機会無いけどな~」
「でもこの休みが終わったら季節が変わるし、少し背丈も伸びた気がするから丁度良いかもね」
「だな。けど、その季節の期間は短いし、残暑で暑かったり急激に冷え込んで寒かったり様々で服探しが一番大変なんだよな~」
「結局生地とか利便性を考えると学院指定ジャージが一番なんだよね~。流石に私服として活用はしないけど」
欲しい物も今のところ無いし、成長に合わせて新調する為にも服屋さんとかが良いんじゃないかと話が纏まりつつあった。
主に話しているのは私とボルカちゃんだけど、他のみんなも同意するように頷いているから反対の意見は出なかった。
「そんじゃ、服屋に行くか。そこである程度過ごしたら図書館で勉強だ。課題を終わらせるのも良し、自由に読書も良し。他人に迷惑掛けないなら良いっしょ!」
「そうかもね~。だけど少しも課題終わらせてないのってボルカちゃんくらいじゃないかな? 私も日記は残ってるけど、大体は部活終わりの後に時間を見つけて終わらせたから」
「ゲ、マジか~」
「確かに私も残っておりますけど、殆ど終わっているので問題無い範疇でしたわ」
「ルーチェまで……」
「普通初日のうちに終わらせるよね」
「まあビブリーは分かるぜ」
「私も課題は終わらせたぞ。女子足るもの、如何なる分野でも取り組まねばな」
「それはアタシに対しての当て付けか~?」
「私はまだ半分くらい残ってますけど、簡単なので最終日に全部終わらせる事も可能ですね」
「流石はエルフとのハーフ。頭良い」
長期休暇期間中に出ている課題の進歩だけど、みんな順調みたいだね。
ボルカちゃんも、どちらかと言えば不真面目な方だけど頭は良いからその気になればすぐに終わると思うな~。
何はともあれ、まずは服屋さんだね!
「これとか似合うんじゃないか? 名前にある通りレモン色!」
「黄色か……いや、嫌いな色ではないが少々派手過ぎるぞ。私個人としてあまり目立つのはよろしくないのだがな」
「大丈夫だって! 髪とか目とか、黄色っぽい人なんてそこら中に居るんだし、なんなら亜人や獣人も大勢観光に来てんだ。服装の一つや二つ、気にする必要も無いぜ!」
「それとこれとは別物だろう。私のような顔立ちの者は……そうだな。こちらの浴衣や着物の方が似合うておる」
「その方が目立つと思うんだけど」
ボルカちゃんが衣服を手当たり次第選んでレモンさんに見せている。
そう言えば前は私達四人でプチファッションショーしたし、レモンさんとエメちゃんにもしてみたいかも。
レモンさんの方はボルカちゃんが担当だから、私はエメちゃんにアプローチしてみよっと!
「ねえねえ。エメちゃんはどんな服が好み~?」
「私はそんなに肌の露出が無かったり……あと今現在進行形で目立ってるこの耳を隠せるコーディネートが……」
「あー……確かに目立っちゃってるもんね~」
「なああの子……」
「エルフか。珍しいな。街に来るなんて」
「どこかで……あ、そっか。あれだよ。前都市大会で活躍していた」
「あ! 人間とエルフのハーフの子!」
「一緒に居るのはティーナ・ロスト・ルミナスか!」
「一緒に買い物に来てるんだ~」
……なんか私も目立っちゃってる。
でも考えてみたらそうだよね。此処は言わば“魔専アステリア女学院”の本拠地みたいなものだし、大会を見てる人が多いから私達や対戦相手だったエメちゃんは目立っちゃうんだ。特に今の時期は暑いからエルフの耳をそのまま出してるもんね。
でも遠目で見ているだけで特に何をしようって感じでもなく、マナーの良い人達だ。
「それじゃ、これ着てみてエメちゃん!」
「なんで今の文脈でこれに繋がるの……ティーナさんが選んだ服だから着てみるけど」
「そんじゃ、レモンはこれを着てみてくれ。着物じゃないけど、センスをレモンに合わせてみた!」
「む? そうか。確かにこの色合いなら問題も無かろう。では着て参る」
私とボルカちゃんはほぼ同じタイミングで二人の服を決めた。
買うか買わないかはともかく、二人ともスタイル良いからとても似合うと思う!
試着室に入って数分。中から声が聞こえてきた。
「着替えましたよ~」
「私も着替えたぞ」
「それじゃあ……最初はどっちにする~?」
「同時じゃないんですか?」
「もち! やっぱ順を追って見てみたいからな!」
そんな風に話、少しだけ早く着替え終わったエメちゃんが最初という事になった。
シャーっとカーテンが開き、彼女は更衣室の外に出る。
「ど、どうでしょうか……」
「似合ってるよ~!」
「良いじゃないか!」
「お似合いですわ!」
「良いんじゃない?」
エメちゃんの服装はノンスリーブシャツにサイドジップの短いスカートからなるコーデ。
色合いは森を彷彿とさせる緑色で、絵物語とかに出てくるエルフっぽい格好をさせてみたよ! まあ、絵本だと葉っぱのスカートとかだから流石にそれはないけどね~。
「涼しくて動きやすいです……けど、少し露出が多いような……」
「アハハ……物語っぽい服装を選んでたらこうなっちゃった」
「けどま、この季節の服装なんてそんなもんだろ! よく似合ってるぜ!」
「そ、そうでしょうか……」
「見てみて~!」
「カッワイイ~」
「フフ、可憐なエルフね」
「少し恥ずかしそうだね~」
「おいおい、あれ!」
「良い感じだな~。エルフの子」
「いい……」
ギャラリーの人達も集まってきたね。
あれ、と言うかあの人達……話してはないけど前のファッションショーの時にも居たような……。
まあ……いっかな。取り敢えず、エメちゃんにとても似合ってる!
「そんじゃドンドン行くか~。次はレモン! どうぞ!」
「その言い方だと普通に八百屋でレモンを頼んだみたいな感じになってしまってるぞ。それに、見た目は悪くないが、今の時期では少々暑苦しさがある」
「スゴーイ……同年代なのに大人っぽい……」
「色っぽいですわね」
「クールって感じね」
レモンさんの服装は、襟つきシャツに足にフィットするスキニージーンズ。
暑いのか腕捲りをしており、第二ボタンまで開けていた。
と言うか羞恥心って無いのかな……結構見えちゃってる。でもそれを感じさせない程に似合っていた。
「あれ見な~」
「カッコいい!」
「へえ……私に負けず劣らず大人っぽいわね」
「貴女は誰なの~?」
「なああれ見てみろよ!」
「クールビューティーってやつだな。あの子達の保護者……と言うよりは年上のお姉さんかな」
「いい……」
以上、ギャラリーの反応。
やっぱり見た目以上に年上って思われてるね。レモンさん。
確かに私から見ても先輩とかに思えちゃうもん。
「ルーチェ達は選ばないのか~?」
「選びたい気持ちもありますけど、服選びだけで時間が掛かってしまいますの。今度皆様を私の自宅に招待でもしてじっくり選びたいですわ!」
「私は別に参加してないから良いかなって」
ルーチェちゃん達のコーディネートは今回は保留みたい。ウラノちゃんに至ってはあまり乗り気じゃない感じ。彼女らしいね~。
何はともあれ、選んだ服は記念にと購入。私達もある程度過ごし、次は予定通り図書館に向かった。
──“図書館”。
「いつ来ても良いところ。人類の……いえ、世界中の叡知が詰まっているわ」
「館内では静かにしなきゃだけど、大声じゃなくても分かるくらいテンション上がってんな~」
やって来た街の図書館。そこにはズラリとギッシリ詰まった本棚が並んでおり、蓋のされた飲み物販売や冷風の魔道具など快適に本を読める環境が作られていた。
見ての通りウラノちゃんは目を輝かせており、私達も早速本を手に取る。そう言えば何気に図書館に来るのは初めてかも。学校で植物の本を借りたりはしてたけど、こんな感じで館内で読む事は無かったと思う。
「あ、“神話の植物図鑑”。これがあれば植物魔法の解像度をより上げられるかも」
「アタシは課題だな~。図書館行く予定だったし、終わってないのを持ってきたから仕上げるぜ」
「何を読みましょうかしら……やっぱり参考書とかよりは物語を読みたいですわね。どちらかと言えば恋愛物が好みですわ……“曇り空と青空”とか“『アナタ』にとっての『君』が『私』だったらいいのにな”……“LOVE GAME~クラスメイト全員攻略~”も良さそうですわ」
「此処から此処まで持って行こっと」
「ウラノさんそんなに読むんですか……」
「書物か。嫌いではない。学問は大事だからな」
各々で本を手に取り(ボルカちゃんは宿題だけど)、それぞれで読み進める。
フムフム、薬草のモーリュ。永遠の命を与える生命の樹……色々ある……けど、何でだろう。薬とかそう言う物ばかりに目移りしちゃう。
でも大事だもんね。他意は無い……。
「……? 如何した。ティーナ殿。目が泳いでいる。本を読み進めてないようだが」
「……! な、なんでもないよ。大丈夫」
私ってそんなに表情に出やすいかな。基本的に静かな筈の読書ですら読まれちゃう……読むは読むでも本的な意味じゃなくて。
でも前程胸がザワつかない。ボルカちゃんやみんなが居るからかな。
そんな事を考えながら図書館で数時間。日が暮れた頃合いに私達は最初の集合場所に戻った。
それにつき、ベンチに座って明日以降をどうするかの話し合いをする。
「まだまだ行ってない所はあるしな~。逆に迷うぜ~」
「確かにね~。私も四ヶ月くらいで全部把握している訳じゃないからボルカちゃん達頼りになっちゃうや」
「ハハ、だな。そんじゃアタシ達が考えるとして……色々あるけどあり過ぎて思い付かねえな~」
この辺りには詳しいボルカちゃんだけど、却って難しいのかもね。
今はまだ思い付かないのも踏まえ、ボルカちゃんはエメちゃん達の方に訊ねた。
「そう言や、アンタらは何処に泊まるかとか決めてんのか?」
「いや特には……だがまあ、今の季節であっても宿屋くらいは空いているだろう」
「そうですよねぇ~」
「あ、それなら私の家とかどうかな? 久し振りに帰るつもりで、ここからも結構近いんだ」
まだ宿泊場所は決めてないみたいだけど、丁度私は久々にお家に帰るつもりだったからタイミングが良いかもしれない。
どうかは分からないけど聞いてみた。
「おお、ティーナ殿の自宅か。確かにそれは良いかもしれぬな」
「えーと……お邪魔にならないなら私も……」
「全然大丈夫! お家でも友達が一緒に居るのは楽しそうだもん!」
二人は快く了承してくれた。今から探すのも大変だし、来てくれるなら嬉しい!
その横でボルカちゃんも挙手した。
「あ、んじゃアタシも良いかー? ティーナの家に行ってみたいからさ!」
「え!? うん。もちろん大歓迎だけど……荷物とか良いの?」
「問題無ーし! 寮からは近いしな!」
ボルカちゃんも来てくれるんだって! それはスゴく楽しみ! お家に友達を招くのは初めてだし、一気に三人もなんて!
そこへルーチェちゃんも入ってくる。
「それでは私もよろしくて! 皆様が行くのにハブられるのは悲しいですわ!」
「もちろん良いよ!」
「んじゃ、ついでにビブリーもどうだ? ティーナの家、気になるだろ?」
「……いつもなら断るけど……確かに気になるわね。行っても良いかな」
「是非来て!」
「全員が来るならついでに明日の話し合いも出来るな!」
「そうだね!」
ルーチェちゃんとウラノちゃんも私の家に泊まりに来る事になった。
ふふ、ホントに楽しみ~。私の家でみんなと過ごせるんだね! パパと……と使用人さん達や爺やにも紹介しなくちゃ! お手紙ではよくやり取りしてるんだけどね~!
「それじゃ、私の家にレッツゴー!」
「「おおー!」」
「お、おー?」「御意」
「……ごー」
これにより、みんなで私のお家に行く事になった!
街を後にし、私は久し振りに帰宅する。




