第八幕 ダイバース
「うーん……中々見つからないねぇ」
「そうだなー。人数も減ってきたし、単純に難しくなってるね」
残り二人という事で、私達は二人で一緒に探していた。
最後の方こそバラバラに行動した方がいいんだろうけど、
「……! ティーナ。ストップ。そこに拾った石ころを投げてくれ」
「え? うん」
ボルカちゃんに言われ、地面に向けて拾っていた石ころを放り投げる。
すると落ちた瞬間にそこが沈み、ガサガサと音を立てて崩れ落ちた。
「罠……!」
「向こうも一筋縄じゃいかないみたいだな。既に予め複数の罠を仕掛けてるみたいだ」
「そうだったんだ……! 知らなかった!」
「ハハ、花粉で居場所を特定したり、森その物を持ち上げて炙り出したティーナは気付く事もなかったか」
バラバラに行動しない理由は至るところに張り巡らされている罠があるから。
落ちちゃったりしたら大変だもんね。だから二人行動。私は嬉しいけど!
「けどまあ、あの植物魔法ならやりようはあるな。時間も経ってるし、また森に植物を張り巡らせたり出来ない?」
「うん。やってみるよ。ボルカちゃん!」
ボルカちゃんに言われた通りママに魔力を込め、木や花を咲かせた。
えーと、どんな感じで操っていたんだろう。ボルカちゃんが居るからママとは話せないし、見様見真似で……!
「そーれ!」
「スゴい魔力出力……」
「やった! できた!」
太い樹が伸びて森を行き、地面を巻き上げる。大地が大きく揺れ、一人が何かに乗って飛んできた。
「ウッソー!? さっきと言い今と言い、中等部の子がこんな魔法を……!?」
「箒に乗ってるようだね。この森の中を低空飛行で逃げていたから見つからなかったみたいだ」
「すごーい! 障害物だらけなのにこんなに飛べるなんて!」
「流石は名門“アステリア女学院”のチーム。全員が何かしらの分野に長けてるんだな」
飛び出した子にツタを伸ばして捕縛。これで四人目。あと一人!
その子は他の子達の元に連れていった。
「なんだ、君も捕まってしまったか。箒で低いところを飛んで逃げたら絶対大丈夫! とか言ってなかったか?」
「副部長よりは後だからいいんですー!」
「やれやれ。君もあの新入生達の礼儀正しさを身に付けて欲しいものだ」
仲は……多分いいのかな? 良さそうに見えるからきっとそうだよね。
さて、残るは部長さんとやら。この人達のリーダーだからとてもスゴいんだろうなぁ。気を引き締めなきゃ!
「じゃあ次は……と思ったけど、あの範囲魔法を受けても姿を隠し続けているからな。また別の術があるんだろう。こちらも別の方法で仕掛けてみるか」
「別の方法?」
「そ。ま、アタシの炎魔法だとボヤ騒ぎになっちゃうから、基本的にはまだまだ未知数なティーナの人形魔法だな」
「私の……」
私の魔法でどこまでやれるんだろう。厳密に言えば私の魔力をママやティナに伝えているんだけど……あ、ティナの魔法はまだ分からないままだった。
とにかく、ボルカちゃんの期待には応えたい。でも何が出来るんだろう?
「残り時間は二十分くらいかな。改めてやれる事を確認した後、策を講じよう。かくれんぼって単純だけど、隠れる側も色々考えるから結構な頭脳戦なんだよね」
「うん! 頑張る!」
「やる気は結構結構!」
グッと手を握って気合いを入れる。
闇雲に探しても見つからないのは現状から明白。なので時間は少なくなってきたけど、惜しまず策を練る。
その辺の木の枝を拾い、地面に描く。
「まずこの森の地形。割とジグザグしてるけど、ザックリ当て嵌めるなら円形が近いな。そんで、アタシ達が居るのはこの辺り。向こうとあそこは既に探索してるけど、隠れる側が動く可能性はあるからまだ候補には入ってる。とは言え、そんなに早く移動したら場所が特定されるだろうし、優先度は低めかな」
「そうなるとここからこの辺りのあまり探していない場所がいいのかな? 一応何度かは向かったけど」
「そうなるなー。だけどそのままじゃ見つからないまま終わりそうだ。片方の人形は植物魔法だけど、もう片方はどんな感じなんだ? やっぱティーナを触媒にしてるから同じ植物魔法か?」
地形や相手の同行を思案する中、ボルカちゃんはティナがどんな魔法を使えるか訊ねた。
どうなんだろう。同系統の可能性もあるけど、授業で試してみたら上手く決まらなかったもんね。
「それが……私にもよく分からないの。今日の実技で試してみたけど、視界が高かったり低かったり二重になって……目が回っちゃって……」
「視界が二重になって目が回った……か」
私の言葉を聞いたボルカちゃんは考えるように呟く。
何か分かったのかな? 私にはさっぱり。だけど頭の良いボルカちゃんならもしかしたら……!
「改めて聞くけど、人形の魔法はティーナが魔力を込める事で発動するんだよな?」
「うん。だけど魔法の杖とかとは違って……なんて言えばいいんだろう……理屈がちょっと違うの。説明はまだ私には難しくて出来ないけど……」
「成る程な~。杖や剣を触媒にする魔法とはまた違うのか」
ママの力だから説明のしようがない。使っているのはママだもん。
だけどボルカちゃんの反応を見る限り違うんだなって事は伝わったかな?
それを踏まえ、彼女は提案した。
「そうだ、ティーナ。ここからは手分けして探そう」
「……?」
その提案は、最初に罠があるからと却下したものだった。
*****
──私の名前は“ルミエル”。この学院の高等部でとある部活動の部長を努めているわ。
そんな私は今、新しく入ってきた中等部の子達と戯れてるの。中々筋が良くて、副部長も含めて私以外の全員が捕まっちゃったわ。やるわね。
だけど私はまだ見つかっていない。言わば他の子達の最後の希望かしら。……ふふ、流石に大袈裟ね。
残り時間は五分くらい。このまま順調に行けば私の勝ちだわ。
「───」
「───」
そしてそんな私はあの子達の近くから様子を見ている。灯台もと暗しと言う慣用句を知ってるかしら? それに近い状態ね。
一人は炎魔法使いのボルカ・フレムちゃん。彼女はこの学院では結構有名な子で、一言で言えば天才ね。色んな部やサークルコミュニティがどうにか彼女を引き入れられないか模索しているわ。斯く言う私達もその一つ。此処では中等部と高等部が同じ部活動と言うのも珍しくないのよ。
……そしてもう一人、まだ名前は知らない金髪の大人しそうな子。あの子はダークホースね。一見したら普通の少女だけど、秘めている魔力は中々……範囲だけで言えばこの学院でも上位に食い込める程のものよ。
エレメントに属さない人形魔法を使ったり、エレメントを組み合わせる事で生まれる植物魔法を扱うわ。赤と緑……いえ、色味で言えば紅と碧のオッドアイな所も気になるわね。魔力の質は体に浮かび上がるもの。不思議な感じ。
私達の部活動、新学期の恒例行事である勧誘ダイバースでまさかこんな子を見つけるなんて。ラッキーだったわね。
「──?」
「─……─……?」
「─! ───!」
「─……!? ─……」
「─! ─!」
二人は何かを話しているけれど、残念ながら気配を絶って必要以上近付かないようにしている私には分からない。
予想の範囲で言えばしているのは作戦会議として、どんな作戦で来るかね。
広範囲の植物魔法も炎魔法も、自分達の近くでは使えない。巻き込んでしまうから。
このまま残り五分、息を潜めれば勝てるけど、油断大敵ね。
「─! ─、──!」
「─……──!」
あの子達は動き出した。
さて、どんな作戦で来るのかしら。まずは二人一緒に進んでいるわね。さっきまでと同様。
この辺りは私達のテリトリー。色々な罠を張ってあるから二人一組で行動するのは定石。だけど、そうすると二人で分かれて探せる利点が潰えてしまう。
単なるかくれんぼと言っても、私達が本気でやるかくれんぼ。奥深くて中々の難易度よ。初等部の子達がやる物とはレベルが違うわ!
『──……』
「あら、可愛いお人形さんね。こんにちは」
『……』
やあ! と言っているかのように手を挙げ、ペコリと隣に来たお人形さんが挨拶をする。
私も軽く手を振って返し、改めてあの子達の行動を──……え? お人形さん?
「…………」
『…………』
ジーッとお互いに見つめ合う。金髪赤目。オッドアイじゃない事以外はあの子と似たような風貌のお人形さん。こちらの方が少し幼いかしら?
けど何でこんなところに……って、決まってるわよね。あの子達が何かを仕掛けたという事。周りに警戒しなきゃ。
「……!」
次の瞬間、私の乗っていた樹が傾き、無数の枝が伸びた。
もしかして気付かれた? いえ、またさっきみたいな闇雲な植物魔法ね。ちょっと様子を窺い過ぎて距離が空いちゃったみたい。
それならまたあの子達の近くへと移動すればいいだけ。私は植物に飲み込まれる樹から別の樹へと移動し、並走するようにお人形さんが飛んでくる。
「……この子……。──……!」
そしてまた、私の居場所を的確に植物が突いてきた。
やっぱりこのお人形さん、私の情報を教えているみたい。一体どんな風にしているのかしら。合図を出している方法を考えましょう。
樹から樹へと跳び移り、何をしているのか確認。あの子達は手を繋ぎながら普通に進んだまま。けれど植物とお人形さんが追ってくる。
仕方無いわね。可哀想だけど、このお人形さんを一旦払いましょう。
「“スピア”!」
『……』
魔力からなる槍を放ち、お人形さんは華麗に避ける。……え? 避けた?
あの子達はこちらを見ていない。なのに回避する。
「はあ!」
『……』
槍ではなくちょっと大きめの魔力の塊を射出。それも避けられ、更なる魔力を放つけど、全て躱されてしまう。
おかしいわね? あのお人形さん、やっぱり変だわ。
「……!」
その刹那、全方位を大木が囲み込んだ。
間違いないわね。あの子、確実に私の位置を把握している。
考えられる線はお人形さんに発信器か、映像共有の魔道具が使われているという事。ふふ、面白い物が見えたわね。もし見つかっているのなら“かくれんぼ”は私の負けが決まっている。
それならやる事は一つかしら。
「──参ったわ。貴女達の勝ちよ」
この樹を全て消し去って脱出するのは容易。けれど、ルール上は私の負け。
小さく両手を挙げてお人形さんに話、今回のダイバースは終わりを迎えた。