第七十九幕 お買い物
──“次の日”。
翌日、私達は街にお出掛けする為いつもの集合場所に居た。
既に私とボルカちゃん、ルーチェちゃんにウラノちゃんはおり、このメンバーで行くんだけど、今回は少し違うの。
少し遅れ、転移の魔道具でその人がやって来た。
「あの……えと……今日はよろしくお願いします!」
「よろしくねー。エメちゃん!」
彼女、人間とエルフの混血であるエメちゃん。元々ダイバースの試合直後に遊ぶ約束をしていたから、それなら私達と一緒にどうかな? って誘ったの。
そしたら快く来てくれて今に至るって訳。
だけどそれだけじゃないよ!
また少し遅れ、転移の魔道具から人が姿を現した。
「今日はお誘い頂き、感謝致し奉り候。皆々様と共に楽しめたら幸いで御座いまする」
「おーおー、相変わらず訛ってんな~」
「おっと、失敬仕った。そう言えば同級生なのだからな。私は別に敬語でなくとも構わぬか。エメ殿に引っ張られてしまった」
「私ってあんな感じですか……?」
「それは絶対無いな」
そう、誘ったのは“神妖百鬼学園”のルーナ=アマラール・麗衛門さん。
実は大会の後、彼女とも連絡交換していたの! 感性的に情報収集や連絡が出来る魔道具を詳しく知らなかったけど、物覚えが良くてすぐに使いこなせちゃってる。
そんな二人と私達で今日はお出かけ。私達の通っている“魔専アステリア女学院”がある周辺の案内ってところかな!
「それじゃあ早速、お出かけしよっか!」
「だな!」「ですわ!」「分かった」
「楽しみです!」「如何程か」
全員揃ったところで街へ繰り出す。
と言っても日の下は隣国で、エメちゃんの学校とも都市大会で出会う程の近場。独特な文化のヒノモトはともかく、エメちゃんに説明とかは必要無さそうだね。
「して、これから何処へ行くんだ? 高級店とかでは私が困るぞ」
「私もそんなにお小遣い無いので……」
「大丈夫です! そんなに高いところには行きませんから!」
レモンさんもエメちゃんも結構お金を使う物と思っているみたい。
けどアステリア学院はお嬢様学校。出費が嵩みそうって思うのは仕方無いよね。実際ルーチェちゃんは一回のお買い物で結構使うもん。
でも今回はそう言うお店じゃない。私としても潤沢って訳じゃないからね。
本当に単純な場所!
「するのはウィンドウショッピングです!」
「成る程。真に単純で良い事だ」
「お友達と買い物なんて初めてです……! ちゃんと出来るでしょうか……」
「私も数ヶ月前までは初めてだったからヘーキヘーキ! 慣れたら楽しいよ!」
エメちゃんは性格的に私に似ている部分がある。自分で言うのもあれだけど引っ込み思案なとことか。
けど、だからこそ近い形で物事を見れるって魂胆!
私達は早速そこそこ大きめのショッピングモールへと入った。色々なお店に立ち寄るよー!
「ねえねえ。このポーチエメちゃんに似合うんじゃないかな!」
「わ、かわいいね。花柄ポーチだ!」
「後ほら、こっちにはカボチャとかニンジンとか大根とか!」
「全部カワイイ!」
「カワイイか? それ。花はともかく野菜のポーチって……」
「良いと思うけどな~」
「うんうん! 私、自然が好きなんです!」
エルフとの混血だけあり、自然を愛する気持ちは他の人より高いみたい。
その横ではレモンさんがアクセサリーを持ってきていた。
「なあなあ! これ良くないか! 刀のイヤリング!」
「か、刀!?」
レモンさんが持ってきたのは刀を象ったイヤリング。
するとウラノちゃんがクイッとメガネを光らせ、話に入る。
「綺麗な直刃ね。イヤリングサイズの大きさでこの艶を再現するなんて。細部まで職人さんのこだわりを感じるわ。なんて精巧な造り」
「フッ、分かるか。黒漆塗りからなる直刃。しかもこれは糸直刃。イヤリングサイズに纏めるなど、ただならぬ事柄だ」
「本当だわ。他のは意図せずとも広直刃寄りになってしまっているけど、それらと比べても刃部分の細さに力を入れている。よく見たら鐔は平糸巻形かしら。これもた微細な作業が必要な形。腕が光るわね」
「君とは気が合いそうだ。ウラノ殿」
「ふふ、そうね。かつてはサムライと呼ばれる剣士の居たと言う“日の下”。私好みの街に住んでいるレモンさん」
な、なんか意気投合してる。けど専門用語的な感じでチンプンカンプン。楽しそうだからいいケド……。
でもショッピングをちゃんと楽しんでて良かった。ウラノちゃんと話が合うみたいで普段しないような笑顔になってる。
「どれも良さそうですわね。全部買ってしまいましょうか」
「全部!? さ、流石はお嬢様校……」
「しかしそれは少々贅沢過ぎではないか? 贅沢と言うものは欲に溺れていると言う嘆かわしき状況。人とは己を律してこそだな」
「お堅いですわね……」
そしてルーチェちゃんのやり方には苦言を立てるレモンさん。
ワガママって程じゃないけど、手当たり次第購入する彼女に対して少し思うところがあるのかも。自分にも他人にも厳しそうだもんね。本当に同い年なのか疑問に思っちゃう。
「こう言うのはパーッと楽しむものですわよ!」
「どの様な事であろうと、欲は身を滅ぼす。質素かつ、慎ましやかなのが人としての正しい在り方だ」
「溜め込み過ぎの方が具合悪くなると思いますわ。……ふふ、それではどちらが正しいか。私が教えて差し上げましょう!」
「フッ、良かろう。望むところだ!」
正反対な感じだけど、相性は悪くないみたい……かな?
何だかんだ仲良くしているね。二人もすぐに馴染んじゃった!
その後私達はショッピングを楽しみ、ウラノちゃんの提案で映像の魔道具からなる映画を見、お昼の時間となった。
「昼食は何処で摂るのだ?」
「近いお店かな~。レストラン……って言うと少しオシャレ過ぎるから……なんだろう」
「取り敢えず近場の食事処なのだな。楽しみだ」
「各国の料理が提供されているところがあるわ」
「それではそこに参りますわ!」
「だな~」
「分かりました……!」
食べる所は決めてなかったけど、一先ずはウラノちゃんのオススメの所に行く事になった。
距離もそんなに遠くなく、数分程で到着。ササッと席に着いてメニューを開く。
多種多様の料理があり、見てるだけで空腹が更に増す。全部頼みたいけど、流石に食べ切れないから適当なのを選んで運ばれてくるのを待つ。
「結構頼んだね。レモンさんとボルカちゃん」
「アタシ達は育ち盛りだからな! 食える時に食っとかないと後々後悔すんぜ!」
「体を作るのは食事からと言うだろう。バランスを考慮して摂っているのだ」
「それは質素や慎ましやかとは掛け離れているような……」
「案ずるな。ルーチェ殿。何れも効率よく摂れるものであり、一般から見た贅沢とは程遠い。世に貧富の格差があるなれば私も自重するが、斯様な事もない世界だからな」
「いえ、別に案じてはおりませんが。しかし本当にストイックですわね」
そんな感じで話ながら食事を待つ。
ちゃんと食事のメニューとか考えてるんだね。私は食べたい物を食べるって感じだから見習わなきゃ……!
そして雑談混じりに待っていると料理が運ばれてきた。
メニューは基本的にいつも通りな感じ。あ、でもエメちゃんは野菜中心の物でレモンさんは魚料理と漬物とかみたいな渋い料理だったね。ちゃんと美味しく頂きました。
「デザートどうする? と言うかレモンは何かスイーツとか食べたりするのか? しなさそうな雰囲気だけど」
「それは偏見だな。私もスイーツくらい食べるさ。あんこや抹茶。あんみつetc.とな」
「おー、アタシはそれ系あんま食べないな。今日はそれにしよっかな」
「それではこの辺りなどがオススメではないか?」
「こりゃ美味そうだ!」
「私はこれが食べたいです……!」
「フルーツパフェ! 良いね! 私もそれにしようっと!」
「あ、それじゃあこれとこれで二つあるんですけど、私達でどちらかを頼んで分け合いっこしましょう!」
「イイね!」
「私はこれですわ! 金箔が掛かったデザートスイーツ!」
「ルーチェさんは金髪縦ロールらしい物を頼んでるね。私は手っ取り早く糖分補給出来るのにしよっかな」
「ウラノさん!? 金髪縦ロールらしいってなんですの!?」
みんなでそれぞれ選び、それらが運ばれてくる。
ここは料理が早いうちに来るよね。スゴくサクサク。手際の良さが窺えるよ~。
「おー、これ美味いな!」
「フッ、こちらも中々イケてるぞ」
「こりゃ☆☆☆☆☆だ!」
「空腹なれば何であっても五ツ星となろうぞ」
「ハハ、そりゃ違いないな。けど、何でもは流石に無いだろ~」
「確かに。些か誇張し過ぎたの」
ボルカちゃんとレモンちゃんが頼んだのは抹茶プリン……ケーキかな? 的な物の上にあんこと白玉が乗ったスイーツ。落ち着く色合いで素敵だね。
「はい、エメちゃん!」
「ありがとー! はい、ティーナちゃんも!」
「ありがとねー!」
私とエメちゃんのデザートは前述したようにフルーツパフェ。フルーツの色によって種類が分かれており、分け合いっこする。
感想を言うなら、スゴいトロピカル!
「フフン、ゴージャススイーツ。ゴージャスイーツですわ!」
「なにそれ」
そしてルーチェちゃんはもう豪華としか言えないデザートを頼んでおり、ウラノちゃんは対照的にお店特製のプリンを食べていた。どっちも美味しそう!
美味しく楽しい食事の一時も終わり、十分に満足する。しばらく動けるかな~。
これで午前中は終了。午後からは図書館で勉強するか、今日一日は遊んで図書館には明日行くか。どっちになっても楽しいから良いね!
因みにレモンさんとエメちゃんは今日この街に泊まって行くみたい。だから今日と明日は一緒に過ごせるって訳!
「そんじゃ、パパーッと次の場所に行くか~」
「お腹いっぱいで少しキツイね~」
「だからこそ動くのは悪くなかろう」
「本来は少し休んだ方が良いんだけどね」
「でも時間が勿体無いですわ!」
「えーと……取り敢えず付いてきます!」
ずっと居座る訳にもいかないし、私達は荷物を持ち、料金を払ってお店の外へ。
相変わらずの強い日差しだけど、やっぱり楽しいからそれで良し。
長期休暇のお出かけ。午前が終わり、午後へと突入するのだった。




