第七十八幕 リゾート
──“夕食”。
ルーチェちゃんの別荘で過ごして更に数時間後、夕御飯の時間となり、私達はダイニングに集まっていた。
広い部屋だけど食事するのは私達だけ。使用人さん達は後でゆっくり食べるみたい。
なので席は近付け、みんなで一緒に並んでいる。
既にキッチンの方からは良い匂いが漂っており、準備は万端って感じ。
座ると同時に料理が運ばれ、ズラッとそこに並べられた。
「では頂きましょうか!」
「うん!」
挨拶をし、並べられた料理を手に取る。
柔らかいお肉に新鮮な野菜や魚介類のフライ。卵料理にポテト類にチーズを使った料理やデザートのスイーツとか……とにかく色々! と言うかホントに種類が豊富だね……。食べ切れるかな。
「ふう……お腹いっぱい……」
「お風呂は少し休憩してからにしましょうか」
「そうだね~」
懸念はあったけど、食べ終える事が出来た。でも本当にお腹いっぱいだよぉ~。
少し雑談し、一時間程経った辺りでお風呂へ。なんやかんや最近はみんなと一緒に入る事が多いね。元々寮でも都合が合ったら入ってるけど。
「夜の海もキレイ~」
「そうだな~。……そしてティーナ。実は夜の海には色々と怪奇現象が起こりやすくてな……水場にはそう言った類いのモノが集まり、冥界へと引き摺り込むんだ。おいでおいでと手招きをし、その手に触れたら最後……!」
「ひっ……!」
「大体意識失ってオチが不明なんだこれが。安直だよな~」
「えぇ……」
浴場から見える海を見ていたら行われたボルカちゃんの怖い話。
だけどオチは気絶してよく分かりませんでしたって……確かに詳細を描写するのは難しいと思うけどさー。
「そうだ。サウナ行こうぜサウナ! この季節だからこそ汗をいっぱい掻かなきゃ!」
「そうなの?」
「そうだぜ! ビブリーとルーチェもな!」
「わわ……」
「自分で行けます事よ!?」
ボルカちゃんに三人の腕を引っ張られ、タオルを羽織る暇もなくサウナ室へ入った。
けど室内にはちゃんとタオルが敷かれてるね。やっぱり直だとお尻とかが火傷しちゃうからかな。
「うぅ~暑い……せめてタオルは羽織りたかった……」
「何も身に付けていないと、サウナでは逆に持たないんだけど……」
「そうだったのか。暑いから全裸の方が良いって思ってたぜ」
「ボルカさんなら知っていたと思いますけど……本当に知らなかったんですの?」
「さあどうだろーなー」
すっとぼけるボルカちゃん。その真偽は定かじゃなかった。
次第に暑さで話す気力も無くなり、額に汗が。脇から胸にも掛けて汗が流れ、かなりキツイ状況。と言うかこれって勝負前提だっけ……?
「もうダメ~」
「ティーナが一抜けか~」
「いえ、既にウラノさんが離脱しておりますわ」
「なにぃ!? クソ~。気付かなかった!」
ウラノちゃんは既に外に出ていたみたい。確かに一人が好きで勝負事はあまり好まない彼女なら普通にあり得る事だね。
でも誰かが出ているなら私も出やすい。サウナ室の中にはボルカちゃんとルーチェちゃんのみが残った。
考えてみたら炎使いに光使いの二人。熱に強かったりするのかな? 体外で魔力を熱に変換しているもんね。
「……遅いね。二人とも」
「そうね。私達もそろそろ出るし、一度様子を見てみましょうか」
「うん」
それから十数分後、未だに出てこないボルカちゃんとルーチェちゃんの身を案じ、私とウラノちゃんは上がるついでに二人の様子を見てみる事にした。
ドアを開け、そこに居たのは。
「ボルカちゃん!? ルーチェちゃん!?」
「意識不明ね」
「冷静!?」
ぐで~ん……と一糸纏わぬ姿で力無く横たわるボルカちゃんとルーチェちゃんの姿。
熱関連の魔法や魔術の使い手でもこうなっちゃうんだね……。
取り敢えず救出。ママの植物魔法で二人を包み、脱衣場で寝かせる。
「もう……無茶し過ぎだよ……」
「ホントね」
体の温度を下げる為、衣服は着せていない。二人の体は火照っており、パタパタとタオルで扇ぐ。
少し経て二人はムクリと起き上がった。
「いや~。張り合ってたら意識がなくなっちゃったぜ」
「不覚ですわ。私とした事が……」
「ううん。ルーチェちゃんらしいよ~」
「それって褒め言葉ですの?」
体調は優れていないけど問題は無さそうだね。もう少し体を冷ましているのかまだ着替えていないけどすぐに落ち着くかも。
お風呂に入ってたらこんな事になるなんてね~。大変だったよ。
その後、私達は寝間着に替えて移動した。
*****
「……それで、此処に行く必要性は?」
「夜の海も素晴らしい事ですわよ!」
「答えになってない……」
夜風が髪を揺らし、ザザーンと静かな波音が鼓膜を揺らす。
落ち着く空間。お風呂上がりに私達は夜の海岸にやって来て火照った体を冷ましていた。
夜になっても砂浜はほんのり温かく、直接触れていなくてもその感覚が伝わってきた。
「良い雰囲気……」
「星もキレイだ」
「リゾート地ですけれど人工的な明かりが少なく、この様に見えるのですわ!」
「悪くないわね」
湯冷めしちゃうからあまり長居はしないけど、それでも十分にこの空間を堪能出来た。
その後私達は部屋に戻り、少しお話とかをした後で就寝。翌朝、朝食を摂って仕度を終え、また海の方へ繰り出した。
「今日は何するのー?」
「そうですわね。昨日はあまり物を使ったレジャーをしておりませんでしたし、ボートに乗ったり、貸し出されている海の箒に乗ったりですかね」
「成る程ー。確かに昨日はビーチボール以外の道具は使ってなかったね」
「今日はもう午後には帰らなくてはなりませんし、丁度良いですわ!」
今日やるレジャーは乗り物中心。
なので私達は貸出しされている所へ行き、その分の料金を払って遊ぶ事にした。
──水上ボート。
「ひゃっほー!」
「速い~!」
「負けません事よ!」
「何で勝負になってるの……」
ハンドルに魔力を込めて進むボートに乗り、私とボルカちゃん。ルーチェちゃんとウラノちゃんでチームに分かれてプチレースを行った。
私は魔力の出力が大き過ぎるからボルカちゃんが運転し、後ろからルーチェちゃん達が追ってくる。
見事なハンドル捌きでコーナリングを曲がり、水飛沫を上げて突破した。
──サーフィン。
「これどうやって乗るの~!?」
「足腰に力を入れてバランスを取るんだ。将来的に箒に乗るなら良い練習になるぞー!」
「ムリィィィ!」
ザパァン! と大波が迫り、私は転覆。ボルカちゃんは見事それに乗りこなしていた。
流石の運動神経。魔力強化しなくてもこんなにバランスが良いなんて……。
ちなみにルーチェちゃんもウラノちゃんも即座に落ち、上手く乗りこなせたのはボルカちゃんだけだった。
──海の箒。
「これってサーフィンとどう違うの~!?」
「こっちの方足場が細いからな~。難易度は高めだぜ!」
「あれが出来なかった私にはダメ~」
「お、でも数秒は乗れたな! 立つのが難しいなら股がる形でやるのもまた一興だぜ!」
サーフィンよりも難易度が高いと言う水上ほうき乗り。
でも完全に初めてのそれとは違い、ほうき自体には乗った事もあるのでまだバランスが取りやす──
「わあ!?」
「また落ちたな」
ザブン! と落下。
すぐに浮上して新鮮な空気を取り込む。
うーん……大変。分かっていた事だけど中々に高難易度だね……。
ルーチェちゃん達も一瞬は乗れていたけど、結局ひっくり返っちゃった。でも練習すればもっと上手くなりそうだね!
そんなこんなで朝から数時間。お昼頃になり、海でバーベキューを食べた。
「山ではしたけど、海だとまだだったな。バーベキュー」
「そうだね~。ルーチェちゃん家の私有地だから問題無いし、周りには建物も無いから迷惑も掛からないや! そして何より美味しいね♪」
ジュージューとお肉の焼ける音が響き、焼き上がったそれらを食す。
美味しく召し上がった後はちゃんとゴミ等の後片付け。海岸や海その物はちゃんと綺麗にする。
ついでにママの植物魔法で流れ着いたゴミとかも拾い上げて処理。綺麗になったかな?
「ルーチェお嬢様。そろそろお時間です」
「そうですの。確かに明日も用事はありますし、名残惜しいですけど切り上げですわね」
「そっかー。もうそんな時間になっちゃったんだね」
食後しばらく別荘でのんびりと過ごしていたら、使用人さんが時間の報告に来た。
帰りの時間と明日の約束を思えば仕方無い事。
自室で読書をしていたウラノちゃん。近場でマリンスポーツに興じていたボルカちゃん。リビングでお話ししていたルーチェちゃんと私。それぞれ荷物を持ち、忘れ物が無いのを確認した後、帰りの馬車に乗り込んだ。
「はあ。楽しかった~。山も海も、それぞれ違った面白さがあって良いね~」
「だなー。意外と海にも体を動かすスポーツがあって面白かったぜ!」
「すっかり焼けてしまいましたわね。ボルカさん。私達もですけれど、貴女が一番ですわ」
「私は極力抑えたけど、それでもお風呂でヒリヒリしそう」
帰りはあった事の感想を述べる。色々あって楽しかったなぁ~。
ちゃんとこの季節を満喫している実感がある。本当に良かった。
「明日はティーナの言っていた街でショッピングとか遊園地とか。そしてその後で図書館か。残りの休みはまだあるけど、そろそろルミエル先輩達のダイバース代表戦だ。それに合わせた日程を組もうな!」
「うん!」
「はいですわ!」
「日程を……って、残りの休暇全部一緒に過ごすつもり?」
「もち!」「だね~」「ですわ!」
「息ピッタリね……」
そうは言いつつも、ウラノちゃんに否定する気配もない。こうなったらトコトン付き合ってやろうって気概みたい。
でもそっか。ルミエル先輩最後の大会も始まるんだ。先輩なら心配は要らないと思うけど、どうなるかはまだ誰にも分からない。ちゃんと応援しよう!
私達の長期休暇。既に残りの日数も減りつつあり、新学期や大会が迫っている。
それでもこの楽しい一時を思い出とし、残りの期間を大事に過ごすのだった。
あ、そう言えば課題も全部終わらせなきゃね。私は後は日記くらいだから大丈夫そうだけど。




