第七十七幕 海
「ヒャッホーイ!」
「わ! ボルカちゃん!?」
海に来た私達。ダイバース関連で人に囲まれたりもあったけど、一先ず場は落ち着きを見せたので水浴びをしている。
ボルカちゃんは大きな水飛沫を上げて飛び込んだけど、私は少し怖くてそんな勇気はない。何故なら泳いだ事が無いから。
浅瀬でも直に伝わる砂の柔らかい感触とか寄せては返す波とか、感覚を楽しむだけでも結構面白いかも。
「ほら、ティーナも来いよ! 楽しもうぜ!」
「ひゃあ! ふふ、やったなー!」
「ブハァ!」
少し深い所からの水鉄砲攻撃。私の顔に直撃し、口の中が少ししょっぱい。
なのでお返しとし、波打ち際の少ない水を巻き上げてボルカちゃんへ仕掛けた。
水鉄砲の形だと威力は下がるけど、少量の水でも両手で掬うように被せれば沢山の水が掛けられるよ。
「こうなったら無理矢理引き摺り込んでやる! アタシは海妖ボルカだー!」
「わあー!」
ザパァ! と飛び出し、ボルカちゃんが私の手を引っ張る。
力で彼女に勝てる訳がなく、そのまま倒れ込むように着水。また口に塩水が入り、しょっぱさが広がる。
「プハァ! もう、ボルカちゃん! でも思ったより痛くないね。鼻に入っちゃったけど」
「海の水の成分がそんな感じだからな~。浮力もプールとかよりあるし、泳ぎやすいぜ! それでも気を付けなきゃならないけどな!」
海はプールとかと色々違うんだね。泳ぎやすくあるとか。
でもそれはあくまで浮力とかそう言う理由だから、波が激しかったら大変だね。
「ウラノさん! せっかくの海ですのにビーチで読書は勿体無くてよ!」
「勿体無くないよ。有意義に過ごせてる」
「傍から見たらそうではありませんわ! 皆様で楽しむ為に来たんですもの! 私達もティーナさん方の元へ向かいますよー!」
「わっ……ちょっと……」
一方で、既にシートを敷いて本を開いていたウラノちゃんの手をルーチェちゃんは引き、私とボルカちゃんの元にやって来る。
これで四人全員揃ったね! それじゃあみんなで遊ぼー!
「そーれ!」
「水が……!」
「当たり前だろー!」
「水も滴る良い女……ですわ!」
波打ち際で水を掛け合い、体と髪を濡らす。こんなに濡れてもすぐに乾くから丁度良いね。塩水だから後でシャワーは浴びるけどね!
せっかくの休日、まだまだ遊ぶぞー!
「よーい……ドン!」
「はひぃ~」
「これって遊びかしら……」
「追い駆けっこがそのまま鍛練になりますわね……!」
ボルカちゃんが火球を天に撃ち出し、破裂して私達は走り出す。
名目上は追い駆けっこだけど、砂浜で足が取られてスゴく体力を使うね……昨日の登山の疲れも完全に取れた訳じゃないから大変……。
「そーら! “ボルカ・スペシャルスマッシュ”!」
「スゴい勢い……!」
その次に行うはビーチボールでの点取り合戦。
ボルカちゃんの跳躍と同時に打ち込まれたボールは柔らかい素材なのにスゴい威力で砂浜の砂を舞い上げる。
でも私も負けてられないよ!
「“トリプルブロック”!」
「おわっ! 三人で来たか……!」
私とママとティナで跳躍したボルカちゃんの前に立ち、射線を断つ。
それによってビーチボールの勢いは弱まり、ボールに触れていない方でトス。ルーチェちゃんが綺麗な体勢で跳躍した。
「“ルーチェ・マグナム”! ですわ!」
「くっ……ネーミングセンスの割になんて威力……!」
「それは“ボルカ・スペシャルスマッシュ”にも当てはまります事よ!」
そのトスはそのままシュートに繋がり、ルーチェちゃんの一撃で点数が入った!
ボルカちゃんは抗議する。
「と言うか、待て待て待てーい! 今は2vs2の試合なんだから、ティーナのそれは禁止だろ!」
「えー! だってボルカちゃんが強過ぎるんだもん」
「それならせめて一つにしてくれ! 魔法ありにしたら無尽蔵のティーナが有利過ぎる!」
「あ、確かにそれは悪かったかも……。うん。どっちかにするよ」
確かにママとティナを入れたら2vs4になっちゃうね。どちらかを向こうチームに渡す事も出来るけど、そうなると制御がどうなるのか分からな……制御? ううん。二人ともちゃんと自我があるからそれ!
絶対そう! そうじゃない訳がないよ!
とにかく今は誰にするか。此処は私自身で感覚も共有出来るティナかな? 取り敢えず今は試合に集中しよっと。
「それ行けー!」
「させるかー!」
ボールを砂浜に叩き付け、直前にボルカちゃんが身軽な動きでレシーブ。
ウラノちゃんは渋々駆け出し、そっと撫でるようにボールを押し込んだ。
「くう、緩急……!」
ルーチェちゃんが飛び込んだけど間に合わず、相手チームに一点。
ボルカちゃんのガンガンな攻めにウラノちゃんの緩やかな動き。それによって翻弄され、かなり苦戦していた。
「でもまだまだですわ!」
「そうだね! ルーチェちゃん!」
飛び込んだのもあってルーチェちゃんの体は砂だらけだけど軽く払うだけで立ち上がる。また海に入れば落ちるもんね。
ちなみにボルカちゃんも砂だらけ。私とウラノちゃんはあまり激しく動いていないから砂はそんなに付いてないけど、2vs2の戦いだけあってよく動くから疲れは見えていた。
「はあ……疲れた……」
「次は何する?」
「そろそろ昼食にしましょうか」
「そうね。お腹空いた」
試合も終わり、それなりに疲れた所へお昼ごはんの時間。体が色々な栄養素を欲しているからタイミング的には丁度良いね。
ルーチェちゃんの別荘でも食べられるけど、それは夕飯でも可能。だから今回は近くにある出店とか、この季節限定で開かれるお店に行った。
「どれにしよっかな~」
「迷いますわね~」
「アタシはカレー!」
「じゃあこれで」
私とルーチェちゃんが少し遅れ、ボルカちゃんとウラノちゃんはササッと選ぶ。
変わったメニューが多いね。パスタっぽいけどソースを多分に使って焼いた麺類とか、お肉をカラッと揚げた物とか色々。でも選び終え、それらを食す。
「午後はどうする?」
「確か沖の方にある島に行けるらしいよ」
「じゃあそこにすっか!」
食事しながら次の目的を相談。
ここはお淑やかに食べる場じゃなくて、みんなでワイワイ楽しむ所なんだって。
午後は向こうに見える島の方に行く事になった。ご飯を食べ終え、冷たい飲み物とか氷を粉々にして甘いシロップを掛けた物をデザートとし、シャワーで塩水を洗い流して私服に着替え、島の方へ。
「へえ。ここは時間によって道が出来るんだ~」
「潮の満ち引きで海が変化するからね。私達のようにまだ箒に乗れる年齢じゃない人達はこの道を行くか島までの絨毯に乗るかしか無いみたい」
サンダルを脱ぎ、裸足で島へ通ずる道を行く。
そこは観光客も多く、それなりの人混みが出来ていた。
自然豊かな島でみんなが入って行くのは洞窟。なので私達もそこに入ってみる。
「うわ~。スゴい……」
「キレイだな~」
「絶景ですわ!」
「海の光が反射しているのね」
その中の幻想的な光景に私達は感嘆のため息を溢す。
洞窟内を覆う青い光。水面に反射して揺らめき、別世界のような景色を作り出していた。
洞窟なので涼しく、鍾乳石も所々に見える。サファイアのような輝きは私達を覆い、神秘的な世界を演出している。
様々な要因が合致して生まれた奇跡の光景。
そんな別次元のような洞窟を進み、おそらく数十分は歩いたんだろうけど、時間が掛かった感覚は無かった。逆にもう抜けちゃったという感覚に包まれる。それ程までに綺麗な場所。
その後、元の場所に戻るまでまた数十分程歩き、お昼を食べてから二時間くらい経過した頃合い。まだまだ日は高いけど、私達は一度ルーチェちゃんの別荘に行く事にした。はしゃぎ過ぎてちょっと疲れちゃったってのが一番の理由かな。
「此処が私の別荘ですわ! お友達を招くのは初めてですの!」
「スゴい大きな場所だね~」
「流石の金髪縦ロールだ!」
「快適に過ごせそう」
「えっへん! って、髪型は今関係ありません事よ!?」
ルーチェちゃんの別荘。大きな屋敷の周囲に張り巡らされた高い塀がその建物の規模を物語っている。
私達は別荘の門前に立つと敷地の広さに圧倒されつつ、その門を押し開けた。私のお家の半分くらいはある。スゴく大きい……。
重厚な門をくぐり、立派な庭園の横を歩くこと数分で屋敷にたどり着く。
ルーチェちゃんの……と言うよりシルヴィア家の使用人さんが出て来て応接室に案内され、私達は席に座った。
「大きな別荘だね~。パパが所有する別荘より大きいよ~」
「て事はティーナの家はこの別荘よりは大きいのか……」
「お金持ちね。二人とも」
「あら、そうでもなくてよ。世界一のお金持ちはお城に住んだりしているんですもの」
涼しい部屋で飲み物が出され、私達は寛ぐ。
今日は此処に泊まるんだね。トイレとかお風呂とか、色々案内して貰わなきゃいざという時大変。
なので飲み物を飲み干した後、ルーチェちゃんに話した。
「別荘の案内してくれないかな! まだ場所も分からないし!」
「それもそうですわね。では今日の残り時間……と言うよりディナーまで案内致しましょうか!」
そんなこんなで部屋案内される。
まずは荷物を置きたいから自室へ。ちなみに今までは使用人さんが馬車の中で守ってくれていたんだよ。
いくつもの部屋がある長い渡り廊下を抜け、階段も登る。
「此処が私達のお部屋ですわ! 個室ですけど、ご所望とあらば四人部屋も用意出来ますの!」
「広いな~。アタシの実家だと一番広い部屋でもこの半分も無いぞ……」
「それなりの広さね」
「綺麗に整ってるね~」
案内された場所は、大きなお部屋。
ある物はベッドにテーブル椅子類といつも見るような物。だけど全部良い素材を使っているのが触り心地で分かる。
窓からは海を見る事も出来、バス・トイレも付いていて過ごしやすそうな空間だった。
一人一人の部屋か、四人で同じ部屋にするかは選べるみたいだけど、多分ウラノちゃんは一人部屋にするよね。
「部屋決めは後でするとして、次も案内しますわ」
荷物だけ置き、一旦部屋の外へ。この別荘なら他の場所にもお風呂やおトイレがありそうだね。
そんな事を考え、案内された場所は図書館。大きな本棚にズラリと並んでいる。
「古今東西、あらゆる文書が備えられてますわ!」
「それは面白そう」
「お、ビブリーが興味示した」
「本好きだもんね~」
次に立ち寄った部屋はロングテーブルの並んだ所。キッチンが見えるし、ここで夕飯とかを食べるんだね。
「見ての通り、キッチン&ダイニングですわ! お夕飯等は此処でお召し上がりくださいませ!」
「どんな料理が出てくるのか楽しみだぜ!」
「美味しいんだろうな~」
「お昼を食べてからまだ二、三時間なのにもうお腹空いてるの?」
そして大浴場。
「お部屋にもありますけれど、広々としており、サウナも完備。とても気持ち良いですわよ! ランドリールームも近くにあるのでお着替えとかは置いてください!」
「窓から海の景色も見えるんだね!」
「温泉みたいだな~」
「窓の外に建物は無いし、高所にあって船からも見えないから覗かれる心配は無さそうね」
広々としたお風呂に大きな窓。水平線が見え、此処で入ったら気持ち良さそうな雰囲気だった。
「後は書斎やドレスルーム。ラウンジに音楽室。ホール等々。色々な部屋があり、自由に使えますので好きにしてください♪」
「別荘って言うけど、ほぼお城みたいな施設だな。流石に一泊二日じゃそんなに使えないぜ」
「でも不備は無さそうだね♪」
「じゃあ解散にしましょうか。早いところ図書室へ行きたいわ」
「もう、相変わらずですわね。ウラノさん!」
「けど確かに一通りの案内は終わったから、のんびりする時間にしよっか」
「それもそうですわね。では皆様。ご自由にお過ごし頂きくださいまし!」
ウラノちゃんの言葉で一先ず今は解散となる。次に集まるのは、それも自由かな。この後すぐに集まる事も出来るし、各々が自由時間なら夕飯時になっちゃいそうだし。
その後、私達は自分の部屋を決めた。ウラノちゃんは予想通り一人部屋で、ルーチェちゃんは別荘に元々ある自室。私とボルカちゃんは一緒の部屋で寝る事にする。
何はともあれ海の一泊二日……旅行……なのかな? 取り敢えずお泊まり会!
それは順調に進み、私達はこの日を過ごすのだった。




