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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第七十四幕 肝試し

 ──“夜・山道”。


 昼間の日差しはどこへやら。すっかり日が落ち、山というのもあって涼しい時間帯。暗闇が迎える道に私達は居た。

 避けては通れない肝試し……お化けなんて居ないよね……きっと。


「じゃあまずはチーム分けだ。このくじを引いて塗ってある赤と青で分かれるぞ」

「うぅ……ドキドキする……」


 ボルカちゃんが細長い白い紙を向け、私達はそれを引く。

 同時に持っていた紙を見、その色を確認した。


「赤……」

「私も赤ね」

「私は青ですわ!」

「それなら残ったアタシも青だな」


 クジ引きの結果、私とウラノちゃんで赤チーム。ボルカちゃんとルーチェちゃんが青チームって事になった。

 チーム分けが終わり、私達は早速山道へ。その道中、ボルカちゃんが少し声を低くして話す。


「この山には逸話があってな……過去に、それはそれは凄惨な出来事があったんだ。それは多大なる犠牲者を及ぼし、その怨念は未だに徘徊を続けていると言う……」


「……っ。怨念の……徘徊……」

「ほら、あなたの後ろにも光が……」

「……!?」


 ボルカちゃんの指差す方を見る。そこにはボウッと光る火の玉がフワフワリと浮かんでいた。


「お、おおお……お化けーっ!?」

「アタシの炎魔術だ。ライト代わりに使ってるぜ!」

「えー!?」


 そしてそれはボルカちゃんの物だった。

 ビックリした……本当にお化けが居るのかと……あ、でもママの──だったら会いた……あれ? 何を思ってるの私は。何の事?

 怖くて変な思考になってたよ。もう、ボルカちゃんったら。


「ビックリさせないでよぉ~」

「ハハ、悪ぃ悪ぃ!(死者がこの世に舞い戻る幽霊……話だけならまだ大丈夫みたいだな。少しずつ生と死の境目を認識させてちょっとした切っ掛けで暴走しないようにさせるか。それがティーナの為だもんな)」


 そんな感じのやり取りをしつつ、私達は森の入り口みたいな所にやって来た。

 悪い意味で雰囲気があってちょっと怖い。まるで木の枝達が手招きをしてるみたい……。空は晴れてるけど月が雲に隠れてて先が見えないからスゴく怖い……。とにかく怖い……。


「此処にも逸話があってな……空腹で途方に暮れていた兵士がこの森に迷い込み(以下略)その怨念が今も蔓延っているんだ」


「怨念が……」

「怨念多過ぎません?」

「レパートリーが少ないのね。ティーナさんも怖がり過ぎ」

「だってぇ~」


 ルーチェちゃんとウラノちゃんは全く怖がっていない。ルーチェちゃんは最初の方少し強張っていたけど、ウラノちゃんに至っては全然。

 でもそんなウラノちゃんは私と同じチームだから安心出来るね!


「取り敢えずルールはこうだ。向こうにある祠に行って、お参りして帰ってくる。ただそれだけ。お参りなら他の人の迷惑にもならないし、行って帰ってくるだけで怖いから肝試しが成立する。だろ?」


「お参りかぁ……うん、頑張る……!」

「他人に迷惑が掛からないなら良いわね」

「この薄暗さ、確かに十分怖いですわね」


 ルールが提示され、今一度クジ引きを。それは順番を決めるもの。

 私がボルカちゃんの手から引き、その内容を確認してみる。


「あ、“1”って書かれてる」

「じゃ、ティーナ達チームが最初だな。アタシ達は待機だ」

「……驚かせに来たりしないよね……?」

「ソンナコトハゼンゼンナイゼー」

「片言の棒読みなんだけど!?」

「ハハ、まあヘーキヘーキ。約束するよ。驚かせない。立証方法はある。驚かされたと思った時に真っ先に此処まで戻ってきて、アタシ達が居るか居ないかだ!」

「居たら居たで怖いんだけど……ボルカちゃん達以外の誰かってなっちゃうし……」

「それもそーだな。ま、今の時間帯ならまだギリギリお参りしてる人も居るかもしれないし、案外怖くないだろ」

「それも怖いような……取り敢えず行ってくる……!」

「おう。暗いから足下は気を付けろよなー!」

「うん!」


 ボルカちゃんと軽く話、私とウラノちゃんは光源となる魔道具を持って森の方へ。

 ボルカちゃんとルーチェちゃんは自分の力で照らせるから良いけど、明るくする魔法が使えない私達は大変だね。

 何はともあれ、足を踏み入れた。



*****



「うぅ……暗くて怖い……」

「あんまりくっ付かないで頂戴。歩きにくい」

「だってぇ……」


 薄暗く、静かな夜道。私とウラノちゃんのザッザッと言う足音のみが静かに響く。

 空は満天の星空だけど木々が覆う事で僅かな光量がさえぎられ、前述したように月は雲に覆われてるから更なる暗い空間と化していた。

 全体的に不気味な雰囲気が辺りを包む。頼れる明かりは光源の魔道具だけ。


「この季節なのに寒く感じる……」

「気のせい。むしろ山特有のジメジメ感で蒸し暑い」

「ウラノちゃんは冷静だなぁ~」


 確かに少しジメっている感じがあるね。雨とか降ったのかな。足下が泥濘ぬかるんでちょっと身動きが取り辛い。

 ……って……!


「わ……!?」

「ティーナさん!?」


 足が取られ、ズルッと降下する。慌てて手を伸ばすウラノちゃん。でもその手は届かなかった。

 アハハ……あまりの恐怖でちょっとドジっちゃった……。……あれ? まだ地面の感覚が無い。もしかして谷……!? と思った瞬間、前のめりにベシャッと倒れる。

 杞憂だったかな……そもそも前方に谷とか無かったもんね。


「大丈夫?」

「アハハ……ちょっと怖がり過ぎたね」


 手が差し伸ばされるけど、ここは強がりを見せなきゃ。私はそれを掴まず頑張って自力で起きる。

 そのまま立ち上がり、ちょっと汚れちゃった服をパンパンと払う。だけど思ったより汚れてないね。あの感覚なら泥だらけになっていてもおかしくなかったけど。

 ま、いっか。たまたま乾いた土の上に倒れたのかな? ラッキーだったって事だね!


「早く祠に行こ?」

「うん! そうだね!」


 先を促され、後を付いて行く。

 相変わらず薄暗くて怖いところ。だけど不思議と怖い感覚は無かった。

 さっき倒れたからその衝撃で恐怖感が薄れたのかな。

 それにしても、光源は私に譲ってくれてるのにズンズンを前を進んで行くね。来たのは初めてじゃないのかな? 神社仏閣が好きって言ってたもんね。祠とかも例外じゃないのかも。


「それにしても数千年前の隕石かぁ~。人もあまり居なかった時代だから被害は抑えられたのかな~」

「どうだろうね。流石にその時代からは存在してないから分からない」

「そりゃそうだよ~」


 フフ、何言ってるんだろ。当たり前なのに。

 そんな風に雑談を交えながら森の奥へ。彼是かれこれ十数分は歩いたかな。


「着かないね~。祠ってこんなに遠かったっけ……地図上だとそうでもないのに」

「もうすぐだよ」


 目と鼻の先だった気がするけど、地図と実際の距離の差はこんなものなのかな。足下は悪いし、同じような木々が立ち並んでいるから変な感覚になるのかも。

 同じ景色を見続けると眠くなるって言われてるもんね。


「着いたよ」

「え? あ、ホント……だ?」


 言われて見上げる先には大きな赤い門……前にウラノちゃんに聞いたら鳥居って教えてくれた。

 日の下(ヒノモト)特有の神様の通り道って聞いたけど……ここもヒノモトの近くと言えば近くだからその文化があるのかな?

 こちらを振り向き、手を差し伸ばす。


「行こう?」

「うん……」


 その手に私の手を近付けた瞬間、ママがポロリとバッグから落ちた。


「あ……」

「………」


 そう言えば今日はみんなが居たからお人形のフリをしているママ達はお外に出ていなかったね。

 一旦手から離し、しゃがんでママを拾う。少し汚れちゃったかな?


「ごめんね。ママ。痛かった?」

『大丈夫よ。お人形さんの体だもの。痛みは感じないわ』

「良かった~」


 どうやら大丈夫みたい。

 また独り言って思われちゃうし、私は振り返って……あれ? 何故か祠から離れてる。それに……なんで私から距離を取っているの?


「どうしたの? 一緒に行くんでしょー?」

「……来ないで……!」

「え?」


 半ば強めに拒否された。

 どういう事? 私何か悪い事しちゃったかな……あ、今はお人形さんのフリをしているママと話したから怪しまれてるのかも。

 ここは平静を保って……。


「なんでもないよー! ほら、一緒に行かなきゃ怖いし」

「ひっ……!」


 ホントにどうしたんだろう? あんなに怯えちゃって。

 なんとなく私自身の魔力が溢れ返っているような気分にもなってきた。変なの。


「ねえ、一緒に行くって言ったでしょ?」

「……!」


 私が手を伸ばすと共鳴するように植物が伸び、その手を引く。必死に抵抗するけど……あれ? ホントになんでこんな事になってるの? 訳が分からないよ。

 確か一緒に来ていたのは……。


「……? あれ……何してたんだっけ……」


 辺りの視界が更に暗がり、ザワザワと木々が揺らぐ。

 うぅ……更に怖くなってきた。もう祠も近いんだし、早くお参りして帰らなきゃ……!


「早く帰ろう?」

「分かった……還る……還るから許して……!」

「なんの事!?」


 無数の植物に全身を覆われる中、一筋の光が放たれる。暗くて黒いけど、確かに光と分かる何かがまたたいて目が……眩んだ……のかな。どっちかと言えばまばたきしたとかそんな感覚。

 それと同時に後ろから声が掛かる。


「やっと見つけた……転んだと思ったら一人で何処に行ってたのよ……」

「あ、ウラノちゃ……え? 一人?」


 やって来たのはウラノちゃん。

 心細かったから会えたのは良いけど……一人? ママとティナをお人形と思っているのは今まで通りとして、それとは別に居たような……誰が? だって私はウラノちゃんと二人で来ていたんだよね。


「まあいいわ。貴女がたまに変な動きするのは慣れてるから。早く祠の方へ行きましょう」

「えーと、うん。変な動き……って言うのは気になるけど……じゃあ祠に行こっか」

「あら、先導して……場所が分かるの?」

「え? 分かるけど……そう言えばなんでだろう。ま、いっか! 行こ行こ!」

「さっきまであんなに怖がってたのに何ともなくなってる……動きやすいから良いけど」


 何か色々抜け落ちている気がするけど、モヤが掛かって分からない。たまにあるから今更気にはしないけど……それより変な動きってのが気になる。そんな風に思われててちょっとショック。

 いいけどさ。取り敢えず祠の方まで行かなくちゃ。


「到着ー! 結構すんなり行けたね! すぐ近くだったよ!」

「そうね。貴女が怖がらなかったからもっとスムーズに行けたかな」

「もう、手厳しいなぁ~。さて、今はお参りしなきゃね」

「そうね」


 祠の前に行き、お供え物を置いてお参り。目を開けると、目の前には火の玉が。


「あ!」

「……? どうしたの。大きな声を挙げて」


 思わず声が漏れ、隣のウラノちゃんが目を開けてこちらを見る。もう一回前を見ると火の玉は消えていた。と言うか横目で見た感じ、消滅したみたいな在り方。

 これって……。


「今目の前に火の玉が……もう、驚かせないって言ったのに!」

「魔力の気配は感じなかったけど……一瞬ならそう言う事もあるのかしら? まあいいわ。それじゃ帰りましょうか」

「そうだね」


 ボルカちゃんの悪戯。一瞬で消したのはさっさと戻って「してませんよー」ってアピールをする為なのかも。

 だったらそれを阻止して見せる! フフ、ちょっとした化かし合いかな?

 本気で怒ってはいないよ。私達はボルカちゃん達の方に戻った。


「お、帰って来たな。二人とも。かなり時間が掛かったな」

「やっぱり怖くて足が竦んじゃって……って、そうじゃなくて、驚かせないって言ったのに仕掛けてきたじゃん!」

「え? いやいや。そんな事してないって! アタシは嘘吐かない! 嘘発見の魔道具を使っても良いぜ!」

「え? ……うーん……確かにボルカちゃんは嘘吐かないけど……」

「目の形や動き、顔色とかから動揺はしていないわね。つまり嘘は吐いてない」

「私達はずっと此処におりましてよ?」

「なんか尋問されてるみたいだな……」


 多分嘘は吐いていないと思う。

 怖過ぎて私が星の光とか月の明かりとか、何かを見間違えた可能性もあるもんね。

 それを話、今回の話は私の見間違いという事にした。

 そして次はボルカちゃん達の番だけど、なんと二人は物の数分で帰って来ちゃった。


「ティーナ……どんだけ怖がってたんだ。こんなに短距離なのに三十分くらい掛かってたぞ」


「ホントだ……さっきまで月とかも隠れてて見えなかったけど、よく見たら祠があるのが分かる……」


「ティーナさんの怖がりを差し引いてもあんなに掛かるかしら……」


 どうやらウラノちゃんも違和感がある様子。確かに私は足がすくんでいたけど、それにしても三十分は無いと思う。

 それに先の様子は分からなかった。いくら薄暗くてもあんなに近くなら見えて来る筈だよね?

 不思議な感じ……山って不思議って言うもんね。そう言うものなのかな。


「取り敢えず帰るか。風呂入って明日の登山に備えようぜ!」

「うん」

「そうですわね」

「そうね」


 分からないものは分からない。基本的にそうやって行動している。

 好奇心旺盛なら分からないものを解明しようとするんだろうけど、私にそんな意欲は無い……と言うより、しない方が良いと思ってしまっている。それもまた不明。ボルカちゃん達も同じなのかな。ウラノちゃんは知りたがりなイメージだけど。

 何はともあれ、怖かった肝試しも無事終了。不思議な事はあったけど、怖くはなかった。

 私達はロッジへ戻り、明日に備えるのだった。

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