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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第七十三幕 キャンプ

「着いたー!」

「やっほー!」

「それを言うのはまだ早いですわ」

「後半の方は人も少なくなって過ごしやすかったわ」


 連結型自動魔法の絨毯に乗って数時間。大体二時間程で私達は目的地の山に着いた。

 いきなり高難易度の場所には行かず、近場の山を登るという事にした……んだけど、看板にある全体像を見ると不思議な形だね。中心から四方八方に盛り上がっているみたい。そんな王冠状の山。


「へえ……ここの山って数千年前に隕石が落ちて盛り上がった谷からなる所なんだ……それで……」

「その隕石は魔法とか魔術説もあるんだぜ。ま、何処までが本当かは分からないけどな」

「人為的だとしたら激しい戦いがあったのかもね……」

「意外とそうでもないかもな!」

「ふふ、色々な妄想が出来るね」


 説明を読むとこの山は何千年も前に降ったと言う隕石からなる所らしい。

 けどその特徴から自然の物じゃない説まであるとか。普通なら信じられないけど、ルミエル先輩の試合を見ちゃったからね~。かつての大戦時代なら何千年も残る隕石の跡地とか造り出せそうな気もしてくる。

 何はともあれ、今現在は自然豊かな山々。隕石が降ったような形跡も残ってるのは形だけだね。

 ウラノちゃんは見上げて口を開く。


「それで……いきなりこの山を登るの?」


「まあな。と言ってもロッジまでは近くて、山頂には明日だな。転移の魔道具で移動出来てたら今日中に登る余裕もあったけど、今からだと夜になっちまうからな。むしろそこからが本番って人も居るけど、中等部のアタシ達には万が一がある。それに準備もしておきたいしな」


「準備……?」

「勿論、肝試しだ!」

「夜は出歩かないんじゃなかったっけ……」

「近場だから平気平気!」


 ウラノちゃんの懸念みたいに、今から登山をする訳ではないみたい。理由は諸々。

 でも肝試しという言葉に少し不安。夜の山とか絶対怖いもん……!


「取り敢えず今は簡易登山だ。荷物はそこそこだけど、さっさと置いときたいしな。キャンプ的な体験もしたいし!」

「キャンプ……! 良い響きかも……!」

「だろー? テントとかを張る必要はないし、料理作ったりとかが主体になるけどな!」


 宿泊施設の方でも料理は提供されているけど、登山の醍醐味と言ったらキャンプ的な事もある。

 今回やるのに近いのはグランピングとかかな。別物ではあるけど。

 何はともあれ、登ってから始まる。私達は魔力で身体能力を強化し、ある程度軽くしてから荷物を持って進む。

 数分を経て今夜宿泊するロッジへと辿り着き、部屋にチェックインした。そこは四人部屋で、私達は全員が入れるようになっている。


「結構落ち着いた部屋だね~。お人形さんのお家みたいで可愛い~」

「私の家の物置くらいはありますわね! この狭さが癖になりますわ!」


「全く……金持ち共は……」

「ノーコメント」


 内装は全体的に木造からなるものであり、特にベッドや椅子などはかなり古めかしさがあった。このロッジも昔からあるんだね。

 だけど、とても昔の物とは思えない程にしっかりとした造りとなっており、リビングの家具なども決して安物を使っている様子はない。


「荷物はまあテキトーに置いとこう。部屋の鍵は預かってるし、何の心配も無さそうだ」

「うん。そうだね!」

「あら、ベランダから外の景色が見えますわ」


 ルーチェちゃんが外に行き、呼び声に誘われ、私達はベランダへと足を運ぶ。

 そして外に置かれたテラスの先に見える光景に感嘆の声を漏らした。


「わあ……綺麗……」

「やっぱ山って良いなぁ」

「山も美しいですわね~」

「読書が捗りそう」


 テラスの先、森の中に隠されたようにして建てられた建物の更に先には、美しい緑の森が広がっていた。

 それはロッジの隣にある森の一部であり、木々で区切られた区画のような光景は見る者によってはまさに別世界に迷い込んだかのような感動を与えるだろう。

 その幻想的な光景に心を奪われ、自然と言葉を無くしてしまう。


「っと、見惚れてる場合じゃないな。荷物は纏めたし、そろそろお昼時。レストランとキャンプ飯どっちにする?」


「折角だから自分達で作ってみたいかも! 使用人さんとか食堂のおばさんが作っているのを見た事しかないから!」


「ですわ! 何事も体験! ボルカさん、手解きお願いしますわ!」


「そっか。よし、任せとけ!」

「私もやれない事はないんだけど……」


 ボルカちゃんとウラノちゃんは料理をした事があるみたい。

 なので私達は二人に教わり、お昼ご飯を作ってみる事にした。

 早速調理場へと赴く。


「キャンプだと基本的にこの石造りのキッチンを使うんだ。火とかも自分で起こさなきゃだけど、その点は炎の魔法や魔術で出来るから問題無し。薪を集めて来てくれ」


「うん! 分かった!」

「これは重労働ですわね……!」

「薪を拾うだけで!?」


 所有地なので持ち出し自由な薪。まずはそれを集めてくる事から始めるみたい。

 ママの植物魔法でも良さそうだけど、醍醐味を教えようとしてくれてるんだね。


「薪はなるべく乾いたやつを……ってのはよくアタシの炎と組んでるティーナは分かるか。それで集めた薪に火を着けるんだけど、火種が必要だ。ここは持ってきたやつじゃなくてティーナ。火種を植物魔法で作ってくれ。出力の調整特訓になるしな!」


「なるほどそれで! うん! 任せて!」


 使わなかった理由はその為みたい。

 なので私は火種を植物魔法で作る。燃えやすくて火種っぽいの……松ぼっくりとかすすきかな。その系列を魔法で再現し、ボルカちゃんが火の粉で着火。

 薪で囲い、火種を薄い布のような物で覆ってゆっくりと長く息を吹き込み、離した途端に燃え上がった。


「こんな感じなんだ~」

「結構迫力あるだろ? それに見てると落ち着くんだこれが」

「確かに落ち着くかも~」

「夜だと特に良い感じになるけど、昼間だとこんなもんだな。その時の焚き火は夜のお楽しみだ」

「うん!」


 パチパチと音を鳴らす焚き火を眺めつつ、昼食の準備に取り掛かる。

 食材と調理器具を出して……。


「さて、まずは何をすれば良いんだろ」

「ハハハ……アタシがちゃんと教えてやるよ。初めてだと食材を切るのも大変だったりするからな。ルーチェはどうだ?」


「私はウラノさんに教えて貰っているのでお気になさらずー!」

「ほら、火を起こしたら食材を──」


 向こうも向こうで始めたみたいだね。

 私達も調理を開始する。


「何を作るのか大まかなイメージはあるか?」

「うーん……どうだろ。取り敢えずお肉と野菜は持ってきたけど……」

「ま、これに調味料で味付けして焼けば料理にはなるけど、一工夫くらいはしたいな。暑いからスープとかよりかは固形の方が良いけど」


 サササッと食材を並べ、手際よく選別していく。

 今の季節的にスープは暑い。なのでそれとは違う物を作るらしい。

 ボルカちゃんは私へ野菜をいくつか寄越し、言葉を続ける。


「一先ず切ってから考えよう。肉を切る行為は……そうだな。直に感覚が来て(ティーナにとっては)難易度高いだろうし、野菜を切ってみろ。手の形とか力を加える箇所は……」

「う、うん……」


 文字通り手取り足取り教えて貰い、野菜を切る。

 サクサク、トントン、ザックザク。小気味良い音が鳴り響き、楽しくなってきた。けれど少し暑いね。汗が出てくるから食材には掛からないように注意する。

 切り終えた野菜にはボルカちゃんの切ったお肉を巻いてフライパンに乗せ、ジュウジュウと水分の弾ける音が響く。調味料をまぶして数分。


「よし、完成。肉巻き野菜。最初はこんなもんで良いだろ!」

「やった……! 初めて料理が出来た!」

「野菜切って肉巻いて串刺して味付けしただけだからな! 簡単だ!」


 作った料理はお皿に盛り付ける。

 流石にこれだけじゃ足りないけど、ルーチェちゃん達も作ってるもんね。もう一品作るだけで足りると思うよ。


「次は卵とベーコンを焼いて目玉焼きと焼きベーコン。それを少し焼いたパンで挟めばお手製サンドイッチだ!」

「目玉焼きって結構複雑なんだね~。私が作ったのは変な形になっちゃった」

「初めてにしちゃ上出来だ! けどま、どの道パンに挟むなら卵焼きかスクランブルエッグでも良かったかもな」

「あ、そう言えばそうだね」

「んでも技術力を上げるなら丁度良いだろ!」

「うん!」


 そんなこんなで私達の料理は完成。ルーチェちゃん達も作り終えたみたい。


「どうですの! 私が作りました、ばぁべきゅうとやらですわ! おソースは家から持ってきた高級品ですの!」

「切って刺して焼いて料理にしただけ」

「ウラノさん!? その言い方だととても物騒に聞こえますわ!」


 ルーチェちゃん達が作ったのはバーベキュー。

 網を張ったテーブルの上に串刺しにした食材を並べる料理だね。良い匂いが漂ってきてる……!

 その後アウトドアテーブルとやらの周りに椅子を並べて座り、挨拶を交わしてお昼ご飯を食べる。


「あ、美味しい! スゴく美味しいよ! このお肉!」

「美味ですわ! 我ながら素敵な味わい。ティーナさん達のも最高ですのよ!」


「だろー? 自分で作った料理は美味いからな!」

「作業的に作り続けるとそう感じなくなるから程々が良いけどね」

「だからこそ皆で楽しんで作るのが良いんだ!」

「……否定はしないわ」


 そのご飯はとても美味しかった!

 野菜の肉巻きはサクッとした食感の後に野菜のパリッと感が出てるし、バーベキューのお肉は噛んだ瞬間に肉汁が出てきて口いっぱいに旨味が広がってく。サンドイッチも甘味もあってとても美味。

 焼き加減も味付けもバッチリ。手伝って貰ったからだけど、それでも美味しく出来たと思うよ!


「これで料理は完璧だ。午後から夜まで何する?」

「夜まで……って事は肝試しは確定してるんだね……」

「もち!」

「もちじゃないよ……」


 ご飯は美味しくて料理も楽しかったけど、肝試しは決行確定みたいで少し不安。

 な、何も起こらないよね……。

 ともあれ、今夜に掛けての不安はあるけど今はとても楽しめた。

 今から少し休憩して各々(おのおの)で近場を探検したりロッジ内を見て回ったりであっという間に数時間。ついに肝試しの時間が来ちゃった……。

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