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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
7/441

第七幕 初めてのゲーム

 ──“ダイバース会場”。


「ここがそのゲーム場所?」

「ああ、そうだな!」

「けどこれって……」


 ダイバース。正式名称が“多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”。

 ボルカちゃんの案内の元、その会場に来た私。そこで目にした光景は、


「──普通の森の中……というより山の中?」

「その通り!」


 どこまでも続くと錯覚する程に深い森だった。

 青々しい森林広がる澄んだ空気が美味しい森。看板的な物も無かったし、本当にここがそのゲームをする会場なのだろうか。

 その疑問を表情から読み取ったのか、ボルカちゃんは説明する。


「元々定められたルールも少なくて、その時によって試合ゲーム内容が変わる仕様だからな。不測の事態が起こりやすい森の中とかで特訓する事が多いんだ。言ってしまえば、唯一のルールは“その時決められたゲームになる”事だな」


「そうなんだ……」


 ゲーム内容やルールはその時次第。だからこそ臨機応変に対応する為、野生動物が多かったり天気が変わりやすい所で練習するんだって。

 聞いた感じだと本当に決まったルールが無いんだね。流石に殺生とか倫理的にアウトな事は禁止されてると思うけど、それ以外は完全に自由。


「ゲームは体を使った物から謎解きみたいに頭を使う物。協力が重要だったり個人戦だったり、今ではほとんど行われなくなった魔法・魔術による戦闘もあったりと色々なんだ」


「戦闘……」


「ああ。だから実技の時間にはそう言う授業も定期的に入ってくる。あと、謎解きとかでも結構戦闘になる事は多いな~」


「謎解きで戦闘……!? 頭を使って相手の人体を効率良く破壊するとか……!?」


「その発想が怖いな。まあでもあながち間違っちゃいない。相手が行動不能になれば自分が謎を解く時間が増える訳だしな。だからインテリ派でもある程度は鍛えているんだ」


 色んなゲームがランダムで執り行われるからこそ、どんな人でもある程度鍛えておかなきゃならない。

 勝った時の達成感はスゴそうだけど、それと同時に大変そう。


「肝心の人達が見当たらないね。森の中で特訓中なのかな?」

「多分な。けど見学は自由だし、道なりに行けば邪魔にもならないから大丈夫だ」

「う、うん……」


 そう言われ、私達は森の中へと入って行く。

 森は昼間でも薄暗く、不気味な雰囲気。そして木々の隙間から降る注ぐ陽光が幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 不気味と幻想的の二面性を味わえる森は嫌いじゃない。ママやティナ。今ならボルカちゃんも居るもんね! 怖くはない!

 そんな感じでザッザッと大地を踏み締めて森を歩く。


「今のところ人は居ないね……」

「静かだな。今回は謎解きゲームの特訓をしてるのか? それかまた別の……」


 人の気配は無し。どこまでも静かな雰囲気。

 なんかこんなに人がいないと不安になってくる。そして何より静か過ぎるのがまた不気味。


「ね、ねえ……こんなに静かなのは変じゃない?」

「……確かに。物音が何もないや。そしてティーナ。あんまりアタシにくっ付かないでくれ……。ちょっと歩きにくい」

「だってぇ……」


 不自然な程に静か。鳥達の声や木々のザワめきすら聞こえないのは流石に変。

 あるのは私達の足音だけ。まるでこの場所だけが別空間に隔離されたみたいな感覚に陥る。


「……ははーん。なるほどな」

「な、何か分かったの?」

「ああ。多分これはちょっとした試練だ」

「試練?」

「ああ。既にアタシ達を術中にめ、見学する資格があるかを試しているんだろう」

「見学するのに資格が……!?」

「ハハ、結構ノリが良い先輩達が居るからな。アタシも居るし、大丈夫って判断したんだろうさ」


 ボルカちゃんの事は知っている様子。だからこそ試練って……。

 さっきまでとはまた別ベクトルで大変そう。


『ギャア!』

「きゃ……!」

「ほら、どうやら正解みたいだ」

「ボルカちゃん……それは……?」


 紙を抱えた黒っぽい鳥さんの声が急に届き、羽ばたきと同時に飛び出した。驚いた私は頭を抑えてしゃがみ込む。

 ボルカちゃんは鳥さんが運んできた紙のような物を持っており、それに目を通していた。


「これは今回のルール表みたいな感じだ。ルールの出現条件は“ゲームを認識する事”。アタシ達が不自然な静けさと既に何らかの罠に嵌まっているのを見抜いた事で条件を満たしたみたいだ」


「そんな感じなんだ……」

「そう言う事。ゲーム名は……」

「どんなの……?」


 私は立ち上がり、ボルカちゃんの持つ紙を覗き込む。

 そこにある、掲示されたルールは、


『ゲーム:“かくれんぼ”

・勝利条件:“隠れている全員を見つけ出す”(※五人)

・敗北条件:“時間以内に見つけられない”(※一時間)


勝利報酬

・無し

敗北対価

・無し


主催者コメント

・よく来たな新入生。見学に来るという事は興味があるという事だ。だったら聞くより実演した方が早い。という訳で誰もが知るこのゲームで一緒に遊ぼう! 制限時間はこの紙に同意してから一時間以内! 頑張って頂戴!        』


「……かくれんぼ……?」

「みたいだな」

「そんな小さい子の遊びみたいなゲームって……」

「ゲームって言うのは元々そんな感じだからなー。そのゲームに本気を出したのが“ダイバース”だし、こんなものだよ」

「なるほど……」


 あくまで名目はゲーム。本気で戦ったりするけど、その領域だけは抜け出さないみたい。

 遊び心は忘れちゃダメって事かな? 主催者コメントは複数人が各々(おのおの)で書き込んだような筆跡。

 そしてこの制限時間。


「今から一時間以内に見つけなきゃダメって事!? この広い森の中を!?」


「そうらしいなー。ま、敗北したらどうするとか、勝利したら何してくれるとか紙に書かれてないし、本当にただの戯れみたいだ。強制的に参加させる事は出来ないようになってるからこのまま立ち去る事も可能だけど、どうする?」


 特にメリットもデメリットも無いただの遊び。参加は任意らしいけど、せっかくこんなに書いてくれた先輩方の気持ちは無下にしたくない。


「や、やってみよっかな……今後関わりも出てきそうだし、ちょっと気になる」

「そっか。それじゃ同意するんだな?」

「うん……同意ってどうするの?」

「簡単だ。筆記用具は持ってるか? 別に無くても何とかなるけど」

「あるよ。はい」

「これでアタシ達の名前を記入」


 書き込んだ瞬間、紙が光輝いて消え去った。

 同時に黒い鳥さんが飛び立ち、声のような物が全体に響き渡る。


《認証しました。参加者二名、ティーナ・ロスト・ルミナス。ボルカ・フレム。ゲームに登録致します》


「何この声……」

「魔力からなる……まあ、音声だな。あの紙自体が魔力から作られていて、同意した証明があったら認識して自動再生されるんだ」

「へえ!」


「別に指先に魔力を込めて少し流すだけでもオッケーなんだけどな。魔力の調整が苦手な人とか、魔力を持たない人や幻獣・魔物用に今みたいな方法での記入もある。その場合は本人の同意があればいいから、手足に土でも付けて手形とか、ちょっと切って血を塗るだけでも良いんだ。血は地味に痛いからやってる人はそこまでいないけどな! 最悪、毛の一本でもあれば認識される。時間が経ち過ぎてるのはダメだけどね」


「なるほどぉ……」


 認証の仕方も色々あるみたい。

 何にせよ、ルール説明は以上。ポピュラーな試合らしいけど、ずっと家にいた私はダイバースの存在自体知らなかったなぁ。

 だから初めてのゲーム。パパは忙しくて友達も居なかったからかくれんぼとかママ以外とはした事もなかったし、ちょっと楽しみ。


「さて、もう三分は経過してるし、さっさと探そうぜ」

「うん!」


 これでゲームスタート。だけど効率を考えたら二手に分かれて探す感じになりそう。

 それは仕方ない。ボルカちゃんと離れても一人になる訳じゃないからね。


「ティーナはどの辺りを探す?」

「じゃあ東側かな」

「んじゃ、アタシは西側だ。頑張ろうぜ!」

「うん……」


 やっぱり分断しての捜索。だけど大丈夫。さっきも思ったように私は一人じゃないから。

 ママとティナを連れ、ボルカちゃんとは逆方向を探しに向かう。



*****



 ──“森の中”。


「うぅ……不安だよぉ」

『大丈夫よ。ティーナ。私達が居るじゃない』

『そうそう! 私達が居れば大丈夫!』

「うん。ママ。ティナ」


 ボルカちゃんと離れ離れは不安だけど、私には二人が居てくれてる。

 授業中とかボルカちゃんと一緒に居る時は極力話さないようにしてくれているけど、やっぱり二人の存在は安心出来るよ。


『さて、ティーナ。勝負はかくれんぼよ。小さい頃にママと一緒にしたわね。必勝法は分かるかしら?』


「うん。相手は隠れようとしている訳だから、あまり目をやらない場所に着目したり相手を誘い出す方向で考えるのがいいんだよね」


『そうよ。よくできました!』

「わーい!」

『それを踏まえた上で、家よりも遥かに広い此処。さあ、貴女はどう探し出す?』

「うーん……」


 ここは山の中で森の中。隠れる場所はお家よりも遥かに多い。

 家ならクローゼットとかベッドの下とかテーブルの下とか、位置を特定する事は簡単だけど、その辺の木の裏に隠れているだけで成立するもんね。

 ママは私に教えてくれた。


『そこで出番なのは魔法です! パチパチパチパチ~』

「魔法? ママを通しての?」

『そうよ』

「けどお花魔法で何が出来るかな……」

『フフ、私が見せたのはあくまで“私の魔法の中のお花”よ。本来は“植物生成魔法”。お花は数ある植物の一つね』

「そうだったんだ。それで、植物魔法でどうやって見つけるの?」

『簡単な事よ。植物には色んな種類があるんだもの。まずはさっきみたいに花を咲かせましょう』

「うん……“フラワーマジック”!」


 色んな種類が使えるけど、まずは使いなれた……一回だけだけど、使った事があるお花魔法から。

 周囲に花を咲かせ、ママは言葉を続ける。


『更に魔力を込めてみなさい』

「うん!」


 魔力を込め、咲いたお花に伝える。次の瞬間、お花が爆発した。


「わ……!」

『フフ、お花はキレイだけれど……結構嫌われる事もあるのよね。それがこれよ』


 それによって辺り一面に黄色い粉のような物が散り、


「ハックシュン!」

「……!」


 くしゃみの声。そう、花粉だ!

 急激に増えた花粉によって粘膜が絡み、くしゃみや鼻水が止まらなくなって目も痒くなる。

 音がした方を見つければ……!


「そこ!」

『植物にはツタも付き物よ!』


「しまっ……!」


 ママ伝いにツタを生み出し、物陰に隠れていた子を木に拘束。

 手足を絡め取り、胴から下半身に掛けて巻き付き、完全に捕獲した。


「見つけた♪」

「くっ……やるね……。……あーあ、最初は私かぁ……じゃあまた後でね~」

「うん! ……じゃなくて、はい!」

「ハハ、礼儀正しい子だ」


 今は時間制限がある。なので解放し、他の人達を探しに向かう。

 見つけた人にはなんか貼られてたね。不正出来ないようにルールで縛られてるみたい。

 この調子でどんどん見つけよー!


「次はどうする?」


『そうね。花粉で炙り出すのもいいけど、近場に居ないとあまり意味がないわね。それに貴女には色んな魔法を使って欲しいわ。だから次はこれで行きましょう』


 そう言われ、ママにもう一度魔力を込める。今度はどんな魔法で見つけるんだろう。

 魔力はそのまま地面に伝わり、偉大な大地が更に大きく盛り上がった。


「わあ! すごーい!」

『フフ、魔法名は“フォレストアップ”。沢山の木々を生やして自然を増やす魔法よ』

「こんな事も出来るんだぁ……」

『そう、そしてもしも隠れてる人がその範囲に居るなら……』


「ひーん! 降ろして~」


「あ! 人の声!」

『あそこに居るみたいね!』


 木に引っ掛かり、ジタバタと慌てる子を見つけて捕まえた。

 ツタで縛って優しく降ろし、宣言する。


「見っけ!」

「あんな魔法想定外だよぉ~。本当に中等部の一年生~?」

「ふふん、マ……私の実力です!」

「悔しい~!」


 危ない危ない。またママの事を言い出すところだった。

 ママとティナの事は秘密。それがパパ達とのお約束! だから私の魔法って事にする。

 するとそこへガサガサと誰かがやって来た。


「なんだこの範囲……ティーナがやったのか!?」

「ボルカちゃん! ……と、誰?」

「くっ……不覚……」

「ああ、捕まえたんだ。まだ一人だけどな」

「副部長までぇ~」


 やって来たのはボルカちゃんで、連れてる人は副部長さんとやら。

 すごいすごい! 副部長って事は、クラブの長の次に偉い人だよね! そんな人も見つけられるなんて流石ボルカちゃん!


「副部長~」

「君達も捕まったのか。今年の新入生は豊作だな。来たのはまだ二人だけだけど」


 これで三人! つまりあと二人! 時間にも余裕があるし、この調子ならやれそう!

 初めてのダイバース。順調に進んでるっぽいね! なんだか楽しくなってきたよ!

 残りの二人を見つける為、私とボルカちゃんはまた行動を開始した。

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