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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第六十九幕 成長

 ──どこまで深く、透き通る青。

 陽光は海面を突き抜けて射し込み、水底近くは白く明るく霞んでいる。

 美しい海の中を、様々な魚たちが群れを成して泳いでいた。遠くの明るい陽射しを浴びてキラキラ輝く透明な水の底。

 色鮮やかな珊瑚の森の奥深くを魔力からなる再現された魚たちが音も無く泳ぐ。小魚たちは色鮮やかな鱗をきらめかせ、私の頭上や身体を優雅にすり抜けた。

 下方に映るは栄枯盛衰。かつては栄えていた都市の亡骸。今ではお魚さん達の立派なお家となっている。……ふふ、この場所は実際にモデルがあるのよ。英雄の時代より遥かに昔、“勇者”と呼ばれた存在の伝説。勇者が封印したリヴァイアサンに滅ぼされた海底都市があるとか。確かアヴニール……忘れちゃった♪


 ──私はルミエル・セイブ・アステリア。“魔専アステリア女学院”の理事長の娘にして生徒会長にしてダイバース部の部長にして事業の経営だったり諸々をおこなっている頼れる先輩よ!

 そんな私は今、ダイバース高等部大会。代表決定戦の決勝に参加しているわ。


(さて、他の子達は何処かしら)


 此処は海を再現した空間。呼吸は出来るけど浮力もそれなりで移動速度とかにも影響が及ぶわ。

 けれど魔力操作で抵抗力はなかったものとする。さて、お相手を探さなくてはならないわね。日差しは通っているけれど視界不良。

 だったら魔力の気配から辿れば良いだけね。


(下方に二つ、南西に一つ、上方向北に一つ、海底神殿の中に一つ……イェラ達の気配は南西と海底神殿の中……丁度一つずつの気配とバッティングするわね。そうなると下方の二つと上から攻め立てる気配の主は──)


「「…………!」」

「……!」


「私を狙って来るみたいね。なるべく気配を消そうとしているのは評価に値するわ♪」


「「「…………!?」」」


 上下から挟み込むように迫る子達。

 何らかの方法をもちいて互いの位置確認は完了していたみたい。

 ネプティナス学院は海洋を専門に扱う学校。イルカさんでも連絡が取り合えるんだもの。人間の子達が出来ない訳が無いわよね。


「気付かれた……!」

「いや、奇襲は元より駄目元! 本命は3vs1の環境を作り出す事だ!」

「何より先に倒すべきはルミエル・セイブ・アステリア! 此方が有利な環境ならそれで良い!」


「ふふ、確かに海での戦闘ならアナタ達の方が上ね。例えそれが再現された海だとしても」


 見つかった事は大して気にしていない……というより開き直っているわね。

 私を狙っているのは明白。むしろ集中狙いという形成を作っている。

 けど人員を此方に割いて良いのかしら。イェラ達はかなり強いのだけれど。それを承知の上で、三人を犠牲にしてでも私を抑えようと言う魂胆なのかもしれないわね。


「可愛いじゃない♪」

「「「………!?」」」


 水を蹴り、背面へ巻き上げて加速。一瞬にして突き抜けて三人の体を魔力の渦で吹き飛ばした。

 けれど流石は代表決定戦の決勝まで残った強豪ね。ちゃんと私の動きを辛うじて見切り、飛ばされる直前に魔力で覆って守護したわ。

 反応速度も上々。楽しい勝負になりそう♪


「一瞬足りとも気を許すな……! 今、我々の前には魔王が居るも同然なのだから……!」

「絵物語に出てくるラスボス……たまに味方……!」

「ルミエル・セイブ・アステリア。まさにその様な存在だな。代表戦では頼もしいが、決定戦では恐ろしい……!」


「私の評判は悪くないみたいで何よりだわ♪」


 魔王という総評も間違ってはいない。血筋が血筋だものね。畏怖の対象なのも納得がいく。

 けれどそれだけじゃなく、ちゃんと味方なら頼もしいと思われているみたいで嬉しい事よ。悪評が広まるより余程ね。


けしかける! “ウォーターサーベル”!」

「“水の弾丸(アクアグロブス)”!」

「“氷旋鎌”!」


 正面から伸びる水の剣と周りを巻き上げて直進する水の弾丸。そして死角には旋回するように回し込んだ氷の鎖鎌。

 良い連携ね。弾丸に気を取られているうちにサーベルが迫り、なんとか避けたと思ったら鎖鎌が断つ。

 二重の陽動からなる威力の高い本命の一撃。並大抵の……いいえ、それなりの実力者でも掛かっちゃうわね。

 けどそれは、何も覆ってない時に限っての話だけれど。


「悪くない攻撃だったわ」

「……! あれを避けたのか……!」

「ええ。だって常に魔力で覆っているんだもの。浮力の影響は受けなくなり、少しの変化で存在に気付く……ま、地上なら元々周りにある空気。海なら水の変化で分かるけれどね」


 死角からの攻撃。私は防いだけれど、悪くない連携という言葉を訂正するつもりはない。このレベルとなってくると常に死角や隙に警戒して動かなければならない。

 本来はかなり気を張るのよ。私はリラックスした状態でも反応出来るから問題無いけれどね。

 それにつき、既にこの子達への攻撃は完了している。


「あら、一人取り逃したかしら?」

「「──!」」

「……!? 先輩!?」


 魔力を抽出した塊をぶつけ、二人を吹き飛ばした。同時に転移の光と共に離脱。

 氷魔法の子は後輩ちゃんなのね。人数に余裕のあるチームでレギュラーを張っているのはかなりの実力者という証明。

 来年か再来年か、もしかしたら私の後輩達と戦う日も来るかも。

 じゃあそれまでに少しでもこの子を鍛え上げて置きましょうか。強敵が居た方が他の子達の成長に繋がるもの。


「残るは貴女ね♪」

「……っ。“範囲氷結”!」

「あら、中々の魔力出力ね」


 半径数メートルの海水が即座に凍結された。

 再現された海とは言え、限りなく本物に近い材質。常に流れていて、更には凍りにくい塩水で此処までの範囲を凍らせるなんて彼女の氷魔法は氷点下20℃以上は確定。凍る速度からして一瞬で氷点下30~40℃は行っているかもしれないわね。

 本当に才能のある子。けれど仮に一年生だとしても今年の新入生ちゃん達とは戦えないかしら。でも彼女の為にももっと力を付けて貰った方が良いわね。


「良い力ね。貴女はまだ上に行けるわ♪」

「……! 水の中で……炎……!」


 体外に放出している魔力の性質を火に変化。その温度に伴って周りの氷塊は溶け、元の水となる。

 私の炎魔術は少し特別で、海に囲まれていても消えない。これは人間とか魔族とか関係の無い仕様。有り体に言えば私自身の才能ね。

 水の中でもなお盛り続ける火を前にしても動揺せず、次なる力を込めていた。杖は見えないわね。魔法使いじゃなくてあの子は魔術師だったみたい。親近感湧くわね♪


「“氷柱包囲”!」

氷柱つららね。こんなに鋭利だと先端恐怖症の子は怯えて何も出来なさそう」


 囲むように放たれた氷柱は私の近くに来るだけで溶解して背景に溶け込む。

 さっきの氷を見ていたらこうなる事は予測の範疇。なのでこれはあくまで目眩ましという事が分かったわ。


「本命は……」

「──“氷山落とし”!」

「これね」


 天上から海に落ち、大きな水飛沫と共に氷山が投下された。

 海の中では水飛沫が上がったかもよく分からないけど、この大きさだもの。きっと上がったわよね。

 目測で高さ約百メートル。氷と土や岩の密度から計算して約数百t。今見えている範囲は文字通り氷山の一角だもの。詳細は分からないけれど、問題無く対処出来るわね。

 海の浮力を踏まえた上での落下速度は──いいえ、計算するのも面倒ね。先に片付けちゃいましょう。


「えい」

「……!? 魔力の放出だけで……!?」


 火に変換させていない魔力を放ち、氷山を砕く。


「“ウィンド”」


 同時に遠隔で魔力の性質を風に変化させ、砕いた氷山の欠片を海底都市に散らした。


「既に体から離れている魔力を別の属性に変化させた……!? そんなデタラメな……!」


「この世の中は謎だらけよ。それに加えて理不尽や不条理の応酬。だからこそ沢山鍛えて頑張って、大抵報われなくて今に至った。……ふふ、自分語りは嫌われてしまうわね。努力は影ながらするもの。自慢する必要は皆無だわ。取り敢えず私がアナタに言いたい事は……アナタはまだまだ強くなれる。少し先のレベルには今なりなさい」


「……今……」


 ちょっとお説教臭くなってしまったわね。反省しなくちゃ。楽しくなるとつい口が回っちゃうの。

 才能ある子を見た時とか尚更。不幸も努力も自慢する暇があるなら更に積み重ねていた方が得だもの……不幸は得じゃないわね。

 何にしても、一つの切っ掛けで人はレベルが上がる。その切っ掛けを示して成長させる。あわよくば越えて貰うのが先人の役目。


「正面から魔力を撃ち込むわ。防御なさい」

「え……」

「“魔弾”」

「……っ! “氷塊守護”!」


 魔力の塊を放ち、氷の子は咄嗟に氷魔術で防御。押し出されたけれど耐え、警戒を浮かべながらキョトンとした表情で此方を見ていた。


「そ。それで良いわ。流石ね♪ 魔術師は杖がないのがアドバンテージ。咄嗟の反応速度は魔法使い以上。だけどその分魔力消費が大きいから、なるべく消費を抑え、攻撃が当たる箇所だけに集中した方が良いわ」

「は、はあ……?」

「次、全方位。数は五つ。予測して守りなさい」

「え!?」

「“魔連弾”」

「……! “氷塊守護”!」


 頭と胸などの急所に複数の魔力を放つ。狙い目は基本的にこうなる。予測する上で、急所は先ず最初の候補に上がるわね。

 けれど、


「全身を覆っているわね。護れたのは良いけれど、出来るだけ予測して欲しかったわ」

「す、すみません……って、相手は敵……! 教わってちゃダメ!」

「ふふ、良いわね。心は許さず、指示への不満を敵意に転換。相手が敵であるならそれは適切。じゃあそろそろ核心を掴んで頂戴♪」

「……!?」


 指先に魔力を込め、ミニ魔弾を撃ち込んで……言い方は悪くなっちゃうけど甚振いたぶる。

 私がスパルタって言われるのはこう言う所なのかしら。確かに嫌われちゃうかも。

 でも少しでも他の子達の力になってあげたいのがお節介な先輩としての在り方。その上で好かれる先輩になりたいのが心情。ふふ、難しい事ね。


「早くしないと気絶しちゃうわ。私に宛がわれた貴女程の戦力を失ったら“ネプティナス海洋専門高等学院”の一大事じゃない。ほら、頑張って頑張って♡」


「……っ」


 威力は控え目。だからこそジワジワと削れていく。

 まだ早かったかしら。これ以上ダメージを与えるのは可哀想だからトドメを刺しましょうか。


「そうしないと終わってしまうわよ。──“魔弾”」

「……!」


 指先から掌へと以降。大きな魔力の塊が形成され、既にフラフラの氷の子が目を逸らさず見つめる。

 弱っている状態で胆力が切れないのは良いわね。将来有望よ。この子。ティーナちゃん達と競い合わせてみたいわね。


「はい、お仕舞──」

「……! っあ……あああっ!」

「……あら」


 次の瞬間、私の体は凍り漬けにされた。

 急激に周りが冷え込み、意識が遠退く。ふふ、遂に成長したわね。その瞬間が見れて満足よ♪


「や、やった! 私があのルミエルに勝──」

「……おめでとう。貴女は更に上へ行けるわ♪」

「……!?」


 氷塊を割り、脱出。それと同時に細い魔力をビームみたいに放ち、貫かないように調整して脳天を突く。

 それによって氷の子の意識が遠退き、魔力の消失と共に周りの氷が崩壊し、控え室へと転移した。


(強い子ね。人は危機に陥ると成長するけど、あの子もそうだった)


 他校の子だけれど後輩の成長を噛み締め、次の狙い目を付ける。

 私の居られる卒業まで時間は少ないし、後輩の子達全員を底上げしたいわね。勿論私も更に成長しなくちゃ。

 残るはイェラとレヴィアさんの戦闘。ピンチなのはレヴィアさんね。私はそこへと向かって行く。

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