第六十五幕 代表決定戦・一回戦の結果
──“選手控え室”。
「……!」
目覚めた時、視界には控え室の天井が映っていた。
勝負はどうなったんだろう……。最後は気力の勝負になって……私とママとティナと……ボルカちゃん? が……。うーん……思い出せない。またこの感じ……まだ若いのに記憶が覚束無い……。
本人に聞けば分かるかな……その本人は何処だろう……。
「……?」
部屋を見渡してもママとティナが置かれているだけで誰もいない。
これってどういう事……? すると話し声が聞こえ、ガチャッと扉が開いた。
「お。気付いたか。ティーナ」
「ボルカちゃん!」
「もうとっくに閉会式も終わったぞー。アタシも意識失ってたから録画された映像でしか見てないけど、スゲー頑張ったんだってな!」
「そんなに長い間眠ってたんだ……」
既に閉会式まで終わったみたい。
それはいいんだけど、結局どっちが勝ったのかをボルカちゃんに訊ねてみる。
「それで、ボルカちゃん。勝負の行方は……」
「ああその事だけど──」
──そして私は、私が意識を失った後の事を聞いた。
───
──
─
「……!」
気付いた時、周りには何やら喧騒が。一体何があったのやら……いや、十中八九ティーナ関連だろうという確信はあった。
そうなると今回は何をしたのか。控え室から見える映像では植物に覆われて何かが燃えてるくらいしか分からないし、一先ず会場の方へと出てみる。
「……は?」
外の光景を見、思わず素っ頓狂な声が漏れる。
目の前に広がる光景、それは大移動を行う植物の大群。植物って言や、ほぼほぼティーナの魔法だけどこの出力……外部にまで及ぼす影響……また前みたいな事になっているのか……!?
だとしたら止める存在が居なきゃ……でもアタシは戻れないし、百鬼学園の人達に頼らなきゃか……!?
「起きましたの。ボルカさん!」
「会場は大変よ」
「ルーチェ。ビブリー。これってやっぱり……」
「はい……ティーナさんが……。おそらく私達が全員離脱した事で心細さに拍車が掛かり……何かしらの切っ掛けが……」
「切っ掛け……嫌な思考を読まれたり幻影の余波か何かとか……その辺りの可能性があるわね」
「アタシが離脱してなきゃ……!」
ティーナがこうなった切っ掛け。それに思い当たる節はある……あるけど、ステージに戻れないアタシ達じゃどうしようもない。
「一先ず、今は会場の植物を何とかして他の人達を救助しなきゃならないわね」
「そうだな……!」
今やる事は既に治療は施されているアタシ達が植物をどうにかする事。他の選手達も植物の排除に当たっていた。
「なんだよこれ……!」
「まさか、映像に映ってるティーナ・ロスト・ルミナスの仕業か……!?」
「そんなバカな! 此処からステージまで何十キロ離れてると思ってるんだ!」
「しかしそうとしか考えられない……!」
《これはこれは、一体全体どういう事だーッ!? 突如として現れた植物軍団!! チームの皆様が処理してくれていますが、こんな事は大会始まって以来の初めての出来事です!!!》
「アナウンスの方の根性もスゴいですわ……」
「伊達に大会を盛り上げてないって訳だ」
「感心している暇があったら私達も手伝わなきゃね」
会場はパニック状態になっているが、事故が起こるようなレベルには達していなかった。
それは他のチームの人達が対処しているのと、司会者さんがこの状況も実況しているから。
それによって平静を保つ事は出来、安全の確保を優先している。
《っと、わああああ!? 私の方にも植物が迫り、手足を絡めて動き辛くなってしまいましたー!? しかし、音拡張の魔道具は手放しませんよ! 実況者として、最後まで誇りは貫き通します!》
「それで怪我でもしたら洒落になりませんって。司会者さん!」
《おお! この炎は、ボルカ・フレムさん! おそらく意識を取り戻した直後でしょうに、植物をその炎で焼き払って私を助けてくれました! 未成年、しかも同性なのに惚れてしまいそうです!》
「ホント、貴女のプロ根性は大したものッスね……」
植物を焼き斬って絡め取られた司会者を助け、アタシも思わず呆れる徹底振り。
ホントにこの人は命より実況を優先しているんだなってのがよく分かった。
《おわーっ! 更に植物が迫って来ます!》
「と言うより、ただ向かう先の通行上にこの会場があるだけッスね」
《という事は、もしやこの植物はティーナさんが呼び寄せた物という事ですか!? 中等部の一年生がこれ程の魔力出力を!?》
「そッスね。その証拠に……と言うよりティーナの優しさが滲み出ている感じで、絡め取られた人は居ますけど負傷者は居ませんし建物も壊れていない。なるべく障害物を避けるように移動している」
《確かに……そうなると先程の私は早計でしたね!》
植物による被害はほぼない。それもティーナの性格からなるもの。
アイツ、暴走しても物事の判断はキッチリしてるし、人形関連の事が問題っぽいな。
アタシが側に居てやればそうなる事も無いと思うけど、今回みたいな一例は今後ダイバースでありそうだ。やっぱりその辺りを克服した方が良いんだろうな。
これもまた新たな課題だ。親友としてティーナを一人で苦しませる訳にはいかないっしょ!
「“炎剣”!」
《おお! ボルカ・フレムさん! 見事に植物を斬り伏せております! 他の皆様も各々で対処を──!》
「プロ根性は大したものですけど、もう少し危機感持って下さいッス!」
司会者さんを連れながら、アタシは植物類を打ち消していく。
─
──
───
「……ってな訳で、会場自体は犠牲も出ずに終わらせられたんだ」
「そんな事が……全然覚えてないや……」
「ま、そんな感じで試合自体はリアルタイムで見れなかったんだけど、プロ根性がすげぇ司会者さんはパニック状態の中でもちゃんと確認していて──」
───
──
─
《皆様のお陰で場は収束しました! そして! てんやわんやで集中出来なかった試合結果はしかと私が見届けております! 勝者は──“神妖百鬼学園”です!》
「「「わああああああああ!!」」」
─
──
───
「──ウチのチームは残念ながら一回戦敗退だった。準々決勝くらいまで上がっていたら人間の国の代表に選ばれた可能性もあったんだけど、そうはならなかったな」
「そう……なんだ……」
言われたチームを前に、私は落胆の色を浮かべた。
私の方が先に意識を失っちゃったんだ……ううん……それよりも前にレモンさんが普通に抜け出していた可能性もある。
何れにしても私の実力不足が招いた敗北……だね。
「ごめんね。ボルカちゃん。私が至らないばかりにボルカちゃんにばかり負担を掛けさせて……」
「んあ? いいっていいって! 気にすんな! それを言ったらアタシなんか参戦後すぐに落とされちまったからな! と言うか映像判定の結果、アタシ達が会場で破壊した事で足りなくなった植物があったら先に意識を失っていたのはレモンさんっぽいし、本当に僅差の決着だったみたいだ」
「え!? そうなの!? でも……それで倒し損ねたのは私だし……」
「だから気にすんなって! それともあれか? アタシへ遠回しに、“先にリタイアしやがって”って言う皮肉でも込められてるのかー?」
「そ、そんなんじゃないよ……!」
「そうだろー? アタシが言いたいのは思い詰め過ぎって事だ。要するに気にするなって事! もう気にするなって何回か言ったぞー!」
「うん……ありがとう。ボルカちゃん」
私を励ましてくれている。ホントに優しい人。
ボルカちゃんは私の手を引いてくれた。
「それじゃ、早くみんなん所行こーぜ。残る理由も無いし、さっさと帰るぞ」
「うん」
控え室から外に出て帰宅の準備。帰宅と言っても寮にだけどね。
……そう言えば、ボルカちゃんが手元に居たような……意識が戻ったから元通りになったのかな? あれ、でも炎魔法を使ってる時、ボルカちゃんも起きていたんだよね……どういう事だろう……。
「そう言やさ。ティーナさっき炎使ってたよな? 使えるようになったのか?」
「え? あれはボルカちゃんの炎魔法だよ」
「そうか? 確かに映像はじっくり見えなかったけど……残り火が植物に引火したのか?」
どうにも会話が噛み合わない気がする。でもいっか。試合中に感じていた重苦しさも消えたし、気にする必要は無いよね。
私達は控え室から外に出てすぐの所に居たみんなと合流した。
そしてそこにはレモンさん達の姿も。
「お、ようやく出て来たか。“魔専アステリア女学院”のコンビよ」
「レモンさん……」
「フフ、何やら恐縮しているな。あの戦闘の後では仕方あるまい」
「すみません……」
「何故謝るのか……。試合とはそう言うものであろうに」
戦った後、怖いとかそう言う理由ではなく何となく申し訳無さが出てきた。
少し記憶が飛んだ感覚があるからかな。激励の言葉を掛けてくれているのに覚えてないのが悪いと思ってる……。
「ともあれ、良き試合で御座った。私も危うくやられ掛けたからな。何なら、一回戦は絶対に落とせない故、ベストメンバーを揃えていた。その上で実質的な引き分け……ほぼ敗北と言う状態だったのだ。少し上からの物言いになって恐縮だが、天晴れという他に事も申せぬ」
「えーと……」
「おっと、母国特有の訛りにてやや聞き取り難し様。これにて御免被り候」
「え……え……」
ほぼ一方的に話して帰っちゃった……。
えーと、敬意は払ってくれていたんだね。確かに独特な訛りが少しあって聞き取りにくかったかも……。
そこへテンさんが話し掛ける。
「フッ、麗衛門も緊張しておるのだろう。彼奴も中等部の一年なのだが、入部試験にて圧巻の力とカリスマ性を発揮し、瞬く間に名門“神妖百鬼学園”の主将となった。彼女なりにその務めを果たそうと心得ているのだ」
「そうなんですか……。一年生で……一年生で!?」
思わぬ事実。なんとあの貫禄でレモンさんは同年だった!
でもボルカちゃんも一年生で強豪“魔専アステリア女学院”のリーダーだから、そんな感じなのかな。何となくまた会う機会があっても敬語で話しちゃいそう。
「それでは我々も帰還する。次に会うとすれば再来月に行われる新人戦で全国まで勝ち上がった時だな。新人戦では私を含め、何人かは出ないが」
「新人戦……そう言うのもあるんだ……あ、お疲れ様でした!」
「うむ。何れまた、練習試合でも合同合宿でも、何らかの在り方で君達とは会いたいものだ」
「その時はお手柔らかにお願いします……」
「それは此方の台詞だ。こう見えて去年に中等部大会の人間の国代表の一つに選ばれたのだがな。そんな我らを彼処まで追い詰める実力……将来が楽しみだ。一回戦で我らと当たらなければ更に勝ち上がれた事だろう」
「だだだ、代表まで……!?」
どうやら百鬼学園の皆さんは去年の人間の国の代表十五国の一つに選ばれていたらしい。
改めてとんでもない相手と戦っていたんだ……と言うか一回戦からそんなレベルの相手って……ルミエル先輩以降に代表決定戦まで勝ち残ってない“魔専アステリア女学院”が……相手や大会運営にとっては実質シード枠みたいな感じだったのかも……。
「ではまた会おう」
「うーッス」
「さ、さよなら!」
「バイバーイ!」
「さよならですぅ~」
「またいつかリベンジを果たしますわ!」
「じゃあね」
これで“神妖百鬼学園”の人達とは別れる。
私達も“アステリア学院”に帰らなきゃね。残りの休日は他の試合を見たりのんびり過ごそっと。映像伝達の魔道具で中継されてるらしいし、前に買った情報伝達の小型魔道具でも試合の経過は見れるみたい。
これにて、私達の代表決定戦は残念ながら一回戦で敗退と言う不本意な形で終わりを迎えるのだった。




