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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第六幕 初めてのクラブ・サークル体験

 ──“五限目”。


「さて、この世界の構成は大きく分けて四つの種族からなるものだ。人間・魔族・幻獣・魔物。基本的に地上に居るのはこの面々だな。天上世界には天使とか神様とか居るかもしれないが、仮に居たとしても干渉する事は滅多にないんでこの四つだけ覚えていればテストもまあまあまあまあ有利に運ぶぞ」


「まあまあだけじゃないですかー」


「そりゃそうだろう。一問の答えが分かったところで落第点取ったら元も子もないんだからな。あーそれと、基本的に知能が高いとされるエルフやヴァンパイアも括りで言えば幻獣・魔物だ。エルフが幻獣でヴァンパイアが魔物だな。……だが、街中で見つけても普通に接するように。人間だって世界的に数が多いから種族になっているだけで、動物である事は変わらないからな。むしろ知能の力も向こうの方が高い」


「「「はーい」」」


 この世界の生き物は基本的に人間・魔族・幻獣・魔物で括られている……そしてエルフが幻獣でヴァンパイアが魔物かぁ。

 テストで出る時は種族を間違えないようにしなきゃ!

 先生は教室の様子を見て言葉を続ける。


「それで、だ。お前らー! 眠そうなのが伝わってくるぞー! そりゃ午後の授業は昼食後と言うのもあって眠いと思うが、今日はもうこれで終わりなんだ! シャキッとしろー!」


 全体的に漂う眠そうな雰囲気。それに飲まれ、教室中がどこか気の抜けた緩くフワッとした空間になっていた。

 それを見兼ねた先生の忠告を聞いてもなお、生徒達は皆一様にどこかぼんやりとした様子を見せている。


「ZZZ……ZZZ……」

「コラッ! ボルカ! 君は堂々と寝過ぎだ! 寮から枕を持ってきたな!?」

「ハハハ……」


 そして私の隣の席に居るボルカちゃんは机の上に教科書やノートではなく枕を置き、布を羽織ってガッツリ就寝態勢となっていた。と言うか本当に寝ていた。

 近くの席の私は苦笑を浮かべるしか出来ず、注意を受けるボルカちゃんを眺める。

 春の陽気と程好い満腹感。眠くなるのは分かるよ。


「やれやれ……。ティーナ。起こしておいてくれ」

「は、はい! ボルカちゃん……!」

「ん……ムニャ……?」


 そして隣の席の私にボルカちゃん起床係が命じられた。

 軽く肩を叩いて揺すり、眠気ねむけ眼ながらもボルカちゃんは背筋を伸ばす。まだ半分寝ているけど、話自体は聞いてるっぽいからいいかな?

 私達以外にも起床係に任命された子達が隣の子を起こし、緩い雰囲気の中授業は続行される。


「そしてまあ、四つの種族だが、昔は派閥争いとか戦争とか世界が分断されたりとか色々あったらしいが、何千年も前にこの学院の名にもなっている英雄とそのパーティが平和をもたらし、今は種族間の戦争もほぼ無くなっている。魔族や魔物は相変わらず気性が荒いらしいが、まあ問題無い範囲のようだ。魔族、魔物、幻獣の種族別学校もあるしな」


 先生の言葉をノートに取る。

 そんな事があったんだ。今では普通に街中でもヴァンパイアとかエルフとか魔族とか見掛けるけど、昔は世界が四つにねぇ……歴史って不思議~。

 今はすっかり平和になったらしく、そんな争い事も起こらないんだよね、きっと。

 先生は授業を続ける。


「その名残か、今でも代表を決めて他校で争うゲームもあるが、それは認知しているだろうし今の時間には関係無いな。今は種族の歴史の授業。取り敢えずサクッと世界規模の大きな出来事から教えていくぞー」


「「「はーい……」」」


「おい! さっきより覇気が無くなってるぞ!? 起きろー!」


 五時間目の歴史。うーむ、これは鬼門。

 覚えなきゃいけない科目だけど、文字の羅列とか説明の多さとかからどうしても眠くなっちゃうんだよね。

 けど我慢我慢。初日に居眠りするのは悪い事だもん……。


「──よし、今日の授業はここまで。特に用事の無い者は帰りの支度をしても良いぞ」


「ふひぃ……」

「んー……終わったぁ~」


 それから数十分を経て授業が終わりを迎えた。

 私は初めての学校の授業をやり遂げた事で息を吐くような声を出し、机の上にぐでーんとなる。隣のボルカちゃんは伸びをして体をほぐしていた。

 彼女もちゃんと最後まで起きてたね、半分寝てたけど。とにかく、これで終わりだ~!

 するとボルカちゃんが私に話し掛けてきた。


「そう言やティーナ。ティーナはクラブとかサークルに入るのか?」


「クラブサークル? 蟹の輪……」


「繋げない繋げない。蟹の輪じゃない。……そ、クラブやサークル。簡単に言えば運動とか……読書とか勉強……か? とか、とにかく何かしらの物事に打ち込む部活動の事だ」


「そんなのもあるんだ……確かにチラッと聞いたような……」


 この学院には……というより世間一般で考え、クラブやサークルと言った何かしらの集会があるみたい。

 そのジャンルはアウトドアからインドアまで様々。一つの事に集中するらしいね。

 ボルカちゃんは説明を続ける。


「基本的に何人かのメンバーが居て、チームで活動する事が多いものだな」

「……! チーム……!」


 その言葉にちょっと牽かれる。

 チーム活動って事はみんなと色々するって事だよね。なんだか楽しそう……。

 だけど初めてだし、ちょっと不安がある。


「目は輝いているけど、不安は隠せないって感じだな」


「あ、バレちゃった?」


「ハハ、その態度を見れば分かるよ。んじゃ、見学とかしてみるか? アタシもまだ中等部で入るか決めてないし、一緒に見て回らない? 部屋の片付けば後でも出来るしさ。良さそうなのがあったら一緒に──」

「うん! 行く!」

「わ!? 近い近い!」


 クラブにサークル。未知数の領域だけど、ボルカちゃんと一緒ならやってみるのも良いかも……!

 どんなのがあるんだろう……あ、けど先輩達と一緒って言うのもちょっと怖い……。


「行く決心はしたけど内心で恐れている感じだな」

「分かるの!?」

「その様子を見てればな~。大丈夫だって。ここの先輩良い人達だからさ! じゃ、行こうぜ!」

「うん!」


 ボルカちゃんに手を引かれ、期待と不安を抱えながら学院内を進む。

 改めて校内を見てみると綺麗な造り……。レンガの壁に白亜の大理石からなる床。窓枠にまで手入れが行き届いており、陽光に反射して輝いて見える。

 天井からぶら下がる高そうなシャンデリア。廊下に飾ってある絵画の作者は中等部とか高等部の生徒達だけど、スゴく上手。学生離れしてるね。

 そんな見ているだけでも楽しい廊下を行き、クラブ活動やサークル活動をしている場所を覗いてみた。



 ──“魔導研究会”。


「センパイ! 派生魔法と派生魔術を組み合わせる事で新たな発見があるかもしれません!」

「そうか! では魔法使いと魔術師の者達でやってみろ!」

「「はい!」」


 手作り感満載の看板を通り、そっと拠点を見る。

 ここは魔法・魔術問わず全魔導の研究会。眼鏡を掛けた頭の良さそうな先輩達が話している。

 すると私達に気付いた。


「やや! センパイ! 新入生が我らに興味を抱き、コッソリと覗いているであります!」


「なんだと!? おお、しかも中等部の天才、ボルカ・フレムが居るではないか!」


「もう一人は見たことありません! おそらく中等部からの新人かと!」


「おお! それは嬉しいな! 中等部からという事は高い倍率を潜り抜けて入学した逸材ではないか! と言うかオッドアイ? これは興味深い」


 先輩達は私とボルカちゃんを見て興奮する。

 ボルカちゃんってそんなに有名だったんだ……クラスだけじゃなくて学院内に名声が届いている程の人。そんな人が私なんかの友達で良いのかな……。


『いいのよティーナ。彼女から立候補してくれたんだもの』

『そうそう! 彼女も友達って思ってくれてるよ!』

「ママ……ティナ……うん!」

「……? どうした? ティーナ」

「ううん! なんでもない!」


 ママとティナに励まされて自信を持つ。一応小声で話してたよ? 隣のボルカちゃんに聞こえないくらいのね!

 そして気付いた時、私とボルカちゃんは先輩達に囲まれていた。


「その懐の人形は……! キミ、人形魔法の使い手なんだね!」

「おお! これは珍しいですね!」

「天才のボルカに人形魔法使いの子。今年は豊作だーっ!」


「ハハ、スゴい元気だな」

「ボルカちゃん……私ちょっと怖い……」

「大丈夫だって。悪意は無さそうだろ?」

「それは……そうだけど……」

 

 ママ達に目を付けられちゃったかな……。ボルカちゃんはスゴいなぁ……手慣れてるもん。

 だけどここのノリは私には少しキツいかも……。


「ボルカちゃん。私……」

「ん? あ、そっか。OK。なあ、先輩方」

「ん? なんだね?」


 私に気付き、ボルカちゃんが先輩達に説明してくれた。

 本当に手慣れてる……。巧みに口が回り、後腐れなく先輩達の勧誘を断れた。

 いきなりこんな感じ……やっぱり幸先は不安かも……。けど、一緒に何かしてみたい。なのでまだ色々な活動を見て回る。



 ──“読書研究会”。


「「……」」

「「「………」」」


 ……シーン……という耳鳴りが聞こえて来そうな程に静寂の空間。たまにパラッと本を捲る音のみが響き、また静寂へと吸い込まれる。

 ここは読書研究会。本を読んでその感想をまとめたりするらしいけど……なんか気まずい……。元気っ子のボルカちゃんは耐え切れず、ジェスチャーで出入口を指し示して私達は次の場所へと向かった。



 ──“魔物研究会”。


「先輩。この足跡、まだ見ぬ魔物の物かもしれません」

「どれどれ? 成る程。確かに今までで類を見ない稀有な物だ。見つけた場所は?」

「学院の近場、裏山です」

「よし、では先生に許可を貰ってそこへ行くとしよう」

「はい」


 そして魔物の研究をしているという所。基本的に未発見の新種を探したりしてるみたい。

 魔物の学校もあるらしいけど、そこに通えるのは通えるだけの知能がある種族だけ。だから野生の魔物とかは対象外……らしい。

 意志疎通の有無でこんなに変わるんだねぇ。

 フットワークの軽い場所みたいだけど、私達には合わないかなぁ。



 ──“男装ホスト部”。


「よくぞお越しくださいました。淑女の皆様方」

「魔専アステリア女学院ホスト部へようこそ」

「お手を、マドモアゼル」


「は、はい……」

「ハハ、緊張してんなー。男装ってだけで性別はアタシ達と同じなんだからさ。そう畏まるなって!」

「け、けど……」


 なんともまあ、異色な感じの部活動。

 女の子とは思えない程に決めており、女学院なのに本当に男の子が居るって思っちゃった。

 すると店員さん? の一人がボルカちゃんに目を付ける。


「ハニー……キミ、素質あるかもね。美しい赤毛。凛とした目。少し低めでありながらも澄んで通る声。そして控え目な胸……」

「胸は余計だ。まだ十二歳だしこれから膨らむ」

「そしてその、誰とでも分け隔てなく接する態度……ボクは見つけてしまったかもしれない。期待の新星……ダイヤモンドの原石を……!」


 顎を持ち上げ、その瞳でボルカちゃんを見やる。

 どうやらボルカちゃんがスカウトされてるみたい……! どどどどうすれば……。ボルカちゃんのホスト姿なんて……。


【──お客様。こちら、注文の品となっております】

【え……私、何も頼んでいませんけど……】

【いいえ、頼みましたよ。貴女の目が訴え掛けている……アタシ……いや、ボクが欲しいとね……】

【ボルカ……さん……】


 ……“アリ”……かも……って! ボルカちゃんは同性の友達! なんでこんな変な事考えちゃってんのー! 恥ずかしいよぉ。穴があったら入りたい……。

 けどダメダメ! ボルカちゃんはボルカちゃん!


「あ、あの……! ボルカちゃんは大切な友達なのでスカウトしないでください!」

「ティーナ……!」


「……へえ? 良いね、キミ達。最高だよ。女の子同士の厚い友情。まだ中等部の一年でありながら身を寄せ、支え合うその様。美しい……フフ、今日はそこのお嬢様に免じ、ボルカさんを勧誘するのはやめておこう」


 な、なんかよく分からないけど止まってくれた。

 良かった……のかな? スゴい誤解を生んだような気もするけど、多分大丈夫。

 私達は一応お茶とお菓子を頂き、その場所から去った。


「またのお越しを。お客様」


 バタン。とドアが閉まる。

 なんだかんだ結構楽しめた……かな。あんな世界もあるんだなって新しい扉を開けたような気もする。

 だけど結局目ぼしい場所は見つからなかったなぁ。


「はあ……なんかドッと疲れちゃった……」

「ハハ、ティーナは授業も真面目に聞いてたしな」

「いや、授業は真面目に聞かなきゃダメだよ……面白そうな所は色々あったけど、私達がやるってなるとなんかちょっとね……」

「だよなー。楽しかったからいいけど、結局進展は無しだ」


 個性的で楽しそうな所はあった。だけど私達向きって感じでもない。

 そこに、ボルカちゃんが提案するように口を開いた。


「じゃあさ。この学院のメインとも言える所に行ってみないか?」

「メイン?」

「そ。何度か話に出てた対抗戦。それが執り行われる“ダイバース”会場だ」

「“ダイバース”……?」


 “ダイバース”。

 今までに話には出ていた、ゲームで代表を決めてクラス対抗とか学校同士で戦ったりする行事。その名前が“ダイバース”って言うんだ。


「意味合いは“多様”。つまり色んな種類の事柄が行われるって訳。だから正式名称は“多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”。長いから“ダイバース”……どうだ? ティーナ」

「……うん、なんか気になるかも……!」

「よし、決まり! じゃあそこの活動場に行ってみようぜ!」

「うん!」


 度々話には出ていたけど、詳細は分からなかった“ダイバース・タクティクス・ゲーム”。それの本番をしているクラブやサークルには興味が牽かれる……!

 私とボルカちゃんは早速そこに行ってみる事にした。

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