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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第五十八幕 代表決定戦・当日

 ──代表決定戦、当日。


「………」


 私は微睡みから目覚めた。

 不意に端末の魔道具を手に取って時間を確認。

 今はまだ早朝。そして学院も大会の為休み。今日から中等部の代表決定戦が始まる。高等部も試合があるからルミエル先輩達は応援に来れないけど、数日前にエールを貰ったから頑張らないとね。


「おはよう。ママ。ティナ」

『おはよう。ティーナ』

『おはよう!』


 ママ達に挨拶をし、試合の支度をする。

 会場は毎年同じらしく、決まった場所があるみたい。そこは人間の国の中心部に位置する所で、おそらく国内で最も繁栄している。

 ワクワクと不安の感情にさいなまれながらも準備を終え、身嗜みも完璧。

 荷物を持って自室の扉を開け、出入口にはボルカちゃんが来ていた。


「お、ナイスタイミング。一緒に朝飯行こうって誘おうとしてたんだ」

「そうなんだ! じゃあ一緒に行こ! ボルカちゃん!」

「おう!」


 どうやら朝ごはんに誘う為に来てくれたみたい。

 断る理由も無いので一緒に行き、その道中でルーチェちゃんとウラノちゃんにも出会う。二人も朝ごはん。と言うより、今日から代表決定戦だからタイミングが合うのは当たり前だよね。

 食堂に入ると周りには人だかりが。


「ティーナさん、ボルカさん、ルーチェさんにウラノさん!」

「今日の代表決定戦、頑張ってね!」

「私達も応援に行きますわ!」

「新入生の光!」

「がんばれー!」


「ありがとー。みんなー!」

「へへ、悪い気はしないな」

「ふふん、頑張らなくてはなりませんわね!」

「……私はいつも通りやるだけ」


 今日は代表決定戦なのでいつも以上に賑やか。クラスメイトの子達から他クラスの子達に先輩達、食堂のおばちゃんまで。みんなから応援された。

 スゴく嬉しいんだけど、その分プレッシャーも大きい……大丈夫大丈夫。私達はやれる私達はやれる。そう自分に言い聞かせる。


「頑張ってね! サービスで大盛りにしておいたよ!」

「わあ……あ、ありがとうございます……」

「朝からこんなに食えねーッスよ……」

「しかし朝食こそ大量に取った方が良いと……」

「そうね。ちゃんと資料もある。けど、少食の私にはご厚意が……」


 断れる雰囲気でもないので大盛りの朝ごはんを食べる。

 トーストしたパンが五枚にフライドエッグが二枚。カリカリに焼いたベーコンが四枚にお皿いっぱいのサラダにミルクと野菜ジュースが二〇〇ミリリットルずつ。これ全部食べたら苦しい以前にお腹痛くなっちゃうかも……。

 何とか残さず食べ終え、メリア先輩達とも合流して学院に置いてある転移の魔道具で会場へ。選手は観客より少し早めに行くのが原則なんだって。

 転移先に広がる光景は大きな舞台だった。


「此処が本選の会場……」

「今までの会場の十倍くらいはあんなー」

「ステージに国家規模の島を用意してあるから実質的には更に広くなるわね」

「私緊張してきましたわ……」


 一通りのトレーニング施設やプールに温泉なども完備しており、選手のコンディションを最高位でキープ出来るような環境。

 既に会場ではトレーニングに励んでいる人達がり、魔力の出力調整や素振り、シャドーボクシングにイメージトレーニングなど、魔法使いや魔術師から剣士に舞踏家と多種多様の人達が最終調整をおこなっている。

 わ、私達もやらなきゃかな……。

 メリア先輩達は私達へ話す。


「それじゃ、荷物を控え室に置いて私達も軽く運動しよー!」

「施設の利用も無料なので、大会期間中は好きなだけ過ごせますよぉ~。今まで通り遠方から来た人用の宿泊施設もありますし~」

「そうなんですか……」


 トレーニング施設から温泉やマッサージ、更にはレストランに宿泊施設等々。選手は自由に使えるとの事。

 流石に朝ごはんをあんなに食べた私達はまだレストランには寄らないけど、お腹が苦しいしトレーニングはしておきたいね。体が重くて動かなくなっちゃうかもしれないもん。

 なので先輩の案内と共に控え室へ。荷物だけを置き、他の選手達も居る場所へ来た。


「一先ず軽く準備運動して体だけ動かそっか。一回戦は今まで通りチーム対抗戦だろうからね!」


「はい!」

「ウーッス」

「はいですわ!」

「はい」


 まとめ役は基本的にメリア先輩。リーダーはボルカちゃんとして、平常時と試合とで役割を分断しているの。

 リタル先輩は性格的に指示を出したりするのが合わないからこんな感じ。

 何はともあれ、準備運動を終えて魔力調整。今日も調子は悪くないね。食後なのもあって体を動かすと少し脇腹が痛くなるけど、多分試合開始までには整うと思う。


「あれが“魔専アステリア女学院”」

「中等部はルミエル・セイブ・アステリアが高等部に上がってから大きな成果は挙げていない……」

「それが今回、数年振りに代表決定戦まで来たか」

「予選の映像を見る限り、ティーナ・ロスト・ルミナスがイカれている」

「ボルカ・フレムも初等部の頃からそこそこ有名だった存在だ」

「まだまだ経験不足の一年生とは言え、侮れないな」


「うぅ……なんか目立ってるかも……」

「皆がこの大会のライバルだかんな~。特に無名だったティーナの躍進は嫌でも目立つさ」


 練習風景の時点でかなり観察されている。

 それもそうだよね。一年生が入ってくると同時に、一気に代表を決める試合にまで出るまでになった。私達はある意味ダークホース的な立ち位置に居るのかも。

 そんな中、私達の方に何人か近付いて来た。


「お前達が“魔専アステリア女学院”の新入生か。あまり鍛えてなさそうだし、一目見ただけでは強さの素性が分からぬな」


「とは言いつつ目を付けているようだな。何か気になる事でも?」


「それは此方の台詞だ」


 近付いてきたけど、その二人は別々のチームなのか少し言い争いが行われていた。チームメイトと思しき他の人達は特に言及せず。

 えーと、一応訊ね返した方が良いのかな?


「アナタ達は……」

「む? そうだな。名乗り遅れた。我が名は“ルーナ=アマラール・麗衛門レモン”。“日の下(ヒノモト)”にある“神妖百鬼天照学園”の主将を務めている者だ。以後お見知りおきを。いや、更にへりくだり、お願い申し奉り候……としておこう」

「……! しんようひゃっき……って“日の下(ヒノモト)”……!?」


 最初に答えてくれた人はヒノモト出身、“ルーナ=アマラール・麗衛門レモン”……? さん。学園名も含めて何処か不思議な名前……。

 黒のポニーテールに赤と黄色の瞳で凛とした顔立ち。話し方は独特だけど、こう見えて女の子みたい。鍛えてあるけどちゃんと女の子の体してるもん。

 腰には鞘が携えられており、おそらく剣士の人みたいだね。オッドアイなのはなんかシンパシー感じる。でもなんとなくイェラ先輩味もある。

 だけど、レモンってあの果実の事だよね? それなのに発音も不思議な感じ。ルーナさんかレモンさんって呼べば良いかな?

 そして続くようにもう一人の女性も言葉を発する。


「我は……そうだな。では先ずは学校名から話すとしよう。“ゼウサロス学院”。そこで主神を務める“ジュピター・ユピテル”だ。よろしく頼む」


「主神!? 神様なんですか!?」


「フッ、あくまで役職名だ。学院名からしてオリュンポス十二神のゼウス関連。なので我の所ではおさに該当する役職を“主神”としている。英雄達の時代には実在したと言われているゼウスだが、我は全知全能でもなければ神でもない」


 名前を“ジュピター・ユピテル”さん。だけど役職名が主神ってスゴいね……。

 ユピテルさんって呼ぼうかな。

 髪の毛は灰色の長髪。青い目に中等部に見えない大人びた顔立ち。

 二人とも年相応に見えない……。ホントに私の年齢と少ししか違わないの?

 ユピテルさんは手を差し伸べた。


「今日はお互いに健闘しようではないか。共に勝ち残れると良いな」

「は、はい! よろしくお願いします!!」

「フッ、私と当たった時は手加減しないぞ」


 それに返す私とレモンさん。

 良い人そうな雰囲気はあるね二人とも。仲良く出来たら良いな~。

 だけど試合になったら手加減はしないよ! ……って言える立場でもないかも。絶対向こうの方が経験の浅い私よりも上だもんね……。


「なーに自信無さげな表情になってんだ。ティーナ。アタシ達もこの人達と同じく一つの都市の代表なんだ。頑張ってこーぜ!」


「ボルカちゃん。……うん、そうだね。やれる事を精一杯やらなきゃ!」


「フッ、良い仲間を持っているようだ。当たるのが楽しみになったぞ」

「我らが当たるかもしれないのだから、その時はお手柔らかにな」


 そして私達はレモンさん、ユピテルさんと別れた。

 一緒に来ていた仲間の人達とは話さなかったね。けどもし勝ち上がる事が出来たら話す機会も生まれるよね。きっと!

 流しのトレーニングと魔力調整を終え、私達は開会式につどった。



*****



《それでは皆様! お待たせ致しましたァァァ━━━ッッッ!! いよいよ開催、“多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”!!! 各都市大会を勝ち上がり、選ばれし者達による真に選ばれし者を決める超一大大会だァァァ━━━ッッッ!!!!》


「「「どわあああああああ!!!」」」

「「「ぎょわああああああ!!!」」」

「「「んがあああああああ!!!」」」


 司会者さんが言い、より一層大きな歓声が上がる。

 盛り上がりはどの大会よりもスゴく大きいもの。とてつもないね。声だけで圧倒されるのは他の場所でもそうだったけど、此処は規模が段違いだよ……。


「耳がキーンってする……」

「え? なんだって?」

「え? 何か言った? ボルカちゃん」

「ん? どうしたティーナ?」


 歓声の大きさから私達の会話が噛み合わない。何かを言っているのは分かるんだけど、何も分からない。大会に備えて読心術でも極めようかな。

 そんな事を考えているうちに開会式は終わり、チームの組分けが発表された。

 私達のチームは一回戦で一番最後の試合みたい……そして相手は──


「……! “神妖百鬼学園”……!」

「と言う事は……」

「レモンさん達のチーム……!」


 さっき挨拶を交わしただけだけど、絶対強い。というかさっきも思ったよね。誰が相手でも強いって。

 レモンさん達はその中でも更に強そうな雰囲気が漂ってるんだけど……。

 組分けも終わりを迎え、私達の前にはレモンさん達がやって来た。


「どうやら一回戦から当たってしまったようだな。“魔専アステリア女学院”の者達よ」

「そ、その様ですね……」

「そう緊張するな。まあ手加減は一切しないがな」

「お、お手柔らかに……」


 手加減しないってさっき思っていた事を相手に言われてしまった。

 思考って巡り巡って返ってくるんだね……。でも頑張らなきゃ……!


「君達が相手になるんだね!」

「頑張りますよぉ~」

「アタシもな!」

「私もですわ!」

「私はそう言う熱血的なのパス」


「フッ、頼もしそうな仲間達だ」

「だが、我らの相手ではない」

わらわらの力を見えてやろうぞ」

「クク……良い目をしてる……!」

「………」


 あ、やっと他の人達も話した。

 何となく不思議な雰囲気漂う人達。それが“神妖百鬼学園”の特徴……なのかな?

 何と言うか、レモンさん以外人間じゃない感覚。自分で言ってて変なの。


「それでは一回戦、共に高め合おうではないか」

「はい。よろしくお願いします!」


 他のチーム達の試合が始まり、一先ずは観戦。全ての試合がハイレベルであり、どのチームも手強そう……。

 知略戦力全てが上澄み。ルミナス先輩の言う通り、既に決勝戦と言っても差し支えないね……。

 私達以外の全ての試合が終わり、いよいよ出番が回ってきた。


《それでは! 大きく白熱した一回戦もついに最後の試合! 代表決定戦は一日一回ずつしかありませんので、今日の試合はこれで最後となります!》


「「「わああああああああ!!!」」」

「「「わっはああああああ!!!」」」

「「「うわっはあああああ!!!」」」


 司会者さんの声に会場は大きく沸き立つ。

 まさか大トリが私達の試合なんて……うぅ……毎度毎度の事だけど緊張が……。


《それでは入場して頂きましょう! ルミエル・セイブ・アステリアの出身かつ、少し振りの参戦! “魔専アステリア女学院”! そして大会の常連にして今大会新たな主将を迎え入れた“神妖百鬼学園”! 今まで通り、全てが強豪名門の集い! まさに最強達の祭典!! 両チームは──》


 とても大袈裟な紹介がされている。

 と言うかレモンさん、主将とは言っていたけど“新”主将だったんだ。あの我が強そうな人達を差し置いてリーダーを張れるなんてスゴい……。


《それではチームの皆様は控え室へ! 大会は十分後です! 一秒足りとも目が離せない戦い! トイレ休憩などは今のうちに──》


 そして私達は控え室へ移動。一回戦のルールは今まで通り各々(おのおの)がステージに放たれてのチーム戦。

 なので選出メンバーを決定し、カウントダウンが0になると同時に転移の魔道具でステージへと移動した。


《それでは一回戦、最終試合! スタァァァトォォォッッッ!!!》


 転移と同時に開戦の合図が。

 ダイバース代表決定戦。遂に開始された。

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