第五十七幕 都市大会優勝・そして……
《それではお越しください! 決勝戦バトルロワイアルゲーム! 勝者である“魔専アステリア女学院”の皆様です!》
「「「どわあああああああ!!!」」」
「「「ぎゃあああああああ!!!」」」
「相変わらずの悲鳴みたいな雄叫び……」
「いつも通りだな~」
各々の治療を終え、会場へと戻った私達には大歓声が届けられた。
それによって会場は大きく揺れ、地響きのような衝撃が走る。
ある程度は慣れたけど、やっぱりスゴい盛り上がりだね……。
《全員が敵同士であるバトルロワイアル! なんと“魔専アステリア女学院”はその大半を自分達のみで倒してしまいました! これは完全勝利と言って良いでしょう!》
あ、そう言えば確かに殆ど自分達で倒したかも。エメちゃんには追い詰められたけど、そう考えるとかなり良い線だったよね。
司会者は言葉を続ける。
《それにより、晴れて“魔専アステリア女学院”は人間の国の代表を決める本選へと勝ち上がる権利を得ましたーッ!!》
「「「オオオォォォォッ!!!」」」
「「「ウガアアアアアッ!!!」」」
最早獣の呻き声。スゴいハイテンション。
だけどそうなんだ。私達は世界へ羽ばたくチャンスを得たんだ……私達なんて今年入ったばかりの新入生なんだけど。
でも今まで戦った人達の分までちゃんと活躍しなきゃ! この予選ではこんなスゴい人達を相手にしてたんだって他の人達に思わせるの!
《それにより──》
そして、最初から最後まで盛り上がりを見せたまま順調に表彰式は終わる。
その日の帰り、私達の元にはエメちゃん達がやって来た。
「スゴいな君達。ウチのエメに勝つなんて」
「あ、貴女は……エメちゃんと同じチームだったんですか」
「ああ。エメは一年生ながら主力。名門とも言われる私達のチームのエースだ。それを倒すなんてスゴいじゃないか」
「スゴいスゴい言い過ぎですよ先輩~!」
エメちゃんのチームメイト。私が最初に戦った黒髪長髪の人。そしてヒーラーさんとボルカちゃんを足止めした……囮役? メリア先輩と空中戦を繰り広げた箒乗りさん。
そのメンバーがエメちゃんの仲間達。
黒髪長髪の人は言葉を続ける。
「ウチで一年生ながら一軍に居るのはエメだけで、見ての通りの性格だから友達も少ないんだ。君達……特にティーナさんとウラノさんに特別な感情を持ってしまってね。是非とも仲良くしてやってくれ。エメは良い奴でこの前も──」
「ちょっと止めてくださいよ部長~!」
アハハ……自慢の後輩みたいだね。
私達が来る前にウラノちゃんと何を話していたんだろう。性格的には私に似てるけど、ウラノちゃんともシンパシーを感じたんだね。
でも、仲良くなる事は大賛成だよ!
「ふふ、よろしくね。エメちゃん!」
「う、うん……ティーナさ……ちゃん……」
「……ま、エルフの混血なんて珍しい存在……研究材料として仲良くしてあげましょうか」
「け、けけけ……研究材料!?」
「ウラノちゃん!? そんなマッドなサイエンティストだったの!?」
「……冗談よ。明らかに有り得ない嘘も真に受けてしまうのね貴女達」
「「あう……」」
冗談だったらしい。でもウラノちゃんがそんな事を言うのは珍しいし、彼女なりに歩み寄ろうとしているみたい。
するとエメちゃんはゴソゴソと持ってきたバッグの中から魔道具を取り出した。
「そ、それなら連絡先交換しませんか? この魔道具ならいつでも連絡出来るようになりますし……」
「あ、それ……ボルカちゃんが持ってたやつ」
それは連絡や情報収集等が可能になる小型端末の魔道具。
こんな感じで友達同士の連絡先を教えるのにも使えるんだね。けど……。
「ゴメン……私それ持ってなくて……」
「え? あ、す、すみません……」
「いいよいいよ。でも連絡手段かぁ……あっても良いかもね~」
私達の中でそれを持ってないのは多分私だけ。ウラノちゃんもかな? ボルカちゃんは使ってたし、ルーチェちゃんは性格上持っている筈。先輩達も色々と連絡手段は必要だから持ってるかも。
そんな感じでエメちゃんが仲良くしたいって思ってる私達だけ持ってないと言う事態が発生してしまった。
そこで、ボルカちゃんが提案する。
「それなら今から買いに行くか? まだ昼間だし、登録手続きとかも学生証があれば出来るし、ティーナとビブリーは確実に買えるだけの貯えもあるしな」
「今から……! 確かに良いかも……! 連絡はしたいもんね!」
「私は要らな──」
「良し、決まり~! 行こうぜ!」
「うん!」
「また無視……月々の料金も掛かるし本に回したいんだけど……」
「大丈夫だ! 料金か魔力か選べるからな!」
「そう言う問題じゃ……」
なんだかんだ言いながら、やっぱり付き合ってくれるウラノちゃん。
どんな感じなんだろう。何気にこんな買い物も初めての経験。私達は魔道具ショップへと赴いた。
*****
「此処がそこ……! 色んな種類の魔道具が揃っているね!」
「だろー? 形は違っても性能は同じなんだ。基本的には最新の奴を選んだ方が便利かもな~」
やって来た魔道具ショップ。そこには多種多様の通信魔道具が置いてあり、お客さんも大勢居た。
メリア先輩達は先に帰り、付き添いとしてボルカちゃん、ルーチェちゃん。エメちゃんにエメちゃんの先輩。こんな感じの集まり。
私は興味津々で並ぶ魔道具を見、店員さんも話し掛けてくる。
「あら、貴女達……今日決勝戦で戦っていた子達よね! いらっしゃい!」
「あ、こんにちは」
「お、オッドアイの人形魔法と植物魔法の子」
「エルフの混血ちゃんも居るー!」
「本魔法の子だ!」
「金髪縦ロール!」
「クールな女剣士さん」
「ボルカ・フレムか!」
「ちょっと!? 今また私の髪型に対してのみの言及がありませんでした!?」
「まあまあ、落ち着けよ。縦ロール」
「ボルカさんまで!?」
「アハハ……」
どうやら私達は此処でも有名人になったみたい。
考えてみれば私の魔法は、ママのだけど珍しい植物魔法。ウラノちゃんの本魔法も類を見ない存在で、聖魔法のルーチェちゃんは髪型が特徴的。ボルカちゃんは元々有名人。
それに加えて今はエルフとの混血であるエメちゃん達が居るし、試合後に寄ったら目立っちゃうね。
「今回は魔道具をお求めですね! それでは此方をどうぞ! 機能説明及びカタログなどで──」
その後、私達は歓迎されて色々な機種を見てみる。
今までも使ってなかったからあくまで連絡手段としてしか使わないかもだけど、こんなに種類があるならどれにするか迷っちゃう。
「じゃあこれで」
「早っ!?」
そしてウラノちゃんは簡単に選んだ。
彼女の性格らしいけど、もっとこう、情緒と言うか何て言うか。
こんなに早く選ばれちゃ私も悩んでいる時間は無いよ~。
「じゃあこれでお願いします!」
「はい♪ それでは身分の証明になるような物を見せてください」
「では学生証で」
「加え、他者に悪用されないよう貴女自身の魔力を登録します。更に細かな手続きなどがありますので、三十分くらいは掛かりますね」
「分かりました」
色々と必要なんだね。少し時間が掛かるみたいだけど、安全の為には仕方無い事かな。
それから三十分を経て魔道具を入手。後は私達くらいの年齢なら保護者の許可を得る必要があるんだって。ママが一緒に居るけど、人形のフリをしているから今回必要なのはパパについてかな。
もし許可が降りなかったら一旦保留にして、降りた時に改めて入手するのも可能みたい。
そんなこんなで私達は通信と情報収集が可能な魔道具をゲットした!
「で、ではこれ。私の連絡先です。親の許可が降りたら入力してください。詳しい事はボルカさんが分かると思うので……」
「おう。困った事があったらアタシに聞きな。ティーナ!」
「うん! ボルカちゃん! エメちゃんもありがとね!」
連絡先は交換。これでいつでも連絡は取れるようになった。
その後学院に戻る途中で観戦に来てくれていた執事さんやメイドさんにパパへ言伝てを頼み、私達は学院へ。
無事許可が降りたと言い渡され、私はボルカちゃん達や部活動メンバー。そしてエメちゃんの連絡先を登録した。
でも現状だと寮生活でいつでも会える状態だからあまり使わないかもね。来月からの長期休暇で地元に帰ったりする場合くらいかな。
「ティーナ。風呂行こうぜー!」
「うん。ボルカちゃん」
そして一先ず汗や汚れや疲れがあるからお風呂へ。傷は治したから沁みたりしない。
すると周りには人だかりが。
「おめでとうございます! ティーナさん! ボルカさん!」
「都市大会優勝! お見事です!」
「代表決定戦でも頑張って下さい!」
「あ、ありがとう……」
「ハハ、大会期間中だと大人気になるなー」
こう言う場だからこそ遠慮無く話し掛けてくれるみたい。
羨望の眼差しだから嫌な気はしないけど、慣れない私はたじたじ。一試合ごとに囲まれたりするけどやっぱり勢いがスゴいよね。
愛想笑いで返しているけど、ぎこちなくて変に思われないかな……。
そこへまた別の声が掛かった。
「ほらほら、貴女達。ティーナさん達が困ってるわよ。都市大会終了直後で疲れていると言うのに」
「……!? みんな!」
「ルミエル様が現れましたわ!!」
「勿論イェラ様も居られます!!」
「「「きゃああああああ!!!」」」
「……!?」
「ハハハ……相変わらずルミエル先輩達も大人気だ」
声の主はタオルを垂らすよう片手に持つルミエル先輩。近くには相対的にタオルを肩に置いて堂々としているイェラ先輩も居た。
此方の先輩達の人気も凄まじく、女の子達が私とボルカちゃんの前からそちらへ。
お陰で助かったよ~。
「ふふ、改めておめでとう。二人とも。部室でも言ったけど、見事勝ち上がったわね」
「流石は我が後輩達だ」
「ありがとうございます!」
「あざーす!」
体を洗い、私達の近くに入浴。
周りの子達はちゃんと場を弁え、ルミエル先輩達に良く思って貰いたい一心でお淑やかになっていた。
スゴい影響力……。
「けれど此処からが本番よ。人間の国からは十五チームが種族の代表として選ばれるけど、そもそもの参加チームが多くてその全てが強者の集い。全試合が決勝戦って考えた方が良いわ」
「全試合が決勝戦……」
「ま、そりゃそうだよなー。全チームが都市大会まで勝ち上がってる訳だし」
ルミエル先輩はスラッとした指で自身の二の腕を撫で、ポタポタと滴が垂れる。
その様は絵画のように綺麗だけど、私はその口から発せられる内容に緊張が高まっていた。
そうなんだよね……。全試合が高レベル。緊張しない方がおかしいもん。
ルミエル先輩は艶やかな黒髪を揺らし、微笑んだ。
「応援してるわ。私達も高等部の大会があるから応援には行けないけど、貴女達らしくなさい」
「はい!」
「恥ずかしい戦いはするなよ。アステリア学院だけじゃなくて近辺のチーム全てを背負った訳だからな」
「結構難しいお題ッスね~」
先輩達も応援してくれてる。だったら私達もやるしかない!
気合いを入れ、数日後に行われる大会へ備えるよ!
疲れを取る為のお風呂。先輩達にエールを貰いながら寛いだ。
*****
──“自室”。
「いよいよ代表決定戦だね。ママ。ティナ」
『ふふ、そうね。頑張りましょう。ティーナ』
『頑張ろー!』
既に学校から出された課題は終わらせており、ベッドの上で寝転がりながらママ達と話す。
都市大会も強敵揃いだったけど、代表決定戦はその比にならない。頑張るのは大前提として、常に気を張って置かなきゃね!
「ふわぁ……今日はもう寝よっかな……大会も近いし、自主練習もしたかったけど……それ以上に疲れちゃったよ」
『そうね。ゆっくりお休みなさい。貴女は代表戦でも主力なのだから』
「うん……ママ……私はアステリア学院の……」
ウトウトし、眠りに就く。
最近はずっと調子が良い。大会も上手く勝ち進んでいる……。
こんなに調子が良いと何か悪い事が訪れそうな気がするけど、きっと思い過ごしだよね。だって私は……なんだろう。親友も友達も仲間も居るし……パパも……ママも居る。なのに何故か満たされないような感覚。だって私は……その後に続く言葉。何を思おうとしたんだっけ。
眠気と疲労で頭が回らない。考えるのは止そう……これ以上考えたらダメな気がする。
ママとティナも話さなくなっちゃったし……私も眠る。深い深い微睡みに。
──今日から数日後の大会当日、波乱に満ちる一回戦が開始される。




