第五十五幕 ラストスパートへ向けて
「そーれ!」
『ウオオオォォォォッ!』
「……っ。“ウォーターガード”!」
「“ウィンドスリップ”!」
私が操るフォレストゴーレムで超巨腕を振り下ろし、下方の二人。風魔法使いさんと水魔術使いさんが防ぐ。
やり方は二人を水が覆い、風で表面をコーティング。それによって拳の間に風の隙間が生まれ、水を伝って滑り落ちて行くと言うもの。
フォレストゴーレムじゃ範囲が広過ぎて逆に狙いが定まらないかもしれない。
因みに滑るのは二人の方で、押し出されたボールみたいに私の方から離れて行く感じかな。
「やるな。センパイ!」
「後輩の癖に上から物を言うとは生意気だね……!」
その一方で、ボルカちゃんはあの二人のチームメイトの剣士さんと剣戟を繰り広げていた。
私達の相手はこの三人。今までも飛んで行く光が複数……四つ見えたから、それがウラノちゃんや先輩達じゃないなら人数的にはこの三人を倒したら残り一人という事になる。
つまり、ラストスパートだね!
「はあ!」
「よっと……!」
剣が振り下ろされ、炎の剣で防御。文字通り火花が散り、鍔迫り合い……って言うんだっけ。ウラノちゃんが教えてくれた剣や刀の鬩ぎ合いの事。それが行われる。
ボルカちゃんは剣を弾き返して間合いを取り、火球で牽制。しかし威力は込めておらず、直後に弾けるように消え去った。
それはそのまま目眩ましに。その間に回り込み、相手剣士の死角へと入った。
「……っ」
「貰い!」
反応する間もなく魔力を撃ち込み、体勢を崩したところで的確に峰打ちを当てる。
それによって相手は意識を失い、控え室へと転移した。
「くっ、やられたか……!」
「向こうの心配をしている暇はないぞ……! 目の前には……!」
「負けてられないぞー!」
ボルカちゃんに感化され、私のやる気もより一層高まる。
広範囲を狙おうとすると氷の欠片みたいに滑るなら、一点に集中すれば良い。位置を見ようとするんじゃなく、魔力の気配を辿れば良いんだよね。
私の一撃を警戒して常に魔力の防壁を張っているなら、その魔力の気配がずっと漂っている事になる!
「そこを目掛けて……!」
『オオオォォォォ……!』
「何かを仕掛けてくるぞ……!」
「なに。この防壁の中に入っていれば……」
一点狙い。あれは氷より柔軟性のある物。強度で言えばゴムボールに近いのかな。表面に纏った風の影響で受け流されるだけ。
それなら空気の膜を突き破れば良いだけ!
「イメージは薔薇……よりも更に長いサボテンかな」
「オイ……ゴーレムの腕が……!」
「鋭利な……トゲに……!?」
魔力の気配がある方に腕を振り下ろし、その先端を変化。細長いトゲとして防壁を貫き、その場へ完全に固定した。
「「……っ」」
「これでお仕舞い!」
いくら滑っても、固定すれば問題無し。そのまま巨腕を下ろしたら中が大変な事になるから、トドメは私じゃないよ。
「水も風も、火なら焼き切れるんだぜ!」
「ボルカ・フレムが来る……!」
「魔力で作られたトゲの所為で……魔力コントロールが乱れて抜け出せない……!」
身体強化したボルカちゃんが高速で攻め入り、防壁ごと打ち抜く。
それによって二人も意識を失い、転移。これで私達は勝利を収め、もし仲間達がみんな無事なら残り相手は残り一人となった。
「やったな! ティーナ!」
「うん! ボルカちゃん!」
私達は二人で笑い合ってハイタッチ。
後は他の人達だけど、さっきから街の方面で強い魔力の気配を感じるんだよね。
それはボルカちゃんも気付いているらしく、私達は見つめ合う。
「後はさっきから複数の魔力が飛び交っている街方面だな」
「うん。そうだね。何が起こってるんだろう……不思議な感じの魔力の気配……」
人じゃないみたいな魔力の気配。感覚で表すなら柔らかくて優しい。自然のエネルギーって感じかな?
何故か私達の植物魔法と共鳴しているような気がする。
「行くか」
「うん」
警戒はし、フォレストゴーレムに乗り込んで街の方へ。
彼処で何が待っているのか。この目で確かめなきゃ……!
*****
「「……っ」」
「わ、わわ……更に二人がやって来ました……! と言うか大きなゴーレム!?」
そこへ行くと、周りにある物は崩壊した建物。吹き荒れる暴風。そして──倒れる仲間達三人。
「ウラノちゃん! 先輩!」
「やられたのか!?」
「ティ……ティーナさんに……ボルカさん……」
「ありゃりゃ……情けない姿を見せちゃったなー……」
「あらあら……タイミングが外れましたねぇ~」
三人は一言のみ発して意識が無くなり、控え室へ転移。
まさかあの三人を、この子がたった一人で倒したって事……!? だとしたらどれ程の……!
「ごめんなさい! ごめんなさい! 仲間達を傷つけてしまって……!」
「いや、それについてはそう言うルールだから仕方無ぇよ。アタシ達もアンタの仲間は倒した訳だからな」
「そ、そうですか……」
私はフォレストゴーレムの中。あの子とはボルカちゃんが話、何故かルール上の事へ謝罪していた。
確かにお友達や仲間を傷つけられた事は思うところがあるけど、それはお互い様。謝るのは違うような気がする。
それはそれとしてちゃんと戦うけどね。
「けどま、ルールはルール。アンタを倒して終わらせなきゃな……! もう敵はアンタ一人だ!」
「ええ!? そうなんですか!? じゃあ私からしても残りは貴女達だけですね」
「そうなるな。さて、やろうか?」
「は、はい……やります……!」
ボルカちゃんは魔力を込めて身体能力を強化。炎の剣を作り出し、あの子相手に向き直る。
私もこのまま待つ訳にはいかない。ボルカちゃんのサポートに回るべく、ゴーレムから降りて臨戦態勢に。
元々巨大ゴーレムを作った理由は森の無い場所に森を運ぶ為。これで植物魔法の範囲は街の方にも広がるからね。
此処からはちゃんと降りての戦闘。私達三人は向き直り、ボルカちゃんは踏み込んで仕掛けた。
「はっ!」
「ひっ!」
魔力で強化された体に炎の推進力を加え、通常の強化よりも速く突撃。しかし相手はそれに追い縋り、レイピアを構えて炎の剣と鬩ぎ合う。
振り下ろした炎剣はいなされ、風で貫通力を高めたレイピアで突く。それを紙一重で避けたボルカちゃんは回し斬りを放って距離を置かせ、炎弾を放出。相手は風で防ぎ、いつの間にか持ち替えていた弓矢を射出。矢を弾き、更に加速して立ち回る。
「アタシに付いて来れるか。かなりの実力者だな……! そんな動きにくそうなローブを羽織った状態で……!」
「ひぃぃぃ……速いです~!」
炎剣を振り回し、今一度レイピアで対応。再び剣戟が織り成され、そこへ私はママに魔力を込めて周囲へ植物魔法を展開。
戦闘によって移動する位置を読み取り、その位置へ無数の枝を伸ばした。
「植物を……!?」
「なんだ。特にティーナの魔法は研究され尽くしてるって思ったけど知らないのか」
「はい……私は取り敢えず、何も考えずに相手を倒す事に集中すれば助かるって言われてますから……」
「……確かにこの性格上、それが一番の活用法だなー」
あの子は素の実力がかなり上澄みだからこそ、こう言った役割を任されているみたい。
私が言うのも変かもしれないけど、かなり気弱そうな子だもんね。何も考えずに戦い続けた方が良いのはそうなのかも。
「だから何も考えずに倒します!」
「その意気だ!」
「どっちの味方!?」
あの子の意気込みに賛同するボルカちゃん。でも人数的にも私達の方が有利だから応援したくなる気持ちも分かるよ。
伸びた枝を華麗に躱し、槍のような風を射出。その中には本物の矢も交えており、多重の攻撃となって襲い来る。
それに対しては植物で護りを固めて防ぎ、更なる枝や蔦を伸ばして嗾ける。女の子は風を体に纏って切り裂くように植物を破壊し、突破した。
ボルカちゃんがやっている事の風バージョンって感じかな。
その強化による貫通力と速度はかなりのもの。
「……っ」
「ボルカちゃん!」
ボルカちゃんの肩をレイピアが掠り、肩部分の衣服が破れて出血する。
単体ならあのボルカちゃん以上……ううん。此処まででお互いに消耗しているから万全なら分からないかも。
どちらにせよ、手強いのは間違いない。
即座に方向を転換し、今度は私の方へ。避けるのは難しいから覆っておこう!
「“カウンターガード”!」
「わわわ……! 貫いたら棘が……!」
レイピアが植物の防壁に触れ、直後にトゲが伸びて女の子を押し退ける。
至近距離でのカウンター。あの子も防ぎ切れず、トゲによってローブがビリッと破けた。
次の瞬間にはボルカちゃんが仕掛けており、片手には魔力が込められている。
「……! 魔術……! 魔法使いじゃなかったんですか……!」
「両方だよ! “フレイムブロー”!」
火炎が放たれ、女の子は巻き込まれて発火。燃え盛る中で風を張り巡らせ、意識が無くなるよりも前に消火させた。
そしてローブが焼け落ち、その素顔が露になる。
「……! 尖った耳……!」
「金髪に碧の瞳……これって……!」
「わ、わわわ……!」
尖った耳に翠の瞳。金色の髪はサラサラしており、スラッとしたスレンダーな体型。色白の肌に整ったし顔立ち。
そう、この姿は……!
「可愛い! なんで顔隠してるの!? そんなに可愛いなら恥ずかしがる必要無いじゃん!」
「ありゃ?」
「……はえ?」
とても可愛いかった!
なになにアレ! スゴくカワイイ! お人形さんみたい!
そんな私の反応にちょっとずっこけたボルカちゃんは呆れたように言葉を続ける。
「違うティーナ。そこじゃない。まあ顔立ちが整っているのもその種族の特徴だけど、そうじゃない!」
「え?」
「あの尖った耳……間違いなくあれは“エルフ”族の特徴だ」
「エルフ……!」
授業でやったね。分類では幻獣だけど、人間よりも高い知能と長い寿命を持つ種族って。だから魔力の気配に自然を感じたんだ。
……あれ? けど彼女がエルフなら。
「なんで此方側の大会なの? 幻獣なら幻獣の国でやってると思うけど……」
「えーと……その……」
何やらモジモジしている。顔を見せるの恥ずかしいみたいだもんね。
だけど意を決したように口を開いた。
「私……混血なんです……人間とエルフの。それであまり顔を……と言うよりこの耳を見られたくなくて……」
「あ、そう言う事だったんだ」
この子は人間とエルフの混血との事。他の人達と大きく違うからずっと顔を隠していたんだ。
「でも別に隠す必要無いと思うな~。だって可愛いもん!」
「か、可愛……」
「それに、別にチームメイトから変な目で見られてるとかじゃ無いんでしょ?」
「それは……そうですけど……」
可愛いし、奇異の目で見られている訳でもない。それなら大丈夫だと思うけど。
少し励ましてみよっかな。
「だってほら、私も目がよく特徴的って言われるけど特別でも変な感じでもないでしょ?」
「あ、そう言えばオッドアイ……ある意味エルフより珍しいかも……」
「それに、私達の部長で……と言うか世界的に有名なルミエル先輩も魔族との混血だし、そうである事を否定する事はないと思うよ?」
「ルミエル・セイブ・アステリアが……でも、私の耳はその……変な形だし……」
「大丈夫! 寧ろそれもチャーミングで可愛いって!」
「……っ」
カァ……っと紅潮する。褒め過ぎたのも恥ずかしさを増長させる要因になっちゃったかな?
でも可愛いのはそうだし、訂正はしないよ。
女の子は更に続ける。
「あ、ありがとう……少しは自信が付きました……──でも、この場は私が勝ちます……!」
「うん! それと、私はティーナ。貴女の名前を教えて。女の子とかあの子とか、なんか他人行儀だからさ!」
「……“エメ”です……」
「そう。エメちゃん。……じゃあ、やろっか!」
「……! 凄まじい魔力出力……」
ママに魔力を込め、巨木を周囲へ生み出す。
相手はエメちゃん。人間とエルフの混血である珍しい子。相手にとって不足はない!
私達のダイバース、都市大会決勝戦、残り人数私達三人のみ。戦場は佳境へと差し掛かる。




