第五十四幕 各種戦況
「やっほー!」
「くっ……メリア・ブリーズ。これが“魔専アステリア女学院”でルミエルとイェラを除いた最速の箒裁き……!」
「少人数だからその二人を抜いちゃったら最速でもなんでもないよ!?」
やあやあ。今も紹介にあった私はメリア・ブリーズ。
“魔専アステリア女学院”では三番目に速いって事になってるみたいだけど、他がレヴィア先輩とリタル先輩。そして可愛い後輩達だからなんか違う気がする!
そんな私は今、箒に乗って出会った相手チームの人を翻弄していた。
低空飛行も練習したし、周りに障害物があっても問題無く進めるよ!
「“トルネード”!」
「風魔法と箒移動の合わせ技……!」
得意の風魔法を放出しながら得意の箒移動で旋回。それによって竜巻を起こし、相手の体を持ち上げる。
箒が得意だから空中は私の得意マウンド!
「逃げ場は無いよ! “ウィンドブロー”!」
「……っ!」
竜巻の目に移動し、更に上空から風の一撃を叩き込んで打ち落とすと同時に転移の光で消え去った。
よーし! 私の勝ちー!
「やったー! 勝ったよー! って、誰もいないけどね~。早くみんなと合流したいな~」
風が消え去り、辺りは静かになるけど、私はずっと元気。
空から索敵出来るし、遠方で大きな樹のゴーレムが居たから多分ティーナちゃんが居るよね。
一人は寂しいし、私もそっちに行こっかな~。
「まだまだやるぞー!」
気合いを入れて改める。
戦況はどんな感じなんだろうね~。私達がどれ程か、相手はどのくらいか。それによって私の立ち回りも変わるもんね。
一先ず目的はゴーレムの──
「……? なんだろう」
すると、近くの街で爆発みたいなものが起こった。と言っても爆炎じゃないね。建物が崩れて粉塵が上がった感じ。
さっきもゴーレムの一撃でステージ全体が揺れたけど、それとはまた別な感じの気配。
こう言う時に調べに行けるのが箒乗りの強み。来年から私は郊外でも自由に乗る事が出来るようになるし、楽しみ~!
取り敢えず情報収集だね。私は魔力を込め、空中へと飛び立った。
*****
「リタル・セラピー……!」
「貴女の香料魔法は強いけど」
「三人に囲まれては成す術が無いだろう……!」
「そうですねぇ~。確かに接近戦とか囲まれたら弱いですぅ~」
私はリタル・セラピー~。
こう見えて“魔専アステリア女学院”の主力なんですよぉ~。
そんな私は一チームの三人に囲まれて大変な感じになってまーす。
場所は岩山ステージ。歩いていたら此処に来てましたぁ~。
「覚悟……!」
「何をして来るかは分からない。立ち回りは重要だ……!」
「当たり前……!」
綺麗な陣形を組み、私の周りを囲んで嗾けられます。
上手く連携も取れてますし、流石は都市大会の決勝戦まで来た強豪チームですねぇ~。
「貰った……!」
「何かをあげましたっけ~?」
「「……!?」」
飛び掛かり、一気に詰め寄って仕掛けてきたお三人方は体が硬直し、動かなくなる。
そうでーす。既に作戦に嵌めてたんですよ~。
「い、一体何を……!」
「に、匂いは自分にも影響があるから……」
「そ、そう簡単には使えない筈……」
「あいうえお作文ですかぁ~?」
体が動きにくくなり、覚束無い言葉遣いとなる皆様方。
そうですねぇ~。成す術無くやられてしまうのは可哀想なので説明しておきましょうか~。
「位置取りを見てくださぁ~い。周りに色んな岩がありますよねぇ~? 匂いを周りに放った時、吹き抜ける風が岩を通って私以外へ赴くように調整したんですよ~。確かに匂いは私にも影響が及びますけど~、やっぱり他の人達より持つんですよ~。なのでアナタ達が早く受け、動けなくなったんで~す」
「ゆ、ゆっくりな話し方だな……」
「だ、だが……」
「そ、それで分かったぞ……」
此処に来た時点で岩の配置を見やり、上手く回るように調整しました~。得意科目ですからね。
お陰で気付きにくい程度の匂いでも十分に広がり、術中に嵌める事に成功したんです。
「そしてトドメはこれですね~」
「「「…………!」」」
麻酔と痺れと睡眠を合わせ、脳に直接作用して意識を奪い去りましたぁ。
倒れた瞬間に移動し、これで三人が倒せましたねぇ。
「おや~? なんでしょう~」
すると下方の街で粉塵が舞い上がりました。
激しい戦闘が行われているみたいですね~。向こう側の森方面ではティーナさんのゴーレムが暴れてますけど、火柱が立ったので既にボルカさんと合流してますねぇ。
それでは私はそちらに行ってみましょうか~。
「出っ発~」
腕を上げて気合いを入れ、ゆっくりと歩み出します。
少しは急ぎましょうか~。速度上昇の匂いを使い、通常の三倍くらいになりました~。
戦況は分かりませんけど、頑張って行きましょう~。
*****
「……っ」
建物が崩落し、辺りに大きな粉塵が舞い上がる。
鬼が消され、再び魔導書を展開。準備が整うまでストーリーを進展させないの本魔法で対応。
「本……指定、場所。登録──投下!」
「いや~!」
複数の巨本が降下し、ローブの女の子は悲鳴を上げながら逃走。次の瞬間には周囲を風で囲み、本が風の刃によって切り裂かれた。
けど準備は整い、魔力を込める。
「物語──“オーク”!」
『『『ゴガアアアァァァァッ!!!』』』
「沢山居ます~!」
一体の力では限られる。だから手数で攻め立てる。
オーガの方が質は良いけど、量なら圧倒的にオークに分があるから。
「ごめんなさい!」
『『『───!』』』
そしてオーク達は容易く消し去られた。
無数のオーク相手に臆する事無く踏み入り、レイピアにて切り裂かれる。
言動では怖がっているように見えるのに、全然そんな事無いじゃない。
「“圧縮”!」
「ひっ……!」
こんな性格だけど……。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
この子……強い……!
顕現させ、束ねた本で押し潰してもレイピアを用いて切り裂き、踏み込んで私の方へ。
「“本”!」
「護りも硬いですね……」
風魔法による派生の雷をレイピアに纏い、高速の刺突を繰り出す。
それは咄嗟に具現化させた本で防いだけど、その数は十冊。全て押し切られてしまい、単純にレイピアの射程範囲外に収まったから防げただけ。
目測では中等部の一年生だけど、その上で雷魔法と言う高度な派生魔法を行えるなんてね。かなり才能に溢れた子。その辺もティーナさんに似ている。
また本魔法を準備しなくてはならないわね。
「貴女、謝罪しながらも容赦ない攻撃を仕掛けてくるんだね。下手したら死んじゃうわ」
「うっ……そ、そうはならないように細心の注意は払っています……ごめんなさい……」
「二言目にはごめんなさいごめんなさいって……そもそもなんでローブなんか被ってるのかしら? 戦闘に支障があるでしょうに。私なんかその程度で十分って言う挑発?」
「そ、そんなんじゃありません! こ……これは……その……顔を見られるのが恥ずかしくて……」
「よくこの大会に……と言うよりダイバースの部活でもチームでも入れたわね」
「恥ずかしさとゲーム好きは別ですので……」
「ふうん? 確かにそれはごもっともだけど、表彰式とかの時もこのままなの?」
「はい……」
どんどん声が小さくなってくる。
これで会話は好きなんだものね。色々と矛盾しているような気がするわ。
……いえ、多分いつの間にか私にシンパシーを感じてこの調子なのかもね。私ってこの子程引っ込み思案じゃないんだけれど。
ま、でも準備は整ったし、また戦える。力で押し切るのは大変そうな相手。それなら攻め方を変えましょうか。
「物語──“迷宮”」
「……!」
私は姿を眩ませ、彼女の周りは瞬く間に迷宮へ。
無機物は生き物を出すより消費魔力が少なくなるけど、迷宮レベルの広さだと少し多いくらい。
今のうちに魔力を込め、色々な罠でも張って置きましょうか。
「急に変わってしまいました……どこですか此処は……」
不安そうに呟く女の子。性格が性格だから少し可哀想かもしれないわね。
けど容赦はしない。そう言うルールだもの。
「“罠”」
「……!? 電気~!?」
足元を帯電させ、女の子の体を痺れさせる。
意識を奪うのが目的な以上、方法は物理的に仕掛けるしかないわね。リタル先輩と合流出来たらそのまま眠らせる事も可能だったけど、私がやれるのは本から物語を引っ張り出すくらいだもの。
「危なかった~」
「……」
そんな痺れる床にレイピアを突き立て、自身の雷魔法で電流の方向を操作。と言うより雷をぶつけて相殺。遮断し、自分には及ばないようにしていた。
「“罠”」
「……!」
更に追撃するよう全方位からトゲを出し、彼女の体を挟み込む。しかし彼女はトゲを砕いて背部の弓矢を手に取り、魔力を込める。
「やあ!」
「……!」
次の瞬間は矢が引かれ、迷宮の壁に穴が空く。その間に駆け出し、ササッと突破されてしまった。
閉じ込められるのは慣れているのかしら。いえ、そんな様子でもないわね。それにしてもこの迷宮は強度からしてもかなりの物だったのだけれど、あの子の方が魔力の質で私より遥かに上って事になるわね。
「あ、見つけました! 酷いですよ閉じ込めるなんて~!」
「貴女こそ酷いじゃない迷宮と言うものはちゃんとゴールしてくれなきゃ」
「あう……それは……あまり時間を掛けるのはダメだと判断して……ごめんなさい」
少し反論するだけでシュンと落ち込む。
なんか此方が悪い事してる気分。それを隙として利用させて貰っているけど、一向に進展も無い。
隙だらけなのに決定打が無いのは少し大変かな。
するとそこへ声が掛かる。
「あ! 我が後輩のウラノちゃんー!」
「あらあらぁ……何やら手古摺っているようですねぇ~」
「……先輩方」
「ひっ……相手のお仲間さん……!」
箒に乗って姿を現すメリア先輩に、いつもより気持ち早めに動いているように感じるリタル先輩。
どうやら先輩達も辿り着いたみたい。それは攻め切れていない私にとっては有り難い事かしら。
「その子が相手ー?」
「顔が隠れてますね~」
「そうですね。オドオドしてますけど実力者です」
「わわわ……さささ、三人になっちゃった……」
先輩達が現れる事で女の子は見て分かる程の動揺を起こす……最初から分かってたけどね。あの子の動揺加減は。
何はともあれ、私一人では攻めあぐねていた現状、先輩達の到着は正直助かる。
簡単に説明した後、協力して戦いましょうか。これは個人戦じゃなくてバトルロワイアルだもの。




