第五十三幕 合流
単独で行くか仲間達のサポートに回るか。そのどちらかの選択肢。
私が選んだ方法は、単独で行きながら仲間達のサポートも兼ねる事。森から離れたら不利になるなら、ずっと森と一緒に行動すれば良いだけ!
「“ジャイアントフォレストゴーレム”……!」
『ウオオオオォォォォッッッ!!!』
「な、何よ……これ……」
「目の前のゴーレムの……」
「何倍だ……?」
「と言うか俺達の足元すら……」
「いや……」
「この森全域が……ティーナ・ロスト・ルミナスの手中に収まった……!」
他の人達は出現の余波に巻き込まれたりしていないみたいで何より。だけど私達が勝つ為、みんなにはリタイアして貰わなきゃ!
「そーれ!」
『オオオォォォッ!』
「来る……!」
「森が……!?」
「降って……!?」
超巨腕を振り下ろし、大地を粉砕する。その余波は遠方にまで広がり、上部から街の一部が崩落したのを確認した。
樹木一本一本の重さは1tにも満たないけれど、複数に束ねればその重さと威力は上乗せされる。その威力で打ち付けたからこれくらいの破壊力になったみたいだね。
このやり方なら、みんなのサポートをしながらでも私自身が戦える……!
「なんて馬鹿げた破壊力……!」
「これはもう、誰を狙うとかの次元じゃないわね……!」
「まずはティーナ・ロスト・ルミナスを倒してから改めて考える……!」
そして予想通り、全員のヘイトは私の方へ。
でも大丈夫。さっきより大きいし、それによって私の位置も見つかり難くなっているから。
この大きさなら一挙一動で広範囲を狙える。速度も大きさ相当だから、避ける間もなく嗾ける!
「はあ!」
『オオオォォォッ……!』
「あの図体でこの速度……!?」
「避け切れ──」
風を切る音が空洞を通り、まるでゴーレムの鳴き声のようになっている。
片手を薙ぎ払い、他の人達を吹き飛ばして岩山方面と街方面に衝突。粉塵を巻き上げると同時に光が伸び、リタイアによる転移を確認した。
「次はこれ!」
「更なる枝が……!」
「ただでさえ広範囲ってのによ……!」
振り被った腕から大木を生やし、触手のように周囲へ伸ばして蹴散らす。
それによってまた二人が消え去るように転移した。既に空中で意識を失っていたみたい。
後は最初に戦っていた人達だけ! 現状はね!
「これがティーナ・ロスト・ルミナスの実力か……!」
「此処は撤退した方が良いかもしれないわ」
「悔しいが、確かにそうだな。まだ私達を見つけてはいないようだ」
後の二人は何処だろう。体の何処かに居るのは分かっているけど、探し出すのも一苦労。
ティナの視覚範囲にも限りがあるからね。全部を見渡す事は出来ないし、直感に従うしかない時もある。
でも近くに誰かが来ている可能性もあるから無闇には戦えないよね。
「おっと、逃がさないぜ。センパイ達!」
「……! 貴女は……!」
「ボルカ・フレム。良い……相手にとって不足はない……!」
すると近くで火柱が立ち上った。
この魔力の気配……ボルカちゃん? ティナを行かせてそちらの様子を確認。
一時的にゴーレムは止めて置こっと。
「ゴーレムの動きが止まったな。今の火柱から位置を特定されたか」
「でも仕掛けては来ないみたいね。ボルカ・フレムが居るからかな」
「それは良いな。あの質量で押し込まれる事は無くなる」
「オイオーイ、あんましアタシを舐めないでくださいよ。センパイ」
あの二人、かなり強いけど大丈夫かな。ボルカちゃん。
彼女は炎の剣を作り出し、全身に魔力を込めて強化。二人も杖を構え、一瞬だけ向き直って飛び出した。
「はあ!」
「はっ!」
ボルカちゃんと一人がぶつかり、炎の剣と魔力強化された杖が弾ける。
弾いた瞬間に熱と魔力によって爆発的に速度を上げ、死角へと回り込んで炎の剣を振り抜いた。
しかし器用に杖でそれを防ぎ、ボルカちゃんの体を押し退け、杖先を打ち付けて吹き飛ばした。
ボルカちゃんは片手を地に着けて体勢を立て直し、長髪の女性は笑う。
「ハッ、どうだ。生意気な後輩……!」
「今のアタシに追い付く速度……そちらのセンパイがサポートしているみたいッスね」
「あら、もう分かっちゃったの」
「オイ。ブラフの可能性もあるのにそう答えたら真実味を帯びてしまうだろう」
「大丈夫だと思うよ。だってあの子、その上で倒してやろうって気概が感じられるもの」
「へへ……!」
不敵に笑うボルカちゃん。彼女もまだまだ余裕があるね。流石!
けど、どうやらもう一人の方が味方を強化させているみたい。私も何か力になれば良いけど、サポートに向いている植物ってなんだろう……。
「さて、だったら続きと行こうか」
「上等ッス!」
踏み込み、互いに駆け寄る。
一瞬の感覚間で速度を上げ、魔力強化された杖と炎の剣が衝突。火花と魔力を散らし、互いに弾き飛ばされた。
その瞬間に再び距離を詰め、剣と杖と言う二つの得物によって鬩ぎ合いが織り成され、周りの植物も遮蔽として隙を窺う。
「そこ!」
ボルカちゃんが無理矢理身体を捩じ込み、炎の剣尖を突き立てる。相手は後方へと距離を取りながら杖を振り、魔力込めた。
「“魔弾”!」
「“炎弾”!」
二つの先端から炎と魔力の塊が放たれ、正面衝突。大きな爆発が起こり、三人の眼前が爆炎に掻き消されて視界不良となった。
そこへ突き抜けてくるのは、炎魔術による手から放った火で推進力を高め、回り込むように背後を取った──
「視界が悪くなれば……全方位を警戒するのは当然だ──……!?」
木片。
ボルカちゃん自身も回り込んでいるけど、木片を先に煙の中から出す事によって視線を誘導したのだ。
相手が木片を叩き割った一秒くらい後にボルカちゃん自身も飛び出し、回転を加え威力を高めた炎の片刃剣による峰打ちを叩き込み、意識を奪い去る。
間髪入れず、流れるようにもう一人の方へと赴き、反応されるよりも前に打ち倒した。
直後に転移し、場は静まり返る。
「一丁上がり……手強いセンパイ達だったぜ」
そして魔力を消し去り、他に敵が居ないかの確認を周囲へ炎を放って終えた頃合い、私はそんな彼女の前に降り立つ。
「スゴいよボルカちゃん! 私一人じゃ防戦一方で逃げるしか無かった相手に勝つなんて! やっぱりボルカちゃんは天才だー!」
「ハハ、やっぱこの超巨大ゴーレムはティーナのか。と言うか、ティーナなら勝てたんじゃないか?」
「ううん。一か八か誰か来てくれないかなって造ったゴーレムだから……あ、でも何人かは倒したよ!」
「ティーナもやるなー!」
まだまだ相手は残っているけど、一時的に心が休まる環境が作られて私達は談笑する。
これでアステリア学院以外の各チームで二人ずつ。六人は減ったね。残りは私達を抜いて九人かな? 数では圧倒的優位に立ったよ!
「残りは九人……頑張ろうね! ボルカちゃん!」
「ああ。けど、此処に来る途中でアタシも一人片付けたから八人だ。このまま勝とうな!」
「流っ石!」
既に倒した後。残りの人達は何処に居るのか分からないけど、各チーム最大で三人。うち一つはもう二人しかいない。
まだ開始数分くらいだけど、流れはこっち側に来ている。私もボルカちゃんと合流出来たから当面の目的は達成かな。
「取り敢えず乗って! ボルカちゃん! みんなと合流してから考えよう!」
「お、おお。これで移動するのか……大丈夫か?」
「大丈夫! 例え山とかに躓いても壊れないよ!」
「いや、強度じゃなくてティーナの消費魔力。この大きさだととんでもないんじゃないか?」
「そうかな? 私的には適度な休憩を挟みながらのジョギングしているくらいの感覚だけど」
「ハハ、やっぱティーナはスゲェや」
この子を動かす事に対する魔力の消費を心配するボルカちゃん。
でも今言ったように私は大丈夫。それよりみんなと会う方が優先!
「行こっ!」
「ああ」
ボルカちゃんの手を引き、ゴーレムの手に乗る。そのまま内部へと入り、ママやティナの要領で魔力伝達からの操作。
私達は別の場所へと向かった。
*****
「──あら、貴女は敵?」
「は、はい……そうです……ごめんなさい……」
「なんで謝るの。全員敵なんだから当たり前! って返すところでしょ」
「うっ……ごめんなさい……」
「だから……ううん。多分もう一回謝るタイプの子ね」
──私はウラノ・ビブロス。
分断されると言う、バトルロワイアルのルールを把握して誰かと会おうかなって考えて行動していたけど、会ったのは小柄な女の子。年齢的には私達と同じくらいかしら。
ローブを深く被り、得物として腰にレイピア。背部に弓矢を携えた気弱そうな女の子。性別の判断は……隠れて見えない顔以外の容姿かしら。
声も判断材料だけど、私と同年代ならギリギリ声変わり前の男の子も居るからね。
少し露出している肌の質感やちょっと膨らんでいる胸。私達くらいなら男女の差はそんなに無いけど、多分女の子で確定ね。
それはそれとして、こんな感じなのによく私の前に出てこれたものね。
「貴女、そんなに人見知りなのに私の前に出て平気なんだ」
「は、はい……そう言うルールなので……」
「戦いたくは無さそうね。私も戦闘はあまり好きじゃないけど」
「あ、気が合いますね。私もダイバースでは謎解きとか脱出とかそう言うルールが好きで……」
「そう。私も好きよ。それらのルール」
「そうなんですか~! じゃあ今度、来月辺りの長期休暇に一緒にそんな感じのダイバースに出ませんか! 一般参加自由の!」
「……ちょっとシンパシーを感じたからってグイグイ来るのね……」
「あう……す、すみません……私、こんなんだから友達も居なくて……」
「……貴女を見てると誰かを思い出すわ。近い人がチームメイトに居るもの」
「そうなんですか……会ってみたいな~」
「此処から離れるか勝ち残るかすれば会えるわ。そう言うゲームだからね」
「そ、そうですよね!」
お淑やかで落ち着きが無く、人見知りで戦闘嫌い。第一印象は何処までも大人しい女の子……ってところかしら。
都市大会の決勝戦にまで到達するチームでレギュラーに選ばれるような存在。油断はしないけど、簡単に勝てるかもと言う気になってしまう。それもダメなんだけれどね。
私と同年代くらいで強豪の主力。“魔専アステリア女学院”と違って他校は部員数も多いだろうし、実力者なのは承知の上なんだけど、複雑な感じ。
まあ、人と話すのが嫌いな訳じゃないみたいだから会話に乗じて魔法の準備は整った。私は敵戦力を減らすように努力しましょうか。
魔力を込め、私は言葉を続ける。
「だけど……そう簡単に突破はさせないし負ける気も無いわ。物語──“鬼”」
『グガアアアァァァァッ!!!』
「ひぃ!? お、鬼……!? これが本魔法ですね……映像は見ていますけど、目の当たりにするとスゴい迫力です……」
魔導書を開き、単純な戦闘能力の高いオーガを召喚。
金棒を携え、四、五メートル程の体躯で彼女を見下ろす。
「華奢な貴女には悪いけど、力で一気に捩じ伏せて終わらせるわ」
「わ、私も負ける気はありません……!」
ゆっくりとレイピアを抜き、少し震えながら構える。
話を聞く限り、戦闘系のルールには積極的に参加しないみたいだから戦闘経験は少なめ。そしてこのオドオドした態度。それでも尚レギュラーとして選ばれた。
お手並み拝見ね。お互い様に。




