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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第五十二幕 混戦

「まずはゴーレムを崩し、ティーナ・ロスト・ルミナスを引き摺り出すぞ……!」

「ああ……!」


「多分他の連中はティーナ・ロスト・ルミナスを優先して狙う筈だ」

「だからそこを突いて敵戦力を減らすって訳ね」


「私が最初からティーナと戦っていた。ティーナは私がやる」

「それじゃ、私は漁夫の利で他の方々を狙うよ。勝つ為にね」


 下方に居て聞こえないけど、それぞれで作戦を考えているみたいだね。

 他のみんなの位置取り的に仲間達以外には内容も届いていないだろうから、どんな作戦で来るか推測して上手く脱出を図ろう。

 そして多分、私が動けば各々(おのおの)が動き出す。始まるタイミングの主導権は私にあるけど、あまりらすと誰かが先に仕掛けちゃう。私の仲間達が合流するのは向こうも避けたい筈だから。

 だから私の思考は簡略化させる。どんな作戦で来るか、それについては普通に考えれば良い。相手のやりそうな作戦は、私を狙うか他の人達を狙うか。どう転んでも私が狙われるのは変わらないとして、此方こちらが相手の意表を突けば良い!


「それなら……これ!」


「……!」

「周りの植物を……!?」


「あの図体で仕掛けて来ないのかよ!」

「けど力はあのゴーレムより小さい。冷静に対処すれば問題無いよ!」


「そう来たか……!」

「やるわね」


 ゴーレムの足元にも魔力は宿っている。だからこそ、そこから地面に魔力を付与。周りの植物を手中に収め、全方位からの奇襲を成立させた。

 迫る植物達から逃れようとかわす人達だけど、まだ脱出のチャンスにはならない。

 それは周りの植物も含め、当然私の事も警戒しているから。視界にゴーレムを収めながら避けてるのを見る限り、私が離れたら気付かれる。そしたら集中狙いされてゲームオーバーが関の山。

 だから逃げるなら完璧なタイミングで。もしもボルカちゃん達の誰かが此処に来たら共闘すれば良い。

 現状の最悪は私がやられてしまう事か、脱出のタイミングで誰かが来てすれ違いになる事。運にも身を委ねなきゃならないのは大変だね。


「はあ!」

「よっと!」


「やあ!」

「そら!」


「よいしょー!」

「はっ!」


 そして植物達は簡単に薙ぎ払われる。

 だけど攻撃には二手三手先の事も考えてある。ちょっと複雑だけど、今払われた植物達に魔力を込めて纏めれば……!


『『『………』』』

「……! 小さなゴーレム……!」

「小さいと言っても三、四メートルはあるんじゃないかな」


 ズズーン! と三体のゴーレムが降り立つ。

 味方は来ていないけど、ママの魔法で増やす事は出来る。

 これも時間稼ぎにしかならないとしても、隙を作れればそれで良いからね!


『『『…………』』』

「来た……!」


 ゴーレム達は飛び掛かり、六人は各々(おのおの)で対応。

 片や剣で斬り払い、魔力の弾を撃ち込んで破壊。

 片や炎魔法で焼き尽くし、土魔法で固めて行動不能にする。

 片や魔力を込めた杖で物理的に殴って吹き飛ばし、その間に仲間がバフを掛けている。

 壊れるとその側から再生するけど、土で固められちゃった子は再生不可。自由になった二人は私……ではなく、他の人達の方へと駆け出した。


「悪いけど、アナタ達も邪魔なのよ!」

「チッ……少しは考えろよ……! 厄介なのは明らかにティーナ・ロスト・ルミナスだろ!」

「ふふ、あの子なら後からでも倒せる。出力はスゴいけど、まだまだ未熟だからね」

「この……!」


「そう言う事だ。俺達は始めからこれが狙いだったんでな」

「もう、面倒臭いな……!」

「コイツは私がやる。ゴーレムの方を頼んだ」


 飛び掛かった二人によって場は掻き乱される。

 今が逃げるチャンスかもしれないけど、ゴーレムと合わせて2vs1vs1が作られている状況。誰か一人はフリーになれる余地がある。

 何故ならゴーレムは単純な思考だから私と仲間達以外の全部を攻撃するように設定しているから。

 だからまだ動けない状態かな。


「“フレイムリング”!」

『……!』

「だァ! クッソ! 邪魔だな!」

「このアマ!」


 炎魔術師の女性が火の輪を展開し、ゴーレムとプレイヤー達を焼き払う。

 私も狙いなのは変わらないらしく、乗っているフォレストゴーレムも炎に巻き込まれた。

 完全に全部を敵に回すやり方みたい。


「“土壌牢獄”!」

「……っ。泥濘ぬかるみ……!」

『………』


 そして土魔法の男性は地面を緩くし、最初に私へ仕掛けて来た長髪の女性と私のゴーレムの足を取る。

 大きさが小さいと土魔法とかで絡め取られるのは弱点になるんだね。また一つ勉強になったよ。


『………』

「わ……わわ……!?」


 そんな事を考えていると乗り込んでいるゴーレムも傾いた。

 泥濘をどんどん広げて沈めようとしているみたい……! この状態でも仕掛けなきゃ……!

 外の様子は内部からよく見えないけど、ティナを既に全体が見渡せる位置に配置してあるから状況も分かるし狙いも定められる。


「“樹海創生”!」

『………』


「「……!」」

「「……!」」

「「……!」」


 ゴーレムに魔力を込め、足元から森全体へ。

 更なる樹海を生み出し、木々の生い茂る範囲を広げた。

 隙間から差し込んでいた日の光も抑え、森の中は暗くなる。私の位置から見ても分かる程の木々の量。ティナを通しても見えにくくなっちゃうけど、相手の意識を逸らすにはこれくらい必要だもんね!

 今のうちに脱出の準備を──


「……!」


 次の瞬間、森全体が発火した。

 そうか。炎魔術の子……! 彼女が居るからすぐに燃やされちゃうんだ! でも想定内ではある。火でも視界はさえぎられるから、フォレストゴーレムを自立させて私は飛び出す。

 ほうきを持っている人も居なかったし、このくらいの高さなら逃げるまでの余裕はあるよね。

 私の近くに枝を伸ばし、座って別の場所へと移動した。


「ふう……何とか抜け出せた……ママとティナのお陰だよ」

『ふふ、貴女の応用力の成果よ』

『そうそう! ティナは見てただけだし!』


 魔力で身体能力を強化し、燃え盛る森は見えるけど大分離れた位置へ。

 何とか見つかる事無く脱出には成功したけど、上手く気配を消して隠れなきゃね。

 森の中は暗くて少し怖い。相手の位置も分かりにくいから街中の方に移動しようかな……。

 けど私達の本領を発揮出来るのは街より森の中。植物が多ければそのまま対抗手段の多さに直結するからね。

 リスクかメリットか……優先するのはどっちだろう。ルミエル先輩なら迷わずメリットなんだろうけど、まだまだ経験不足の私は選べない。


「どうしようか……ママ……ティナ……」

『そうねぇ。貴女が戦うなら森の中に陣取っていた方が良いけど、仲間のサポートに回るなら街中とか目立つ場所に移動した方が良いかもしれないわ』

『そうだねぇ。ティーナがどうしたいのかに寄るねー』


 自分一人(ママ達も居るけど)で戦うか、ボルカちゃん達の方に行ってサポートをするか。

 それを踏まえて改めて考えてみよう。


 まず私一人の場合、相手の居場所は分かっているから今すぐ戻れば地形を利用して立ち回れる。だけど私狙いの方が多くなるのはほぼ確実で、人数では圧倒的に不利な状況を強いられる。


 そして仲間達の方に行く場合。

 近くに来ている可能性自体は高いからティナを先行させて見つけ、合流。今後は複数人で立ち回る事が出来、今居る相手の場所も分かっているから有利に運べる。でも転移場所が遠過ぎると合流はしにくいし、そもそも会えない可能性があって仲間探しに気を取られているうちに私がやられちゃう線も出てくる。


 どっちにしても一長一短。現状で一番確実なのは私があの人達の場所に戻る事……。

 ……それかもう一つ……。



*****



「──すみませんけど、仲間が呼んでるんで行かせてくれないスかね。センパイ」


「あら、ダメよ。ボルカ・フレムちゃん。貴女の実力はよく知ってるもの。貴女を野放しにすると被害が大きい……私を相手に足止め食らってなさい」


「逃げ回ってばかりであんまり面白くないんですけどねー」


 アタシはボルカ・フレム。現在地は街と森の間にある建物と木々が半々くらいの場所。

 今さっき森の方で巨大な樹が現れた。ティーナが呼んでるってのが分かったからそこに行こうとしたんだけど、ちょっと面倒なセンパイに絡まれていた。

 何が面倒って言われれば、戦う気が全く無いのにちょっかい掛けてくる点。

 相手の狙いは分かってる。今も言われた通りアタシの足止めだ。多分実力ではアタシが勝ってるんだろうけど、自分が率先して足止めする事で仲間達の方に行かせないって魂胆。無視して行こうとすると追撃してくるし、マジで面倒なセンパイだ。

 ティーナの元に駆け付けたいし……くなる上は体力の大幅消費を覚悟して一気に突破するくらいしかないな。


「しょうがないか。センパイ。逃げた方が身の為ッスよ」

「フフ、心配せずとも仕掛けてきたら逃げるから問題無いわ」

「いや、そんな領域の話じゃないんで。最近鍛えてちょっと範囲が広くなったからマジで危険なんです。回復魔法や魔術でも何処まで治療出来るか」

「そう。それならその力を使わせ、余力を残させない方が良さそうね」

「どうなっても知りませんよ……!」


 忠告も警告もした。その上でアタシの魔法・魔術を至近距離で見、逃げる魂胆らしい。

 ま、もしも範囲外に行けるくらいならアタシの通り道は出来るし、魔力を一気に消費する以外のデメリットが無いんで遠慮無くさせて貰う。


「──“フレイムバーン”!」

「……!」


 アタシの魔力からなる大きな炎の爆発が置き、センパイが反応する間もなく吹き飛ばした。

 本来なら全身大火傷は負うけど、アタシの魔力消費を抑えるのとあまり大怪我を負わせないように出力を調整したから多分大丈夫だ。

 今のうちに体へ魔力を込め……って、隙を窺う必要は無くなったみたいだ。センパイは消え去り、控え室へ転移した。つまり意識不明になったって事だな。


「ま、力は込めっけど……!」


 踏み込み、加速。数分くらい時間を食っちまったな。ティーナなら大丈夫だとは思うけど、念の為に急ごう。

 森の方へと近付くにつれ、魔力の気配が強まった。


「オイオイ……マジかよ。ティーナ……!」


 見上げるとそこには、森……いや、それどころか近辺の大地その物が立ち上がり、巨大な人型となった存在が立っていた。

 足元からほんの少し生えているように見える樹のゴーレムですら十、二十メートルはあるのに、その倍……どころか四、五倍はあるぞ……。

 ティーナのやつ、此処までする必要がある敵と相対してんのか?

 なんにせよ心配なのは変わらない。早くそちらに向かってみるか。

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