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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第五十一幕 都市大会の決勝戦

《それでは、やって参りました! “多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”! 都市大会の決勝戦!! チーム対抗戦、“バトルロワイアルゲーム”!!!》


「「「わああああああ!!!」」」

「「「うわあああああ!!!」」」


 決勝戦のルールが言われ、会場が一気に沸き上がる。……って、


「バ、バトルロワイアル!? それってどんなゲーム……?」

「複数人による……ころ……じゃなくて倒し合いかな?」

「倒し合い……今まで以上の団体戦って事……? だから決勝戦なのに二チームだけじゃなくて複数チームなんだ……」


 バトルロワイアルという耳馴染みの無い言葉だけど、要するに各種チームによる全面対決って事みたい。

 決勝に残ったチーム数は私達を含めて四チーム。普通よりも多い。それは今回のルールに伴っての理由らしい。


《それでは紹介致しましょう! まずは今大会も注目の優勝候補! “魔専アステリア女学院”! 優秀な新一年生を迎え入れ、更なる力を付けたチームです! 去年は惜しくも都市大会の決勝戦で敗れ、今年はその雪辱を果たす為に舞い戻って来ましたァーッ!!!》


「去年……都市大会の決勝戦までいったんですか……たった二人で……」

「まあねー!」

「決勝戦はほとんど成す術無く負けてしまったんだよぉ~」


 先輩達が二人だけで決勝戦に残ったのもスゴいけど、そんな先輩達が成す術無く敗れた相手と言うのも気になる……。

 今大会の決勝には居るのかな?


「そのチームって今回は……」

「名前は無かったかなー。そもそも主力が三年生だったから、居るとしても高等部の方の大会かも」

「三年生のレギュラー陣より前学年の人達はよく知らないレベルだったからねぇ~。地区大会で負けちゃった可能性もあるよぉ~」


 そのチームは今大会には不参加。もしくは既に敗れている可能性が高いらしい。

 そう考えるとラッキー……なのかな? 少し見てみたい気持ちもあるけど、此処まで来たら勝ちの残りたい気もするからね。

 なんにしても、今回も強敵揃いなのは変わらない。だから集中して行くよ。


《──以上、今回の決勝戦参加四チームです! どの様な戦いが繰り広げられるのか、その顛末を見届けましょう!》


「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

「「「どぅわああああああああ!!!」」」


 他のチームの紹介も終わり、会場の盛り上がりは最高潮へ。

 私達は控え室へ移動し、今回の作戦について考える。


「今回はバトルロワイアルだ。私達以外の全員が敵同士の三つ巴……ならぬ四つ巴だからな。単純に考えて敵の数は十五人……と言っても潰し合いだから実際に戦う相手は少ないけど、一対複数も視野に入れて置かなきゃな」


「作戦的には今まで通り私が初手で一掃すれば良いよね?」


「そうだな。ティーナの植物魔法はかなり有用だ。範囲技だからかなり重宝出来ると思う。多人数戦でこそ光るとも言える魔法だ」


 基本的にやる事は変わらない。人数が多い分ステージが広いだろうから範囲魔法は大事だね。

 ウラノちゃんが説明を補足する。


「当然それについての対策は施されるだろうし、私達のサポートも不可欠だね。なるべく複数人で行動するように心掛けようか」


「基本的にされる事は燃やされるか斬られるか……取り敢えず手札の多いビブリーがティーナに付くのは変わらないな。ティーナは一対一の経験はほぼ無いしな」


 私はウラノちゃんと行動をする感じ。基本的にはいつもそうだね。

 ティナと感覚を共有している時は私自身が無防備になっちゃうし、ママの植物魔法を破壊されたら詰め寄られて大変だから。手数の多いウラノちゃんはかなり大事。


「となるとティーナとビブリーは確定。偵察係は多い方が良いからメリア先輩も必要だな。そしてバトルロワイアルってルールは今まで以上に疲れそうだから回復を担えるルーチェも居た方が良いかもな。となると残り一人だけど、単純な攻撃力が高いって自負しているアタシや範囲にバフやデバフを掛けられるリタル先輩も欲しいなー」


「自分で言いますの……確かにティーナさん以外は攻撃力が少し低めですからボルカさんは欲しいですけど……」


「人数を思えばリタル先輩も大事よ。本人はあまり参加したがらないけど」


「いいえ~。今回はリベンジマッチですのでやる気満々ですよぉ~」


「……そうは見えないけど……」


 要するにみんなが必要。全員対戦のバトルロワイアルだからこそ誰か一人でも欠けたら大変って感じだね。

 あれ? けど……。


「でもあくまで控えって事だから、既に決まっている私達の誰かを後半辺りに投入する方法なら良いんじゃないかな?」


「それもそうなんだよなぁ~。そういう意味ならアタシがもう前線に切り込んで疲れた所で控えの誰かと交代ってのも使える」


「私と合流出来ない可能性もありますものね。最初から一緒に行動する方法もありますけど、私自身がボルカさんに付いて行けないので交代して休憩って作戦の方が良さそうです」


 控えメンバーが居るので最初から出るか後半に出るかも選べる。

 だからあまり先に戦うかどうかは関係無いかもね。全員がレギュラーみたいなものだし、交代を戦略に組み込む作戦は良さそう。


「それじゃあその上で考えて行こうか」

「残り時間も少ないから手短にね」


 今回の作戦を話し合い、制限時間が来る。

 転移の魔道具で移動し、私達は舞台となるステージへやって来た。



*****



「……あれ?」


 そして、到達したのは私一人だけ。ううん、ママとティナが居るから厳密に言えば一人じゃないけど、それにしても随分と静かな場所だね。

 此処は森の中。沢山の木々が生い茂っているけど差し込む日光のお陰で暖かくて明るさもある。

 でもこのポツンとした感覚……。


「うぅ……心細いかも……」

『大丈夫よ。ティーナ。私達が居るもの』

『そうそう! 頑張ってこー!』

「ママ、ティナ。……うん」


 今までと違ってみんなが居ないから少し寂しいけど、ママとティナが居るから大丈夫。……だけど何故だろう……前より安心感が少ない……二人は生きてるのに無機質な感覚がある……。


「……!」


 ガサッ! と何かの気配が茂みから。

 みんなかな!? 私は嬉々としてそちらの方に向かう。


「ボルカちゃ──」

「ティーナ・ロスト・ルミナス!? 主力を発見……!」

「え!? 誰!?」


 よく分からない長髪のお姉さんが現れた。

 誰かがイメチェンした? って、そんな訳ないか。こんなにキリッとした顔の人知らないもん。


「なんだ。ルールを把握していないのか。バトルロワイアルでは公平を喫して転移時に個別で送られるんだ」

「あ、そうなんですか。親切にありがとうございます」

「あ、いや。どういたしまして……じゃなくて、取り敢えず此処で主力を落とせたら大金星だ!」

「やっぱりそうだよねー!」


 本来は丁寧な優しい人みたいだね。対戦中だから少し口調を強くしているみたい。

 けどそれがルールだったんだ。だから他のみんなが居なかったんだ。

 近寄られたら私は戦闘経験的に大変って話をしていたのに、まさかいきなりこんな状況が来るなんて思わなかったよー!


「取り敢えず、逃げなきゃ!」

「……! 木の壁……! だが味方の位置も分からない状態で広範囲技は使えまい!」

「その通りですー!」


 一先ず地面に魔力を流し、周囲の木々を操って壁を作る。

 この間に距離を置いて立て直さなきゃ。ボルカちゃんが言ってたように、一対一の戦いなんて初めてかも……!


「はあ!」

「ヒィ!」

「待て! 逃げるな!」

「ムリです~!」


 木の壁は跳躍で乗り越え、杖を振り下ろして地面が割れる。

 魔法使いみたいだけど物理的に仕掛けてくる。当然魔力強化で身体能力は高めてるよね。

 ルミエル先輩達に一通りの武術は教わったけど、二ヶ月と少しじゃ身に付かないよ~!


「“魔弾”!」

「これなら……!」


 魔力の弾丸が撃ち込まれ、それは木の防壁で防げた。

 魔法による攻撃はしょっちゅう仕掛けられるから慣れてるけど、自身の技量が物を言う格闘はダメ。とても対処し切れない。

 元々喧嘩なんてした事無いし、接近戦はホントに苦手なのー!


「こうなったら……!」

「……!」


 背を向けて逃げる途中で振り向き、足を止める。相手も何かしらを警戒して止まり、私は魔力を込めた。


「戦略的撤退!」

「またか……!」


 樹を伸ばし、天上高くへ移動。全ての木々を突き抜けて最上まで来、周りの様子を見やる。

 そう言えば、私はてっきり森ステージかと思ってたけどそうじゃないみたい。

 左側に見えるのは岩山。右方向には海。正面には街が映ったから。

 決勝戦の舞台だけあって色んなステージを掛け合わせた感じなんだね。


「待て!」

「来た……!」


 伸ばした樹を登り、相手が私の前へ。

 私は飛び降りるように離れ、別の樹を伸ばしてそちらに着地。更に枝分かれさせ、巨大な樹で相手へ仕掛ける。


「成る程。地上よりは戦いにくい空中へと誘ったと言う訳か。私がほうきなどを持っていないから理解したようだな。……だが、その程度では意味が無いぞ!」


「……っ」


 無数の魔弾を撃ち込み、木々を破壊していく。

 それでも私は周りの樹を伸ばし続け、樹人形を作り出してけしかけた。

 巨腕を振り下ろして粉塵が舞い、追撃するように枝を突き刺す。

 辺りの木々は粉砕するけど魔力を分け与えて再生させ、森全体を大きく揺らした。


「魔力出力と範囲は凄まじいが、乱雑で狙いが定まっていないぞ。私は今までのように物量のゴリ押しで勝てるような相手ではない!」


「……!」


 木々の隙間を抜け、振りかぶった杖で私の頬を打ち抜く。

 咄嗟に樹で覆ってガードしたけど衝撃までは■し切れず、地上へと落下。即座に柔らかい葉っぱを無数に生み出してクッションとし、軽く頬を触って大丈夫なのを確認した後に立ち上がった。


「護りは硬いようだな。だったら楽しませて貰おう!」

「……!」


 まだちょっと眩んで覚束無い。だけど私の作戦が成功したなら……!

 私はママに魔力を込め、全体を樹の護りで覆い尽くした。そろそろだとは思う。あんなに派手にやったんだもん!


「亀や蝸牛のように隠れても無駄だ! いずれは破れ──」


 ──次の瞬間、相手の声が途切れた。

 覆った樹の隙間から覗き、その人が倒れるように避け、転がる感じで私の樹の裏に回り込んだのを確認する。

 そして確認した者はまだいくつか。


「当たったか?」

「いや、避けられた。スゴい反射神経だ」

「他の試合であんなメチャクチャに暴れていたティーナ・ロスト・ルミナスを此処まで追い詰めているような奴だからな」


「……チッ、先客か……!」

「一番厄介そうなティーナ・ロスト・ルミナスを先に倒そうと思ったんだけどね……」


「オーイ! 今のでやられてないよね? あの子ったら先走っちゃって」


 やった! 即興だけど作戦通り!

 派手に暴れたら嫌でも目立つ筈。だから他のチームの人達も駆け付けてくると思ってたの。

 だってこれは四つ巴の戦いだもんね。ボルカちゃん達のうちの誰かは来てないけど、これで“1vs1”が“”1vs複数vs複数vs複数”になった……!


「くっ……私の仲間も来てくれたけど……まさか参加者達を一気に集めるなんてね……!」


「ひっ……!」


 ドンッ! と背後から樹の防壁を叩く音と声が。壁ドンならぬ木ドン。

 私のピンチは変わらない。だって私だけ味方が居ないんだもん。……ママ達とは最初から行動してたからまた別として……ね。

 私も早く此処から抜け出さなきゃ。そうするとまた暴れて、隙を作って逃げるのが勝ちだよね。敵戦力は聞いた声の感じだと三チームで二人ずつが来てるから、次に会う人は近くまで来ていたら仲間達って可能性が高い……!


(まずは外の様子を窺って……!)


 植物であまり音が出ないよう地面を掘り、その穴から少し離れた場所にティナを先行させて感覚共有。

 全体を見渡せる状態となり、相手の位置を確認。一定の距離は空いてるけど、離れ過ぎず近過ぎずで待機しているね。やっぱりちゃんと各々(おのおの)で作戦を共有しているみたい。

 けれどこのくらいの範囲なら、まだまだ余力を残して雲隠れ出来る!


「──“森の巨人(フォレストゴーレム)”!」

『ウオオオオオオッッッ!!!』


「……っ」


「仕掛けて来たか……!」

「やはり纏めて一掃する作戦だったようだな……!」


 違います! 逃げるだけです! 私にそんな力ありませんから!

 なんか私のゴーレムが吠えてるけど、そんな機能あったの!? あ、けどよく聞いたら空気が通って体内で反響しているだけの音かも。

 巨大ゴーレムを造り出し、周囲を薙ぎ払って吹き飛ばす。

 間違えて■んじゃったりしないよね……? みんな実力者だから上手く逃げてるよね?


「ティーナ・ロスト・ルミナスの居場所は……!」

「推測するならさっき彼女を囲んでいた樹の防壁の中だ!」


「ゴーレムの中枢……頭の方に居るみたいね」

「一番頑丈だろうし、骨が折れる作業だ」


「やっほー。一番近くで吹き飛ばされてたけど無事?」

「戦闘中は常に魔力で覆ってるからな。本来なら軽傷でも全身複雑骨折はしていたであろう勢いはあったが、全身打撲で済んだ」

「全く。まずは合流って作戦だったのに。ほら、“ヒール”」

「助かる」


 どうやらみんな無事みたい……良かったぁ……。

 だけど一人くらいは意識を奪って退場させられてたら良かったんだけどね。でも生きている事を喜ぼう。だって■んじゃったら悲しむ人が……。


「……?」


 ……また、この感覚。とあるワードにだけ靄が掛かったように消え去り、思考ですら止まる。

 何なんだろう……でも気にしている時間はない。何とかフォレストゴーレムと私を切り離して、自立させた後で逃げなきゃならない。

 ルミエル先輩ならともかく、とても私じゃ複数人相手に一人で勝てないもん。

 ダイバースの都市大会決勝戦、バトルロワイアルゲーム。味方以外の全員が敵のこの試合。まさに今の状況が開戦した事を物語っていた。

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