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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第五幕 初めてのランチタイム

 ──“ランチタイム”。


「お昼だー!」

「昼一緒に食べようぜティーナ!」

「うん! ボルカちゃん!」


 四時間目が終わり、待ちに待ったお昼ごはんの時間が来た!

 初めての学校。色々分からない事だらけだったり大変な事だったりでお腹ペコペコだよぉ~。


 “魔専アステリア女学院”ではお昼は学食かお弁当の持参。または購買部で何かを買う方針。朝と夜はみんなで食べるらしいよ。お昼は各々(おのおの)の好きに休憩して貰うようにしてるって学校案内に書いてあった。

 そう、ここは全寮制で、私はまだ部屋の方にも行ってないからお弁当は持ち込んでいないの。荷物は既に送られてるけどね。

 取り敢えず、それもあってお昼は学食か購買部で買わなきゃ。


「ティーナは昼どうするんだ?」

「購買部か学食かなぁ。お弁当はまだ持ってきてないから」

「そっか。アタシもそんな感じ。丁度良いね。どっちにする?」

「どっちにしよう……思い切って学食チャレンジ……! けどまだ少し怖いから……何か買って食堂以外の場所で食べよっかな……」

「よし、じゃあ良い所がある。そこに行こう!」

「わ!」


 ボルカちゃんに手を引かれ、購買の方へと走り行く……って、


「まだお金持ってないよー!」

「おっと、ハハ、うっかりしてた」

「もう、ボルカちゃん!」


 机に掛けてあるバッグから取り出し、改めて購買部へ。

 学食チャレンジは夕飯か朝食になっちゃいそうだけど、購買部も購買部で緊張する~。

 私、あまりお店とかにも行かなかったからね。店員さんになんて話せばいいんだろう。ボルカちゃんに任せよっか。


「じゃあ、これとこれとこれくださーい」

「よく食べるね……」

「アタシ達育ち盛りだからな! まだ体重とか気にする年齢でもないし、どんどん食べた方が良いよー!」

「アハハ……」


 スゴく豪快。会って一日目どころか数時間だけど、本当に十二歳(同い年)なのか度々思う。

 けどこの明るさ、みんなに好かれる理由は分かったよ。一緒に居て楽しいもん!


「じ、じゃあ私はこれかな……あとこれ」

「よし、早速とっておきの場所に行こう!」

「わわ……! ボルカちゃん~」


 買ってすぐまた手を引かれ、とっておきの場所とやらに向かう。

 まだ校内を把握した訳じゃないし、私にとっては全部が新鮮な場所だけど、少なくとも六年間は居る彼女が言うところ。期待値は高まっていくね。


「ここをまっすぐだ!」

「ここって……山……? って、休日とか学校終わりじゃないと校外に出ちゃダメなんじゃ……!」

「大丈夫大丈夫! あそこの山もアステリア学院の私有地なんだ。授業でもたまに使うし、原則では禁止されてないよ。ただ遠いから人がほとんど寄り付かないだけ」

「そ、そうなんだ……」


 ボルカちゃんが指し示す場所は高い山。どうやら学院内ではあるらしく、校則違反にはならないんだって。

 けど人が少ないって言うのは納得。だって険しいもん……。ボルカちゃんの人並み外れた身体能力の根源が分かった気がする……。

 昼休憩は一時間くらい。なのになんでこんなに急いでいるんだろうって思ってたけど、あの山を見たら納得するしかないよね……。


「レッツゴー!」

「と、徒歩だよね……」

「ああ! まだほうき絨毯じゅうたんの貸し出しが許される年齢じゃないからな! 貸し出しは十五から。あと三年だ!」


 ほうきやじゅうたんでの移動方法も確立されているけど、私達は年齢的に乗れても貸してはくれない。安全の為なんだって。

 だから行く術は徒歩。本当にトホホだよ……。


「ティーナは自分の身体能力を強化出来るか?」

「どうだろう……やった事はないかな……」

「それじゃ、試してみて出来なかったらアタシが背負って連れてくよ」

「う、うん」


 また色々と不安がある……。だけどボルカちゃんが背負ってくれるなら少しは楽になるかも。

 体に魔力を込めるやり方……ママやティナに込めたのを私自身にすれば良いんだよね……集中して、全身に力を……。


「……こ、こうかな……」

「お、出来てる出来てる! まだ不馴れな感じだけど、この山を登るなら問題無いくらいだ!」

「ホント!」

「ああ!」


 そう言われると嬉しい。私にもやれば出来たんだ……!

 小さくガッツポーズをし、私はボルカちゃんの後を追って買った物を片手に山登りを開始する。……これって、一応お昼ごはんを食べる為なんだよね?



*****



 ──“頂上”。


「とうちゃーく! よく付いて来れたな。ティーナ!」

「うん……! はぁ……はぁ……少し疲れちゃったけど……上出来かな……?」

「上出来上出来! 魔力の微調整にこの登山に、初めてでアタシにここまで付いて来れる子なんていなかったからアタシも嬉しいよ!」

「喜んで貰えて良かった~……」


 登山を終え、ちょっと疲れたけどボルカちゃんに喜んで貰えて私も嬉しい。同い年でここに来れる人がいなかったのも頷ける。スゴく大変だもん……。魔力で身体能力を強化してこれでしょ……?

 未だに肩で息をする私にそっと手を添え、ボルカちゃんは遠方を指差して言葉を続けた。


「そして、ここから見える景色がアタシのとっておきさ!」

「わあ……」


 思わず感嘆の声が漏れた。

 眼前に広がる光景は、緑が広がる森林の景色。遠くには海……水平線が続き、その先にはうっすらと島みたいな物が見えた。学院の近くに海なんてあったんだね!

 ここから見える私達の通う学院は小さく、お人形さんのお家みたいな大きさでポツンとたたずむ。あんなのが近くに行くと大きくなるなんて不思議な感じ。

 青天井には白い雲。新緑の低草を撫でるように暖かな春風が吹き抜け、陽光は燦々と降り注ぐ。暖かい風は私の髪とボルカちゃんの赤毛をフワリと揺らした。


「キレイ……」

「ん? ああ、確かにこっちの景色もキレイだな!」


 ボルカちゃんを見てか、彼女の奥にある景色を見てか。自分自身にも分からず声が漏れた。

 艶のある赤毛。凛とした眼。火の系統だからか、ボルカちゃんの赤があおい自然にキレイに映る。


「さて、休憩時間も少なくなりそうだし、さっさと食べちゃおうぜ!」

「うん! ボルカちゃ……」


 笑顔で袋を開け、私の表情は強張った。


「うん? どうした? ティー……ナ……」

「わ、私のアステリア学院限定サンドイッチ……」


 そこにあったのは、お昼用に買ったサンドイッチの見るも無惨な姿。

 確かに私、必死で袋をメチャクチャ振って走ったけど……こんなのって……。デザートと混ざり合ってグチャグチャ……。


「ああ……うん……御愁傷様……あ、そ、そうだ! アタシの買った物は沢山あるし、分け合いっこしよう!」

「ボ、ボルカちゃん……」

「わあ! 泣くな泣くな! サンドイッチって元々甘いのもあるし、きっと美味いって!」

「ありがとう、ボルカちゃーん!」


 自分の物を分けてくれるだけじゃなく、この苦しみを一緒に体感しようと彼女は提案してくれた。

 本当にスゴく善い子……初めての友達がボルカちゃんで良かったよー!

 私とボルカちゃんは互いの食べ物を分け、私はサンドイッチだった物を二つに割って渡した。ちょっと形が歪になっちゃったけど、私はちゃんと責任持って大きい方を食べるよ。

 ボルカちゃんの物は後で。後味は良く終わらせる為。私達は意を決してサンドイッチを頬張った。


「……あれ? 別に思ったより不味くはないな」

「うん……。本来の味より落ちてる実感はあるけど、食べれない程じゃないね」


 その結果、意外と悪くない事が分かった。別に美味しくはないけど。

 黙々と食べ、互いに顔を見合わせる。


「プッ……」

「ふふ……」


「「ハハハハハ! 変なの~」」


 緊張が解け、お互いに笑い合う。なんか可笑しくなっちゃった。

 一頻ひとしきり笑い終え、また親睦が少し深まった気がする。

 食べられない程じゃないけど美味しくもない、サンドイッチだった物を食し終え、ボルカちゃんに貰ったご飯を食べる。


「あ、これ美味しい!」

「だろー? 好きなんだ。ここのサンドイッチ!」


 私が買った物とは別のサンドイッチを頬張り、その美味しさに舌鼓を打つ。

 こんなに種類が豊富なんだし、シェイクされてなかったらもっと美味しかったんだろうな~とちょっと残念。

 けど友達と一緒に食べるご飯は美味しいね。

 雑談しながら食事を終え、終了時間が迫っていた。


「そろそろ昼休憩も終わりだな。帰りも遠いし、行こーぜ、ティーナ!」

「うん!」


 ゴミのポイ捨てはしないよ。当たり前。

 袋を持って立ち上がり、また魔力で体を強化して山下りを始める。

 行きの時より慣れたし、走りながらボルカちゃんとお話をしてみよっと。


「午後の授業はどんな感じなの?」

「うん? 基本的に変わらないけど……今日は初日だから五時間目で授業は終わりだな」

「あ、そうなんだ!」

「ああ。ティーナは多分まだ入寮の荷物整理とかしてないよな? アタシが手伝ってやろーか?」

「ホント!? それなら是非お願いするよ! 少ない方だとは思うけど、それでも荷物が結構あるから一人だと大変なんだ~」

「任せとけ!」


 あれ? 一人……? ううん、ホントはママにティナも居るんだった。

 居るけど、体が小っちゃいから結局やるのは私。そもそもママも自分の事は自分でやりなさいって言うよねきっと。

 だけどお手伝いしてくれるなら楽をしたいのが人間なのだ!

 そんな感じでお話をしながら校舎の方へ。さて、次は五時間目の授業だ!

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