第四十九幕 地区大会予選終了!
木に乗って移動した私はボルカちゃん達と合流した。
少しだけ言葉を交わしてボルカちゃんと相手のリーダーさんは突き抜ける。ゴールまであと数百メートル。精一杯のサポートはするよ!
「行くよ。ママ」
『ええ。ティーナ』
山の上から下方を見やり、ママの植物魔法でメリア先輩とルーチェちゃんを引き上げる。
相手の二人も土砂崩れを抜けて飛び出し、私はルーチェちゃん達を投げるように飛ばす。
「行ってらっしゃい!」
「ありがとー! 助かったよー!」
「感謝しますわ!」
「えへへ」
褒められると照れちゃう。
樹を使って絡め、ハンマー投げみたいな感じで放った。
これがレースゲームである以上、速度に勢いを付ける必要があるからね! 後は相手の二人を上手く足止めしておきたいところだけど、スゴく速いから上手く狙いが付けられない……!
「あれに捕まったら勝率は0になってしまう!」
「それだけは避けなくてはな!」
私の警戒は当然のようにされている。
私自身も選手だから此処はゴールを目指して進んだ方が良いかな?
「うん、そうしよ! そのついでに相手を止められたら上々だよね!」
『フフ、そうね。ゴールを目指して足止めもしちゃいましょう!』
「うん! ママ!」
植物を更に伸ばし、捕らえるのも狙いながらゴールへ向かう。
草木の成長速度にも限りがあるからそんなにスピードは出ないけど、前方の木々も操れば……!
「私を引っ張って!」
「まさか……!」
「己が魔法で出した物とは違う植物も操れるのか!?」
木々に引いて貰い、スリングショットのように向こう側へ。
私じゃなくてママだけど、既に森の中には魔力を解き放っているからね。バロンさんの時にやったように、魔力で遠隔操作して木々の成長を促し操っているの。
「ならばこちらもやるぞ!」
「おう!」
「……!」
二人は互いに手を取り、その場で回転。勢いを付け、さっきの私のように仲間を放り投げた。
それだけじゃなく、投げ飛ばされた人が魔力からなるロープのような物を引き、投げた人も持ち上げる。
同時に勢いを付けて飛んでいった……筋肉ってスゴいんだね……。厳密に言えば筋肉×魔法かな?
「……って、追いかけなきゃ!」
思わず感心しちゃってた。
ダメダメ。今は試合中なんだから集中して臨まなきゃ!
植物を更に伸ばし、サポートと妨害を担って執り行う。
伝って並走するように進み、そこから更に枝分かれさせて下方へ嗾けた。
「木の牢……!」
「筋肉で突破だ!」
枝は強化された筋肉によって砕かれ、突破される。
けど大丈夫! 私達の魔力は既にこのステージの大半を占めたから!
「アナタ達は……通しませんよ!」
「「……っ」」
絶句。相手は何も言えなくなって見上げる。
うっすらと記憶にある、迷宮脱出ゲームの時の私。その時は何かが不安で、心が荒れて、全てを破壊したくなった。
けど今は違う。イメージはそのまま、仲間の……ボルカちゃんの為にも私は……!
「“フォレストゴーレム”!」
『…………!!!』
「山その物が……」
「魔人に……!?」
あの時程の出力は出ていないけど、これくらいは出来る!
森のゴーレムを生み出し、その力を以てして巨腕を振り下ろす!
「やれー!」
『…………!』
「こんな……こんな相手が……」
「中等部の……一年生……!?」
どんな表情をしていたかは分からない。けれど関係無く、ゴーレムの巨腕にて相手の二人を打ち沈めた。
勿論■んじゃったりしていないよ。そんな事は絶対しないもん! だって大切な人が居なく──あれ? 私はそうじゃないよね。ずっと居るもん。
取り敢えず相手は転移の魔道具にて控え室で移動したのかな? これで私の勝ち!
あ、けどボルカちゃん達がどうなったんだろう! 確かめる為にティナを先行させ、ゴール付近の様子を窺ってみる。
───
──
─
「もうすぐ……! 此処を乗り切ればゴールだ!」
「やるな一年生……! だが、此処だけは譲らんぞ!」
ゴール際の熱いデッドヒートが繰り広げられている。
ボルカちゃんが箒から炎を放出し、それに脚力のみで追い縋る相手のリーダーさん。
既に眼前。追って追われて追い抜き追い越し、地面が剥がれ、水が避け、空気圧を纏って直進する。
頑張れ頑張れボルカちゃん!
「これで……!」
「終わりだ!」
踏み込み、加速。間を置かずに到達した。
二人は体力と魔力の消費によって息を切らし、その後に続いてメリア先輩とルーチェちゃんが到着。次の瞬間に私達は会場へと戻っていた。
「あれ? まだ私の仲間達が来ていないが……」
「と言うか会場、なんか静まり返ってますね」
《……っ》
「「「…………!」」」
シーン……と、先程までの盛り上がりとは打って変わり、夢から覚めた時みたいな静寂に包まれた会場。一体どうしたんだろう?
あんなに賑やかな司会者の人まで何が起こったか分かっていない状態。ボルカちゃんとリーダーさんの接戦がそんなにスゴかったのかな? 最初から見ておけば良かった~!
《し、勝者……“魔専アステリア女学院”……!》
「「「お、おお……おおぉぉぉぉ……!」」」
終了の宣言と同時に無理矢理盛り上げようとし、観客の人達も声を上げる。だけどどこか歓声が弱く、困惑混じりの上の空と言った感じ。
お客さんの視線の先はずっとステージを映したモニターであり、私達もそちらの方を見てみる。
「な……!?」
「まさかこれ……ティーナが……!?」
「……?」
相手のリーダーさんとボルカちゃんが驚愕の表情を浮かべていた。
モニターに映っているのは一つの山岳地帯の成れの果て。
即ちママの植物魔法でフォレストゴーレムと化した姿。それがずっと佇んでいた。
そんなにおかしい事かな? 特にボルカちゃん達はこれ以上の力を見ている筈。そこまでじゃない気がするけど。
「ティーナ……また暴走……じゃないな。頭が真っ白になったりしていないか!? 大丈夫か!?」
「え? なんともないけど……」
怪訝な表情で私を見やるボルカちゃん。私は思わず後退る。
暴走という単語を言い直し、私の心配をする。
私は別におかしな事はない……けど、多分忘れちゃった二ヶ月前の記憶が関係しているんだよね。一目見て心配される程の何かが……。
「だ、大丈夫だよ! ボルカちゃん! 見ての通り私は正気! だから心配しないで!」
「そうか……うん……そう……だよな! ティーナは大丈夫だ!」
「そうだよ!」
怪訝な顔を消し、頭を振って何かを払い、明るい笑顔を見せる。
もう、私が驚いちゃったよ!
さて、ここから閉会式……でいいのかな? 一先ず地区予選終了の会だ!
《えー……ゴホン、それでは皆さん! 気を取られてしまいましたが、改めて発表致します! 今回の“多様の戦術による対抗戦”地区大会決勝、“筋専ヘルメシア学院”vs“魔専アステリア女学院”!! 優勝は──“魔専アステリア女学院”ンンン!!!》
「「「お、おおおおお!!!」」」
「わわ……声量が戻った……」
「ハハ、周りの人達も驚いていだけみたいだかんな! アタシ達の勝ちは変わらない!」
「くっ……私以外は全員やられていたのか。私が一位を取ったとしても勝てなかった……! ヘルメス神よ。お許しください……!」
「筋肉が圧倒的質量に敗れるなど……」
「まだまだ鍛え直さねばならぬ……!」
司会者さんが言い、活気が戻って会場が沸き立ち、割れんばかりの大歓声が上がった。
ヘルメシア学院の皆さんも前向きに事を考えているみたい。
アナウンスが続く。
《これで“魔専アステリア女学院”は地区大会の連覇を達成! その連覇はルミエル・セイブ・アステリアの中等部一年生の頃からずっとの事! 毎年のように快挙が更新されるぞーッ!!!》
「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
「うひゃあ……」
「ハハ、すげぇ熱気……」
キーン……と歓声によって耳鳴りがする。
ルミエル先輩ってそうだったんだ……中等部の一年生から圧倒的な存在……改めて偉大な人がアステリア学院ダイバース部の部長なんだね。
《これから数日後、“魔専アステリア女学院”は都市大会へと赴きます! 更なる強敵達が集い、連なる決戦の地! それに勝利すれば人間の国代表を決める決戦の地へ! そして最後に待ち受けるのは他種族の国との熾烈な争いが執り行われる決戦の地となっております! 我らが地区代表の“魔専アステリア女学院”には期待をしましょう! いざ決戦の地へ!!》
「「「うおおおおぉぉぉぉぉッッッ!!!」」」
「決戦の地多いな……」
「アハハ……歓声もスゴいけど……これってあくまで近所の人達しか居なかったんだ……」
「多少はスカウトとか他校の視察も居るでしょうけど、大半はそうね」
「ですわ~」
「これからもドンドン歓声を受けるぞー!」
「その為には勝ち進まなければなりませんねぇ~」
異様に多い決戦の地はともかくとし、会場は大盛り上がり。
地区予選でこれだもんね……都市予選とか国予選とか代表戦になったらどうなっちゃうんだろう。お客さんから怪我人とか出なければ良いけど……。
何はともあれ、私達の初めてのダイバースの大会。見事予選を突破した私達は、上のレベルの予選へと勝ち上がった!
よーし、数日後にはもっと頑張るぞー!




