第四十八幕 レースゲーム
アタシはボルカ・フレム! 今現在はダイバース大会の決勝で──
《スタァァァトォォォッ!!!》
モニターの数字が0になると同時にアタシ達は魔力を込め、箒にて一気に突き進む。始まっちゃったな。つまりそう言うこと! 試合の真っ只中だ!
後ろの方で植物が急成長してんな。ティーナが動いたか。
そしてレーンに居る相手の人数は三人。作戦的にはアタシ達と同じかな。
「負けねえぜ! センパイ方!」
「箒などと言う乗り物に頼っている時点で勝機は我らにある!」
「どういう理屈ッスか!?」
よく分からない理論は振りかざしているけど、その言葉に偽り無い速度で進んでる。
アタシだって速さには自信あるけど、遮蔽物が多い此処だと直進メイン……要するにジェット移動はちっとキチィ。
んなもんで少しずつしか加速出来ないな。
「箒じゃ小回りが利かないみたいだな。やはり全ての道は筋肉に通ずる!」
「なんかそれは絶対違うと思うッス!」
よく分からない持論はともかく、実力があるのは間違いない。
魔力強化しているとは言え、脚力だけでアタシ達に付いて来てる訳だかんな。
けどそろそろ直線ルートに入る。此処で一気に加速して差を付ける。
「フッ、此処から直線に入る。一気に差を付けてやるぞ!」
「奇遇ッスね。同じ事を考えてましたよ」
考えは同じ。当然かな。一番何にも気にせず本領を発揮出来るのは大体直線。=実力が諸に出るとも言えるけど、結果的に差を付けるには一番手っ取り早い。
アタシとメリア先輩、ルーチェでこの筋肉集団から何処までやれるかの勝負だな。それまでに向こうの勢いを弱らせたいけど、コーナーからの直線移動に集中したいからそれもまた難しい……か。
「準備は!」
「出来てるわよ! 物語──“粘着スライム”!」
「……!」
次の瞬間、二つの声と共に空中から液体のような個体のような魔力の塊が降ってきた。
それは筋肉集団の前に落ち、全員の足を絡め取る。
皆が皆、地に足着けていたから捕らえられたって訳だ。けど取り敢えず、
「ナァイス! ティーナ&ビブリー!」
二人に礼を言わなきゃな。お陰で時間と距離を稼げてこっちが有利に運べる。二人様々だ!
筋肉集団は驚愕の表情を見せた。
「なにっ!?」
「アイツらはやられたのか!?」
「いや、早すぎる! 足止めを食らったみたいだ!」
アイツら……ヘルメシア学院の妨害メンバーか。
この短時間で実力者達を抑え込むなんて流石だぜ!
コーナーに差し掛かり、直線ルートへと一気に乗り出した。今この瞬間に大きな加速を加える。
「行くぜ! メリア先輩にルーチェ!」
「此処から更に本気で行くよー!」
「お、お待ちくださいまし!」
爆発的に火を噴出して大加速。メリア先輩は背後から追い風を吹かせ、速度を上げる術を持ち合わせていないルーチェも一緒に加速させた。
この下は川。アタシ達の起こす風圧によって川の水が氾濫し、左右に押し出されるよう流れ行く。
「させるかァーッ!!」
「……!? え!? もう来たの!?」
「あの防壁を……!」
後ろの方でティーナ達の声が聞こえてくる。
完全に止める事は出来なかったか。だけど此方側が有利になったのは変わりなし。
この好機は逃さず更に加速。風圧で呼吸が難しくなりながらも突き抜ける!
「逃がすかァーッ!」
「此方ももう来たか……!」
「速いねー!」
「と言うか、川の上を走っていますわ!」
踏み込み、バシャバシャと川の水を巻き上げて迫り来る。
マジでとんでもねえなーあのセンパイ……。この川って別に浅瀬じゃない……どころか深いくらいだぞ。透き通っているのに底が見えないし。
見れば相手の足元に浮かび上がる波紋のような物が。成る程なー。
「魔力を少し広げて着水時間を少し伸ばしているみたいだな。そして沈み切るよりも前に浮上して進んでる」
「その場合、踏み込む力がかなり必要ですけれど、あの方にはそれを可能にするだけの筋力があるという事ですわね……!」
「手強いね~」
流れる川の上を走っている理由は以上の通り。
このままじゃ追い付かれんな。と言うか既にほぼ並走。ティーナ達が作ってくれた隙。無駄にはしない。
「直進あるのみ!!」
「「うおおおおおぉぉぉ!!」」
「と言うか、相手のリーダーくらいしか川を直接渡っちゃいないな」
「ですわね。両脇の崖を足場に斜めって駆けていますわ」
「それでも十分スゴいけどねー!」
水面を蹴り、川の水を巻き上げる。
大波が背後に散り、グンッ! と迫ってアタシ達を追い抜いた。
炎の加速より速いってありかよ……!
けど最高速はほぼ同じ。何かしらの邪魔が入れば突破出来るかも!
『───!!!』
「……! 川の魔物……!」
「巨躯の川蛇ですわ!」
そう思った瞬間に大口を開けた蛇が水を巻き上げて現れた。
当然魔物による妨害も手配済みかー。そう簡単に終わる訳無いからな。
これは中立。どっちの味方でもない存在だな。向こうチームの勢いが少しでも弱まれば良いけど……。
「私の通り道を塞ぐなァ! 爬虫類がァーッ!!」
『……ッ!』
そんな事は全く無く、拳にて頬を打ち抜き文字通りワンパンで沈めた。
ヤベー腕力……けど拳を放った分の時間は一瞬稼げた。
更なる炎を込め、敵リーダーを追い抜く。
「ハッハァ! 君も中々やるじゃないか!」
「センパイ達もな!」
「だが、それが君の直線による最高速! 此処からのエリアを考えるとこちらに分があるぞ!」
「……っ」
少し前に出たけど、今は直進の道だから最高速が出せているだけ。相手センパイの言う通り、また遮蔽ゾーンに入ったら差が付けられてしまう。
アタシはチラリと後ろの方を見てみる。
(アタシにメリア先輩、相手の二人とルーチェが微妙な距離感……この調子ならやれなくはない範囲か……)
並び順で言えば、アタシ>相手リーダー>メリア先輩>ルーチェ=相手二人と言った感じ。
アタシがほんの少しリードしていて三位当確の位置にメリア先輩が居るから、ルーチェが四、五位……最下位じゃないなら点数的に勝てるかもしれない。
前述したようにトップスリーは僅差だから確実じゃないけどな……! 最低限でアタシ、メリア先輩、ルーチェが二位、三位、四位で並べ立てれば良さそうだ。
その為には此処から差し込まれる遮蔽エリアでも速度を落とす訳にはいかないな。
超絶の勢いで突っ込んで進む! 魔法の応用は先輩方の指導でやってるからな!
「此処だ……!」
「……! 箒の速度を落とさない? バカめ! そのまま崖に突っ込んで戦闘不能になるだけだ!」
「そんなのはやってみなくちゃ分からないっしょ!」
更に加速させ、直進ルートから複雑な道へ。
確かにこのままじゃ突っ込んで終わりがオチ。けど、曲がる直前、完璧なタイミングで炎魔術を使えば──
「これでどうだァ!」
「……曲がるタイミングで、別の箇所から噴射!? それによって勢いは死なず、最高速のまま曲がり切っただと……!?」
「危ねぇ! 上手くいったーッ!」
タイミングはバッチリ。曲がり角の時に進行方向へ炎を調整し、勢いを殺さず直角に曲がれた。
足で走っていたとしても曲がる瞬間は微かに速度を緩める。その差がこのレースでは超デカい!
「だが……まだ負けてはいないぞ!!」
「……! 火事場の馬鹿力ッスか!?」
一瞬の緩みを即座に埋める速度を出し、川を抜けて地面を踏み抜く。
大地が大きく抉れて背後に散り、開いたアタシとの距離を一気に詰め寄った。
なんつー脚力……! 鍛え方がマジパネェ!
しかも背後に土塊が飛んだからメリア先輩達が巻き込まれてなんか大変な感じに……!
「気を取られていたら始まらないぞ!」
「……っ。そりゃごもっとも!」
集中しなきゃならない。それは間違いない。
メリア先輩は実力者。ルーチェもかなりやる。何も山その物が崩れ落ちた訳じゃないんだからあの程度の障害物は問題無く突破出来る筈──
「……は?」
「……なんだ?」
山その物が崩れるような障害物じゃなければ何の問題も無い。それはメリア先輩達もアタシも同じ。
そして目の前に現れた物は──
「……! あ! ボルカちゃん達! 追い付いたね!」
──者……の方が適任だったかも。
巨大な木々にて山その物を抉り、持ち上げ現れたアタシの親友。
こりゃ、センパイ達は目じゃないかもなー。これであの時の迷宮脱出ゲームより出力も抑え込まれている訳だし。
「……ハハ、流石だな。ティーナ」
「山その物を持ち上げる程の……魔力出力……!?」
「今はどの辺り!?」
「レースの佳境だ! サポート頼むぜ! ティーナ!」
「うん!」
何にせよ、とても頼もしい仲間なのは変わりない。
妨害役に回ったけど、ティーナも選手なのは違いないからな。他のメンバーの顔が見えない事から既にリタイアしているみたいだけど、ティーナ自身の精神は安定しているから大事には至っていない。
これでまた勝率が高まった。
地区大会決勝のレースゲーム。戦況で言えば有利なのはアタシ達だ。




