第四百六十幕 学習期間の数日
「ここはごはん食べるところ!」
「食堂ですわね」
「少し遅めの昼食を使用人の方達が食べておりますわね」
最初に案内されたのは食堂。
早朝から働いているであろう使用人さん方が遅めの昼食を摂っていた。
お疲れ様ですわね。
「ここはご本よむところ」
「書庫。流石に数が多いですわ」
次に案内されたのは書庫。ネレちゃんのテンションが露骨に下がりましたわね。
やはり王女としてお勉強が大変なのでしょう。
「ここはおふろ!」
「やはり広いですわねぇ」
次は浴室。“魔専アステリア女学院”や私の自宅のように広く、寛げるスペースがあった。
「ここが私のおへやー!」
「あら、綺麗にされてますわね」
「何れも由緒正しき日用品。お見事ですわ」
「えへへ」
私達に褒められ、照れくさそうに笑うネレちゃん。
随分と楽しそうにご自宅を紹介しておりますが、おそらく同年代のご友人は殆ど居ないのでしょう。
立場が立場な為、一線を引かれた状態で同年代の方々と過ごさざるを得ない。同い年である当人達が気にせずとも、そのご両親や周りの目が鋭いのは想像に難しくありませんわ。
「沢山のお人形がありますわね。ティーナさんと相性が良さそうですわ」
「てぃーな?」
「私のお友達ですの。心優しくお人形が好きな方ですわ」
「そうなんだ~」
簡潔なご紹介。良いところは沢山ありますが、それを語っていたら時間が足りませんもの。
今はネレちゃんとの時間を優先しましょう。
「それでは何をしますか? ネレちゃんのやりたい事をしましょう」
「それじゃあね~」
とは言え私達も学びの途中。なのでただ遊ぶだけという訳にはいきませんわ。しかしこれも外交の一貫と割り切ってネレさんを相手にするのも失礼な事。どうしましょう?
そんな事を考えつつもネレちゃんとのお遊戯。単純なお人形遊びからごっこ遊び。それの合わせ技など、王族であってもこの様な自由を許されているのは少々羨ましいですわね。
私は幼少期に単純な科目と帝王学を行い、そのまま“魔専アステリア女学院”に進学しましたから。それでもお家の都合で同級生達と比べたら少し遅れての入学でしたけど。
「あ、そろそろじかんかな?」
「あら、そうですわね……いいんですの?」
「うん。しかたないから……」
ネレちゃんは分かっているようですわね。私達が抜けなくてはいけないという事を。
まだ遊びたいという気持ちは犇々と伝わりますが、しかと互いの立場を理解している様子。今の自由時間はネレちゃんにとっても合間の自由だったという事ですわね。
私達は立ち上がり、部屋の扉に手を掛ける。
「それでは……」
「ぁ……」
「……ふふ、また遊びましょう♪ ネレちゃん。今度もお友達として!」
「うん……!」
最後に言葉を交わし、ネレちゃんの部屋から外に出る。
数十分は遊んでしまいましたわね。元より貴賓室や応接室に居ても機密事項は聞けないのであまり意味はありませんが、それでも授業の一貫。いつまでも離れている事は出来ませんものね。
それから何事も無く二日目の体験学習が終わり、私達は学生寮へ戻るのでした。
*****
──“三日目・雑貨屋”。
「いらっしゃいませー!」
三日目。今日も私は雑貨屋でお仕事。
流石に此処までやれば慣れ、お客さんに笑顔を向けて雑談も交えつつ商品を買って貰う。
時折お薬の調合も見せて貰い、配達などもして変わらない一日を過ごした。
──“学校”。
「女神様の計らいにより、この世界で個別の鳴き声はあっても言語というものは一つに統一されたのです。今でも残っているのは種族特有の呪文くらいですね。それは数千年前、英雄の時代から不変のものです」
三日目の“魔専アステリア女学院”、語学の時間。初等部なので言語の起源について行っている。
不変なのは私の体験学習もそうね。他のみんなに比べて一番楽じゃないかしら?
──“ギルド”。
「ふう、取り敢えず今日の任務はこれくらいだな」
「疲れた~」
「この後に引き続き巨鹿討伐。大変だ」
三日目のギルド。一日分のクエストを終えたアタシ達は巨鹿討伐の準備に取り掛かる。
昨日は逃がしちまったからな。今日こそはと思うけど、相手も賢い。そしてメンバーは疲労困憊。はてさてどうするか。
そんな感じでアイデアは浮かばず、簡易的な罠と戦法で挑む。
『…………』
「「「ぐあー!」」」
「うーん、やっぱり無理か」
案の定巨鹿の角に薙ぎ払われ、昨日よりもあっさりとやられてしまった。
アタシは無傷なので数分は拳を交わしたけど、巨鹿を負傷させたところで向こうは退散。
討伐任務じゃなくて撃退なら成功だけど、向こうの縄張りは広い。まだまだって感じだな。
──“外交”。
「それでは昨日の件についてですが……」
『前向きに検討しましょう』
「うーん、それは難しいですね。しばらく時間が必要だ」
『そうですか。では次の提案として……』
三日目の外交。今日も変わらず大人達は種族問わず論争を続けていますの。
お城には行かないのでネレちゃんとは会えませんが、たまに顔を見せる事はありますわね。
特に変わった様子も無く、お勉強しつつ体験学習の三日目を終えましたわ。
──“四日目・雑貨屋”。
「あ、子供達とおじいさんにおばあさん!」
「ティーナお姉ちゃん!」
「来たよー!」
「ほっほっほ」
「全く、無理して……」
職場体験の四日目。今日は世間一般的には休日なのもあり、施設のみんなが雑貨屋に遊びに来た。
休日だから特別忙しいとかはないのでお客さん達の対応をしつつみんなと雑談を行ったりする。
常連さんにとってはこのみんなも馴染みらしいので挨拶をしたり雑談したりと、いつもより賑やかで楽しく過ごせた。
──“学校”。
「それではウラノさん、此方の資料をお願いします」
「はい。分かりました」
今日は休日。なので授業は無く、私も教師陣のお手伝いくらい。
明日も休日であり、中等部三年生もその日は休み。体験学習中はお休みが一日分短くなるわね。まあそこまで気にする事でもないけれど。
──“ギルド”。
「私達のギルドのモットー。それは貴重なお休みに仕事は入れずキッチリ休む事。今日はのんびりするよ~」
「なんかこの感じも久々だね」
「そうだな。しかし、ボルカ・フレムは職場体験が休みの日もあるなんて難儀だ」
「ま、仕事先で休みが貰えるなら関係無いッスよ。他のクラスメイトが働いている中で休むのは多少気が引けますけど」
「それについては職場の方針によるからな。致し方無かろう」
ギルドの休日。職場体験としては休みじゃないけど、ギルドメンバーがこんな感じなんでアタシも甘んじる。
とは言え授業の一貫なのは変わらないのでクエストを受けない代わりに掃除や整理整頓を行う。自室は汚れてても気にしないけど、勤め先だとなんか嫌なんだよな~。
そんなアタシを見ていたらじっとしていられなくなったのか、他のメンバーも手伝い総出でギルドの大掃除が始まった。
年の瀬も近いし丁度良いな。
──“外交”。
「それでは件の件についてですが……」
『ええ、助かります』
「それにつき別の条件が……」
「それでしたら……」
私達の四日目。世間的に……というより学生や公務員的には休みの日ですが、外交官にお休みはありませんの。
私達は学校側の方針で明日は休みになりますが、この方達は年中無休状態なのですわね。大変ですわ。
私達もしっかりと学び、四日目も終了を迎えるのでした。
──“学習期間・休日”。
「なんだかみんなと集まるのも久し振りだねぇ~」
「だなー。何だかんだで職場体験中は会う機会も無いし、出勤時間も退勤時間も職場によってバラバラだから寮ですらあんま会わなかったしなー」
「やはりこうして顔を見合わせると落ち着きますわね~」
「普通の授業より疲れが見えるわね。貴女達」
職場体験期間中のお休み。私達は数日振りにみんなで集まってお話をしていた。
場所は近場のカフェ。寮のお部屋も良いけど、お休みの今日は夜もみんなで集まれるから昼間は此処にしたの。
時間帯的には朝食。パンとスープにサラダなどのメニューを頼み、各々の職場について話し合う。まるで大人の会議みたいな感じだねぇ。大人はこんな風に過ごしてるのかな?
「みんなのところはどんな感じ~? 初日以降あまり話せてないからさ! 因みに私の所は結構のんびりする機会もあったりするよ。お店の中より配達で飛び回る事の方が多いかも」
「アタシの所はようやく本格的に動き出した感じだな~。初日はメンバーのやる気が無かったのなんのって。ま、今は一つの大きなクエストを見据えて小さな任務を塾しているってところだ」
「私の所は普段の学業とあまり変わらないわね。強いて言えば教師陣により近くなるくらい。多分一番代わり映えせずに進行しているわ」
「私の所は毎日が忙しないですわね。私達は話を聞いてまとめるくらいですけれど、大人の方々が忙しそうにしている様は目の当たりにしてますわ。クラスメイトの方も居ますので居心地は悪くないですけれど」
朝食を終え、休日の朝の空いている時間帯なので食後の休憩も兼ねてちょっとした雑談をする。
みんなの所も忙しかったり意外とそうでもなかったりで感想は様々。当たり前だけど職場によって色は違うよね~。将来設計をするならなるべく自分の肌に合う場所が良いのかも。
職場体験と違って入りたいと思ったら入れる訳じゃないから、そこのレベルに合わせてちゃんとお勉強しなきゃだけどね~。
「ま、今日は折角の休日だ。羽を伸ばそうぜ!」
「明日に支障を来さない範囲でね~」
「スイーツが食べたいですわ!」
「朝食後でよくそんな感想が出るわね」
普段と違うお勉強で少し疲れた私達は、みんなと遊ぶ事でそれを発散する。ちゃんと自制はするけどねぇ~。
そんな職場体験もそろそろ終わりだし、ラストスパートを頑張ろう!
──“それから”。
二学期の長期休暇前に行われる職場体験、体験学習。一日目、二日目を終え、それから特に問題無く三日目と四日目、五日目──それ以降と順々に終えていった。
最初の方は戸惑う事もあったけど、慣れてしまえばこっちのものだね。それは三日目くらいから実感していた。
普段と違う体験が出来て、社会人の大変さも伝わる。スゴく勉強になったかな。
そしてそんな私達の職場体験、それは最終日を迎える事となる。




