第四十六幕 地区大会の決勝
大会が始まってから一日空けて三日目、四日目と過ぎていった。
私達“魔専アステリア女学院”はあれから順調に勝ち残り、三回戦には“探偵ゲーム”。準決勝である四回戦で行われた“迷宮ゲーム”にも勝利した。
何れも既にルミエル先輩達がしてくれたゲームと似たようなルールだったので要領を上手く掴んで勝てたね。
もしかして先輩は大会でどんなゲームが出されるか予め考えていたのかな? だとしたらスゴい考察力。
それもあって今日、いよいよ地区予選の決勝。これに勝てたら都市予選で、それにも勝ち進んだら国予選。そして代表戦……改めて長い道のり。
《それでは皆さん! いよいよやって参りました! “多様の戦術による対抗戦”! 予選大会の決勝です!》
「「「わああああああああ!!!」」」
アナウンスが響き渡り、より一層大きな歓声が上がる。
今までも歓声はあったけど、流石に決勝戦ともなると気合いの入り様が段違い……慣れてた筈なのに緊張してきた……!
《盛大に大盛り上がりの沸き立つ会場ですが、まだまだ主役達は登場していないぞー! 今日の対戦はこの二チームだァーッ!》
「「「どわあああああああああああ!!!!!」」」
音声拡散の魔道具を通じ、光魔法によるスポットライトが私達に向けられる。
アナウンスの人は喉が張り裂けるんじゃないかってくらいの大声で紹介が入った。
《それではお立ち合い! あのルミエル・セイブ・アステリアの出身校? いえいえ、もはやその強さは彼女の影に隠れていない!! 連覇達成なるか!? “魔専アステリア女学院”ンンンッッッ!!!》
「「「ぐわああああああああ!!!」」」
「「「うがああああああああ!!!」」」
「悲鳴!?」
「ハハハ……確かにこの興奮じゃ悲鳴が聞こえる程の事は起きるかもな~」
「えぇ!?」
じょ、冗談だよね……? 会場の興奮が一周回り、大変な事に繋がる可能性があるのが否めないし怖いところだけど……。
まだ予選大会の決勝なのにこの盛り上がり……都市大会や国大会、代表戦になったら本当に人■にや■人が出ちゃうんじゃ……。と言うか連覇って……去年は先輩達二人だけで優勝したんだ……。あくまで地区大会とは言えだけど。
《しかァし! まだまだ最高潮には達してません!! 対する相手はなんと魔法を殆ど使わず此処まで勝ち上がってきたフィジカル強者集団!!! “筋専ヘルメシア体育学院”!!!》
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
「「「きゃあああああああ!!!」」」
「……!?」
そして相手チームが発表された瞬間、会場には野太い声と甲高い声が響き渡った。
ビックリした~……。多方面に人気があるチームなのかな?
《さあさあさあさあ! 更なる盛り上りが続き、常に最高潮に近付いている現在! 発表される今大会決勝のゲームはこちらァ! ズバリ!! ──“レースゲーム”だァ━━ッッ!!!》
「「「どっしゃああああああん!!!」」」
「「「うわっはあああああああ!!!」」」
「もはや言語になってない……」
「最初からこんなもんだろー」
決勝の試合は“レースゲーム”。
つまり競争って事だよね? 観客の皆さんの歓声はともかくとして、早くゴールをした方が勝ちのこのゲームも大変そうだね。しかも相手が相手……魔法をほとんど使わなかったって事実がもうスゴい。
紹介とルール説明が終わり、相手チームの人達が通例のように私達の前へ。
「お前達が“魔専アステリア女学院”の新入生か」
「……え?」
前……へ?
なんなのこの人達……私達の前に現れたのは筋肉ムキムキの筋肉集団。男の子はともかく、女の子まで……。
「この試合、血湧き肉踊る肉弾戦じゃないのは残念だが、脚力……走る為の筋肉も当然のように鍛えてあるからな……!」
「私達が目指すべき理想のボディはバロン・ノヴェル様! そして貴女達の学院にも居られるイェラ・ミール様!」
「我らが崇め奉っている筋肉神ヘルメス神のように素晴らしき肉体の方々!」
「日々目標として精進しているのだ!」
「そ、そうですか……」
筋肉の神様ヘルメス神を信仰している学院生なんだ。
あ、“ヘルメシア”ってその“ヘルメス”の事か。もしかして同じくオリュンポスの神様の名前を使っているアテナロア学園とは近い関係性なのかも。
「君達のリーダーは中々良い体つきだが、他が全然なっていないな。特にオッドアイの子とメガネの子。君達二人!」
「えっ、私ですか!?」
「それと私?」
「そうだ。君達! どちらかと言えばインドア派だな! 白い肌とあまり成長していない筋肉が何よりの証拠! もっと肉を食え! 鍛え上げろ! その先に肉体美の真髄がある!」
「そんな事言われても……」
「余計なお世話」
私達は確かに筋トレとかしてないけど……少しは部活動で鍛えてるんだけどなぁ……。
私達を思ってくれている感じはあるけど、私達の性には合わないよね。
「鍛え上げた筋肉こそが正義であると教えてやる!」
「共に高め合おう。ライバルとしてな!」
「オッス~。頑張りまーす」
「し、精進します……」
嵐のような筋肉集団が立ち去った。
ホントになんだったんだろ……宣戦布告的な意味合いは持たせてたみたいだけど、完全に自分達の世界に入り込んでいたね……。
けど確かな実力は持ち合わせている筈。ここまで勝ち上がってきたんだもんね。
私達は控え室へと向かって行く。
*****
──“魔専アステリア女学院、控え室”。
「さて、今回のルールはレースだってな。つまり速さに自信がある人が適任って訳だ」
「ふっ、後輩達。それなら打ってつけなのは私じゃないかな?」
「そッスね。メリア先輩は確定として……」
「私は今回控えてます~。競争はあまり得意ではないので~」
「そうですか。それじゃメンバーはアタシとティーナ、ビブリーにルーチェ。エースとしてメリア先輩ッスね」
「エース……ふふん、良い響きだね!」
レースゲーム。攻略の肝は何より速度。という事でメリア先輩の箒捌きが鍵だね。
私達も勿論ゴールを目指すつもりだけど、ウラノちゃんはルールが書かれた紙を見て話す。
「今回は先にゴールした方が勝ちだけど、ただそれだけで良い訳じゃないね。外部からの妨害もありの試合。一位、二位、三位……的な感じに上位者に高い点数が入って一番多かったチームが勝ちってもの」
「となると1-2フィニッシュは狙いたいな。でも相手は体を動かす事には長けた相手。ぶっちゃけフィジカルでゴリ押しされるだけでかなりキツい」
「そうなると、外部での戦闘チームとゴールを目指すチームに分かれた方が良いよね」
「ではティーナさんとウラノさんは妨害役に打ってつけですわね。広い視野と広範囲への攻撃が可能ですもの」
「「うん」」
頷いて返す。
私とウラノちゃんはあまり動く訳でもないし、使える魔法からしても外部からの妨害がピッタリなのはそうだね。
そうなるとゴールを目指すチームは……。
「私達が妨害に回るとして、メリア先輩とボルカちゃん、ルーチェちゃんが先に行く感じかな?」
「ま、それが適性だな。アタシは運動神経も魔力センスも良いし、メリア先輩は単純に速い。……ルーチェは……とにかく頑張れ! なんとかアタシ達で1-2フィニッシュするから!」
「信用されてませんの!? 私有地なら箒にも乗れるので箒移動とかもやれますわよ!」
「ハハ、ジョーダンジョーダン。頼りにしてるぜ!」
「もう、ボルカさんったら!」
相手チームの妨害人数は分からないけど、多くても少なくても私達のやる事は変わらない。
例え全員がレースに参加してゴールを目指すにしても、全員が妨害に参加して全滅を狙って来ても、両極端に転んでもやれる陣形は組むよ!
私とウラノちゃんの魔法なら多様にサポート出来るから!
《それではご入場頂きましょう! 妨害ありのレースゲーム! 今こそ──》
「そろそろ始まるな。丁度作戦会議の時間も無くなってきた」
「移動しなきゃね!」
時間が迫り、司会者さんが前振りを話す。
私達は杖や箒の準備をし、転移の魔道具に触れた。
世界が切り替わり、控え室から変わったのは清涼な空気を感じる場所だった。
「ここが今回、レースゲームが行われるステージ……!」
「森と川のステージ。障害物も落下場所も多様にあんな~!」
靡く髪を耳に掛け、その空気を肌に感じる。
森と川が主体の場所だけど、それなりの標高がある山岳地帯って感じかな。高低差はややこしいかも。
周りには切り立った山々が立ち並び、山と山の間を大きな大河が流れている。夏近くなのに少し肌寒い感覚があるのはここが高所の証拠。見下ろせば樹海が埋め尽くしていた。
隣にはヘルメシア学院の皆さんがおり、私達はみんなで並んでいる。つまり此処がスタート地点みたいだね。
レースのレーンには分かりやすく両隣へ木々や崖の道を使って造り出している。全体像はちょっと複雑だけど、ちゃんと目印を見ておけば迷子になる事もないかもね。
「良いレース日和ではないか。正々堂々と戦おう!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
発破を掛けられ、レースレーンへ。
移動手段は箒から素足。自分の好きな物を使ってOKというもの。
ドキドキしてきた~。私は妨害役だけど、スゴく緊張する……!
地区大会決勝、レースゲームが始まった。




