第四百五十七幕 雑貨屋・午後の売り込み
──“雑貨屋”。
午前のお仕事を終わらせ、お昼休憩を経て私は昨日のように荷物を置きに行く事とした。
とは言え昨日の分で今月の薬品配達は終えた。だとしたら何が目的か。それは私の社会勉強の一貫となるもの。
「それじゃあ午後からは市場の方に薬品や雑貨を売り出しに行ってくれ。私も今の仕事が終わったらすぐ行く」
「分かりました!」
それはこのお店がある場所以外での売り込み。
経営自体は裕福じゃないなりに上手くいっているらしいけど、配達外の領域や遠くからやって来るお客さんの為にお店を外に開く事もあるんだって。
確かに地域に愛されている雑貨屋でもあくまで一つのコミュニティに収まっている状態。より広く知られる事で得られるメリットは多いよね。
それが悪評とか、質の悪いお客さんが来なければだけど。
何はともあれ、その為にも私は今日そこに向かう事にした。
店主さんが合流するまでの間で私が売り込みをする。最近は減ったけど、初対面の人や動物達とお話しするのは緊張する。だからこその社会勉強。
頑張らなきゃ!
「それじゃあ行ってきます!」
「ああ、気を付けてな」
やる気は十分。お店の箒に跨がり、魔力を込めて飛び立った。
──“外売り会場”。
「わあ……思った以上にスゴい人数頭数……」
降り立ち、思わず声に出る。
ワイワイガヤガヤと賑やかな声が飛び交う市場。
此処は元より人間、魔族、幻獣、魔物の交流が盛んな街ではあるけど、改めて来ている数を見ると気が引ける。
毎日この催しがある訳じゃなく、今日から数日間がそうなっているの。そろそろ年末だから一斉……なんだろう? 取り敢えず在庫とかそう言った物の整理。その一貫。だからいつも以上に数が居るの。
「あ、私もやらなきゃ……!」
ハッとし、店主さんが事前に予約していた場所にシートを広げる。
何日か前から準備はしており、大通りとかは特に他の出店も出される。私達もその屋台巡りみたいなのはいつかの年末だか年始にしたような気がするね。今回はその前哨戦みたいな感じ。
店主さんも数ヶ月前からこの場所を取っていたらしく、多くの人や動物達が行き交う良い位置だった。
「えーと、売り出すのは……」
薬を買えない人の為に薬品類を安く売り出すのが中心。だけど普通に雑貨屋自体の宣伝も兼ねているので、骨董品や小道具と種類問わず様々な物が売りに出される。
私が持ってきたのはその一部。全部だとこの場所に収まり切らないし、お店の中がすっからかんになっちゃうもんね。
だから精々──数百種類が関の山かな!
「な、なんだ……!?」
『大量の……植物!?』
「木のゴーレムだ……!」
『動物も居るぞ……!?』
植物魔法により、雑貨屋から移動させたいくつかの品を運ぶ。
箒に全部乗せて運ぶのは大変だから、遠隔で操作して私が出店の準備をしている間に持ってくる魂胆。
無事に持ってくる事が出来、大量の植物によって注目を浴びる事も出来た。どんなに出来が良い作品でも目立たなきゃ宝の持ち腐れだもんね!
雑貨屋の品々は全てが高品質。それでいて素材自体はなるべく安く仕入れている。その辺は店主さんの腕が超一流って事だね。
そんな感じで注目の的になり、早速客入りも出てきた。
『これは良い品物だ』
「ほう、こんなに安くこのレベルの」
「おや? もしや店番をしているのは……ティーナ・ロスト・ルミナスか!?」
「本当だ! こんなところに有名人が!」
『今はまだ学校ではないのか?』
「“魔専アステリア女学院”ではこの期間内に体験学習が行われるんだ」
「へえ、それで」
『折角だし頂くとしよう。値段は……』
「この出来なら倍払っても良いくらいだぜ!」
「流石は魔族。欲しい物に糸目は付けないな」
「ハッ、当たり前だ!」
「だが人間の欲望も負けておらぬぞ!」
「上等だァ!」
お店の品物と、私個人の知名度。それによってこの繁盛具合。
それは勿論、店主さんの腕が良いから。
さっきも言ったように店主さんは超一流。どんなに注目を浴びても、そこに実力が伴わなければ一時的な物で終わり、結局は鳴かず飛ばずになる。
私は切っ掛けを作っただけで、こんなに売れるのは店主さんの努力の賜物だね!
「すまない。少し遅れ……多いな。まだ開始数十分だぞ」
「あ、店主さん!」
始まって、というよりは私達のお店となるテントを建ててから数十分後。足りなかった薬を調合し終えた店主さんが合流した。
こんなに大人数を捌くのは大変だけど、ゴーレム達が列を正し三人称視点からティナで確認。それによってスムーズかつ迅速な対応が出来ていた。
ダイバースの経験ってこう言った商売的な事にも役立つんだね~。
後、これは完全に自己顕示欲からなるものだけど、昨日のうちに私はいくつかのお人形やぬいぐるみを作って並べてみたの。折角の機会だから、将来的にその方面に就いた場合の予行練習と言うかなんと言うか。
その結果、小道具や骨董品に興味を示さないような子供達が買ってくれたりしてスゴく嬉しかった!
私の作った物で人を喜ばせられるなんて感激だよ~!
「スゴい人気だな。これがティーナ・ロスト・ルミナス効果か……」
「そんな事じゃありませんよ。どれも品質が良いからです! 店主さんのお陰ですよ!」
「そう言ってくれると嬉しいな。しかし、普段は来ないような子供達も居る。ティーナ。君が作った人形の出来も評価されているという事だ」
「あ、やっぱり勝手に置いちゃったの気付いちゃいましたか」
「良いじゃないか。基本的に無機質な私の店に華が添えられたような感覚だよ」
「そう言って貰えると嬉しいです!」
これも店主さんの良い所。細かい気遣いが出来、ちょっとした変化にも気付いてくれる。
私をダイバースの有名人としてじゃなく、一個人。ティーナ・ロスト・ルミナスとして見てくれるの。
それはボルカちゃん達や先輩達、後輩達と同じ。少し有名になって思うのが、私は私として此処に居るという事の主張。ダイバースだけの存在じゃない。そう思えるのが大事な気もする。
やっぱり店主さんって良い人だよね。目立つ事、品質。そしてそれを担う本人の人柄。それも大事。
折角有名になったり人気が出たりしても、人柄によって消えちゃう事もあるもんねぇ。今まで多くの人に迷惑を掛けちゃった私も見習わなきゃ!
「いらっしゃいませ!」
だからなるべく笑顔で、愛想良く。良い気分で帰って貰いたいから。
店主さんが来た事によってより多くのお客さんを捌けるようになった。流石の審美眼と言うか観察眼と言うか、どのお客さんが何を求めているのかすぐに見抜き、的確に品物を売り出しているよ。
私が出来る事は笑顔とゴーレム達でのお手伝いくらい。せめて足を引っ張らないようにしなきゃね!
「あ、ティーナおねえちゃん!」
「おねえちゃんのおみせだったんだ!」
「スゴい数じゃのう」
「……?」
お店は店主さんに任せて近くで売り込みをしていると、聞き覚えのある声が耳に入った。
そちらを見れば医療施設……でもある孤児院の老夫婦と子供達が来てくれていた。
「みんなー! お爺さんにお婆さんも!」
「ホッホッ……ゲホッ……ゲホッ。折角じゃから寄ってみたんじゃ」
「馴染みの雑貨屋さんが出店するらしいからねぇ」
そんなみんなが全員で来てくれたみたい。
お婆さんはお爺さんの車椅子を引いており、子供達は色々なお店が立ち並ぶ光景を見てキラキラと目を輝かせていた。
でも、既に昨日掛けた癒しの効果は切れており、お爺さんはちょっと体調が悪いみたいだね。少しでも元気になると良いけど……。
「主人がどうしてもって言うんだよ。老い先短いから今年が最期になるかもしれないってさ!」
「寿命ジョークというやつじゃよ」
「聞いた事ありませんけど……」
軽快に笑うお爺さんだけど、本当の意味で洒落になってないしどう反応すれば良いのか分からないや……。
でも気が落ちていたり元気が無い訳じゃないのは良いのかな。
「おおそうじゃ。折角だし今日も昨日の魔法を掛けてくれんかの? 車椅子があったんじゃ通行人の邪魔になりそうじゃし、せめて自分で歩きたいからの」
「あ、はい。それくらいならお安いご用ですよ! “ヒーリングプラント”!」
「おおっ! キタキタキタキタァーッ!」
そしてまた癒しの植物魔法をお爺さんに使用。するとたちまち元気になり、お爺さんはガッツポーズをしながら立ち上がった。
そんな即効性は無いけど、苦痛は和らいだ筈だから大丈夫だよね?
「またすぐ調子に乗って。全く。少しは安静にして欲しいものですよ」
「まあそう堅い事言うでない。ワシの足で歩けるんじゃからな! それに越した事は無かろう!」
「その上で少しでも安静にしてくれれば楽な時間が伸びるという事ですよ」
呆れながら車椅子を折り畳み、魔道具である入れ物に仕舞う。
車椅子も魔道具なんだよねぇ。だから伸縮自在で、いつでも取り出せたりするの。
取り敢えずこの老夫婦と子供達なら大歓迎。お店の方に案内した。
「ほう、立派なもんじゃ」
「おや、お爺さん。歩けるようになったんですか。それは何より」
「今しがたティーナ殿に治療魔法を掛けて貰っての! お陰でこの通りじゃ!」
「へえ」
「一時的な魔法なんですけどね。主人ったらはしゃいじゃって」
「フフ、しばらく歩けなかったんだから当然ですよ」
「昨日も掛けて貰ってはしゃいで魔法の効果がすぐに切れちゃったんですよ?」
「あ、成る程。うん、相変わらずですね」
お爺さん達とは店主さんも知り合い。なので容態も分かっており、こんな形だけど一時的にでも元気になったお爺さんを見て嬉しそうだった。
私よりも長い付き合いみたいだもんね~。私も……もしママが少しでも元気になっていたら……。
そこまで考え、既に乗り越えた事と割り切る。もう、本来ならもう何年も前に乗り越えるべき現実。いつまでも引き摺る訳にはいかないよね。
「一先ずゆっくりと見ていってください。出店という形なので狭いですけどね」
「ホッホッ。その割には空間を広く使っておるの。ティーナ殿の植物魔法か」
「ええ、かなり助かってます」
出店に並ぶ品々。それはテントの中に複数の植物を張り巡らせており、一つ一つを棚のように、上下左右問わず並べていた。
限られたスペースだからこそ空間を広く使う。それによってより多くの品物を並べる事が出来るの。
しかも自動的に守って支えられるから、小さい子やちょっと変な人が乗ったりしても商品が壊れたり崩れたりする事はない。ちゃんと工夫はしてるんだからね!
「ほほう、これは中々。そうじゃな。後はもう少し植物の種類を絞ると良い。そうすれば他の種に取られる魔力分が空き、魔力消費を抑えられるようになってより多くの物が飾れるようになるぞ」
「え?」
「一括りに植物魔法と言っても種類によって扱う力は違う。近縁種なら魔力消費を抑えつつ、より多くの物と組み合わせる事も出来るかもしれんな」
「な、成る程……」
「見たところ複数の植物を交えて強固な物としているが、これでは柔軟性に難アリじゃ。硬いだけではなく、柔らかい素材をもう少し多めに含めば柔軟性が高まり、より頑丈でより複雑な加工も可能となる事じゃろう。更なる応用を加えればより精密な魔力操作も可能。植物には無限の可能性が秘められておるからの」
「は、はい……!」
ス、スゴい……一目見ただけで私が用いる植物魔法の構造を理解して欠点とそれに対する改善点を示した。
このお爺さん、本当に昔はスゴい人だったんだ。
そこで店主さんも話に入る。
「スゴい人だろう? 私も薬の調合とか色々教えて貰ったんだ」
「そうだったんですね……」
「ホッホッ。年の功というやつじゃよ。この年齢、経験談も豊富じゃからな! 元よりある知識を駄弁るように話したに過ぎんさ!」
「いえ、参考になります!」
植物魔法の改善点。種類を絞る……かぁ。
確かに私は、例えば火を消すとか水の中で息をするとか、その時の用途となる以外の種類を考えず雑多に放っていた。そう言った所を工夫すればより精密かつ精巧になるんだ。
店主さんもお爺さんから色々と教わったらしく、かつての片鱗が見えた気がした。
何よりあの眼。昨日と違い、改めて植物魔法を見た時、気の良いお爺さんから……何て言おうか。お師匠さんとかそんな感じの表情になった。
「うむ、将来有望じゃな。ハッハッハ! それじゃあこれとこれを買って帰ろうかの。丁度施設で壊れてる箇所もあったんじゃ。今なら直せるからの!」
「また無理して。それじゃあお邪魔しました。ほらみんな、帰るよぉ」
「えー」
「もう~?」
「ばいばーい」
そして老夫婦と子供達は一通り買い物をして施設の方に帰って行く。
安く買えるから金銭的な余裕が無くても購入出来る。大事なことだね。
「では、私達も残りに取り掛かるか」
「はい!」
老夫婦と子供達の背中を見送り、私達は午後の出店に戻る。相変わらずお客さんは沢山来ている。まだまだ頑張らなきゃね!
「よし、今日はこれくらいだ。お疲れさん!」
「お疲れ様でした!」
──それからて数時間後、売り出していた物が完売し、後片付けを終え、雑貨屋に戻ってもやる事がないのでそのまま現地解散となる。
これで私の職場体験、二日目は終了するのだった。




