第四百五十六幕 二日目・他国視察
──“外交所”。
体験学習二日目。私達は再びお仕事の場所に来ましたの。
今日も今日とて多種多様の種族が御目見えしており、自国と他国の交流が盛んですわ。
「ルーチェさん。ごきげんよう」
「ごきげんよう。皆様。今日も学んで行きましょう」
「昨日は遊び歩いていたようにしか思えませんけれどねぇ」
「いえ、しかと国の状況を見定め、他の皆様が何をして何を求めているのか観察していましたわ!」
現地にて同じく“魔専アステリア女学院”で体験学習を共にする同級生達とも合流。
昨日は女の子と一緒に回って街を眺めましたものね。しかとそれをレポートに纏めましたわ。
建物に入り、早速受付でお偉方が出迎える。
「二日目もよくぞ来てくれました。“魔専アステリア女学院”の金の卵である淑女様方。将来的には是非とも国と国の──」
二日目も私達を歓迎する。当然ですわね。本人が仰有るように、将来的に“魔専アステリア女学院”の出身者が入ればかなりの収益となる。それだけで箔が付いてしまいますの。
なので下手な小国より歓迎して頂いている様子。
しかし、良かれと思ってそうしているのなら検討違いも甚だしいですわ。相手により、立場で態度を変えるのは正直好かない。それは目上の方を敬わないとかではなく、老若男女問わず分け隔て無く接してこそ世界が広がると思う持論ですの。
流石に改心の余地が無い極悪人とかは私も平等に扱えませんけれど。理想論だけではなく現実は見ておりますわ。どうしようもない事もあると理解しておりますし、誰かに媚びるという行為が生きるのに必要になるのも分かってますの。その上で皆様に、丁寧に接するような人となりたいですわね。
さて、そんな事を考えるのは後にしましょう。今日も体験学習ですもの。
「さて今日は……」
「ああ、そうでした。“魔専アステリア女学院”の皆々様。今日は視察の様子を窺いませんか?」
「視察ですの?」
「はい!」
視察。
今居るような一つの建物内で完結するのではなく、直接他国へと赴いて現場の様子を見ながら話し合うという事。
転移の魔道具が生み出されるより前はどちらかの国のみで終えるのが主流でしたが、魔道具の一般利用が確立されてからは数分も掛からず他国に行けるのでその場所で視察という事も増えましたの。
言伝てだけでは分からない事もありますものね。直接目にしなければ。
「それは良いですわね。是非とも参加させて頂きますわ」
「私達もお願いします」
「楽しみですわ」
「それは良かった。では転移の魔道具へ向かいましょう。幻獣の国。魔物の国。魔族の国へと行き、最後に人間の国の他国へ向かいます」
人間の国の他国。変な言い回しですが、四つの国はあくまで総称。国の中にも複数の国があるのがこの世界ですの。
私達は案内の元、転移の魔道具へと赴いて外交の視察を執り行う。到達と同時に一時的に人間の国から消え去った。
──“幻獣の国”。
『見ての通り自然が豊か。平和で穏やかな我が国ですが、最近は若者の国離れが進んでいましてね。他国との交流が広がれば広がる程に刺激を求める者も少なくないのです』
「野生以外の知能がある存在は必ず己の思考で行動しますからね。人間の国でもその国内で過疎化等も問題になってますから。それにつき──」
長老さん……が適切な表現でしょうか。その方の言う通り平和で穏やかな国。だからこそ生じる問題もある。人や生き物が減ると経済が回らなくなったりしますものね。その逆も然り。増え過ぎても生じうる問題は多い。便利な世の中故の悩み。勉強になりますの。
私が向こうの立場であれば如何様な工夫をして防ぐか。自然の形を尊重する幻獣の国とは言え、全員が全く同じ考えという事は無さそうですものね。
そして話し合うのはそう言った問題点だけではなく、
『どうでしょう。我が国で作ったこの果実は』
『フム、程好い甘味に絶妙な酸味……是非とも自国への輸出を検討して頂きたい。魔物の国は食物や技術に関しては如何せん……如何せんだからな』
『心中お察しします』
「人間の国の魔道具は出来が良いな。これを機に──」
「ええ。だが魔族の国の魔力操作は凄まじい。今回の──」
国で栽培した食べ物や技術の提供などの交換も行われておりますわ。多くの者が集う機会。少しでも自国を売り出すのが外交官の皆様の目的ですの。
そんな感じで国を観光の形で数十分程見て回り、次の国へと視察の転移を行った。
──“魔物の国”。
『見ての通り土地は多く掘り起こせば資源も手に入れられる。だが幻獣の国より遥かに野生の存在が多く、以前も申したように資源を取る事さえも許さぬだろうな』
「成る程。棲み処を全て元通りにしてもか?」
『うむ。ただ縄張りに踏み込まれた。それだけで敵と見なされる』
「そうか。しかしながら、向こうからすれば我らの存在は害虫に等しいのだろう。私達も家に害虫が入ってきたら始末するからな」
『言い得て妙だ。我ら魔物はその意識がより強いと自負している』
魔物の国には、持て余している土地が他国よりも多い。しかし縄張り意識の強い魔物達が過半数を占めているので開拓も難しいとの事。
確かに資源というのは他にはあまり関係も無い私達の勝手な物ですものね。それを理由に棲み処を追われるのは納得出来ないでしょう。「此処にお宝があるから何も与えないけど立ち退いて」と言われたとして、反抗するのは私達も同じですもの。
『土地の広さは4ヶ国の中で最大。故に有り余る資源だが──』
「穏便に開拓出来るならそれに越した事は──」
他に出ている題材もやはり土地の有効活用方面が多いですわね。
これだけ広く、土壌も悪くない。なので林業農業と活用は多々ありますの。しかしそれは=魔物達から奪うという事。場合によっては侵略や略奪行為に該当し、国家間の大きな問題に発展する。それは避けるべき事態とし、故に机上の空論としかならない。問題は山積みですわね。
魔物の国も一通り、あくまで人通りのある場所だけを見て次の国へと向かい行く。
──“魔族の国”。
「俺達の……ゴホン。我が国から提供するのは魔力の効率化を目的とした魔力供給プランだ。魔導の使えない者も居る世界だが、中心エネルギーとなるのは魔力。これを活用して魔道具を作れば皆に快適な暮らしを提出できるだろう」
「流石は魔族の魔力操作技術。此処まで魔道具に落とし込むとは。……フッ、戦闘以外にも活用出来たのだな」
「ハッ、それは褒め言葉として受け取っておこう。戦闘好きの国民性は変わらぬが、それだけで事は進まなくなると考えた次第だ」
「下手な挑発にも乗らないか。……良いでしょう。我が国からも資金や資材の援助をしましょう」
「助かる」
魔族は魔力操作が他種族よりも優れている。昔から魔族とエルフ、どちらがより優れた魔導を扱うかの論争は続いていますものね。
その成果が現れており、魔道具の発達も凄まじく世界的に評判も良いのですわ。
「新製品を確かめてみたのだが、まだ改良の余地がありそうでな。人間の国の技術者、及び幻獣の国のエルフ達の手で改善出来ないか?」
「フム、興味深い。良いでしょう」
『そうですね。このシステムなら自然にも優しく、エルフ達も協力してくれるかもしれません』
「次の機会、魔物の国と親善試合はどうだろう」
『そうだな。最近はまた競技熱が出てきた。快く受け入れよう』
魔道具からスポーツの試合まで、外交官外の仕事と思しき物も受け入れる。それ程に幅広く手掛けている。
勉強になる事は多々ありますが、果たして将来的に上手く活用出来る事が如何程になるか。まだまだ検討も付きませんわね。
そんなこんなで魔族の国も後にし、今一度人間の国に戻り、時間も時間なので一先ず昼食の形になった。
──“人間の国”。
「それでは──」
『ええ──』
「これについて──」
『我が国の──』
昼食の時間。外交官全員で行動していたので時差の問題は無く、皆様が昼食を摂る筈なのですが、ほんの少しの休息も取らず仕事熱心な方も多い。
国の為とは言え、働き過ぎは体に毒でしょうに。
「意外にも大きく動くのですね。外交官というものは」
「ですわね。ただ話すだけではなく、体力も必要みたいですの」
「ただ話すだけであっても体力は必要となりますけれどね~」
私達は“魔専アステリア女学院”のメンバー同士で昼食を摂る。感想を言い合い、食事中も回りの観察は怠らない。
そう言えば、今日は国外のお仕事観察でしたので昨日の女の子とは会ってませんね。そもそもあの子自体を見ていないような……。
「どうかしましたか? ルーチェさん」
「あら失礼。昨日の女の子が居ないなぁと考えてしまいましたの」
「そう言えばそうですわね。何処にいらっしゃるのでしょう?」
ボーッとしてしまったので訊ねられ、素直に話す。それを聞いた皆様も女の子の姿を探ってみた。
けれどやはり居りませんね。元よりお父様か誰かの付き添いで来ていたのなら、今日の私達みたいに別の場所に行っている可能性はありますものね。
そんな疑問を頭の片隅に置き、昼食を終えて再び体験学習へと踏み込んだ。
次の場所で今日は最後。次は人間の国にある王国。王族達のお城ですの。
午前中のうちに三ヶ国を巡り、午後の全てがこの王国となる。それだけ言えば事の重大さが分かるでしょう。
要するに各国巡りよりも重要なものであると、四ヶ国全てからお墨付きを頂いたという事ですわ。
「行きましょうか。皆様」
「そうですわね」
「此処に来るのは私も初めてですの」
「私もですわ。そもそも一学生の立場……それこそルミエル先輩クラスでなければ来れない場所ですもの」
二日目最後の目的地、大きな王国。私達は学生の身でありながら此処に行くと言う緊張と期待の狭間で揺れ、入国するのでした。




