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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
452/457

第四百五十幕 外交・ご令嬢と一緒

 ──“貴賓室”。


 職場体験にて他の人達と交流の最中、転んでしまった小さい子を連れ、私達はそこにある貴賓室に入った。

 わたくしとクラスメイト達はその子に簡易的な治療を施し、部屋に置かれたソファーに座らせる。


「私の聖魔法は天下一品ですわ! これくらいの擦り傷なら完治させてしまいますの!」

「そう言えばルーチェさんの有する本来の魔導は聖属性でしたわね」

「ダイバースのイメージで光魔法使いと思い込んでいましたわ」

「確かに聖魔法はあまり使っておりませんものね。しかし、日常的に便利なのは治療を施せる此方こちらなのですわ!」


 私=光属性のイメージも付いていますのでその勘違いも致し方無し。く言う私自身も多用しているのはそうですものね。如何せんダイバースでは攻撃力の方が求められますので。

 何はともあれ、そんな聖魔法で女の子の治療は完了。目線を彼女に合わせ、少しお話しましょうか。


「貴女はお一人で此処まで来た……という訳はありませんよね。お父様かお母様は外交の仕事ですの?」

「………」


 コクリ。と無言で小さく頷く。

 人見知りをするタイプな子……と言うより背丈も年齢も上の私達に囲まれているから緊張してしまっているようですわね。

 緊張をほぐすのが得意なのはボルカさんですが、この場にはおりません。私達で何とかしなくては。

 でしたら……!


「ふふ、唐突ですが見ててください。此処に一つの玉がありますの」

「……?」


 ポウッ……と光魔法で小さな光球を生成。光魔法も戦い以外に色々と用途がありますわ。

 ピカピカと光っている玉。それに対し、他のみんなも私の意図を理解しましたの。


「その玉に向け、こんな風に水で囲むと~」

「……?」


 水魔法の得意なクラスメイトが私の光球を水で覆う。するとその瞬間、光は更に明るく瞬き部屋全体を照らす物と化した。


「……!」


 その光域の変化に目を丸くして驚きの表情となる女の子。次に炎魔法の得意なクラスメイトが水を囲い、土の得意なクラスメイトが鉱物を生成した。


「……!?」


 するとどうでしょう。炎の色は鉱物によって変わり、鮮やかな緑色の火炎となって燃え広がる。それと同時に覆われた光放つ水が全体をあおく染めた。

 炎色反応ですわ。今回の場合は土魔法からなる銅を炎魔法に投入する事によって緑色に変わりましたの。身近な物では花火などに使われますが、光魔法や水魔法と併用する事で色鮮やかな空間が作られますの。

 女の子は目をキラキラと輝かせながら喜びの表情に変わり、これで緊張も多少はほぐれましたわね。


「笑顔になって頂いて何よりですわ♪ さて、これからどうしましょう? 向こうは人が多くて少々危険ですものね」

「そうですわね。一応指定範囲はそれなりにありますが」

「ではそちらに向かいましょうか?」


 職場体験という名目上、行動出来る範囲には限りがある。しかし向こうからするとどうしても将来的に“魔専アステリア女学院”の生徒に入って欲しいのか、存外その範囲は広大。ほぼ街一つは職場体験の指定範囲となっておりますの。

 なので許可さえ出れば自由に動けますわね。


「ともすれば貴女のお父様かお母様、もしくは使用人の方とお話を付けなくてはなりませんわね」

「ですね。この齢で此処に居られる以上何処かのご令嬢なのは間違いないとして、勝手に連れ出しては誘拐扱いとなってしまいます」

「それは避けなくてはなりませんわね」


 私達にも立場はあり、この子もまず間違い無くご令嬢のような立場。なので無断で連れ出せば、場所が場所ですので国際問題に発展する可能性もある。

 それを踏まえ、私達は訊ねてみますの。


「貴女の身内で今掛け合える方はおりますでしょうか?」

「…………」


 目線を合わせて訊ね、女の子は無言で頷いた。

 やはりそうですわよね。予想通りですの。


「……」

「そちらですわね」


 私の袖を引き、当てのある場所へ案内してくれるご様子。

 私達は貴賓室から外に出て女の子の案内の元、厳重な警備が施されている一室の前へとやって来た。


「この護衛の数。かなりの重役みたいですわね」

「いくら娘さんとは言え、入れるかどうか……」


 私達の懸念は束の間、女の子は扉の前のスーツを着たボディーガードと耳打ちでお話をする。

 護衛の方は私達の方を一瞥し、建物の中から初老の女性が姿を見せる。お母様……では無さそうですわね。あの子に対する振る舞いが身内と言うより使用人や護衛と言ったもの。

 親しさからしておそらく侍女のような……それも侍女長辺りの役職に就く方でしょうか。

 一通りの話を終え、女の子と侍女長の方は私達の方へとやって来た。


「成る程。ルーチェ・ゴルド・シルヴィアさんですね。お友達の方も由緒正しき家柄。お嬢様と交遊関係を築くには申し分無──」

「……!」

「おっと、失礼しました。お嬢様」


 侍女長的な観点で私達を評価しましたが、そうではないと女の子に注意された様子。基本的には無口なのですわね。これについても耳打ちで話してますの。

 先程話したのはかなり勇気を振り絞ったみたいで健気ですわ。

 ともあれ、私達と関係を築くのはビジネス的にも良い事と判断したのか、侍女長さんからも許可が降りましたの。

 無論、私達や女の子にはその様な意図が無く、単純に仲良くしたいと言う感じなのですけれどね。

 何はともあれ、私達は職場体験範囲内の別地区へと赴くのでした。



*****



 ──“港町”。


「わあ……」


 街の方に出るや否や、目をキラキラと輝かせる。

 この様子、俗に言う箱入りなのかもしれませんわね。家柄によっては有り得なくもありませんの。ティーナさんも中等部で“魔専アステリア女学院”に入学するまでは箱入りお嬢様でしたからね。

 本人の精神面か家庭の事情か。いずれにせよ珍しい事ではありませんわ。平和な世の中とは言え、誘拐などの犯罪が無い訳ではありませんので。


「ふふふ、街を見るのは嬉しいですか?」

「うん……」


 目線を合わせて聞き、小さく頷く。

 はしゃいでしまった事が恥ずかしいのか少し顔を赤らめておりましたわ。可愛らしいですの。

 しかし、そうなれば楽しませない訳にはいきませんわね。あまり外の世界を見た事が無いのなら魅せてあげませんと!


「此処は港町。都市とはまた違った場所がありますの。折角ですから此処でしか体験出来ない事をしましょうか!」

「……! うん……!」


 小さく、しかし力強く返事をする。

 都市部でしたら見て回る機会自体は少なくない。なのでこの街ならではの事ですわね。

 外交が主体となる此処では外の世界と繋がる為に多くの船や飛行魔導が飛び交う。ですのでそう言った物を見せるのが良いのでしょうか。それともやはり特有の名産品とか……いいえ、全部見ましょう!


「港町と言えば何より景色ですわね。食事も魚介類中心で美味ですけど、まだそんな時間ではありませんものね。軽食ならまだしも」

「しかし、幼い子に景色は退屈じゃないかしら?」

「それはそうですわね。けれどまあ、人が集まる場所には何らかの催しがある事でしょう!」

「それもそうかしら?」


 港町で注目する事と言えば街並みなどの景観。しかしクラスメイトの方が言うとおりそれじゃ退屈かもしれませんが、催しがあると踏んで私達は良いスポットに向かう。


「やってますわね~」

「賑やかですわ!」


 やって来たのは街の中心部。

 街中でも海を見る事も出来る位置であり、景観を楽しむのも可能な場所。

 予想通り屋台や催し物も行われており、大変賑わいを見せていた。


「ほっはっほっ!」

「わあ……」

「見事な曲芸ですわねぇ」


 ピエロさんがボールやナイフを、魔導をもちいずに操る。危険ですのによくやりますわ。

 楽しませて貰ったのでチップを入れ、他の場所も見て回る。


「“水球”!」

「“水獣”!」


「すごい……」

「ですわねぇ」


 魔導をもちいた催しもあり。

 水で球を作り、その中を水の獣が動き回る。水族館と違ってお魚ではなく動物達が動き回る様は不思議ですわね。

 巧みに水の動物を操り、観客を楽しませていた。


「食べ物も美味しいですわね~」

「まだ食べる時間じゃないと仰有おっしゃってたのでは?」

「軽食は別ですわ~」

「おいしい……」


 広場にある屋台で軽食を摂り、諸々を満喫する。

 小さなパラソルテーブルを囲い、綺麗な景色を見ながら頂く食べ物はより美味しく感じますわね。


「とは言え、一応職場体験中ですからただ楽しむだけじゃダメですわね~」

「それもそうですわ。街行く人達が何を求め、どんな事がお望みなのか観察くらいはしてますの」

「場所が場所ですので息抜きにお偉方もチラホラ来ますものね。普段の行いから如何様な事をするのか、そして私達も日頃から正しく気品を重んじなければ……!」


 プライベートでもそうでなくても態度は重要。特に私達は人より遥かに気を付けなくては家の名を汚す事になりますの。

 何はともあれ、しかと職場体験という事を意識し、気を抜かずにこの子を楽しませる。

 まだまだ初日。そろそろ午後に差し掛かるので戻らなくてはなりませんわね。それまでに目一杯外の世界を見せましょう。まだ港町ならではの体験もしておりませんものね!

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