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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百四十九幕 ギルド・依頼の依頼

「そちらに向かったぞ!」

「追い込んだ!」

「いや、まだだ。奴は何を仕掛けてくるか分からない!」

「追い込まれた時、真価を発揮する……」

「だからアタシが居るんスね」


 その死角を突き、今回のターゲットにアタシは飛び付いた。

 ターゲットはその場で跳躍。体躯の倍はある飛距離を跳ぶが、そこ目掛けて炎を回し込む。これで確保だ。


『ギニャー!?』

「捕ったァ!」


 迷子の猫。

 そのしなやかな体で障害物や狭所をすり抜け、身体能力で跳び行く。更には自分の数倍の高さから落ちても無傷という強靭な肉体を有している。かなりの強敵だった。


「捕まえましたよ~」

「あら、ありがとね~! 数多のギルドや業者に依頼したのに、まさかダメ元の最終手段で最後に依頼したオンボロギルドが一番早く見つけてくれるなんて! ワタシのキューティクルハートフルピースフルラブメシアちゃん!」

(名前長っ。依頼の時から思ってたけど)


 キラキラのマダムに連れられ、猫は手を伸ばし懇願するように去り行く。なんと言うか、御愁傷様。逃げたくなるのも分かるような存在。裕福な暮らしはしてるんだろうけどな。

 そんな感じで外観を綺麗にしたので依頼も入ってくるようになった。まあ、まだあのマダム一人だけど。

 もうちょっとギルドを宣伝すっか~。


「オイオイオイオイ! 見て見て見て見て見てみなよ! この報酬!」

「こんなに……!? 一ヶ月は生活に困らないじゃない!」

「久々に外食行けるんじゃないかしら!?」

「しゃー! 今日は切り上げてどっか遊びに行こう!」

「ちょ、先輩方!」


 意気込んだ矢先、既に帰宅ムードが漂っていた。

 確かにあのマダムはかなり報酬をくれたけど、それにしても切り上げるのが早過ぎる。


「どうしたのかしら? ボルカちゃん」

「いや、どうしたもこうしたも。折角依頼を終えたんスからこれを機により宣伝して行かないと他の依頼が来ないッスよ」


 報酬は多くとも、この人数では本当に一ヶ月がギリギリ。アタシを除いてもだ。

 それなら此処からギルドを売り込み、安定させた方が良いのに。

 ギルドマスターは口を開いた。


「いや、もう今日は来ないだろう。あの依頼人が言っていた。このギルドは“ダメ元の最終手段”ってな。その程度の知名度しか無く、売り込む物もアピールポイントも何も無いんだ」

「とは言っても。自分から行動しなきゃ始まらないッスよ」

「猫探し一つ成功させた程度で売り込む材料にもならないだろう。他のギルドや業者が見つけられなかったのも、他にやる事があるからペット探しは後回しにしていただけだろうしな」


 確かにギルドマスターの言葉には一理ある。売り込む材料が何も無い。

 先輩方の実力は、言っちゃ悪いが下の下。ギルドマスターでようやく下の中くらい。単純に鍛練や経験不足ってのはあるんだろうけどな。

 全員が死に物狂いで頑張ったとしても依頼が来ないんじゃ仕方無い。実践が一番経験を積めるとして、依頼を来させる方法から考えなくちゃな。

 元々名門だった“魔専アステリア女学院”ダイバース部だけど、アタシはそこで部長を努めているんだ。周りの様子をよく見て判断しなきゃならない。

 ……ダイバース……“魔専アステリア女学院”……。


(……! そうだ、売り込み材料はある!)


 一つの案を思い付き、ギルドに帰る途中のギルドメンバーを引き止めた。


「思い付きましたよ。売り込み材料! このアタシを大々的に使えば良いんスよ!」

「……? 君を使う? それはどういう……」

「アタシ、自分で言うのもアレなんスけどそれなりに有名人ですから。それだけで宣伝効果は抜群と思うんス。アタシを御輿みこしとして担ぎ上げれば依頼は今よりは来るかもしれませんよ」

「……成る程。確かに君は有名人だが……」


 案。それはアタシが宣伝役を担うというシンプルなもの。

 中等部のダイバースとは言え、その影響力は高い。大会でも割と良い成績を残してるしな。無名のギルドよりかは効果がある筈だ。


「しかし、中等部の子に頼むというのはギルドとして、大人としてのプライドやブランドが……」

「プライドもブランドも何も、現状が事実じゃないですか。それらを優先するとこの体たらくッスよ。何なら、アタシにはそのプライドすら持ち合わせていないように見えます」

「むむ……そう言われると反論出来ない……よし……分かった。試してみよう。この一月はそれなりに過ごせるようになるが、それ以降の生活に賭けてみる」

「そう来なくちゃ!」


 一応食事してから二、三時間だし、猫探しくらいで腹が減ったりもしない。

 なのでそのまま街の方へと赴き、アタシ達はアタシを宣伝材料に利用して依頼を待つ事にした。


「それで、具体的な方法はどうするんだ? 君が自分はボルカ・フレムって高らかに宣言して集めるのかい?」

「それも一つの手ッスけど、なるべくアタシの事を知って貰いたいですね。なので攻め方は──」


 街に出、アタシ達ギルドは普通に歩く。一応ギルドの証明となる紋章や目印はあるから一目見れば所属している事が分かるようになっている。


「あれって……」

「ギルド?」

「散歩中かな?」


 けどたまに通行人が一瞥するだけで効果薄。狩場を変えるか。


「何もしないで移動するの?」

「ええ。此処の人達の様子を見る限り、アタシについてはそんなに知られていないみたいですから。狙い目はアタシの事を知っている人がより多い場所ッス」


 世界的に流行っているスポーツとは言え、国民全員が漏れ無く熟知している訳じゃない。大会中は普通に仕事の人も居る訳だしな。メディアのインタビューもその手の番組や本を見ない人には通じない。

 なので目指すはダイバースが盛んな地域。その辺りに向かった。


「おい、あれって……!」

「ウッソ、マジぃ?」

「本物か?」


「な、何だかさっきの街と比べて注目を浴びてるような……」

「隣街ってだけでこんなに変わるものなの……?」

「ビンゴ。此処は当たりッスね」


 明らかに先程の街と比べて見られる目が違う。狙いはこれ。

 アタシの事をより深く知っており、一瞥だけじゃなく驚きの表情も見せている。後は此処でギルドマスターが宣伝すれば良いだけ。


「そんじゃ、早速アタシの名前を使って大々的に宣伝してください。この街ならアタシの知名度はそれなり。効果は抜群と思いますよ!」

「そ、そうか。よし……それじゃあ」


 緊張した面持ちのギルドマスター。組織の長足る者がこれじゃあ士気も下がるな~。

 もっと自信を持って欲しいものだぜ。


「えー、我々、ギルドですが、此度は、えー、ボルカ・フレムさんを──」

「覇気が無くて息継ぎ多いッスよ」


 言ってる側からこの有り様。

 こりゃ思う以上に大変だな。ある程度はアタシが引っ張ってその後に得られた成果や実績をこのギルドに押し付けるか。

 緊張で道行く人に言葉が届かないギルドマスターの横でアタシは息を吸い、大々的に宣言する。


「今回、アタシことボルカ・フレムは“魔専アステリア女学院”の職場体験でギルドに所属しましたー! しかしまだ依頼は少なく仕事にも慣れてないのでどしどし依頼を寄越してくださーい! ペット探しから物探しのような雑用までこなしますよー!」


「ボルカ・フレムが……!?」

「へえ、こりゃまた……」

「一つ頼んでみようかしら」

「ボルカさんの力になれるなら……!」


 民達は集い、人が寄って来なかったギルドメンバーの周りは急激に変化を見せていた。

 これならいくつかは依頼を得られるだろう。それで……まあ、アタシはあくまでサポートに徹して他のメンバーに自信を付けさせるのが一番か。無論、あまり調子に乗らせるとそこから崩壊するからその辺も考慮してな。


「スゴい……こんなに集まるなんて……!」

「これがボルカ・フレムパワーか……!」

「これなら一年間は持ちそう……!」

「凄まじいな……ボルカ・フレムの影響力は……」


 見る見るうちに集まる人々。ただ一目アタシを見たいって人も居れば本当に依頼を持ってくる人も居た。

 とは言え正式な場所じゃないんで言伝てだけどな。だから隣ではギルドメンバーがメモを取っていた。


「本当に簡単な依頼ですけど良いですか?」

「構いませんよー! うち、仕事無いんで!」

「オイオイ。事実だけど……」


 無いなら無いって正直に言わなきゃな。

 そんな感じでたまにファンサとしてサインもしつつギルド依頼を終えた。

 数は思った以上に集まったな。流石に今日一日じゃ終わらないんでいくつかは後日に回し、最低限アタシの職場体験期間中に終わるように調整して早速今日の分の依頼を受ける。


「今日は時間も時間なんでなるべく早く終わらせるべき物を優先してしましょうか。依頼を聞いた時既に分けておきましたよ」

「ウソ!? 書いたメモを見ずに!?」

「恐ろしく仕事が早いな……」

「流石に全部じゃないッスけどね」


 他者の話に耳を傾けるのは当たり前。会話の中でも必要な話はなるべく覚えるようにしている。ま、それでも忘れる時は忘れるけどな。

 何はともあれ、あらかじめ分けた依頼と先輩がメモしてくれていた物に目を通し、最終確認をして取り掛かる。

 大きな依頼は聞いた感じ無かったし、地道に終わらせていくか。


「そんじゃ、夕方までに五つは依頼を終わらせましょうか」

「いつ……そんなに沢山を残り数時間で終わらせるなんて。我々は猫探しで二、三時間だぞ……」

「依頼を請け負うギルドで何より大事なのは成功率と問題解決の早さッスよ!」

「二つじゃないか」

「その二つは両立するんス!」

「うーむ……まあ、落ち目のギルドを立て直すには多少の無茶は必要か。ダイバースの実力者ボルカ・フレムが居てくれるうちにある程度名を売らなきゃ廃業だからな。そうなったら本末転倒だ。……よし、腹を括った。五つ……いや、夕方までにより多く終わらせよう!」

「その意気ッス!」


 ギルドマスターもやる気を出した様子。他のメンバー達も帰宅ムードから依頼モードになったな。

 ギルドを立て直す為、生活の為、職場体験の為、アタシ達は示された行動を開始する。

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