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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百四十六幕 職場体験・探り合いの外交

 ──“職場体験・外交”。


 わたくし、ルーチェ・ゴルド・シルヴィア。お勤め先は外交関連の職場ですの。

 普段は職場体験向けの解放などされていないのですけれど、実績のある“魔専アステリア女学院”は特別に許可を得た形。

 将来的にも此処に勤める事となる人は居るでしょうし、将来の交渉相手が来る可能性も考慮され、学院生は特別待遇ですわ。

 とは言え、あくまで如何様な仕事があるかの確認くらいで実際に交渉したりはしないのですけれどね。


「──では、それによって“人間の国”にはどの様な利益があるのでしょう」

『まずは資源。我ら“魔物の国”は少々治安が悪く、まだ開拓していない場所もありますがそこに眠る膨大な資源を思えばメリットは大きいでしょう』

「しかし、そこに派遣する人員の安全を保証してくれなくてはなんとも。無法地帯には強者も多く存在していますから。資源があっても中々手を出せない理由の一つです」

『それについては縄張りのボスとなる者とまた別の形でアプローチをし、早ければ一年で同意を得る事になるでしょう』

「フム……まあ、検討に検討を重ねましょう。下手に動けば今の時代にそぐわない戦争の切っ掛けになるかもしれない。野生の長であれば資源は不要。此方から向こうに有益な物の提出をできればスムーズに進むかもしれません」

『ではそちらの方向で話を進めましょう』


 此処でのお仕事は、他国との外交交渉、国際交流や広報活動に領事業務等々。

 情報を発信し、そこから両国にとっての国益となる事柄を得るのがお仕事。何より必要なのは分析力と判断力。そして分け隔てなく話せるようなコミュニケーション能力。如何にして自国と他国のメリットデメリットを割り出せるかですわね。

 職場体験としては許可が出ている範疇で交渉の一部始終を拝見したり、将来的にお付き合いするような方々との交流ですわね。


『貴女はシルヴィア家のご令嬢ですね。いやぁ、彼の名門“魔専アステリア女学院”出身とは流石の才覚を有しております。我らとも末永く良い関係を築き上げたい所存です』


「有難う御座いますわ。お父様にもそう伝えておきましょう。ところで最近の事情ですが……」


 定型文の礼賛に定型文の御礼。

 あくまで顔を覚えて貰う。そして自分の会社に何かあった時助けて貰えるように取り繕い、にじり寄るのが中等部のわたくしにも頭を下げる大人方のお仕事。

 私以外にも此処へ職場体験に来ているクラスメイトはおりますが、全員がそう簡単に気は許さず一線を空けて表向きだけの談笑をしてますの。

 とは言え愛想は良く。相手に不快な思いをさせてはいけませんわ。私達一人の言動で今後の関係に大きく影響するのがこのお仕事ですもの。現時点で此処に集った者達の中、シルヴィア家の経営する会社は上の立場にありますが、決して他()を見下してはなりませんの。


「いやはや、ルーチェお嬢様。此度は此処の職場体験にようこそいらしました。見てるだけなんてさぞ退屈でしょう」

「いえ、一言一句、言動全てが勉強になりますわ。振る舞い方、話の内容、あらゆる意味での気遣い……中等部では経験出来ないような事ばかりですの」


 また一人、今回の主催の方が来ましたわ。この様に貴重な場を設けて貰ったのはありがたい事。機密情報は入らないでしょうが、ある程度の世界情勢について学べるので有意義ではありますわ。

 しかし少々気疲れがありますわね。常にお嬢様らしく凛としなければならないんですもの。それだけが少し大変ですわね。


「よろしければ、向こうの部屋に行かれてはどうですか? 他国の王族や上流企業のご子息など、将来的に国を背負って立つ金の卵達が勢揃いしてますよ」

「そうですわね。それではお言葉に甘えましょう」


 重苦しいこの空間に居るのも飽きてきたところ。向こうも重苦しいでしょうが、まだ卵の段階である皆様方なら多少は気が楽でしょう。

 丁寧に一礼をし、私はそちらへと向かった。その移動ですら気が抜けませんものね。本当に大変ですわ。



 ──“社交場”。


「君の会社とは将来的にも良好な関係のままでありたいね」

「そうだね。こんなに気が合うなんて思わなかった。困った時はお互い様だ」


「貴女のお父様が経営する企業ですが、最近大規模な吸収合併が少々目に余りますわね」

「ふふ、そんな事ありませんよ。中小企業は中小企業らしく、周りの力を借りて大きくしようと言う純粋な向上心ですの」


「君のお父さんが経営している場所だが、近日中に僕の親の会社と会議を行うらしい」

「どんな内容になる事やら。血縁であるボク達はハラハラしてるよ」


 入るや否や、辺りから聞こえてくる親に関する話。

 これが社交場という名の社会の縮図。将来会社を背負って立つに辺り、今のうちから目をつけておく人。親の威を借る人。将来的には不明瞭ながら、敷かれたレールを進むであろう事を確信している人。

 その形は多種あれど、あまり穏やかな場でないのは見て取れますわね。


「……! 彼女は……ルーチェ・ゴルド・シルヴィア」

「シルヴィア家のご令嬢……」

「やあやあ、御初にお目に掛かりますセニョリータ。是非ともボクとお話を。出来れば将来的な設計について……」

「あら、貴女は引っ込んでくださらない? 彼女は私とお話をしたがってますわ」


 私の姿を見た瞬間に各々(おのおの)の話し相手から視線を移す方々。彼ら彼女らのてのひら返しが早いと思われるかもしれませんが、こう言う状況には慣れっこですわ。

 気の許せるティーナさん、ボルカさん、ウラノさんを筆頭に、“魔専アステリア女学院”の仲間達や大会に出場しているダイバースチームの方以外は私を“シルヴィア家のご令嬢”。“金の成る木”としか見ていませんの。

 なので軽く挨拶だけをし、内心を気付かれないように受け流す。こう言った術も慣れっこ。慣れてしまいましたの。


「………」


 何だか退屈ですわね。将来の事を考えて此処に来ましたのに、お父様に連れられてたまに出向くパーティーと何も変わりませんの。

 早く終わり、ティーナさん達と今日の感想会をしたいですわ。少々お下品ながら、ボルカさんが持ち寄った普通のお菓子を食べ合いながら……ふふ。贅沢ですわね。しかしあのお菓子がどんなに高級な物より美味しく感じますの。


「…………」

「……?」


 すると、このような場に関わらず暗い女の子がおりましたわ。

 私でさえ表面的には安い笑顔と心無い愛想を振り撒いておりますのに。珍しいですわね。しかしながら何処と無く品格が漂うような……。

 私はその子に少し興味が湧きましたの。


「それでですね……」

「成る程……」

「あっ……」


 すると、お話ししながら歩いている方とぶつかってしまいましたの。

 その子はフラつき、ぶつかった人は一瞬だけ目を細めて邪険に扱い、機械的な「御免遊ばせ」と呟いて離れた。その際に足を掛け、女の子は倒れてしまう。

 見てられませんわ……!


「あら、ルーチェさん。どちらに行かれますの?」

「まだ私達とお話したいでしょう?」

「少し離れますわ。楽しい一時でしたの。では」

「あら、そう?」


 別に貴女方とは話したくありませんの。

 けれど少々態度が悪かったかもしれませんね。お二人はヒソヒソと私の方を見て何か話している様子。

 別に気にしませんわ。それより腹立たしいのがあんなに幼い子が他の人に飲まれて転んでしまったと言うのに無関心な七光り達ですの!


「もし、大丈夫ですの? 転んでしまわれましたね」

「あ……その……」

「ふふ、ちょっと擦り剥いてますわね。此処の床、大理石で高級ではありますが、硬くて危ないでしょう。硬くない石の方が珍しいですけれどね♪」

「えと……」

「安心してくださいまし」

「……?」


 その子の傷口に触れ、女の子は困惑の表情を浮かべる。

 小さい子供にとって擦り傷でもダメージは大きい。ですので私は魔力を込めた。


「“治癒光”」

「……! ……あたた……かい……」

「聖魔法ですわ。私本来の魔導ですの」


 光魔法はあくまで派生。本来の私は他者を癒す聖魔法。

 大怪我でもある程度治せるこの魔法。擦り傷程度ならばお手の物ですの。


「これで完了ですわ。後は安全な場所に……と言っても貴女が此処に居るのならご両親はお仕事中でしょうし……」

「えーと……」


 幼い女の子が此処に居るのは、珍しいけれど無い訳ではない。私もそうだったようにご両親の付き添いで来る事はあるでしょうからね。

 とは言え場所が場所なので落ち着いて座れるような所も無い。困りましたわね。

 するとそこに掛けてくる声が。


「あら、ルーチェさん。此処に居ましたの」

「向こうから離れたんですね」

「その子は?」

「あ、皆さん」


 同じく“魔専アステリア女学院”の職場体験中の皆様を

 他のご子息ご令嬢は役立たずですが、この方達は頼りになりますわ。渡りに船と言うものでしょうか。

 私は皆様に事情を説明しました。


「あらそれは大変」

「治療はもう終えてますわね」

「それでは私達に用意された貴賓室に行くのはどうでしょう?」

「成る程。それは良いアイデアですわ!」

「えーと……」


 前述した通り、“魔専アステリア女学院”の職場体験生は特別待遇。なのでそれぞれに貴賓室が割り当てられてますの。

 見たところこの場には馴染めず、居るだけで危険がありそうな女の子。そこに案内する事にしましたわ。


「そうですわね。まずは貴女からご確認を取らなければ。このまま此処で待つのと私達と共に別のお部屋に行くのであればどちらに致しますか?」

「わたしは……」


 目線を合わせ、女の子に交渉する。

 相手の隣に立つ。しっかりと目を見る。それが交渉に置いて大事なこと。

 女の子は少したじろぎながらも、はっきりと応えた。


「おねえちゃんたちといっしょに行く……」

「交渉成立ですわね♪」

「では参りましょうか!」


 女の子の手を引き、私達は貴賓室へ。

 私達の職場体験。それはある程度の謁見を終え、小さな、しかし何処か気品のある女の子と一緒に行動する事から始まりましたわ。

 私達はちょっとしたトラブルに首を突っ込みましたが、他の皆様方はどうなのでしょう?

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