第四百四十三幕 種目・徒競走
《──出揃いました! 学年対抗ダイバース! 各チームの御出座しです! 決勝戦は1チームvs1チームvs1チームの三竦み! 試合内容は体育祭らしく“徒競走”で決めましょう!》
“魔専アステリア女学院”体育祭。最終種目学年対抗ダイバース。決勝。その舞台にボルカちゃん達中等部三年生チームは勝ち上がった。
ルールは“徒競走”。もちろん普通のそれとは違うけど、詳しくは試合を見ながら。三竦みの対決となる。
「やっぱダイバース部の面々が主力のチームが勝ち上がるとは思っていたけど……ちょっと予想外な感じスね」
前の対決は、中等部三年生vs高等部三年生。中等部二年生vs高等部二年生。中等部一年生vs高等部一年生というもの。
それぞれ主力はボルカちゃんにレヴィア先輩。リタル先輩にディーネちゃん達複数人。メリア先輩とムツメちゃん達数人。そう言う形。
私も驚いたよ。順当に行けば経験の差で上級生が勝つと思っていたし、もう片方は主力の差で後輩ちゃん達が勝つと思ってたもん。
だけど結果はこうなった。
「リタル先輩達とムツメ達が相手か。予想外だけど、不足は無いな」
「私達も負けませんよぉ~」
「わ、私達も負けません……!」
リタル先輩達とムツメちゃん達。
経験に差があってもディーネちゃん達の魔力出力なら中等部二年生が勝つと考えており、主力の差があっても経験の差でメリア先輩達高等部一年生が勝つと考えてた。
結果は逆。確かに全員強いのは間違いないけどこんな形になるなんてね~。これはどんな結果になるか分からないよ。
「ま、何にせよ正々堂々戦おうぜ!」
「もちろんです……!」
「楽しみですねぇ~」
会話を終え、みんなは位置に付く。徒競走と言っても当然普通のそれとは違い、ただ競争するだけじゃない。
それについては前述した通り試合を見れば分かりやすいよね。全員がレーンに入り、試合がスタートした。
*****
──“徒競走”。
最終種目は徒競走。チーム全員で先にゴールに着けば勝ちの単純なルール……という訳じゃない。
道中の障害物は午前の部の時からもはや恒例として、ポイント制の徒競走となっている。
何を以てしてのポイントなのかは今に分かる。
《スタート!》
合図と同時に走り出し、魔力を込めて加速。身体能力強化魔導から魔導による乗り物の移動など様々。今のところ優勢なのは……意外にもリタル先輩のチームだな。
単純な身体強化とも違う速度で一気に駆け抜けている。
多分リタル先輩が予め香料魔法でバフを掛けて強化していたんだろう。それに魔力強化が上乗せされてより強い力になったみたいだ。
スタートダッシュはそちらが優位。けれど早くゴールする以外の勝ち筋があるのが今回の徒競走。
「お、まずは一つ目のポイント元!」
「先を越されます……!」
「負けないんだから!」
そして障害物を乗り越え、ポイントとなる宝石があった。
アイテムとしてはシンプル。だけど奥深い。一目見てポイントが手に入ると分かるし、大きさ的には小さいから掴みにくい。
別に立ち止まって探す訳じゃないんだ。それも良いんだけど、一着でゴールしても相応の点数になるからな。速さに自信が無いなら宝石を探してポイントを得るのもありっちゃあり。
大抵は一着を狙って進み、取りやすい位置にあるなら取る。そんな感じで今までの競技と違って決着は早く着くだろうな。
(ここは捨てる……! 競技で魔導の使えない私はどの道三位……だから負担にさせない為、一刻も早くゴールに向かうだけ……!)
(狙いは中間……ボルカ様ならそこからでも抜けられる!)
(リタルちゃんの魔導で五感が鋭くなっている……この速さならポイントを取りつつ一位になれる……!)
多分それぞれが思考を巡らせ、自分に合った順位を狙っている。アンカーのアタシはどんな位置でもトップに立つだけ。ちゃんとポイントになる宝石にも目も光らせておくけどな。一位をキープすれば得られる宝石も多くなるんだ。単純に誰かが手にするよりも前に取れるからな。
順位的にはリタル先輩のチームメイトが一位でアタシのクラスメイトが二位。魔導の使えないムツメは最下位だけど、手堅くポイントを取りつつ本人なりのトップスピードで向かっていた。
「はい!」
「どぞ!」
「パス!」
そこから順位は変動する事無く次の走者にバトンが渡される。一年生チームはムツメの次にシルドが走るみたいだ。
足の速さを考えれば実質魔力が無いも同然のムツメと速さにはあまり自信が無いシルド。主力を遅い順に並べて後半にスパートを掛ける感じかな。
そして第一走じゃ目立たなかったステージギミックも此処から本格的に牙を剥いてくる。
「……!」
踏み入るや否や、魔力の塊が放出。走者を妨害していく。
魔弾ゾーンって言ったところか。次々と撃ち込まれる魔弾にタジタジ。走者は防御せざるを得なくなる。
「“クリスタルバリア”!」
「“アイシクルガード”!」
それぞれの防御魔導で守護。守られはするが、どうしても速度は遅くなる。
そこで一歩前に飛び出したのは守護術に長けているシルド。
「“シールドダッシュ”!」
シールドを張り、魔弾を防ぎながら突き進む。流石、守りながらの移動には慣れているな。
そこから更に身を乗り出し、シルドは別方向に守護壁を作る。
「“シールドサーフ”!」
シールドを下に敷き、絶え間無く流れ行く魔弾の上を滑るように直進。
考えたな。後ろに流される可能性もあるけど、ちゃんと魔力の流れを読んで前に進むように角度を調整している。
一気に三位から一位に躍り出る。そのまま次の走者、ケイに渡された。
無効化能力のムツメ。防御魔導のシルド。そして武器を扱うケイだけど、身体能力の強化に特化している訳じゃない。どんな方法で障害物を突破しながら行くのか。ま、決まってるけどな。
「……」
ダッ! と身体能力を強化して駆け出し、片手には魔力からなる棒を携える。
ケイの魔力量は少ない。基本的な強化と簡単な得物しか用意出来ないが、鍛えた技術は高水準。障害物やギミックは容易く抜け出せるだろうな。
アタシのクラスメイトやリタル先輩のチームメイトもその後を追う。
(単純な移動速度は劣る……一つもミスは許されんな……!)
次の障害物は斜面を越えて高い壁とその先に待ち受ける深い水辺。
空を飛べれば簡単に抜け出せるけど、まだケイはその段階に達していないだろう。アタシのクラスメイトもまだ自由に空は飛べない。リタル先輩のチームメイトに抜かされる可能性は高いな。
(此処は……!)
「……!」
その瞬間、ケイは足元に魔力を込めた。全身から足元付近に集中させたって訳だ。
魔力量が少ないからこそ工夫を凝らして有利に運ばせる。その方法は単純。強化した足で斜面を跳躍するように飛び越え、垂直の壁に足を掛けそのままウォールクライムの要領で壁も突破。反対側へ到達して落下と同時に壁を蹴り、飛び込むように水辺も越えた。その間に魔力の矢が撃ち込まれるが、それは得物でいなす。同時にいくつかの宝石も確保済み。
無茶をするな。足以外の体は生身その物。一歩間違えれば大怪我じゃ済まない可能性もある。
それによって順位は変わらずトップで入り込む。その後から続くのは飛行可能な先輩。アタシ達のチームは最下位になってしまった。けど、まだそんなに差は無い。次と次の走者がこの差をそんなに広げなければアタシなら勝てる。
「差を付けます!」
「させませんよ!」
殆ど後輩と先輩の一騎討ちみたいになっちまってるな。次の走者、中等部一年生は武器魔術のルマ。となるとアンカーはサポート中心のギフか。
リタル先輩もまだ出てきていないから、アンカーはそちらも確定。後は此処からどう転ぶか。
「武器を生み出す応用で……!」
「……!」
武器魔術を生成。それと同時にルマの体は弾けるように加速した。
足元にスリングショットのゴム。それを引き金に、バズーカやロケットランチャーの爆風で一気に加速したみたいだ。
武器魔術使い自身が武器になって吹き飛ぶ。後輩達は体張ってんな~。昔のアタシ達を見ているようだぜ。
「負けないよ!」
「速っ……!」
けれど先輩も負けていない。リタル先輩のバフに自身の強化を上乗せ。そこから更に強めて武器を応用するルマに追い付く。
完全に蚊帳の外だな、アタシ達。次の障害物はトゲや大穴。それらを潜り抜け、ほぼ同時にアンカーのギフとリタル先輩にバトンが渡った。
最終レーンは今までの障害物全部でコース全体を一周。真価が問われる局面。二人は既に準備を終えていた。
「それではお先に失礼しますよぉ~」
「言葉の早さと自身の速度が合ってませんよ!」
「んじゃな~。後で追い抜くぜ」
リタル先輩は自身のバフに身体能力の強化の他の先輩達と同じやり方。けれど本人だから受ける恩恵は大きく、更に別の香料を用いて速度を高めていた。
ギフは自身に魔力の付与。更には周りからも魔力を得て万全の状態で完璧なスタートダッシュを決めた。
アタシが言い終わるよりも前に行っちまったから何も聞こえてないだろうな。
「ごめんなさいまし! 遅れてしまいましたわ!」
「いや、上出来だ。二人の姿がまだ見える位置に居るし、ちゃんとポイントも多く取ってきたみたいだからな!」
「遅れてる分、ポイントで追い付かなくてはと思いまして……!」
「よくやった。後は任せろ!」
「はい……!」
数言くらいなら話す余裕もある。何故ならあの二人、アタシにとってはあまり速くないからな。
これは単純に得意分野の問題。二人ともサポート特化だから体の使い方が少し不馴れな感じがあるんだ。リタル先輩とも一年しか違わないし、経験の差はそんなにないと思うぜ。
「“アクセルフレイム”!」
炎を放ち、一気に加速。大地に炎の焦げ痕を残して突き進み、二人の背中を捉えた上で追い抜かした。
「なんて速さ……!」
「流石ですねぇ~。ボルカさ~ん~」
炎の印が生まれ、最初の障害物に突入。宝石の位置も変わってるけど、アタシの動体視力なら見逃さず回収。流石に全部は難しいからゴール優先だけどな。
けれど流石の二人も一筋縄じゃいかない。抜かしたは抜かしたけど、すぐに後を追ってきた。
「負けません!」
「私も追い付きますよぉ~。“感覚香”~」
「……!」
厄介なのはどちらかと言えばリタル先輩。
来ると同時に香料を振り撒き、アタシの感覚が狂った。そして自分自身は強化して上手くポイントも回収しているみたいだ。
成る程な。バフやデバフを最大限に利用して主力の多いディーネ達を破ったらしい。それなら納得。感覚を狂わされて相手の動き全部が良くなるんじゃ戦い難さが段違いだ。
「けど……!」
「あららぁ~」
「……っ!?」
炎を全方位に放出し、香料の効果を焼き消した。
万全じゃないけど、またすぐに掛けられるからその場は即離脱。まともに戦う事すら難しいなんて先輩はやっぱすげぇや。
魔弾エリアに到達し、無数の弾幕が張られる。危険度で言えば此処が一番かもしれないな。でも魔力が相手なら相殺は可能。打ち消しながら進み、次の障害物である壁と水辺、魔力の矢も突破。
アタシが断トツで優勢って訳でもない。ポイントを回収しながらなのもあるけど、中々二人を引き離せないな。
このまま行けば一着は確定。けど相手がどれくらいの宝石を取っているかにも寄る。
「取り敢えず、一位は貰ったぜ!」
「追い付けませんでしたねぇ~」
「はぁ……はぁ……これが先輩達の実力……私はまだまだみたい……」
《ゴォォォ━━ル!》
一気に加速して一着でゴール。リタル先輩が二位となり、最下位はギフ。
競技は終了。そこからポイントの換算へ移行する。
《それでは結果発表ーっ! ポイントはゴール時間と宝石の大きさから算出されます! 気になる結果はこうなりましたー!》
魔力によって生み出されたモニターに結果が映る。
1位が100ポイント。2位が50ポイント。3位が25ポイント。そこから宝石の点数が入り、大きい物は5ポイント。中くらいのが10ポイントで小さいのが15ポイントとなる。
小さい方が見つけにくくて掴みにくいから点数が高まるんだ。それによって決まった点がこれ。
1位中等部三年生:235P
2位高等部一年生:225P
3位中等部一年生:215P
《勝者! 中等部三年生チーム! そしてこれにより、学年対抗ダイバースは中等部三年生が優勝となりましたァ!》
「やりましたわ!」
「ボルカ様!」
「ああ、アタシ達の勝利だ!」
圧倒したように思えたが、割と結構な接戦だったな。見逃さず回収したつもりだったけど、小さい宝石をアタシは割と見過ごしていた。クラスメイトのお陰で勝てたようなもんだぜ。
これによって“魔専アステリア女学院”体育祭は終了する。総合的な優勝もアタシ達中等部三年生。これで胸を張って高等部に上がれるな。
午後の部も終わりを告げ、そのまま解散となる。明日からはまた授業。二学期の大きなイベント事である学院祭と体育祭も終わっちまったし、後はゆっくり進級するか~。後輩達のダイバースやアタシ達の職場体験もあるしな。
“魔専アステリア女学院”体育祭。それは今年も無事に終わりを迎えるのだった。




