第四百四十二幕 超縄跳び
学年対抗ダイバース。勝ち上がったのは大方予想通り、ディーネちゃん達の居るクラスやメリア先輩の居るクラス。やっぱりダイバース経験者は大きな戦力になるね。
中等部の一年生達はダイバース部でもまだ未熟な事を加味され、クラスが同じなら全員が同チーム。戦力が纏まっているからかなり手強くなってるね。
そんな感じで後半戦がスタート。各学年から選出されているので全六チーム。何処が勝ってもおかしくない戦い。
数分だけ水分補給などの休憩を挟み、午後の部の後半戦はすぐにスタートする。
《それでは! 学年対抗ダイバースを再開します!》
対戦カードはボルカちゃん達中等部三年生vsレヴィア先輩達高等部三年生。リタル先輩達高等部二年生vsディーネちゃん達中等部二年生。メリア先輩達高等部一年生vsムツメちゃん達中等部一年生。
それぞれ中等部高等部の同学年の戦いとなる。主力は元も含めて“魔専アステリア女学院”ダイバース部。誰が勝ってもおかしくない試合。見逃せないね。
《種目“超縄跳び”! 試合スタート!》
そしてすぐに試合が始まる。
試合内容は“超縄跳び”。
*****
──“超縄跳び”。
司会の合図と共にアタシ達は移動する。試合内容は超縄跳び。相手はレヴィア先輩とこの学院の最高学年である高等部三年生だからな。実力や諸々、一瞬足りとも油断は出来ない。
ルールは普通の縄跳びと同じで引っ掛かったら負け。だけど普通と違うところも当然あり、巨大な縄が数秒から数分の間隔で一回回される。それに相手を引っ掻けるのが勝利への道筋。
縄に当てるならどんな方法でもOKだけど、頭脳戦とかになると向こうに利がある。理由は単純に経験の差。偏差値も高い“魔専アステリア女学院”の最高学年だしな。だからうだうだ考えず真っ直ぐ挑むのが一番勝てる可能性が高い。
「まずは一回目。これを越えたら行くぜ」
「分かりましたわ!」
触りも兼ねて最初の回転が行われる。大きな縄が空を切ってアタシらの元に。ヒュンッという音も共にそれを飛び越え、着地と同時にレヴィア先輩達高等部三年生チームの元に向かって行く。
「縄に当たって貰いますよレヴィア先輩!」
「そうはいかないね」
炎で加速して主力のレヴィア先輩の元へ。先輩は植物魔法で複数の罠を作りアタシの進行を阻む。
同じ植物魔法でもティーナ程の出力は無いから工夫を凝らして仕掛けるのが先輩のやり方。
「これくらいなら焼き切れるぜ!」
「だろうね。それくらいは承知の上!」
植物を燃やした途端、そこから爆発が巻き起こった。
引火性の物質が植物の中に仕込まれていたみたいだな。植物内にそう言った物を入れれば破壊と同時に破壊者側へダメージを与える事も出来る。
ティーナより魔力出力は低いけど、ティーナよりも様々な魔導を扱えるレヴィア先輩。二重の罠なんてお手の物だな。
「はあ!」
「植物の蔓……でもただの蔓じゃないんだろうな……!」
複数の蔓がアタシの元に迫り、それを炎で防ぐ。同時に刃のような物が散った。それも防御する。
何か仕組まれてるのが分かっていてもこれしか方法が無いのが難しいところだな。けどまあ、それが一番アタシの性に合ってる。問題はアタシというより、
「「“ファイア”!」」
「「“ウォーター”!」」
「「“ウィンド”!」」
「「“ランド”!」」
「「「「くう……っ!」」」」
魔導の撃ち合いにて、アタシのクラスメイトが押され気味な点。
その辺も経験の差と単純な実力差。みんな強いんだけど、成長期の三年間の差は思った以上に開いている。
「サポートもしつつレヴィア先輩と戦うか! “アローレインフレイム”!」
「私の相手をしながらこれ。流石の実力だね。ボルカさん」
「攻めあぐねている事には変わりないですけどね!」
炎の矢を雨のように降り注がせ、先輩達の足止め。その瞬間に次の縄がやって来た。
「っと、ちゃんと縄跳びしなきゃっスね!」
「そうね」
跳躍して縄を越え、同時に迫って嗾ける。
空中なら縄に引っ掛からないからな。先輩を引っ掻ける。
「これくらいなら……!」
「狙い目はそこじゃないッスよ!」
「……!」
「なっ……!?」
急停止からの急加速。炎を背面に放出し、先輩の一人を吹き飛ばした。
吹き飛んだ先輩は縄に掛かり、ミスという形と共に離脱。これで他のみんなの負担も少しは減るよな。
「助かりますわ!」
「一人減っても中等部の子達には負けないわ!」
如何にして相手を引っ掻けるかの攻防戦。それが超縄跳び。
さっきまでの行動は今までのような戦闘と変わらないけど、思った以上に奥深いのかもな。今の不意討ちが効果的って事は単純な能力が追い付いていないチームメイト達は工夫すれば勝てるかもしれない。
「それについてはみんなが考えるっしょ!」
「何の思考を巡らせているのか。私達にとってロクな事じゃないのは確定だけど」
チームメイトは信頼している。何とか打開策は見つけるってな。アタシはアタシの相手に集中するだけ。
「“樹木巣”!」
植物が放たれ、また張り巡らされる。
あらゆる方面から仕掛けられる植物。威力は低く数もティーナに比べれば少ないが、おそらくこの中にも更なる仕込みがあるだろうし慎重に仕掛けなくちゃならない。
とは言え、慎重過ぎても勝負が決まらない。寧ろジワジワ追い詰められるのが関の山。
てな訳で。
「触れずに迅速に仕掛ける!」
「成る程ね」
炎の細かな操作で植物を避けながらレヴィア先輩の元へ。
これらの攻撃はアタシの動体視力で捉えられる範疇。だから見てからの回避も可能って訳だ。
一気に迫り、先輩は左右から植物を放ち多様の魔導も駆使してアタシの動きを止めようと試みるけど、隙間があるからそこを抜ければ良いだけ。
「そーら!」
「……ッ!」
植物の包囲網を潜り抜け、炎で加速した蹴りを打ち付ける。
そのままレヴィア先輩を吹き飛ばし、戻ってきた縄の方へ一直線。
「危なっ……!」
「流石ッスね」
そして先輩は近くの物に蔓を引っ掛け、風を逆噴射して勢いを殺す。縄が音を立て、アタシ達はそれを跳躍で飛び越えた。
此処までは互角だけど、向こうじゃアタシ達の仲間が一人やられたみたいだな。やっぱり先輩達は強いぜ。
「次は引っ掻けるッスよ!」
「させないよ」
炎で加速し、再びレヴィア先輩の元に迫る。さっきのように植物の隙間を抜け、炎によって加速した回し蹴りを放つ。
けど今回は避けられ、様々な魔導で対応される。縄は行ったばかりで来ないし、ちょっとした時間稼ぎ程度。けれど縄の速度は徐々に高まり、一周するのにそんな時間は掛からなくなっていく。
早いけど、もう次が決め時かもな。
「“森林包囲!”」
「さっきより更に多い数……けど……!」
より多くの植物が網のように張り巡らされ、隙間も微々たる物へと化していく。
しかし無い訳じゃない。完全密封にしない理由があるのか出来ないのか分からないけど、そこを抜けてレヴィア先輩の眼前へ。その近くに縄も迫ってきていた。
もう来たか。益々速くなってんな。……いや、てかこれって……!
「まさか……!」
「……」
フッと小さく微笑んだのが窺えられた。
誘われた……! 隙間無く密封しなかったのは、出来なかったのではなく道筋通りにアタシを進めて一周してくる縄と鉢合わせる為……!
レヴィア先輩の植物に下手な攻撃をしたら自分達が巻き込まれる。その心理を突き、誘導するように張り巡らしたんだ。
このままじゃ瞬きをするうちにアタシはやられちまう。考えている時間はない。まずは植物を焼き払うのが先決……!
「はあ!」
「……!」
詠唱どころか一言の時間すら勿体無い。一気に全身から炎を放出して植物を一掃。それと同時にこのまま攻撃に転ずる事が出来ると気付く。
考えている時間も無い。体の赴くまま、勝利に向かって一直線に突き抜ける。
「そらっ!」
「これは……!」
爆発と同時にその爆風と火炎で加速。火の光によってレヴィア先輩はアタシを見失い、植物に仕込んでいたであろう物質によって更に悪くなる。
アタシ自身は全身を炎で包んでいるから影響は少なく、瞬きよりも速く眼前へ躍り出た。
最初からこうすりゃ良かった。いや、最初の段階で倒し切れないと即座に対策はされる。初見で対応し切れない今と次の瞬間に縄が迫る今の状況でようやく成し遂げられた技。この偶然にはありがたく肖ろう。
「……ッ!」
全身の体当たりでレヴィア先輩を吹き飛ばし、アタシは即座に離脱。それによって先輩は縄にぶつかりアウト。高等部三年生チーム、一番の主力を倒す事が出来た。
残すは他の先輩達。見ればアタシのクラスメイト達も半数以上減ってる。流石にレヴィア先輩を相手取りつつ他の先輩達をいなすのは至難の技。割とギリギリだったかもな。
「よく耐えた! アタシが一気に終わらせるぜ!」
「ボルカ様!」
迅速に行動を開始。次の縄もすぐにやって来る。
人数は減ったけど、少しは残っている。これなら先輩達が複数人相手でも何とかなりそうだぜ。
それから次の縄がやって来るまでの間に先輩達を追い詰め、全員を引っ掻ける事に成功。アタシ達は決勝ラウンドの舞台に上り詰める事が叶うのだった。




