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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
443/457

第四百四十一幕 超騎馬戦

 ──体育祭クラス対抗ダイバース、二回戦。


「次の相手はボルカちゃんとみんなだね……!」

「ああ。単純な実力……もとい連携力とかで言えばアタシ達に利がある。どう転ぶかは分からないぜ」

「私達だって負けないよ……!」


 普段のクラスは違えど、同じ学年である今回のメンバー。私達本来のクラスメイトであるみんなが居るボルカちゃんチームは手強いけど、それが負ける理由にはならない。

 そもそも今回のチームメイトのみんなだって強いもんね!


《二回戦! 種目は“騎馬戦”! スタートォ!》


 司会者さんの合図と共に私達は移動する。次の種目は“騎馬戦”。何度かした事があるね。体育祭では最早もはや恒例行事。

 ルールは単純で相手の旗を取ったら勝ち。騎手同士の戦いになる感じかな。戦い次第ですぐに終わるか時間が掛かるか決まるね。

 私達は会場へ移動した。



 ──“平野”。


 此処は学院が所有している平野。騎馬戦なら校庭でもやれるけど、対抗ダイバースは通常とは別。それは今から明らかになるよ。

 ボルカちゃん達はチームメイトと共に組んで馬役を作り、対する私達は魔力を込めた。


「“フォレストホース”!」

『………』


 植物魔法を使い、植物のお馬さんを作り上げた。

 魔力によるお馬さんの生成を可としているのがダイバース仕様の騎馬戦。物を形作る私の植物魔法は打ってつけ!


「流石だな。ティーナ。けど、アタシ達も負けないぜ!」

「勝負だよ! ボルカちゃんにみんな!」


 互いにお馬さんを用意し、試合がスタートする。両チームの大将は私とボルカちゃん。旗を掲げ、これを死守するのが勝利への道筋。


「ボルカさん。向こうは魔法で馬を生み出しましたが、私達は魔力強化ありとは言え生身。勝てますでしょうか」

「ああ問題無い。結局のところ、ターゲットはティーナの旗だけだからな」


 ボルカちゃん達は魔力強化を施したチームメイトで馬を担っている。正統派な本来の騎馬戦の形だね。私達は植物魔法。小回りは向こうの方が利くけど、攻守一体の私達に死角は無い筈。

 だけど油断はしないよ。ボルカちゃん達が相手だもん。どんな策を練ったとしても負ける可能性はある。


「先手必勝! 行けぇ!」


 いつもはボルカちゃんが先陣を切っている。それは敵の時も味方の時も一緒。

 だけどそこから相手が不利になるのは何度も見てきた。彼女の実力を持ってすればただひたすら真っ直ぐ仕掛けるというだけでやられてしまうのだ。

 だからこそ今は私達がターンを譲らない。


『…………』

「ボルカ様! 来ましたわ!」

「これくらいなら!」


 植物のお馬さんは踏みつけ、ボルカちゃんは炎魔術で対抗。本来なら一瞬で炭にしちゃうけど、ちゃんと対策は練っている。


「……! これは……燃えにくい素材の木に水の膜を張ってんな……!」


 本人が言った通り。

 このお馬さんは樫の木やケヤキ、ヒノキとかナナカマドなどの燃えにくい素材の木を混ぜ合わせた炎対策の特注品。それに他のチームメイト達が水で膜を張り、より燃えにくくしている。

 お馬さんは大地に足を置き、小さな窪みを形成して地響きを起こした。


「丸ごと潰す気かよ……!」

「気絶すれば旗を取り放題だからね!」

「そう言や、ティーナって割と容赦無いんだったな……!」


 ボルカちゃん達は飛び退くようにかわし、私はそこ目掛けて植物を打ち込む。ボルカちゃんなら簡単に避けられる応酬だけど、他のみんなは違うよね。

 避けるのも一苦労であり、たじろいでいる様子だった。


「そしたら……! “ラダーフレイム”!」

「……!」


 炎の壁を前に張り、なんと植物のぶつかった壁が反発力でボルカちゃん達を吹き飛ばした。

 これは……!


「炎なのに質量がある……というかゴム……?」

「吹き飛ぶのはアタシ達自身だけどな! 炎の性質を変化させる術を身に付けたんだぜ!」


 炎の性質変化。確かに魔力を変換するのは理論上可能な所業だけど、そんな技を身に付けていたなんて……。スゴいやボルカちゃん!

 それなら多分硬い炎とか液体のような炎も生成可能な筈。戦略の幅が大きく広がるね。味方なら頼もしいけど、敵対している今は厄介。


「そしてこの炎は、スリングショットのようにアタシ達を押し上げてくれる!」

「……!」


 吹き飛んだ先にまたゴムのような炎の壁を生成して踏み込み、バウンドして空中へ。

 炎の壁は貫通力の高い鋭利な植物で貫いたけど、間に合わなかった。


「ほら、間合いに入ったぜ。ティーナ・ロスト・ルミナス」

「なんでフルネーム……別にいいけど!」


 植物からなるお馬さんの背に乗る向こうの騎馬。傍から見たらシュールだけど、自陣に侵入を許した訳だから緊張感は高い。

 だけど植物をもちいている分、私達はボルカちゃん達より自由に動ける。それでも下手に仕掛けたらあの状態でも返り討ちに遭いそうだから慎重に行動しなくちゃね。


「“火槍”!」

(まずは高速の槍で先制……!)


 槍が放たれ、それを紙一重でかわす。紙一重はダメかもね。ボルカちゃんの炎は掠っただけでも引火する。

 此処は植物魔法からなるお馬さんの背中。私達が有利なのは変わらない……!


「おっと……!」

「きゃっ……!」


 ボルカちゃん達の足元から植物を突き出し、それは跳躍してかわされる。同時に炎で足場を作り、少なくともお馬さんの背に乗るのは避けた。

 それでも周りは私のテリトリー。次々と植物を伸ばしてはけしかける。


「こりゃすぐに旗を取らなきゃならなそうだ!」

「遊んでいる余裕は無いよね。お互いに!」


 お手並み拝見せずとも互いの実力は熟知している。それでも日々成長するから様々な性質の炎を生み出せるようになっていた事は知らなかったけど、成長なら私もしている。

 中等部は成長期だもんね!


「高速で」

「迅速に」

「「奪い取る!」」


 更なる植物を伸ばして仕掛け、ボルカちゃんは自分達の足元に再び弾力のある炎を形成。それによって弾み、その先にまた別の炎を設置して移動。

 弾んだ時に何処へ行くかを予想してあらかじめ置き火炎をしているんだ。これならチームメイトの反応が間に合わなくても自動的に進める事が出来る。

 言うならピンボールみたいな原理かな。器用な事をしているね。


「それなら……!」

「成る程。これなら移動は無意味だけど……」


 ボルカちゃん達を覆い尽くすように大きな植物を放つ。どんなに速くても、逃げ場全てを包み込めば問題無い。

 ボルカちゃんは魔力を込め、炎魔術を放出した。


「アタシ自身が抜け道を作れば良い!」

「だよね……!」


 炎に強い頑丈な植物だったけど、一点集中の熱によって貫き突破された。

 貫かれた植物は内部から熔解して液状化し、熱々の液体が足場に広がる。土台は植物だから引火しないか心配。


「そこ!」

「旗は死守するよ!」


 飛び出すや否や速い炎で旗を狙う。それを多重の植物で覆って防ぎ、熔解した植物の中から新たな樹を生やして此方こっちがボルカちゃんの旗を狙う。

 それだけじゃなく、チームメイトのみんなも植物の上に乗せて移動。全方位からボルカちゃん達を狙っていく。


「ボルカ様! 囲まれましたわ!」

「如何なさいましょう!」

「決まってる。返り討ちだ!」


 向こうの選択は迎撃。当然だよね。チームメイトの命綱は私。上手く植物を操って攻撃と防御を担わなきゃ。

 植物を巧みに扱い、チームメイトとボルカちゃん達は魔力を込めた。


「狙いは旗……!」

「“ウィンドアロー”!」


「速度重視。ま、旗は簡単に取れちまうからな」


 速さ中心の旗を狙った攻撃。それに対してボルカちゃんは一人で対応。私達みたいに一人一人が自由じゃないからこう言う形になるみたい。

 人数の分私達は有利。フィールドも私の魔法だから更に優位に立てるんだけど、見事に全部捌かれてる。


「はあ!」

「やあ!」


 だけどただの木偶という訳でもない。みんなが優秀なのは私も同じクラスだから知っている。

 魔力強化によってボルカちゃんを支える腕を片方だけにし、もう片方の手から魔弾を放つ。私達は植物を操ってそれらをかわし、アイコンタクトで連携を取ってチームメイト達が飛び回る。

 魔力の応酬やぶつかり合いで魔力片が散り、気付けば私とボルカちゃんが対面する形となっていた。互いに旗持ち。これは決着の一途を辿るかもね。


「馬から降りても、地に足着けなきゃ大丈夫だよな!」

「そうかもね!」


 チームメイトから跳躍し、炎で加速して私の元に迫り来るボルカちゃん。私も植物に乗り、自身じゃ足りない速度を補って迎え撃つ。

 徐々に速度を上げ、正面に到達。


「……!」

「そらっ!」


 した瞬間に急な方向転換で直角に移動し、私の死角に回り込む。でも、私にそんな領域は存在しない。


「はっ!」

「……っと……まるで後ろに目があるような……いや、実際にあったな!」


 三人称視点で上からティナで見る事が出来ているから。

 感覚共有で私の全方位を見渡せる。そこに植物を打ち付ければカウンターが成立。旗を吹き飛ばしたいところだけど、その点は流石の反射神経で回避。炎の推進力でグンッと舞い上がり、片手に火球を込めた。


「“ファイアボール”!」

「当たる訳にはいかないよね!」


 その火球が放たれ、植物で防御。これで安心はしない。だってボルカちゃんの事だから……!


「仕込んでいるよね!」

「へへっ。バレたか」


 一撃で終わる訳がない。火球の中に小さな火球があり、火の光で紛れて迫っていた。

 炎を植物で弾いて旗は死守。二重三重の攻撃対策に今のを含めて複数の植物を張っておく。視界が悪くてもティナが居るから認識は出来る。今の私に死角は無い!


「……決まりだ……!」

「……!?」


 ──筈だった。

 横を見ると、粘着性の高い炎が植物にくっついていた。それと同時に理解する。

 植物で弾いた小さな火球。それは性質変化で粘着力を高めた火炎だったんだと。

 ボルカちゃんはルミエル先輩のように遠隔での魔力操作も可能。一度付けてしまえばもう彼女の手中。認識すると同時に試合終了となる。


「……っ」


 炎が飛び、私の旗を撃ち抜いたから。

 防御した側が逆に隙となる。逃げ場の無い完全防御で侵入を許したら、自分も抜け出せなくなる教訓。

 今回はボルカちゃんが一枚上手だったね。流石。それと共に勝負も決した。


《勝者! Ⅲ-Ⅰ(3-1)!》


「ごめんね。負けちゃった」

「仕方無いですわ。まさかティーナさんの防御が破られるとは予想外でしかありませんもの!」

「それに、あのボルカさんと渡り合えた事実の方が感無量ですわ!」

「なんだか強くなれた気がしますの!」

「ティーナさんも、クラスは別ですけど今度ご一緒にお茶とかどうでしょう?」


 チームメイトのみんなは好意的な反応だった。

 相手がボルカちゃんだからってのもあるのかな。世界的な実力者に此処まで追いすがれた。それは大きな事。もちろん、負けたら悔しいけどね。

 みんなとも仲良くなれた気がするし、やって良かった~。

 クラス対抗ダイバース。私達はボルカちゃんに敗れ、Ⅲ-Ⅰ(3-1)が学年対抗へ勝ち進めるのだった。

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