第四百三十九幕 体育祭・学年対抗ダイバース再び
──“クラス対抗ダイバース”。
お昼休憩の後、クラス対抗ダイバースが始まった。
今年は学年から代表を決めるんじゃなくて一つ一つのクラスから選ぶ感じ。だけど普段とは違い、私達のチームは少々変わっている。
「私達の味方にはティーナさんが来てくれるのですね!」
「頼もしいです!」
「アハハ……頑張るよ」
「ウラノ・ビブロスさんが仲間ですか。さの手数は大きな武器になります。頼りにさせて貰いますが、私達も見せ場は残しますので悪しからず」
「ええ。その対抗心があるのは良いわ。私一人に頼りっぱなしだったのなら、私自身が手を貸さないつもりだったからね」
「ルーチェさんですわね。貴女のお父様が勤める企業について……」
「私、この財閥のご令嬢をしておりますの。よろしければ紹介の程を」
「貴女達、失礼ですわよ。今はダイバースに集中しなければなりませんわ」
「そうですわ! 私としても負けたくはありませんもの!」
「私も居る。勝利はほぼ確定だね」
「ですわね! カザミさん!」
「皆が敵に回った。これは予選を勝ち抜くのも大変かもね」
「へっ、良い事だ。ティーナ達も倒して優勝してやるぜ!」
こんな風に、私達のようにダイバースで好成績を残しているメンバーは各クラスに配属されてお互いに戦う形になっているの。チームはⅢ-Ⅰがボルカちゃん。Ⅲ-Ⅱが私。Ⅲ-Ⅲがウラノちゃんで、Ⅲ-Ⅳがルーチェちゃんとカザミさん。
バランス調整も兼ねたチーム分けだね。因みに一クラス丸々じゃなくて、四つのチームになるように組み合わされている。そうしなきゃシード枠とかが生まれちゃって満足に試合を出来ない事もあるからね。
方式で言えば最初に同学年で試合を行い、勝ち進んだら先輩達や後輩達と勝負。その辺は今までと変わらないよ。
そんな感じで学年対抗ダイバースが始まった。ボルカちゃん達が敵に回る分、最初から最後まで強敵揃いになるね……!
──“謎解き”。
最初の試合は無難な謎解き系。レベルで言えば私達相応、中等部三年生くらい。
舞台は貸し切った農村ステージ。山も森もある。今回の謎解き問題文はこれ。
《“我々の調査結果”。
かつて世界を恐怖に至らしめた存在の全容が掴めてきた。或いは王、或いは悪魔、或いは魔王、或いは天災、或いは神と呼ばれたその存在達。
我らは文献を元にそれぞれを“厄災”・“虚無”・“絶望”・“最悪”・“女王”と名付けた。
しかしその資料が盗まれてしまい、偽りの文書が出回ってしまった。これは非常事態。正しい歴史を伝える為に我らは考古学を学んでいると言うのに由々しき事だ。
よって我ら以外の調査隊にも命ずる。窃盗団の隠れ家は山の洞窟と森。見つからぬよう五つの存在に対する正しい資料を集め、偽りの資料を破棄せよ
・残り枚数20/20 》
歴史には、数多の仮説が存在する。その全てが正しい訳は無く、おそらく嘘の方が多い事すらあり得る。今回の問題はバラ蒔かれた偽りの資料を破壊する事みたい。
文章からして私達もその調査隊の一員って事みたいだね。依頼主も一員だから探してる体みたい。一番下の枚数表記が対象物の数。より多く破棄した方の勝利。
「さて、どうしますの。ティーナさん。謎解きは私達も力になれます故、何なりとお使いくださいまし!」
「「「ですわ!」」」
「うん、そうだね。えーと、まずこの文章から導き出せるヒントは五つの存在と多分ある場所についてだね」
「王、悪魔、魔王、天災、神ですわね」
「それ以外にも厄災、虚無、絶望、最悪、女王もありますわ」
「そして指定場所は山の洞窟と森ですわ」
「うん」
おそらく今回のキーとなるワードはその五つ……厳密に言えば十個。表記があったのはそれがありそうな場所。
単純に考えるなら二ヶ所に十枚ずつある。となると二手に分かれた方が良い。けど必ずそこにある訳じゃないよね。
「指定場所と言ってもそこにあるのはあくまで“ヒント”だけだと思うよ。だってほら、“窃盗団の隠れ家”表記でしかないから“偽りの資料の場所”じゃないんだ」
「それもそうですわね。しかしヒントになるのは間違いない筈ですわ」
「うん。それも当たってる。だから二手に分かれて探そうか。だって今回の相手を思えば時間が惜しいからね」
「ですわね。相手は──ウラノ・ビブロスさん。中等部三年生成績一位の頭脳派ですわ」
私達の相手はウラノちゃん。既に謎を解いている可能性もあるし、ゆっくりはしていられない。
なので私達は二手に分かれて行動する事にした。チームによる妨害もありだから、それについての対策も施さないとね。
「それじゃ……“フォレストゴーレム”!」
『『…………』』
「この子達が私の加わらない班の護衛に回るね!」
「頼もしいですわ!」
もし片方のチームに何かあればゴーレムから私の方に情報が伝達される。これで守衛は万全。
私達は早速山の洞窟と森の中に入っていく。
『窃盗団に見つからない事も条件みたいだから、その辺も気を付けよっか』
「分かりましたわ!」
ゴーレムだけじゃあくまで戦闘関連にしか影響が及ばない。なのでティナも同行させ、お互いの情報も共有するつもり。
いくつかのチームに分かれなくちゃ解けない謎だから、ウラノちゃん一人で全部解決するのも大変な筈。バランスは良いね。
無論、“魔専アステリア女学院”に通う子達は全員頭の回転が早いから油断はしないし、私もチームメイトを信じてる。
植物に乗って高速移動。一番遠い場所にある山の洞窟に到達した。
「此処からは窃盗団に見つからないように行動しなくちゃね……」
「慎重に……ですわ」
ユニットとして窃盗団モチーフの動くオブジェクトが置いてある。多分魔力の感知システムが施されており、それに触れると何かしらのペナルティが及ぶのかもしれない。
だからなるべく触れないように侵入する。そのまま奥地へ。
「資料があった……」
「隠し場所が示されているか、全文に目を通す余裕はありませんものね。要所だけを見抜きましょう」
流石だね。暗号文の解き方は心得ている。他のみんなも同じく、重要そうな資料だけをまとめて読み進めていく。
因みに偽りって言うのは“神”を“天使”表記にしたり、“女王”を“王女”表記にしたりとかそんな感じ。見分け方は初等部の下級生でも解けるくらいにかなり単純だね。ちょっとした間違い探し程度の難易度。まあ、あくまで要所だけを抜き取ったやり方でこれだから、全文を読んじゃう人は騙されるかも。巧みな文脈で違和感が無くなるように仕組まれてる。だから全部読まないのは得策だったね。
そこから他の物とも照らし合わせ、どの場所にあるのか導き出した。
『誰ダ!』
「見つかった……!?」
「時間経過と共に進められるみたいですわね」
「成る程ね。確かに時間を掛ければ必ず解けるけど、他のチームも待たせてるもんね。けど丁度良いや。ウラノちゃん達も私達とは別のヒントで見つけてると思うから急がなきゃ!」
この隠れ家にウラノちゃん達は居なかった。そして別動隊から報告も無し。なので彼女達は文章だけじゃなく、他のヒントを見つけて行動していると考えるのが妥当。
私達は急ぎ、窃盗団を蹴散らして脱出した。
「数はほぼ無制限。帰り際以外で見つかったら資料に目を通す時間は無くなっていたね……!」
「ええ……!」
その辺も完璧に計算された配置。中等部三年生相当だけあって難易度はそれなり。
別動隊と連絡を取る。
「もしもし! そっちはどう?」
《問題無しですわー! 最終的に見つかってしまいましたが、大凡の場所は特定しましたの!》
向こうも順調な様子。私はふと文章に目を通した。
「……! 残りの数が……!」
「そんな……!」
そこに記された物──残り枚数13/20の表記。
つまり既にウラノちゃん達は7枚も偽りの資料を破棄している事になる。11枚を先に破棄されたらその時点で私達の敗北。私達も相当早いと思ったけど、それを上回るなんてどうやって……!
植物で移動しつつ、警戒も兼ねてまたふと横を見る。そこには窃盗団と違う背格好の動くオブジェクトが。
まさか……!
「やられた……! 文章にあった──我“ら”以外の調査隊にも命ずる……つまり他の調査員も紛れてるって事。窃盗団の隠れ家に行くより、近くに居る味方ユニットから話を聞いた方が早かったんだ……!」
「ウラノさんはそれに気付いたって事ですわね……!」
「そうみたい。流石だね……けど……!」
目的地に到達。資料から導き出した答えの元、此処にあった複数の偽資料を破棄する。
これでも4枚。他のチームメイト達も目的地について2枚の破棄をティナ越しに確認。これで私達が破棄したのは計6枚だけど、その間に更に2枚表記が減った。ウラノちゃん達は9枚の偽資料を破棄したという事。残り2枚取られたらその時点で私達の負け。
急ぐとかそのレベルじゃない。続け様にもう1枚の破棄を確認。万事休すかな……!
「……? あれ?」
それから数分後、私達は4枚の偽資料を破棄してウラノちゃん達に並んだけど、向こうに動きが見られなかった。
待っててくれている……訳がないよね。何で急にペースが落ちたんだろう。
……! もしかして……!
「あくまでまだ調査中……サポートユニットの知ってる情報は限られていて、より確実なのが窃盗団の資料……!」
「という事は……!」
「まだ勝ち筋は残ってる……!」
サポートユニットにも限りがある。それもこの文章から読み取れる情報。だからウラノちゃんは予めギリギリまで破棄し、私達の焦りを誘って残り1枚の偽資料を探すように動いたみたい。
だけど予想以上に見つからず、確実な情報がある私達と並んだ。という事は……!
「そこに居るんだね! ウラノちゃん!」
「あら、やっと気付いたの。窃盗団の隠れ家はもう荒らされた痕跡しかなくて、ヒントも当然無くなっていた。だから貴女達を追跡していたのに」
「戦闘主体じゃないから……気配は読んでなかったかな……!」
ウラノちゃんの狙いは横取り。言い方は悪いけど、今回のルールに置いては立派な策略。焦らせるだけ焦らせ、安心させた所で横から奪い取るのが目的。だって追い詰められた末に残り1枚となり、勝てる可能性が現実的になったら油断しちゃう可能性が高いから。
早めに気付いて良かった。まんまと乗せられる所だったよ。
「貴女の行動から場所は分かったわ。ここの向こうは廃村。先に行くわね」
「させないよ!」
龍に乗り、高速で移動するウラノちゃん。相変わらずカッコ良くて絵になる。でも見惚れている場合じゃない。植物の速度を高め、その後を追った。
他のみんなも妨害し合っているね。私の植物の上は丁度良い決戦フィールドみたい。けど、私達は別動隊で分かれてるから数の差では此方側が不利。
でも、負ける訳にはいかない!
「このまま追いかけっこは無理そうね」
「……!」
龍が振り向き、私達の乗る植物を焼き払った。
なんて判断力。即断即決で一気に差を広げた。でも、私達は確実にある場所を分かっている。ウラノちゃんも推測は出来ているとして、それでも確実じゃないから少し、一瞬は手間取る可能性がほんのちょっぴりだけあるかもしれない。
その隙を何とか突いてこの場は……!
「場所は……此処ね」
「……っ」
けどそれじゃダメ。ウラノちゃんの推理力は完璧に近い。それに加え、元より早い者勝ちだから予測地点に迅速で行かないとどの道勝つ見込みは減る。
例え100%じゃなくても予想場所に突っ込むという事が重要。そしてウラノちゃんが目を付けた場所は、残念だけど大正解。
「これで私達の──」
「させませんわ!」
「……!」
「……! 別動隊のみんな!」
そこで別動隊のチームメイトが合流した。ちゃんとゴーレム達も居る。あのゴーレムを遠距離操作で伸ばし、偽りの資料を……!
「そう来ると思ったわ」
「……!」
魔導書が展開され、足元が沼になって他のみんなを捕らえた。
これも織り込み済みって訳……つくづく手強い相手だね、ウラノちゃん。
だけど、私の魔法は地面だけじゃない!
『そーれ!』
「……! お人形……!」
空中から私の糸で繋がっているティナ。そのまま急降下からの魔力を込めて加速。ウラノちゃんも龍で加速し、建物の中から隠された偽りの資料を手に取った。
「これで私の──」
「──勝ち……だよ!」
「……!(お人形さんが動かない……もしかしてティーナさん……私にわざと取らせた……!?)……という事は……!」
真っ直ぐ進んだウラノちゃん。その先に居るのは、場所を予測して空中停止させていたティナ。此処からは博打だね。
ウラノちゃんは勢いそのままティナに向かい、ティナは資料を引っ掻いて破り捨てた。
これにより勝利確定数の11枚を廃棄した事になる。それは資料を取ったウラノちゃんか、資料を破いた私達か……!
ゲーム終了と共に転移し、私達の勝敗が定められる。
《勝者! 最後に資料を破ったティーナさん達Ⅲ-Ⅱとなりました!》
結果、私達の勝利となった。
最後は一か八かの賭け。破った判定は持っている方と実行した方のどちらになるか。それは破った方に軍配が上がるみたい。
「やれやれ。早々に負けてしまったわね。観戦に回れるのは良いけれど、ギリギリで負けるのはちょっと思うところがあるかも」
「アハハ……本当にギリギリ過ぎる戦いだったよ……」
何はともあれ、私達は初戦を突破。ウラノちゃんに謎解きで勝てたのは良かったね……あれ? これって謎解きで勝ったのかな……その分野じゃ常に先手を取られてたような……。
と、取り敢えず私達の勝利。戦いには負けたようなものだけど、勝負には勝った。
“魔専アステリア女学院”体育祭。学年対抗ダイバース。今年も強敵揃いだね!




