第四十四幕 二回戦開始!
「やったわね。みんな!」
「ルミエル先輩!」
一回戦を突破した私達へ、ルミエル先輩が話し掛けてくれる。
様子見も兼ねて一年生だけのチームを組んだけど、ちゃんと勝つ事が出来て何よりだね!
「これで今日の分の試合は残り一試合ね♪」
「え? 残りの試合は一つなんですか?」
「そうよ。チームが多くて、早く終わったら一日二試合があるかどうかって感じなの。二日目にもう一、二試合して、一日空けてもう一試合……ってな感じで、ゲームは数日のうちに沢山するわ」
「そうなんですか」
試合の日程は結構みっちりみたいだね。
覚えるのが大変そうだなぁと思った時、ルミエル先輩は畳み掛けるように言葉を続けた。
「今はあくまで予選の予選。勝ち残れば一都市の中にある学校同士の試合で、そこから国内の勝ち残ったチームと戦うのよ♪ その後に同じ国の他国チーム、そして最後に人間の国から代表の十五チームと魔族、幻獣、魔物の代表達と戦うわ♪」
「え、え? 地区予選で戦って、都市予選で戦って、国予選で戦って、同じ国の他国と戦って、国代表になって他種族代表と戦って……!?」
だ、ダメだ……。全然頭に入って来ない。とにかくスゴく沢山のチームと試合をするみたい。
しかもこれってダイバースだけじゃなくて他の部活動もそうなんだよね……。
学院では数週間の長期休暇扱いだけど、そんなに試合があるならそれも納得。その後すぐに一ヶ月の長期休暇に入るから勉強を疎かにしないように気を付けなきゃね。
……と、言葉が若干のゲシュタルト崩壊を起こして関係無い事まで考えてしまった。
ルミエル先輩は笑って返す。
「フフ、体験してみると思ったより複雑じゃないわ。言葉で説明するのが複雑なだけ。同じ国の中の他国って部分が変な言い回しになっているのね。私達の国や“シャラン・ウェーテル共和国”とか“日の下”とか、人間の国の中でも“国”というものは複数あるもの。仕方無いわ」
そう、括りでは人間の国、魔族の国、幻獣の国、魔物の国って感じで四つだけど、あくまでそれは人間達の住む国。魔族達の住む国……みたいな感じで種族を一纏めにしたに過ぎない。
国の中に複数の都市があるように、種族の領域には沢山の国があるの。世界史で勉強していても結構ややこしいよね。
取り敢えず、体感すれば自然と慣れるとの事なので物事を複雑に考えるのはやめる。思考放棄とも言うね。
「二回戦に戦うかもしれないチームも出てくるわ。実力差がハッキリ出る一試合はそんなに長くないから、それまで屋台巡りでもして休憩しましょう♪」
「はい。そうします」
「アタシは全然魔力使ってないからあんまし腹減ってないな~」
「試合の観戦は必要ですわね」
「あと、次がどんなゲームになるかも考えないとね」
「色々考えよー!」
「そうですねぇ~」
何はともあれ、やる事は敵情視察。その為にも他の試合をじっくりと観察して対策を練らなきゃ!
会場に設置された屋台に寄って摘まめるような食べ物を購入し、飲み物も買っておく。試合前にはおトイレにも行かなきゃね。
一通り買った後、試合観戦をする為に私達に準備された待機室でモニターを眺める。
この待機室には選手に必要な物が一通り揃っている。なんならベッドとかバスルームもあってホテルの一室みたいな場所。ルームサービスも充実しており、何泊か出来ちゃうかもしれない。
実際、全国的に学校は休みになるから此処で宿泊していく選手も多いんだって。至れり尽くせりだね。
人によっては会場の方で見たりもするらしいけど、選手には人だかりが出来ちゃうからそれが嫌なら待機室の方が良いみたい。なるべく体力も温存しておきたいし、私もそっち側かな~。
「お、こっちのチームが勝ったか~」
「惜しかったですわ」
「予想通り、次は此方のチームが勝ったね」
「スゴい迫力だったよ!」
「フフ、みんな頑張っていて微笑ましいわ~」
「ルミ。君はもう何処目線なんだ」
試合の流れは様々。
一回戦の私達みたいに力量に差があれば一瞬で終わる事があり、緻密な戦略によって時間が掛かる場合もある。
実力が同じくらいならやっぱり少し時間が伸びちゃうね。
どの試合も見応えがあり、ハラハラドキドキする観戦が流れていった。
「あら、次は勝ち残った方が貴女達と当たるチームじゃない」
「……!」
そしてこの試合で勝った方が私達の二回戦の相手。
人数は両チーム最大数の五人で登録されており、控えには片方が四人で片方は五人。多分全体的に見ても平均的なチームが相手みたい。
《それでは、スタートォ!》
開始の合図と共に両チームがバラける。
箒に乗れる一人は空から偵察をし、相手チームの一人とバッティング。空中で戦闘が始まり、偵察のしようが無くなる。
地上でも戦闘が開始し、お互いに魔法を撃ち合い剣士の子が攻め入って畳み掛ける。
良い勝負をし、決着が付いた。
「見応えのある戦いだったねぇ~」
「けどま、そんなに脅威は感じなかったな! バロンセンパイの方が怖いくらいだ!」
「あの方と比べたら当たり前でしょうに……」
互いに拮抗した戦闘を終えて決着が付いた。
こうしてみると、ティナのアドバンテージはスゴく大きいのかも。偵察をするのは相手も同じだからぶつかっちゃうし、結局盤面を見極めるのは難しくなっちゃう。
小回りが利いて動けるのは良いね。私の視界は限られちゃうけど。
「そんじゃ、他の試合を観戦しながら次の相手対策をすっか。どんなルールになるかは分からんけど、拮抗した戦いだったから相手の得意分野もある程度絞れる」
「そうね。それじゃあまず相手の偵察係には──」
他のチームの試合を見ながら、次の相手の対策を練る。
一回戦は午前中で終わり、午後からの二回戦に備えるのだった。
*****
《さあさあさあさあ! やって参りました二回戦、第三試合! 一回戦で圧倒的な力を見せ付けた“魔専アステリア女学院”vs“町立ヘーボーン中学校”! 試合は如何程になるのでしょうか!》
対戦相手はヘーボーン中学校という……チーム?
なんだろうこの、一風変わった学校名なのにどことなく漂う普通な感じは。
相手の編成は偵察役にほうき乗りが一人。前衛に剣士が一人、他は魔法使いや魔術師で前衛と後衛、サポートを担っている五人チーム。
バランス型で隙の無いチームだ。
《今回のルールは……“宝探しゲーム”! フィールドに散りばめられた五個のアイテムを探し出し、自陣の指定ポイントへ。一番多かったチームの勝ちです! その場所に持ち込むまでなら妨害もなんでもあり! 連携が試されるゲームですよ!》
次のルールは宝探し。こっちの方が単純だけど、二ヶ月前にルミエル先輩がセッティングしてくれた謎解きゲームに似ているね。
二回戦からはチーム毎にルールが選定されて行われる。
こうする事で第一試合の子達だけが不利になるっていう事柄を無くしているんだね。
観客からは声が。
「宝探しかー」
「魔力出力とか実力じゃアステリア学院が勝ってたからボン中はラッキーだな」
「けど、せっかく見つけても自陣に運ぶまでに捕まったら終わりじゃないか?」
「隠密性も求められるわね」
との事。他にも全体的に私達が勝つんじゃないかという声が聞こえた。
そうなると良いけど、早く見つけて早く自陣へ運ぶのが少し大変だね。隠れながら行動されたら厄介。……正面から挑まれても勝てるかは分からないけど……。
「全体的に君達が勝つと思われてるみたいだね」
「だが、勝つのは俺達だ!」
「目に物見せてやるわ!」
「お、お手柔らかにお願いします」
「負けねーぞ! センパイ方!」
「吠え面掻きなさい」
「私達が勝ちますわ!」
「ちょっとみんな……!?」
ウラノちゃんを含めてみんなが好戦的。色んな試合を見て燃えちゃったのかも。
でも油断はしていない。運要素も大きく絡むからまた頑張ろう!
その後控え室へ移動し、数分の作戦会議。既に対策は練っているから、今回の会議は宝探しについてだね。
タイムリミットが迫り、転移の魔道具で今回の参加メンバーが移動した。
そのメンバーは私とボルカちゃんにウラノちゃん。そしてメリア先輩にリタル先輩。ルーチェちゃんは待機という陣形。
よーし、頑張るぞ!
──“無人島ステージ”。
「今回のステージは此処か……!」
「海と……森……」
「奥の方には洞窟もあるわね」
「あ、マップ持ってるー!」
「このマップを頼りに探すんだねぇ~」
転移場所は海に囲まれた無人島。
森や洞窟と色んな場所があり、モンスターも解き放たれている。
転移と同時にマップも渡されており、本当に宝探しをしようって言う形が作られていた。
「そんじゃ作戦通り、先手頼みます。メリア先輩」
「OK! 先輩に任せなさい!」
メリア先輩がほうきに乗り、一気に上空へ。
相手も空から偵察をすると判断しての行動。私達は地上を行く。直後に上空で風同士のぶつかり合いを感じた。もう始まったんだ。
だけどその間にもアイテムについて話し合う。
「必要アイテムは五個。つまり三個を手中に収められたら勝利は確定ね」
「それなら二つは切り捨てるか?」
「先に三つ見つけたらそれで良いかもね。問題はその場所だけど、この無人島の地形からしてほぼ確実にあるのは洞窟内と森……かな」
「そこまで分かるんだ……」
「簡単な話よ。隠す立場で考えて、全部が砂浜とかな訳無いでしょ? 森と言うのは広範囲だけど、ティーナさんなら遮蔽を気にせず探せるわ。流石に分かりやすくしてあるだろうし」
「あはは……それはそうだね」
ウラノちゃんの推測では森と洞窟内にあるのは確定。確かにそれは間違いない。森と洞窟に隠さない理由はないもん。
ボルカちゃんが言葉を続ける。
「そんじゃアタシ達四人は二手に別れるか。空はメリア先輩がやってくれてるし、森はティーナ。洞窟にはアタシが適任かな」
「そうね。森を隈無く探索出来るティーナさんに暗い洞窟でも火を明かりにする事が出来るボルカさん。私達はどっちに行きますか? リタル先輩」
「そうだねぇ~。私は落ち着くから森が良いかなぁ~」
「そんな理由ですか……」
「……じゃあ私はボルカさんと洞窟だね」
行動する班は決まった。私とリタル先輩で森の中。ボルカちゃんとウラノちゃんで洞窟へ。
メリア先輩は空中で──
「やっるよ~!」
「くっ……なんて巧みな箒使い……!」
「風も得っ意! 任せなさーい!」
「……っ」
──問題無さそうだね。自由に飛び回って敵チームの偵察を相手取っていた。
相手チームの動向も気になるし、作戦も決まっているから私達も早く行動を開始しなきゃ。
「そんじゃ、さっかと三個以上見つけてこの試合も勝つか!」
「うん!」
チーム分けが決まり、森と洞窟に向かって進み行く。地図はレプリカをウラノちゃんが作って二チームに。
二回戦、バランス型のチームと織り成す宝探しゲームが始まった。




