第四百三十七幕 中等部最後の学院祭・終幕
──学院祭、最終日。
演劇が終わり、学院祭も最終日になった。前に後輩ちゃん達の出し物を満喫して、昨日は演劇で見て回れなかったから今回は先輩達の場所に行く事にした。
つまり行き先は来年から私達も通う事になる“魔専アステリア女学院”高等部棟。
「既にこの二年間で何度か行ってるけど、やっぱり緊張も少しあるねぇ~」
「ま、先輩達の居る場所だからなー。アタシは別に緊張しないけど」
「来年からは私達が通う事になりますのよ。今から慣れて置かなければなりませんわ」
「そうね。まあ来年になれば自然と慣れるでしょう」
最終日は私とボルカちゃん、ルーチェちゃん、ウラノちゃんと言ういつものメンバーで行動していた。
去年も一昨年も高等部に先輩が居るので何度か入ってるんだけど、大半が先輩達なのがちょっと気が引ける。今は学院祭だから杞憂以外の何者でもないんだけどさ。他のお客さん達も居るもんね。
そんな感じで最初に寄るのは一番近い高等部一年、メリア先輩のクラス。
──“アクティビティ”。
「いらっしゃーい!」
「お、ティーナちゃん達中等部三年生の子達じゃん!」
「やっほー!」
メリア先輩のクラスの出し物はアクティビティ。それは何か一つに絞るのではなく様々な体験が出来る代物。
そんな場所でメリア先輩を始めとして他の先輩達が元気に出迎えてくれた。
「相変わらず明るいクラスですね」
「これで高等部一年の中じゃ成績もスポーツも優秀。スゴいよね~」
メリア先輩の高等部でのクラスはとにかくみんなが明るい性格。全員がそんな調子であり、今までで一番活気に溢れていた。それに伴うように客足も入っており、大きく盛り上がっている。
先輩達も歓迎してくれているので私達はそれを受け入れ、早速出し物を楽しむ事にした。
「魔力操作、頑張って~!」
「苦手な人は私達がサポートするよー!」
「勝手が違くて難しい……!」
「よっ、ほいっと」
「流石ですわね。ボルカさんは」
魔導ホバリング。箒のような物とはまた違う方法で空中を舞い、バランスを取る遊戯。
体幹が重要であり、箒の時とは使う筋肉も魔力操作も違うので中々に難しいや。
「そこでカーブ!」
「何だったらぶつかっちゃって!」
「しゃあ!」
「わわ……!」
「意外と繊細な操作ね」
次は魔力出力を推進力に用いた船。レースのような物で障害物を躱しながら、もしくは衝突しても突き抜けて進む要領。
ボルカちゃんは正面突破し、ウラノちゃんは冷静にカーブを曲がっていた。
「とっておきだよー!」
「頑張ってー!」
「これってアクティビティなんですか~!?」
「流石はメリア先輩の風だぜ……!」
最後に暴風を浴びながら突き進む謎の競技。
上手く風に乗って移動する必要があるんだけど、敢えて作っている風の隙間を見つけるのも難しい。気を抜いたら吹き飛ばされちゃいそうだし、かなり大変だよ。
「お疲れ様~!」
「楽しかったー? 後輩ちゃん達!」
「はぁ……はぁ……はい……! 疲れましたけど、かなり楽しかったです!」
「楽しみながらトレーニングになって良いッスね」
「素晴らしいですわ!」
「私向きではないわね……」
他にも色々、一通りのアクティビティを終えて私達は程好い疲労と共に満足していた。
遊んでいるだけなのに部活動の練習並みに疲れるなんてね~。箒レースの道に進んだメリア先輩の在り方らしく、更にレベルアップした感じだね。
「じゃあね~!」
「またいつか~」
「またッス!」
メリア先輩達と別れ、私達は次の場所へ。このまま行くなら近いのはリタル先輩の場所だね。
──“リラックスマッサージ”。
「いらっしゃいませ~」
「リタル先輩!」
「さっきとは打って変わってのんびりした雰囲気の場所ッスね~」
「リタル先輩達らしいですわ!」
「私はこの方が良いかしら」
リタル先輩達の出し物はマッサージ店。観葉植物や柔らかなベッドが置かれており、落ち着くBGMが掛かっている。更には香料魔法の効果でリラックスを与えているので心身共に解してくれる場所。
此処も人気を博しており、日常に疲れた大人達や部活動に疲れた人達が多く見受けられる。後は私達みたいにアクティビティで疲れた人達かな?
何はともあれスゴく落ち着く場所。
「それでは“リラックスアロマ”~」
「あぁ~……なんかスーッと体が軽くなる気分~」
「落ち着くな~。こう言うのも良いぜ~」
「気持ち良いですわ~」
「良いわね。この感じ」
リタル先輩の魔法でリラックス。先輩達によるマッサージの腕前も良く、落ち着き過ぎて眠くなっちゃうね。
時間で言えば十数分と短いけれど、かなり疲れが取れた感じがする。全身が風船みたいに軽いや。
「またのお越しを~」
「ありがとうございましたー」
「気持ち良かったッス!」
「ありがとうですわ!」
「良かったです」
心身を休めた私達はリタル先輩とも別れる。
激しいアクティビティの後に落ち着くマッサージ。次に向かうのはレヴィア先輩のクラス。
──“惑星プラネタリウム”。
「よく来たね。ゆっくりしていって頂戴」
「レヴィア先輩!」
「プラネタリウムッスか~」
「天体観測ですわね!」
「此処も良さそうね」
このクラスで行っているのはプラネタリウム。だけど普通のそれとは違い、ただ星を眺めるだけじゃない。
基本的には前人未到の地なので主観も入っているけど、此処の本筋は惑星探査がメイン。私達は席に着き、辺りは暗くなる。それと同時にアナウンスが流れた。
《それでは、最初に向かう星は私達の惑星から遥か300光年先の──》
アナウンスと共に周りの景色が変わり、私達の星を見下ろす形で宇宙に飛び出す。一瞬にして映り、海のような場所になった。
《この惑星で明確な生物や植物は見つかっていませんが、この近くの恒星を回って安全圏とされるハビタブルゾーンにあり、確かな“海”が観測されています。私達が見ているのは300年以上前の姿。まだ生物の進化には程遠いですが、何れ生き物が現れてもおかしくないとされています》
つまりそういう事。
大半は想像だけどおそらくこうなっているんだろうなと言う思考の元で惑星の状態を再現して移動出来るんだって。
映像には数億年の進化の軌跡が描かれ、この様な生物が生まれるかもしれないとれっきとした専門家の元で作られたイメージ図が流れる。
単純に綺麗であり、勉強にもなるからこの場所も大人気だよ。
それから海だけの惑星。炎の惑星、氷の惑星。ダイヤモンドが降る惑星。ガラスの嵐。お酒の雨。様々な天体が覗く星。想像上の植物、生物の居る惑星など様々な場所に飛び、最後には超新星爆発が起きて終幕する。
超新星爆発の軌跡は様々な色のガスで彩られ、宇宙空間を飲み込んで世界が白く染まった。
《ご清聴ありがとうございました。皆様は忘れ物の無いよう──》
まるで本当のプラネタリウムに来たような体験。惑星の中にも入れるからそれ以上かも。心が満ちて私達は外に出る。
楽しい宇宙旅行だったね~。
「ありがとうございました。レヴィア先輩」
「宇宙も面白いッスね~」
「ふふ、それは良かった。今ルミエル先輩を筆頭に宇宙開発も進んでいるみたいだから、何れはもっとスゴい発見があるかもしれないよ」
「楽しみですね~」
ルミエル先輩は、ダイバースも続けているけど主な大学での題体は別次元や異世界、宇宙の研究。
既に大きな発見もしているらしく、順調に発展させているんだって。スゴいとしか言えないね~。
「この後はどうするんだい?」
「お昼を済ませて、また一通り見て回ります」
「その後は恒例のダンスパーティッスね~」
「そうか。君達も満喫していて何よりだよ。私にとっても最後の学院祭。楽しまなくては損だね」
そう、私達はあくまで中等部での最後だけど、レヴィア先輩にとっては“魔専アステリア女学院”での最後。心行くまで楽しもうという気概が見受けられた。気合いの入り方も違うもんね。
そしてレヴィア先輩とも別れ、その後に私達は昼食を摂り、午後も色んなお店を見て回る。私達の展示会の様子も時々窺ったりして、充実した学院祭の最終日を過ごせた。
その夜、衣装をプライベートの私服から社交用のドレスに替えてパーティに赴く。既に多くの人が集まっているけど、もうすっかり慣れて緊張も全然しなくなったよ!
そんな中、ボルカちゃんから一つ提案があった。
「ティーナとはずっと踊ってるし、今年は趣旨を変えていつメン全員と踊ってみっか」
「全員と?」
みんなで踊ろうとの事。
輪になって手を繋いだりとかかな? キャンプファイアを囲むみたいに。
そんな疑問は束の間、音楽が鳴り響き舞踏会のスタート。同時にボルカちゃんは私の手を引いた。
「まずはアタシとだ」
「まずは? それってどういう……」
互いに手を取り、クルクルターン、クルクルリ。
これは例年通りのダンス。腕を引き、足踏みをしてリズムに合わせて体を動かす。するとそこに、もう一つの手が伸びてボルカちゃんは私の手を離した。
「こういう事なんだね」
「そうですわ。社交パーティは淑女の嗜み。誰か一人ではなく、誰とでも踊れるようにならなければなりませんの」
その手はルーチェちゃん。
全員と踊る。それが意味するのは音程の区切りで別の人と交代し、また次のリズムに合わせるという事。
クルクルターン、クルクルリ。激しくなる所はボルカちゃんと。ユラリユラユラ、ユラーリユララ、クルリララ。緩やかな所はルーチェちゃん。そしてまた区切りに差し掛かり、タンタンタタ、タン、タンタ、タン。一定のリズムと共にウラノちゃんと代わった。
「ウラノちゃんも踊り上手だね~」
「知識はあるからね。けれど思った以上に相手との呼吸を合わせる必要があって大変だわ。三年間も一緒に行動している貴女達とだから成立してるかも。きっと嫌だったとしても息が合ってしまうわ」
「イヤなの~?」
「別にそうは言ってないでしょう。物の例えよ」
「良かった♪」
手から手を取り代わる代わる、クルクルターン。ユラユラリ。タンタンタタ、タン、クルリタタン。
奏でるリズム、静かな音楽。時に激しく、時に穏やかに。波打つように変化する。
天窓から差し込む、日が暮れた満天の星達の中から覗く大きな月。“魔専アステリア女学院”の学院祭は幕を降ろしていく。
今年の私達にダイバースはもう無いから、後はのんびり真面目に進学しようかな。まだまだ色んな行事は残っているけどね!
穏やかな音と共に楽しい数日間は終幕するのだった。




