第四百三十四幕 学院祭準備期間
──“数日後・学院祭準備期間”。
ダイバース新人戦都市大会から数日。私達は出し物や劇の準備を進めていた。
出し物は“創作展示会”。演劇は“お姫様と騎士王子”。今年は創作物を出し物にしたから、私のクラスでは去年以上に学院内に残って作業をする子達が多いの。
斯く言う私もその一人。今年は作る物が多いからいつもより遅い時間になっちゃってるね。みんなもかなり気合いを入れて展示物を作っていた。
「この装飾に金は少し下品かしら……」
「落ち着いた色合いとするサファイア辺りがよろしくなくて?」
「ミスリルを基盤に使いましょうか」
「オリハルコンも捨てがたいですわ」
「金剛石は無難過ぎるでしょうか?」
やっぱりみんなは金銀とか宝石類を散りばめた豪華な装飾が多いね~。宝石類は、ある意味では一つで完成していながらキレイだから選ばれる事が多いみたい。
私も少しお金を掛けた方が良いかもしれないけど、一般のお客さんも来るからね。出来るだけ馴染み深い物にしている。
「ティーナは人形か。ジオラマ付きで展示するんだな」
「うん。私にやれる事はこれくらいだからさ。その分お人形さん達のお家とか街並みとか、色々と工夫しているよ~。だけど数十メートルのジオラマはちょっと大きかったかな?」
「良いんじゃないか? 展示部屋はちょっとした博物館並みになるらしいし、大きい程目立てるってもんだ」
「そうだと良いね~。ボルカちゃんは彫刻なんだっけ」
「ああ。殆ど一般人のアタシに宝石をホイホイ買える財力は無いし、学院内の石は切り出しOKだから前に褒められた彫刻にしようって思ってな」
私はお人形達のジオラマで、ボルカちゃんは彫刻。それぞれにコンセプトがあり、心して取り組んでいた。
その合間に演劇の練習もしており、二つの事を併用して行っている感じ。因みに騎士王子役は満場一致でボルカちゃん。お姫様役は人気で取り合いになったけど、そこは厳正なる決定、ジャンケンによって決まった。その結果、お姫様は私になったよ。
昔からお人形遊びは好きでお姫様ごっこもしていたから実は慣れてるの。
「作業の程は如何ですの? ティーナさんとボルカさん」
「おう、ルーチェ。悪くないぜ。アタシは後仕上げの作業くらいだ。ま、仕上げが一番大変なんだけどな」
「私はやっと街並みのイメージが付いてきたくらいかなぁ。後はそれに合わせて建物とお人形さんを並べるくらいだね」
「順調そうですわね。演技レベルも日に日に高まっておりますし、流石ですわ!」
「えへへ、ルーチェちゃんは?」
「私も程好い完成度合いですわ。装飾が少し足りなくなりつつありますので、また明日辺り購入しますわ」
ルーチェちゃんが作っている物はマネキン。けれどただのマネキンではなく、様々な宝石類で着飾った代物。
ただ高級な物を集めただけじゃなくてスポンサーに対しての広告を兼ねたんだって。中等部三年生からは既に社会勉強も取り入れられるから、将来的に親密な関係になりうる場所から声が掛かったりするの。その上で自分の個性を出したマネキンを作っているのが今のルーチェちゃん。
当然の事ながら私とボルカちゃんも様々な企業から声が掛かったけど、上手く組み込めそうに無いからお断りしたの。
ボルカちゃんは単純に自分の造りたい作品を造る為。私もそれは同じだけど、お人形達の街に合いそうな企業が無かったんだよね~。
私がイメージするのは素朴ながら自然に溢れた街。声を掛けてくれるのは有り難いけど、そのイメージに合わない場所ばかりが来たからお断りする形になった。
何はともあれ、みんなの製作は順調みたいだね。
「ウラノちゃんはどんな感じなんだろう?」
「基本的に一人で集中したいらしいのであまり話せてませんけど、ウラノさんらしい物を作っておりましたわ……というよりは描いていた……ですわね。絵画のような物を作成してましたの」
「絵なんだ~。確かにウラノちゃんらしいね」
いつものメンバーをまとめると、私がジオラマ。ボルカちゃんが彫刻。ルーチェちゃんが装飾マネキンでウラノちゃんが絵画。それぞれの個性に溢れた物作りは続く。
そしてさっきも述べたように、作業は劇の練習と併用して行われる。
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「まさか……アナタが敵国の王族だったなんて……! 信頼していましたのに……! 信用していましたのに……!」
「残念です。心の底から。私が来た時からこうなる運命だったとは言え、最愛の姫君を自らで手をかける事になるとは」
“お姫様と騎士王子”の概要は、戦争相手の内情を探る為に王族が自らスパイや諜報として潜入し、その中で私生活すら制限された不自由な女の子と出会う話。
その不自由な女の子は姫君であり、互いに親密な関係になっていく中でそれを明かされてしまう。
戦争相手の中枢なので人質にせよ手にかけるにせよ大きな意味を持つ。自国を勝たせるか、愛を取るかの物語。二人を待ち受ける未来は……希望か絶望か。
去年のパフォーマンスショーはともかく、前にやった“蕾のお姫様”に比べると結構重い話なんだよね~。
因みにこの話、重いストーリーだから、その分戦闘にはスゴく力を入れる予定。
「せめて我が手で……姫!」
「王族がただふんぞり返る時代は終わりました。ご覧に入れて差し上げましょう、私の力を!」
ボルカちゃんが剣に魔力を込めて強化し、私も魔力を込めて植物を生成。
このお姫様の国はかつて世界を創造した最大権力の一つであり、その血を受け継ぐお姫様も強いの。演じる人によって戦い方は変わるけど、私の場合はいつものように植物生成の応用。
「世界を創りし我が血筋、かつて敵対せし暴龍よ。今此処に顕現し、その力を我の為に知らしめよ! “多頭龍”!」
『『『ゴギャアアアァァァァッ!!!』』』
今時は言わない詠唱も炸裂。本当に龍を作り出しちゃうかもしれないから、その辺に気を付けて植物をそれっぽく見せる。
裏方ではいつぞやのようにウラノちゃんの本魔法でサポートが行き届いているから演出はバッチリ。
今回は練習だからただの樹木にしたけど、本番ではもっと龍の形に近付けるよ。
「皮肉な物だな。かつて世界を創った偉大な血筋が世界を荒らした龍を召喚するとは。“邪”に魂を売る悪しき大国の姫よ。我が剣にて沈め」
「使える物は全て利用する。それが例え“邪悪”であったとしても、それが勝つ為の行い!」
『『『ゴギャアアアァァァァッ!!!』』』
セリフを言い放ち、ボルカちゃんは駆け出して龍に立ち向かう。
複数の頭を次々に斬り伏せていき、時には首を駆け抜けてお姫様の近くに迫る。
「魔法に長けた者の身体能力が低いと言うのは古の知識。見せて差し上げましょう。アナタと共に育んだ剣技を……!」
「敵国の姫に教えてしまうとは、私もまだまだ青いですね……!」
「青き果実を摘まむのは胸が痛みます」
「アナタの方が年下だ!」
魔力で剣を生成し、ボルカちゃんと剣戟を繰り広げる。
単なる演劇ではなく、名門“魔専アステリア女学院”による演劇。一挙一動にさえも力を入れ、本格的な殺陣も指導の元で執り行う。
振り付け手切り抜き、弾いて距離を置く。同時に踏み込み、今一度剣を交わす。一部はアドリブで戦いを見せ、いよいよクライマックスに差し掛かった。
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「いや~。演技力もどんどん上がってんな~」
「そうだね~。これなら本番でも大盛り上がり! ……まではいくかな?」
「どうだろうなぁ。話自体は重いし、バトルシーンは観客側からしたら盛り上がると思うけど、最終的な評価がどうなるか。それもまた当日の楽しみだぜ!」
「そうなるよね~」
演劇の練習が終わり、今一度学院祭の準備に取り掛かる。
既に夜更け。だけどまだまだみんなの意欲は下がらない。劇の練習もあったから疲れてるのは間違いないんだけど、それよりもより良い物を提供したいって感情が勝ってるみたい。
スポンサーや企業よりも、後輩達や先輩達への想いが強いかな。
「学院祭も近付いてるな~」
「うん。改めてそう思うよ」
「中等部最後の学院祭だ。気合い入れてかなきゃな!」
「……それは何についての気合い?」
「勿論、他の生徒達の出し物巡り! クオリティは人間の国でも随一の“魔専アステリア女学院”。胃袋を鍛えておかなきゃな!」
「食べる事前提なんだ。相変わらずだね~」
「遊びの方は体力が余裕で持つからな! 腹一杯で他の美味い物が入らないってのが一番ツラいぜ!」
「アハハ……確かに体力も中等部一だからね。ボルカちゃん」
迫った学院祭。展示物の方は概ね順調で、演技力にも磨きが掛かっている。当日が楽しみだね。
学院祭準備は夜遅くまで続き、月と星の明かりが照らす中で解散となる。まだ徹夜で造る程切羽詰まっている訳じゃないけど、ついつい手掛けちゃうんだよね~。それはみんなも同じ。気の合うメンバーとお話出来るだけで楽しいもんね。
“魔専アステリア女学院”、学院祭までの準備。それは着々と進んでいた。




