第四百三十三幕 後輩達の戦い
「後輩達の成長を感じる戦いだったな」
「そうだねぇ。お互いに相手の手の内は分かっているから、それの対策を取りながらの立ち回りでどっちが勝つか最後まで分からなかったよ」
「だな。……ま、会場からは外の様子も見えてるからディーネが船の半分を仕込んでいたのは丸分かりだったけどな」
「私達の試合も多分そんな感じなんだろうね~」
「だろーなー。アタシは基本的に真っ直ぐ突っ込むから問題無いけど、ログを見られると何かしらの仕込みをするタイプの人は戦い辛そうだ」
ディーネちゃんとムツメちゃんの試合を見終わり、私達は感想を言い合う。
お互いに工夫し、隙や弱点を狙う在り方。手の内が分かるからこそのやり方で戦った。良い勝負だったよ。
それから他の人達もそれぞれで試合を行い初日を終える。そして二日目、今日も“魔専アステリア女学院”同士の対決がある。と言うか今日が終わればもう無いかもね。トーナメントを見る限りは。
《次の試合は同チーム対決! “魔専アステリア女学院”! セリー・ケイ選手vsルマ・ウェポ選手ゥゥゥ!!》
「「「わあああぁぁぁぁっ!!!」」」
ケイちゃんとルマちゃん。
ケイちゃんは自分の武器に魔力を込めて戦う方法で、ルマちゃんは様々な武器を生み出す魔術を使える。
似た系統の二人が相見える事となった。
今回のステージは“学校”。
──“スクールステージ”。
モニターに映し出された私達の通う場所とは違う世間一般的な学校。机に椅子、文字を記す板、体育館やプールなど。その他にも図書室とかのような物が点在するステージ。
そこにケイちゃんとルマちゃんの二人が移され、試合がスタートした。
現在地は、ケイちゃんが体育館でルマちゃんが三階の教室だね。距離はあるけど、今までのステージに比べたら狭い方。全体でも数百メートルくらいじゃないかな。
二人はほぼ同時に相手を探す為動き出した。
「学校か……戦える場所は限られている。この場所で待機するのも良いが、探した方が良いだろうか」
駆けて体育館を抜け、周りを見渡しながら一人言を話すケイちゃん。
武器類、主に木刀などの得物を扱うケイちゃんからしたら戦いやすいのは広い場所。狭い所だと引っ掛かったりして動きが制限されるもんね。
なので体育館を一つの候補として見定めており、取り敢えずはルマちゃんを探しに動く。
そんなルマちゃんも行動していた。
「教室……悪くないけど、戦うには不向きだよね。障害物が多いや」
武器魔術を使うルマちゃんだけど、教室には机とか色々あるから少し戦い難いみたいだね。
武器魔術はそれらを貫通して仕掛ける事も出来ると思うけど、対角線上に何かしらの物体があるだけで微かにズレが生じたりする。だから狙い目はそう言った邪魔者? が無い場所なのかな。
「取り敢えずケイさんを探そっか」
ともあれ捜索開始。ケイちゃんとルマちゃんはお互いに相手を探す。
体育館から出たケイちゃんに教室から出たルマちゃん。全体地図を見るに場所は真逆。そう簡単に会う事は──
「見つけたァ!」
「……! 窓から……!」
瞬間的に、おそらく校庭から上階の様子が見えたんだろうけど、ケイちゃんはルマちゃんを見つけて嗾けた。
スゴい視力。まだ気配を読んだり出来ない筈だけど、直感と視力が凄まじいんだ。
「……っ。“槍の──」
「遅い!」
「……ッ!」
魔力を込める速度は流石のものだけど、ケイちゃんの剣速の方が早く、ルマちゃんの体に木刀を叩き付けて吹き飛ばした。
ルマちゃんは扉を突き破って別の教室に押しやられ、その後を追うようにケイちゃんが踏み込む。
「“ランス”!」
「……!」
踏み込んだ先、机や椅子でぐちゃぐちゃの山から魔力の槍が突き放たれた。
どんな体勢でも狙いを定めればそこに放てる武器魔術。殴打と吹き飛ばされたダメージはあってもカウンターは出来るみたいだね。
「危ないな」
「掠っただけか~」
「もう一度叩き込むしかないな」
紙一重で避けたケイちゃんの頬が切れる。それを拭い、木刀に魔力を込めて構えた。
「なんてな」
「モデルガン……!」
そしてそれはブラフ。
隠し持っていたモデルガンを放ち、魔力を撃ち込んで怯ませる。その間に距離を詰め寄り、木刀の刺突を打ち付けた。
「けど有言は実行する。嘘は良くないからだ」
「……ッ!」
モデルガンを囮に本命である木刀の一撃。それを受けたルマちゃんは空気を漏らし、教室のガラスを突き破って下方へ落下。
そこにはプールがあり、大きな水飛沫を上げた。透かさずケイちゃんも飛び込み、プールの中で鬩ぎ合い、水と共にプールサイドへ立つ。
二人ともずぶ濡れで戦闘によるダメージもあり、少し息を切らしている様子だった。
「まだだ……!」
「もちろん!」
木刀を握り、ルマちゃんの眼前へ。左右から挟み込むような槍が打ち付けられてそれを避け、頭上から球体が落ちてくる。
「“ボム”!」
「……ッ!」
球体……爆弾が爆発を起こし、プールごとケイちゃんを吹き飛ばした。
これは決定的。直撃してのダメージは大きなもの。一気に意識へ届き兼ねないもの。まだ保っているけどフラフラになって意識も飛び飛び。ルマちゃんはトドメの為に魔力を込め、一本の槍を放った。そんなケイちゃんの手から何かが落ちる。
「……!」
「バン……ってな……!」
それは引き金の引かれたモデルガン。魔力によって強化された弾丸が撃ち込まれ、一直線にルマちゃんの脳天に向かう。
この威力と速度。ケイちゃんに槍が到達するよりも前に当たるレベルの物。先に意識を奪われる事になるのは、このまま行くとルマちゃん。
「……っ」
なので咄嗟に魔力を戻し、魔力の壁で防御。そこに踏み込み、ケイちゃんが背後に回り込んでいた。
「速いね……相変わらず……!」
「ルマの魔力は継続型。分離しないのは分かっていたからね!」
木刀を振り抜き、ルマちゃんに確実な一撃を叩き込んだ。
そう、ルマちゃんの武器魔術は一つの魔力から武器を作り出すと言うもの。魔力の幅を広げれば一つの魔力から複数の武器も生み出せるけど、分離させる場合はそこから自分の魔力が減る事になる。
なのでケイちゃんはその性質を突き、ルマちゃんが一つの武器を生み出すと同時に弾丸を撃ち込み、彼女はそれを防御する為に魔力を戻し、ケイちゃんへの攻撃も無くなる。その間に距離を詰めて的確な一撃を叩き込んだのだ。
変幻自在な武器魔術。魔力の範囲に限りがあるからこそ今に至る。
打ち付けられたルマちゃんは意識を失い、勝負に決着が付く。
《勝者! セリー・ケイ選手ゥゥゥ!!!》
「「「わあああぁぁぁぁっ!!!」」」
ケイちゃんの勝利。そしてそのまま流れるように次の試合へ。私達の感想を言うよりも前に“魔専アステリア女学院”同士の戦闘が始まるの。
今日は多いね。次に行われる試合は──
《続きまして! またまた同じく“魔専アステリア女学院”! サラ・フォティ選手vsシルド・ガディア選手ゥゥゥ!!!》
「「「わあああぁぁぁぁっっ!!!」」」
サラちゃんvsシルドちゃん。
一先ずこの二人の試合で“魔専アステリア女学院”同士の戦いは、少なくとも都市大会ではない。
此処が一つの区切りだね。勿論他の選手達も強いんだけど、あくまで私の後輩という事で特別視しているみんなの戦いについての区切り。
何はともあれ、速度と攻撃力の高いサラちゃんに防御力の高いシルドちゃん。これは接戦になるかもしれないね。楽しみだよ。
今回のステージは“村”。
──“村ステージ”。
サラちゃんとシルドちゃんがそれぞれ村の一角へと転移。村ステージはよくあるけど、今回は石造りの建物が多い村だね。
木造建築より頑丈だけど、サラちゃんの攻撃に対してはガードとかには使えない。シルドちゃんがどうやって防ぎ、反撃するかが鍵となる。
「場所は……此方かな!」
気配を読めるようになったのか、サラちゃんはシルドちゃんの場所へ真っ直ぐ向かう。当のシルドちゃんはどうやって動くか考え中みたい。
「サラ先輩の在り方は迅速な攻撃……多分もう来ている可能性もある。だったら……」
気配は読めずともサラちゃんの動きは理解している。それを踏まえた上で魔力を込め、その直後に炎が石造りの建物を粉砕しながら突き抜けてきた。
「見つけたよ!」
「ええ、そう来ると思ってましたよ」
サラちゃんの炎に対し、既に動きを予測して防御を固めていたシルドちゃんは火炎を防いだ。
同時にサラちゃんは踏み込み、炎で加速する。
「流っ石! 防使らしく守ってるね!」
「なんですかそれ。略称……?」
多分防御使いを短くした感じかな?
至近距離で炎を撃ち込み、シルドちゃんのガードを狙う。熱は周りに散り、そこから更に回し蹴りを叩き込む。
「それ!」
「その程度じゃ壊せませんよ」
炎も加速した蹴りも防ぐ。だったらとサラちゃんは距離を一瞬だけ置き、刹那に加速して拳を打ち付ける。
「その動きなら、カウンターし放題です」
「……!」
自身を覆うガードの方向を変え、サラちゃんの懐に盾の角を打ち付ける。
勢いそのまま突撃したサラちゃんは弾かれるように吹き飛び、シルドちゃんは更に追撃を仕掛ける。
「防御はそのまま攻撃に転じれます」
「知ってっしょ!」
周囲を囲み、盾魔術で押し潰す。それをサラちゃんは炎で飛び上がって避け、上から突撃した。
「じゃあこれならどうかな!」
「同じです。私の方に来るのが分かっているなら……」
加速した一撃。シルドちゃんはさっきと同様に防御を固め、カウンターの体勢に入る。サラちゃんは不敵に笑った。
「予想通り!」
「……!」
そこから急旋回。回り込むように死角へと立ち入り、そこに大きな炎をぶつける。シルドちゃんは燃え上がり、吹き飛ばされた……けど、
「死角になりそうな場所は把握済み。勿論そこは固めてますよ」
事前に対処はしていたみたい。
それでも多少はダメージが入ったようだけど、そんなに影響は及ばない。サラちゃんはもう一度加速した。
「何度仕掛けてきても……」
「やるねー。けど、ウチはまだまだ余力があるよ!」
「……!」
また守りを固め、死角も防ぐ。サラちゃんはさっきみたいに高速移動し、シルドちゃんは位置を予測して守りを固めていく。
「翻弄しようとしても、ある程度の動きは予測出来ますよ」
「それはどうかな?」
「……!?」
瞬間、シルドちゃんの意識外からサラちゃんの蹴りが差し込まれ、防御が押されて吹き飛ぶ。
まだ守りは砕けていないけど建物に激突して倒壊させ、カラカラと瓦礫の中から防御で覆ったシルドちゃんが姿を現す。
「速い……予測はしたけどこれじゃ……」
「まだまだまだまだ! その防御、ウチと対面してからずっと展開してるよね!」
「……!」
また攻撃し、シルドちゃんが吹き飛ぶ。そこへ火球の追撃が入り、爆炎の中から飛び出したサラちゃんの一撃が差し込まれる。
完全に後手に回っており、サラちゃんは魔力を込め直して更に加速した。
「ずっと展開したままのシールド。ウチはずっと、同じ場所を狙っていたんだよね!」
「……! まさか……!」
「そう! 流石に魔力が磨耗してるっしょ!」
サラちゃんの速度に対応する為、ずっと出しっぱなしだったガード。だからこそ同じ場所を削り、一点を薄くした。
「これで終わり!」
「まだです! 来ると分かっているなら……!」
薄れた守りを今一度固め直す。魔力を放出すれば修復も可能。サラちゃんが言っていた場所を包み込み、また彼女は不敵に笑った。
「固めたね」
「……!」
急転、固めたのを見越してまた移動する。
これが狙いだったんだね。常に展開する守りを修復する為には他の場所から魔力を持ってくる必要がある。込めている時間はサラちゃんの速度相手には無いから。
そこを突き、別の死角へと狙いを定めていた。
「狙いは……!」
咄嗟に魔力を込め、狙いと思われる場所を固める。サラちゃんは視界から消え去った。
「消え……!」
「言ったっしょ。余力はあるって。死角と別の死角を覆えば、此処が一番薄くなる!」
「……!」
薄めた死角とそれによって生じた死角。その二つはブラフであり、サラちゃんの本命は死角でもなんでもない、一番ダメージになる場所の防御の緩み。
目にも止まらぬ速度でそこを打ち、シルドちゃんから意識を奪い去った。
「シルドちゃんは頭が良くて慎重だから、弱点は絶対に見せないんだよね~。だからこそ、そこを突いたの」
シルドちゃんが転移し、サラちゃんは会場に戻る。司会者さんは声を張り上げた。
《勝者! サラ・フォティ選手ゥゥゥ!!!》
「「「わあああぁぁぁぁぁっ!!!」」」
これにてサラちゃんの勝利。他のチームメイト同士の戦いはもう無く、残った一年生と二年生のみんなは無事に都市大会を突破するのだった。
代表決定戦は一月後、体育祭とか学院祭の後だね。
新人戦、都市大会。何人かは敗退したけど、結構な人数は残ったかもね!




