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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
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第四百三十一幕 力の応用

 モニターに映し出された船舶ステージ。そこは大型の船であり、貨物室から宿泊施設。食堂に浴室と必要な場所は全て揃っている。

 なのでこう言った大会の時以外は一般的に貸し出しもされており、海に出たり泊まる事も出来るの。

 そんなステージだけど、対戦となると理想的な宿泊場所は様々なギミックに早変わり。貨物室は元より様々な物があり、部屋は狭い密室で近接戦を余儀無くされる。浴室や水場にも活用法は色々あるし、食堂にも食器類とかテーブルとか利用出来そうな物は多い。

 そんな選択肢が沢山ある船内で二人はどんな行動に出るのか。先に動いたのは出現ポイントが甲板のディーネちゃん。


「“包容水圧”!」

「……!」


 ディーネちゃんを探して船内を走っていたムツメちゃんの眼前に映った光景。それは全方位から差し迫る凄まじい水の圧力。


「この船を沈めるつもりですか……!」


 船舶ステージなのに初手から沈めに掛かるなんて大胆な行動だね。ディーネちゃん。

 身体能力自体は魔力無しの人と変わらないムツメちゃん。通常の海よりは動きやすいにせよ、海中でディーネちゃんと戦う事になったら不利になっちゃうよね。

 溢れ返る水量に対してムツメちゃんは触れる。それと同時に水を打ち消し、その輪が周囲に広がった。

 少なくともムツメちゃん自身が水で溺れる事はないね。それが魔力やその他の異能からなる物なら。

 するとディーネちゃんが動きを見せた。これって……。


「成る程なぁ。別に船を沈めようとしたり窒息させようって魂胆じゃなく、居場所を特定するのが目的だった訳か」


「そうみたいだね。ディーネちゃんも気配を読めるようになっているけど、ムツメちゃんはそれに対しても特効がある。気配を感じさせない体質。だから水で覆って無効化された場所から推測したんだ」


 ディーネちゃんの行動。それは船を沈めたり動きを制限するのではなく居場所の特定の為だけにおこなったもの。

 私も植物でそう言った手法は取るから分かる。ついでに攻撃に転じれたら上々だから、自在に操れるならメリットが多いよね。

 ムツメちゃんの居場所を見つけたディーネちゃん。だけど魔術は無効化される。彼女が出た行動は……。


「“空間掌握・斬”!」

「……!」


 空間の切断。

 前兆の無い魔術で空間ごと船を断ち斬り、ムツメちゃんの近くには大きな風穴が空いた。

 だけど空間ごと切断する魔術としてもムツメちゃんは無効化する。何が狙いなんだろうか。姿をハッキリと視界に収める為……そんな単純な訳無いか。


「ディーネ先輩……!」

「これを避けられるかな!」

「……!」


 空間ごと切断された船の一部は重力に従って崩れ落ちる。それに対し、ディーネちゃんは魔力を込めていた。

 彼女の狙い目はこれだ。


「“空間掌握・操”!」

「……っ」


 船体を持ち上げ、ムツメちゃんへ叩き付けた。

 ステージは基本的に魔力からなる物。しかし、街や村ステージの建物とかそれこそこの船とか、テーブルや椅子等々。実際に造れる物は建設している例もある。

 あくまで魔力や妖力、神通力や気などの異能を無効化するムツメちゃんも自然物の木々や石造りの建物を消し去る事は出来ない。だからディーネちゃんは本物の材質をもちいたこの船を切り出して仕掛けたんだね。

 今回のステージ、ムツメちゃんにとってはちょっと分が悪いかもしれないや。

 投擲された瓦礫に対し、背を向けて駆け出すムツメちゃん。選んだのは一時的な撤退かな? 崩れた壁から外に出て船上を走り抜ける。その場所には瓦礫が落とされ、次々と床を粉砕していく。傍から見たらムツメちゃんが圧倒的に不利だよね。


「飛べる私相手に、船内じゃなくて甲板を走るのは的外れじゃないかな!」

「………」


 そう。船内なら飛行するディーネちゃんの動きを抑制出来たかもしれないけど、ムツメちゃんが選んだのは船上、甲板。

 視界は広く、船内より逃げ道も広いけど物陰に隠れるのも難しいからただ真っ直ぐ進むだけになってしまう。瓦礫は前方にも落とされ、逃げ道は閉ざされる。此処からどう打開するんだろう。

 するとムツメちゃんは急停止し、突如として逆方向、ディーネちゃんの方へと駆け出した。


「……!」

「そろそろ弾切れですよね……!」


 見れば積み重なった瓦礫の山が作られており、そこにムツメちゃんが登る。

 咄嗟に全ての瓦礫を浮かせるも既に触れている物は浮かばず、そのまま跳躍してディーネちゃんの眼前に迫った。


「先輩への道筋を作りました!」

「成る程ね……!」


 空間魔術から別の魔術に移行するには、ほんの少し時間が掛かる。その間に迫ったムツメちゃんはディーネちゃんの胸元に掌底しょうてい打ちを叩き込んだ。


「……ッ!」

「吹き飛ばす事は無理でも……!」

「飛行術が……!」


 掌底によって怯ませ、その体を掴む。それによって空を飛んでいたディーネちゃんの魔力が無効化され、空中から甲板へ落下。瓦礫の山に突っ込む。

 二人ともダメージは負ったけど、身体能力強化の魔力も無効化されたディーネちゃんは生身で高所から瓦礫の山に落ちたようなもの。加えてムツメちゃんは彼女を下敷きにしており、クッション代わりとなって和らいだ。

 結果、ムツメちゃんの乗った生身のディーネちゃんが瓦礫の山に落下。そのダメージはとてつもないね。


「くっ……まだまだ……!」

「流石の対応ですね……!」


 意識は辛うじて失わず、ムツメちゃんの体を弾くように退かす。

 一年分の積み重ねがあるもんね。単純な生身の戦闘でもディーネちゃんとは差がある。

 二人は距離を置いて間合いを図り、ムツメちゃんは懐から何かを取り出した。


「お、あれを使うか」

「知ってるの? ボルカちゃん?」


 それについてはボルカちゃんが何かを知っている様子。私は訊ね、ボルカちゃんは頷いて返す。


「ああ。……ほら、ムツメはどうしても肉弾戦が主体になるだろ? それで今の“魔専アステリア女学院”で肉弾戦が一番得意なのはアタシ。だから直々に指導したんだ」

「それとムツメちゃんが取り出した物の関係性は……」

「まあまあ。焦るな。ちゃんと理由がある。あれはアタシからのアドバイスだしな」


 曰く、ボルカちゃんがムツメちゃんに体術指導をしたという事。思い返せば拳でパンチじゃなくて掌底しょうていを使っていたね。

 生身で攻撃するなら拳より掌の方が痛む部分は少ない。手首をくじく可能性もあるけど、柔軟性も鍛えているからその課題はクリア。それもボルカちゃんの指導だったんだね。

 それはいいとして、彼女の取り出した物についてボルカちゃんは説明する。


「あれは警棒だ。伸縮自在のな」

「警棒? 刃物とかみたいな凶器じゃなければ使用OKのルールだけど、木刀とかじゃないんだね」

「ああ。持ち運びが楽だし、その方が伝わるからな」

「伝わる?」

「おう! ──無効化(・・・)が!」


──

───


 ──“送別会前・部室付近”。


【他の戦い方を知りたい?】

【はい。私、見ての通り肉弾戦主体ですので……先輩にある程度は教わりましたけど、まだ決定打に欠けるような気がして】

【うーん、まあそうだな。基本的な体術や戦闘スキルは教えたけど、日は浅いし魔導は無いし身体能力強化も無い。流石に殴り続けて相手の意識を奪うのは至難の技か。魔力強化している相手に対して、実質生身に直接叩き込めるとは言えな】


 送別会が近付くある日、中等部での部活動も終わりに迫ったアタシにムツメが戦闘方法を聞いてきた。

 肉弾戦主体なのは分かっているし、それについての指導もある程度してきた。多分生身の戦闘力はそれなりになったけど、決定打になりうる物が無いのは間違いない。

 それにつき、新たな武器について考えてみるか。


【それじゃ無難に木刀とかどうだ? ダイバースのルールじゃ使える武器もあるし、木刀はその筆頭だ。有名どころならレモンが愛用しているな】

【そうですね。確かに無難です。剣の扱い方ならボルカ先輩に教わる事が出来ますし、有用かもしれません】

【よしっ、じゃあ早速練習開始だ】


 それから数時間、アタシとムツメは剣術の鍛練を執り行った。

 アタシもイェラ先輩に教わったからな。受け継がれる意思……って程でもない。剣術なら既にケイやルマにも教えてるしな。


【はぁ……はぁ……】

【どうだ? やれそうか?】

【そうですね……悪くない気はしますけど……やっぱりなんだかしっくり来ないような……】

【フ~ム、確かに得意不得意はある。木刀は地味に重いし、魔力強化が無いと手足のように振り回すには相応の時間が必要だ。来月に迫ったダイバース新人戦には間に合わせたいしな】

【そうですね】


 木刀を使ってみた感じ、悪い訳じゃないけどそこまで良くもない。ムツメの手の大きさとか筋力とか、木刀を扱うに当たって懸念ポイントはチラホラ。

 それならもっと軽い物で練習した方が良さそうだな。


【そんじゃ“フレイムロッド”。これ使ってみな】

【わっ。けど私、魔導は……!】

【あ、そっか。無効化しちまうんだった。って、杖が衣服に……!】

【わわわ……!】


 ついいつもの癖で作り出した物を投げ渡してしまった。ケイとかの練習はこうしてるからな。頭の中に無効化術があるのを分かってもやっちまう事がある。

 と、それより問題はムツメの服。あの杖から放出された炎は本物だ……!


【……ふぅ……なんとか消せました……】

【え? そ、そうか。けど運動着に当たったような……】


 衣服に当たり、燃え盛るかと思った矢先、特に何ともなく終えた。

 服でパタパタして消した? いや、これはもしや……。


【……よしっ。それじゃあムツメの力量に合わせた武器を持ってくるか。部室の物置に多種多様の武器はあるからそこから調べてみよう】

【は、はい!】


 もしかしたら、文字通り大きな武器になるかもしれない。アタシの推測が正しければだけどな。

 それについての練習をしよう。そう思い、アタシ達はムツメに合いそうな武器を探すのだった。


───

──


 警棒を取り出したムツメちゃんはそのままディーネちゃんへと振り下ろす。ディーネちゃんはその動きを見やり、魔力を込め直した。


「何をするかは分からないけど……! “空間掌握・弾”!」

「……!」


 空間で自分を掴み、距離を置くように弾く。それを見やり、私は信じられない物を目撃した。


「そんな……!」

「はあ!」


 ムツメちゃんが──空間を(・・・)切り裂いた(・・・・・)のだ。


「空間魔術を……!」

「やあ!」

「……ッ!」


 厳密に言えば発動途中の空間魔術。それでも十分に信じられない光景。

 そのまま警棒でディーネちゃんを打ち付け、連撃を食らわせた。

 人を吹き飛ばす程の腕力はムツメちゃんに無い。だから結果的に連続で殴打する形になる。


「無効化って……」


「ああ。衣服に炎が燃え移らないのを見てな。もしかしたら、ムツメが触れている一定の範囲も無効化の力が付与されてるんじゃないかって思ったんだ。それについて確かめてみたらビンゴ。アタシの炎を触れてる武器が消し去った。範囲はそんなに広くないから、精々あの警棒くらいなんだけどな。それが採用理由だ」


「そうだったんだ……」


 ムツメちゃんの真髄。それは触れてる物への無効化の付与。

 思えば大技を食らった時も、多少は破れたりしているけど衣類とか諸々も大した状態にはなってない。それが無効化の成せる技なら納得かも。


「……ッ。けど、意識を奪うには少し時間が掛かるのが難点だね……!」

「そうですね。離れられては回復もされてしまいます……!」


 鍛えたと言っても、部活動に入ってほんの数ヶ月くらい。劇的に能力が向上する訳じゃない。

 なのでディーネちゃんは殴られている間に引き離し、距離を置いて自身の治療をおこなう。

 もう少し筋力が付けばもっと有効になるかもね。ムツメちゃんの得物。

 だけどディーネちゃんも魔導以外に鍛えている。どっちが有利になるかは、この時点じゃまだ分からない。

 ディーネちゃんvsムツメちゃん。“魔専アステリア女学院”同士の戦闘が本格的に動き出す。


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