第四十三幕 初めての大会
「そう。そこで一気に力を解放するのよ」
「はい!」
ママに魔力を込め、ルミエル先輩のアドバイスに従って一気に放出した。
それによって大木が伸び、森にシンボルと成りうる樹が立つ。
「さて、次は貴女の番ね。本魔法は応用力が大事。物語以外の攻撃を増やして行きましょう」
「はい」
魔導書を開き、魔力を放出して巨大な本を顕現させる。
前は大きな本で物理的に仕掛けたりしてたけど、今回はどんな感じで仕掛けるんだろう。
次の瞬間本が開き、標的にしていた木偶を挟み込むように押し潰した。
うひゃあ、恐ろしい魔法……。
「君は魔法や魔術をただ放出するよりも身体能力を生かした戦い方の方が合っている。そちらを鍛えて伸ばす方向にしよう」
「ウッス!」
「無論、定期的に放出を織り混ぜる事で戦略の幅が広がるぞ」
「はいッス!」
イェラ先輩の指示でボルカちゃんは木刀を振るい、剣戟の鍛練を行う。
ボルカちゃんが出せる炎の剣を今使わなくても、練習用の剣で動きを身に付けておけば本番に落とし込めるんだって。
「そしてルーチェ。君の聖魔法は種類は違えどリタルと同じくサポートが主体だが、光魔法なら十分に通用する。とは言え目立つ事もルール次第じゃ不利に運ぶので上手く工夫してみよう」
「はいですわ!」
ルーチェちゃんは聖魔法と光魔法を使い分け、自分の形を見つけ出すようにしている。
回復とかがメインだとして、攻撃に転ずる事も出来るからかなり汎用性が高いもんね。
「メリアさんは箒からの偵察と奇襲を。空中の優位を取れるのは大きいからね。リタルさんは錯乱させ、陽動などを……と言っても、二人は去年からやっているから要領は既に掴んでいるかな?」
「もっちろーん!」
「やれてますよぉ~」
「不安だなぁ……」
レヴィア先輩の指示でメリア先輩が箒を巧みに操って飛び交い、リタル先輩は杖を振るって心地好い香りを立てた。
リタル先輩の魔法は他者を癒すもの。それだけじゃなく、幻覚を見せたり眠らせたりと様々な効果が付与されている。
大会の報告から数日が経ち、私達はそれに備えて特訓をしていた。
試合の日もすぐそこまで迫っており、言うなら今は追い込みを掛けている状態……かな。
「こんなところで良いだろう。それじゃあ残る時間はミーティングだ。選出されそうな項目について纏めておこう」
「「「はい!」」」
「部長は私なのにイェラが目立ってる……」
イェラ先輩の言葉に従って部室に戻る私達と、それについて不服そうなルミエル先輩。
頼られたい気持ちや構って欲しい心持ちがあるみたいだね。
私も……分からなくはないかな。
何はともあれ、私達は部室へと入った。
*****
「それでは、ミーティングを始める」
「ちょっと、此処は私に仕切らせて!」
「フフ。ああ、悪いな。ルミ」
貴賓室のように豪華なお部屋に集められ、テーブルを囲む形で話し合いが始まる。
テーブルの上にはいつものように出来立てのお菓子や紅茶が置いてあり、ホッと一息吐ける状態が作られていた。
運動と魔力を使ってお腹も空いたし、サクサク食感のクッキーを頬張り、ルミエル先輩の言葉に耳を傾ける。
「さて、もう本番も近いのは知ってるわね。それについて、先ずは貴女達のリーダーを決めるわ!」
「リーダー?」
「そ。戦況を見定めたり纏めたりする指揮官ね。チーム戦なのは間違いないから、かなり重要な役割になるわ!」
「重要……責任重大……!」
最初に決めるのは私達のリーダーになるような人。
ルミエル先輩かイェラ先輩が同じチームなら自動的に決まるけど、中等部だけだと少し難しいのかもしれない。
ゲームに置いて精神的支柱として大切なもの。一体誰がなるんだろう。
イェラ先輩がルミエル先輩に続くよう話す。
「普通に考えれば場数と経験、年功序列などの理由からリタルになるが……如何せんこの性格だからな。何より本人からの辞退があった」
「そうなんですか!?」
「そうですよぉ~。私はどちらかと言えばのんびりしたいので、場の戦況とかを見極めて即座に行動! ……とかは全然ですぅ」
「な、成る程……」
確かにかなりのんびりしているよね。私が言えた事じゃないけど。
先輩は更に言葉を続ける。
「そして感覚共有による偵察など、負担が大きくなるティーナもまあ厳しいだろう。情緒にもやや問題があるしな」
「アハハ……確かに……あれ? けど別に情緒は普通ですよ?」
「基本的にはな。……しかし、心当たりはあったりするだろう」
「うーん……確かに?」
私はティナを使って広域を見て回ったりする代わりに自分自身の感覚が一時的に遮断されるから状況判断を鑑みてダメなのは分かるけど、情緒についてはよく分からないなぁ。
でもイェラ先輩がそう言うならそうなのかな? 確かにたまに意識が飛んだりしてるから何かあるのかも。
でも言われた通り負担は大きいし、即断即決も出来ないから合ってるかもしれない。
「そうなると残りの面子はメリア。ボルカ。ルーチェ。ウラノの四人になるが、誰か名乗り出る者は居るか?」
「「…………」」
「「…………」」
返事はない。責任問題とかを考えたら率先したくない気持ちも分かるよ。
早いうちに外れて良かったって言う安心感が少しある。
リーダーの条件としては素早い判断。場を見極める力。それらを兼ね備え、冷静な対応が出来る人が優先される。
ウラノちゃん辺りは常に冷静だから適任かも。
ルミエル先輩は口を開いた。
「私的にはボルカさんが良いかもしれないわね♪」
「ア、アタシっスか!?」
先輩が指定したのはボルカちゃん。
本人は大きな驚きを見せ、両手を振って話す。
「ムリですって! 統率力とか全然無いッスから!」
「あら、そう言うのは参謀に任せれば良いのよ。それについての適性ならリタルやウラノさんが居るわ」
「それならやれますよぉ~」
「確かに纏めるのは大変だけど、案を出すくらいなら」
リーダーに必要な役割ではあるけど、参謀役でも担える事柄。それについてはウラノちゃんとリタル先輩が納得していた。
ルミエル先輩は更に言葉を続ける。
「そう、貴女達はまだまだ経験不足。魔法や魔術の才能はかなりのものだけど、どうしてもそこの差は出てしまうわ。だからこそみんなを纏めるリーダーと参謀等で分け、リーダーの負担を減らしていくやり方で行動を起こせば良いのよ」
「リーダーとしての役割は殆ど丸投げッスか……」
「丸投げという訳ではないわ。経験を積み、今後の為に生かす方針よ」
今回のリーダー認定は、あくまで経験を積ませるのが目的。
そうする事で今後に活用させようって魂胆なんだね。
「私もボルカちゃんは良いと思うよ! なんと言うか、ボルカちゃんの言葉には説得力があるから!」
「ティーナ……」
「私も適任だと思いますわ!」
みんなボルカちゃんがリーダーに賛成。
後残るは後輩に頼られたい欲求が高いメリア先輩くらいだけど、
「良いじゃん良いじゃん! 何事も経験だよ! ボルカちゃん!」
意外にも賛成の流れだった。
手っきりリーダーは自分じゃなきゃ嫌だって性格だと思っていたけど……メリア先輩は更に言う。
「いや~実は去年、リタル先輩の性格が性格で、たった一人の一年生である私がリーダーをやる事になっちゃってね~。リタル先輩は手が掛からない良い先輩なんだけど、それを差し引いてもリーダーの役割がもう大変で……変わってくれるなら本当に助かるの!」
「マジですか……そんなに大変なのか……」
曰く、去年のリーダーはメリア先輩が任されたらしく、もう二度とやりたくないレベルで大変だったらしい。
それでこの賛同っ振りなんだ……。
気が滅入る様子のボルカちゃんへルミエル先輩は訊ねる。
「それで、改めて確認するけど……どうかしら。ボルカさん。嫌ならまた誰かを探すしかないわね」
「うーん……っし、やります。なんか責任重大で大変みたいッスけど、これも経験なんで!」
その言葉に少しだけ考え、ボルカちゃんは了承した。
大変なのは承知の上で、それでも受け入れる。やっぱりスゴいよ。ボルカちゃんは!
ルミエル先輩は微笑んで返す。
「フフ、良かった。それじゃあリーダーは決定。参謀や司令塔はウラノさんかリタルのどちらかで良いかしら?」
「構いませんよ~」
「まあ、適役だからね」
「意義なし!」
「ですわ!」
「私もー!」
そのままサクサクっと他の役割も決めていく。
後はどんなルールで行われるか。その時で変わるので臨機応変に対応する為にシミュレーションで確かめていく。イメージトレーニングかな?
私達にも各々の役割が割り振られ、いよいよ大会当日となった。
*****
《さあさあさあさあ!! やって参りました! “多様の戦術による対抗戦”!! その、12~15歳による大会です!》
「「「どわあああああああ!!!」」」
アナウンスの声と共に観客達が盛り上がり、会場全体が大きく湧き立つ。
まだ始まったばかり……と言うか開会式すら行われていないのに既に凄まじかった。
けど、12~15歳による大会……?
「中等部大会じゃなくて十二歳から十五歳の大会……って言い方なんだ」
「幻獣とか魔物とか、寿命が長い魔族とか人間の年齢に当てはまらない子達も居るからよ。とは言え、此処は人間の国だからそれはあまり関係無いわね。学校に通えない子達も参加するから……とでも言っておこうかしら」
「それでですか……」
学年表記じゃないのはそう言った人達を配慮して。そして人間以外の種族だとまた表記が変わるみたいだね。
ちゃんと考えられているんだなぁ。
うぅ……今になって緊張してきた……。頑張らないと……!
《それでは早速、今大会出場校、及び出場チームの皆様をご紹介しましょう! 先ずは──》
その後、次々と出場者達が呼ばれて入ってくる。
チームの一つ一つが呼ばれる度に歓声が上がり、更に盛大になりつつあった。
《そして、やって来ましたァーッ! あのルミエル・セイブ・アステリアさんが居られる学校! “魔専アステリア女学院”からご入場です!》
「「「わあああああ!!!」」」
一際大きな盛り上がりを見せ、ガチガチに固まった私達が入場する。
と言うかルミエル先輩の知名度スゴい……今大会には年齢的に参加しないのに居るってだけでこんな効果なんだ……。
「うぅ……緊張する……」
「落ち着けよ。ティーナ。けど、まだルミエル先輩のネームドには負けてんな~。アタシ達でバンバン湧かせて轟かせようぜ!」
小声で話、私を励ましてくれるボルカちゃん。こう言うところもリーダーにピッタリと思う。
お陰で少し気が楽になり、開会式は何事も無く終わりを迎えた。試合はすぐに行われるらしいから、ちゃんと準備しなきゃ……!
《それでは始めましょう! 第一試合、“魔専アステリア女学院”vs──》
──そして、試合が始まる。
今回のルールは私達がバロンさん達とやったようなフィールドに移動しての戦闘形式。一回戦はいつも単純なルールが割り当てられるんだって。一番実力差が出るからだね。
「どっちが勝つと思う?」
「さあ、どうだろうなー」
「やっぱ“アステリア”じゃないか? あのルミエルの出身校だ」
「ルミエルは最強だけど、だからと言って他の子達がみんな強い訳無いだろ~」
「ハハ、そうかもなー!」
「全員可愛いけどね~」
「アイツら……アタシ達を舐めやがって……!」
「ストーップ! 落ち着いてボルカちゃん……!」
やっぱり先輩の存在が大き過ぎて参加者の私達は霞んでいるみたい。
悔しいけど、あのスゴさは目の当たりにしてるから仕方無いよね……。
「フッ、所詮はルミエルの腰巾着の集まり……私達の勝ちは確定だな」
「クスクス……恥を掻かないうちに帰ったら~?」
「今回の相手チーム……!」
「確か……」
「“チュートアル学園”よ。ま、精々足掻いてみなさい♪」
今回の相手は“チュートアル学園”。
なんかサクッと終わりそうな名前だけど、この自信は実力の裏返しなのかも……!
部屋に案内され、簡単な作戦会議。出された戦略は──
「一気に決めろ! ティーナなら出来る!」
「うん……ボルカちゃん……!」
それを決め、転移の魔道具でフィールドに移動。
そこは障害物が多く、自然の少ない山岳地帯。選出したのは私とボルカちゃんとルーチェちゃんにウラノちゃん。今回の作戦からしてまだメリア先輩達が出る必要は無いと判断し、先輩達も同意してくれた。
その作戦は──
《それでは、スタート!》
「全部まとめて吹き飛ばせ! ティーナ!」
「うん! ──“フォレストバース”!」
「な、なんだ……!?」
「何処から……!?」
「足……元……」
ママに魔力を込め、山岳地帯全域に狙いを定める。直後に草木の少ない山岳地帯は緑溢れる森となった。
木々に覆われた山を前に、観客のみんなと司会者。そして相手チームの人達は何も言えなくなる。
ど、どうなんだろう……。まとめて倒したけど……。
《し、勝者! “魔専アステリア女学院”!!!?》
「「「どわあああああああ!!!?」」」
若干の困惑混じりの声と共に宣告され、戻った会場は沸き立っていた。
人々からは驚きの声が。
「なんだ今の魔力出力!?」「ヤベェ!?」「なんつー威力……」「ハゲ山が一瞬で森になったぞ!?」「ワシの頭も……」「あれは植物魔法か!?」「あんな高度な魔法を中等部一年生の子が!?」「しかもチラッと見えたあれ……」「人形魔法!? かなり珍しいな!?」「オッドアイで可愛い……」「と言うかあの子……」「そうだよ! 二ヶ月前にバロンと引き分けた子の一人だ!」「とんでもないダークホースだなァ!?」
ワーワーと、大きな歓声に私が圧倒されてしまう。
ホントにこれで良かったの? ううん、作戦通り、始まった瞬間に森を創る事で相手を戦闘不能にする。勝ったから良かったんだねきっと!
「流石だぜ。ティーナ!」
「……! うん、ボルカちゃん!」
一回戦は無事突破した。でも此処から複雑なゲームも出てくる筈。今回は相手が前情報を持っていなかったから上手くいっただけ。油断も慢心も出来ないよ!
私達による初めてのダイバース大会。それがついに始まった。




