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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
426/457

第二百二十四幕 組織との抗争

「……………………」

「「『…………』」」


 周りの部下達はともかく、私達が警戒するのは始末屋とやら。一切の隙が無く、いつでも眼前に迫ってきそうな雰囲気。

 次の刹那、私達の視界から消え去った。


「まず一人……」

「……!」

「居ると分かってりゃ、対応も可能だ!」

「ふむ……」


 私は気配を追えなかったけど、ボルカちゃんが反応して対応する。始末屋はナイフのような物を持っており、炎剣にてそれと鍔迫つばぜり合いをおこなっていた。

 文字通りの火花が散って始末屋は飛び退くようにフワリと離れ、ボルカちゃんは魔力を込めてそこへ炎を放つ。


「炎の魔導師か」

「まあな!」

「「「うわあああ!?」」」


 始末屋は火球も回避。その場に居た部下の人達は燃やされた。

 私達は少しでもボルカちゃんの負担を減らすようにしなくちゃね。捕縛がメインなのは私達も変わらない。まずは数の差を埋めたいけど……この魔法を使ったら私が誰か気付かれちゃうかも……。世界的に見ても私の年齢で大規模な植物魔法を使えるのって限られているもんね。

 今はまだ抑え気味で行動しなくちゃ、誰か一人でも取り逃がした場合に私の周りに迷惑を掛けちゃう。それは避けなきゃならない。


「それ!」

「植物……!」

「珍しい……!」

「捕まった……!」


 このまま此処から逃走するのも手の一つだけど、年齢と体格はバレてる。裏家業のプロであるこの人達はそこから情報を割り出せる可能性もあるのでやっぱり一人残さず対処しなくちゃならないかな。

 抑えた植物魔法で捕縛して無力化。リルさんもある程度は加減して仕掛けていた。


『一人一人は大した事無いな。始末屋以外は有象無象だ』

「「「なんだとォ?」」」


 怒りを見せるけど、リルさんの言う事は正しい。裏家業の人達だとしてもそんなに強い訳じゃない。

 だけど強さの真髄はそこじゃないよね。この人達にとっての強さは──


「野郎! ガキが舐めやがって!」

「銃……!」

『刃物なども持ち合わせているな』


 ──銃や刃物などの凶器。

 魔導も十分強い武器になるけど、人を傷付ける事に特化させた凶器はまた別のベクトルで危険。既存の物に魔力で強化し、更なる力を得る事も出来るのでダイバースの試合じゃ禁止されているもんね。

 相手にその遠慮は見受けられない。一応生け捕りってていなんだけど、ボスと幹部っぽい人からは特に制止も無い。その場合は仕方無いって感じなのかな。シビアな裏家業……。


「死ねェ!」


 バンッ! と大きな銃声が響き渡る。

 ダイバースの時に使う人も居る魔力からなる銃とは音が全然違う。これが本物なんだ。

 本物の相手は初めてだからどうか分からないけど、何とかなったみたい。


「危なかった~……」

『うむ。確かに本物の威力は魔力銃の数倍だな』


「なっ……!?」

「植物の壁と……」

「生身で……!?」


 元々音速以上の銃弾は魔力強化も相まり更に上の速さ。けれど魔力で強化している以上、その気配は掴める。だから本来よりも更に強固にした植物で受け止めた。

 リルさんに至っては体の毛皮と筋肉で止めちゃってる。フェンリルの強さを思えば当然の事なんだけど、やっぱりリルさんもスゴいや。


「ほう? かなりのやり手のようだね。ただの子供じゃないとは思っていたけど、銃弾くらいじゃダメージにならないか。止める必要はやっぱり(・・・・)無かったね」

「……!」


 銃を取り出しても制止しなかった理由は、私達が当たっても問題無い事を理解していたから。

 そしてこの余裕は、そんな私達相手でも何とかする方法があるからかな。早いうちに主要メンバー達を捕らえた方が良いかも。


「“鞭の樹”!」

「……!」


 シュルシュルと細長い樹を伸ばし、ボスっぽい人と主要の元に放つ。本人達の実力は分からないけど、これである程度は計れるかな。


「………」

「……!」


 その瞬間、始末屋の人が前に乗り出して植物を斬り伏せた。

 素早い動き。ボルカちゃんを倒した訳じゃなく戦いの最中に防御に入ったみたい。


「オイオイ。アタシとの戦闘途中で離れるなよ」

「これが役目なのでな」


 その後にボルカちゃんも追い付き、炎で加速した蹴りを打ち付ける。それと同時に吹き飛ばし、始末屋はゴミ山の方へと向かっていった。

 ボルカちゃんは魔力を込め、そのゴミ山目掛けて炎を放出。ゴミ山を火の山へと変化させる。


「まさかあの方が……!?」

『余所見している余裕など無かろう。特に貴様らザコにはな』

「……!」


 始末屋が吹き飛ばされた事に対して驚愕の表情を浮かべる構成員達。彼ら目掛け、リルさんは前足を払う。それによって此方こちらも吹き飛び、リルさんは口を開けて力を込めた。


『カッ──』

「「「…………!」」」


 ボルカちゃんと同じく炎を撃ち込み、大半を焼き払う。

 命までは奪っていないけど、二、三日は戦線に復帰出来ないと思うよ。

 そして今度こそ、私の狙い目は主要の人達!


「もう一度!」

「また来た……!」

「オイ! 誰か!」


 見て分かる程に狼狽うろたえる主要人。全然本気じゃない抑えた植物にこの有り様。やっぱり本人達はそんなに強くないみたいだね。


「やれやれ。話し合いは破談になってしまったな。まあ報告を聞けただけ良しとしよう。君達は逃げた方が良いかもね」

「「「そ、そうさせて貰う……!」」」


 一人を除いて。

 放った植物は払われ、掻き消される。一番冷静で物事を判断し、それに基づいた行動を行っているボス格。

 この人だけは歴戦の猛者もさという雰囲気が漂っていた。


「逃がしません!」

「「「…………!」」」


 一人でも取り逃がしたら大変。なので前方に植物の壁を立てて逃げ道を防ぐ。……あ、そっか。最初からこうすれば良かったんだ。私の素性が明らかになったらダメだけど、それが分かっても誰一人として逃がさず捕らえれば私の周りに危害が及ぶ事は無いんだ。


「この山自体が誰も寄り付かない場所。管理人さんも暫く来ないって言ってたし、全員を逃がさなきゃ良いんだ」

「何を……」

「な、なんだこれは……」

「森が……うごめいている……?」

「なんだこの魔力出力は!?」

「これが推定中等部から高等部のガキに成せる技……!?」


 ──全部囲めば(・・・・・)良い(・・)


 ママから譲り受けた……『私の植物魔法』。その出力は我ながら凄まじい。それこそ全世界を覆い、植物でありながら太陽を引き寄せて落とす事が出来る程に。

 だからこそこの山を囲むくらいは朝飯前。夜の暗がり。傍から見たら普通の山。ふもとに街は無い。だからこの人達も取り引き場所に選んだんだよね。

 そのメリットは私にも引き継がれる。


「“山林生成”」

「まさかこの植物全てが……!」

「この者によって作られた……」


 呆然と眺める人達。これだけで戦意喪失を狙えるかもしれない。

 なので更に追い討ちを掛けるよう、私はママのお人形に魔力を込めた。


「“ジャイアントゴーレム”!」

『オオオオォォォォォ…………』


「植物の巨人……」

「逃げられない……」

「もう……ダメだ……」


 狙い通り構成員達の戦意を奪う事に成功した。

 この人達、ダイバースについてはあまり詳しくないのかな。此処までして私の正体に気付いたのが、


「……成る程。この力、ティーナ・ロスト・ルミナス。ルミナス家のご令嬢か」


 ボスの人だけだもんね。

 ボルカちゃんと戦っている始末屋はどうなのか分からないけど、少なくとも私って特定したのはボスだけ。

 これで素性はバレた。報復される可能性や周りを巻き込む可能性もある。だから、此処で確実に倒す!


「“樹拳”!」

「………」


 植物を手に集中させ、それを拳として放つ。

 一点集中の魔力となっており、巨大な植物の拳がボスに迫る。そのまま追突し、大きな粉塵を巻き上げた。


「どうかな……」


 気配は消えていない。ダイバースじゃないから当たり前だね。自動的に転送される訳じゃない。なのでそれだけじゃ意識を奪えたか不明。

 次第に煙が晴れ、次の瞬間に衝撃波のような物が飛んできた。これって……!


「凄まじい破壊力だね。私の体がヒリヒリ痛む。試合じゃ当然のように相殺されたり防がれたりしているが、学生のスポーツと言えど確かな力を秘めているのが分かったよ。これからは情報として知るだけじゃなく、その手の者達を手中に収めていくのも良いかもしれない。数が居れば必ず何人、何匹かは裏になびく」


「そんな事はさせません……!」


 今までダイバース、及びスポーツ選手は標的にしていなかったみたいだけど、私達の力を目の当たりにして悪い方向に思考を向かわせちゃったかな……。

 私達だけじゃなく、他の人達まで巻き込む訳にはいかない。


「私と戦おうとしているね。それは最初からか。けど、勝てるかな。組織を纏めるオーナーは部下達より強くなきゃいけないんだ」

「随分と実力に自信があるようですね……!」


 それについては見て分かる。この人、かなりの使い手。

 部下達より強い。その言葉が意味する通り、戦闘にもけているんだ。


「当たり前じゃないか。……そうだな、一つ例え話をしよう。例えば世界中の人々の身体能力があまり変わらず、子供でも人を殺せるようになる凶器があるとしよう。その場合、ちょっとした切っ掛けで誰でも命を落とし兼ねない。世界中の死亡率は今より高かっただろう。……まあ、この世界に置いてその心配はあまり無いと思うけど、万が一の可能性は何処にでもある。特に私は裏社会の人間。恨みを買う事が多く、私自信心当たりがあり過ぎる。いつ寝首を掻かれるか分からないからね。だから私は相応に鍛えてあるんだ。部下達全員に謀反を起こされたとして、一人残らず打ち倒せるようにね」


「……っ」


 長々と例え話をしていたけど、要するにもしもの可能性に備えて鍛えているとの事。

 きっと誰も信用していないんだね。そしてそう思われるような事をしている。

 ボスの体は筋肉が増強し、徐々に肥大化していく。ジャイアントゴーレムよりは小さいけど、凄まじい力を有しているのは見て分かった。


「結果、全てを跳ね返すような筋肉。全てを打ち砕ける筋肉が私の懸念を消し去れると言う結論に至った。筋肉は強さだ」

「とんでもない脳筋……」

「そう褒めないでくれ。自慢の筋肉を褒められるのは悪い気がしないけどね」

「…………」


 スゴく自己肯定が高いんだね。その辺は見習いたいけど、所業からそうは言っていられない。

 私達の二泊三日旅行……の筈だったんだけどなんで薬物組織を相手取る事になっちゃったんだろう……。


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