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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部三年生
422/457

第四百二十幕 一日の終わり間近の一騒動

 ──“宿屋”。


「わぁ……部屋もちゃんとキレイにしてある……」

「当たり前だ。幼少期から手伝いをしていたのだからな。お手の物よ」

「ほえ~。手慣れてるんスね~」


 お姉さんの案内で宿泊部屋へ。内装はとても整っており、丁寧にメイキングされたベッドが二つ。テーブルや椅子もライトを反射するくらいピカピカで、値段より遥かに上質に感じるものだった。

 下手な高級宿泊施設より此処の方が綺麗まであるねこれ。


「食事はいつ頃持って行こうか? 今から二人分だから30分は掛かるけど、望む時間に合わせてやるよ」

「そッスね~。そんじゃ、すぐで良いですよ。その間に風呂入っておくんで」

「はい。私もボルカちゃんと同じで構いませんよ」

「はいよ~。すぐでOKなのは助かるよ。今から準備すれば良いだけだかんね」


 夕食の時間は30分後。お姉さんは持ってきてくれた荷物を置き、調理場の方へ向かった。

 私達も荷物を纏めてお風呂へ。どんな所なんだろうね~。

 そんな道中。


「全体的に良い所だけど、本当に人が居ないね。ちょっと静か過ぎて怖いかも……」

「ま、穴場スポットって感じだもんな。人混みもそこまで嫌いじゃないけど、こう言う静かな場所ってのも貸し切りみたいでワクワクすんぜ」

「アハハ……確かにボルカちゃんはそっちの気持ちの方が勝っちゃうね」


 内装は綺麗だけど、建物自体は古いので歩く度にミシミシと床の軋む音がする。

 石造りじゃないのは珍しいと言えば珍しいけど、こんな感じの木造建築もまた味があって良いね~。でもそれが少し怖さを感じる。けど基本的には杞憂なのでちょっとした雑談の話題くらいで良いよね。

 そんな風に話しているうちに浴場の方へと着いた。


「流石に広いなぁ~。しかもちゃんと掃除が行き届いてるぜ」

「そうだねぇ。慣れてるとは言え、この広い宿屋を隅々まで掃除するのは大変そう」


 浴場の扉を開け、脱衣場で衣服を脱ぐ。

 まだ全貌は見えていないけど丁寧な仕事振りがよく分かる整え方。お風呂の方に向かい、まずは体を洗う。その最中に周りを見てどんな感じなのか窺った。

 浴槽は石造りであり、露天風呂と言った感じ。全体的に“日の下(ヒノモト)”っぽさがあるね。お風呂大国なだけあり、その手法が人間の国ではよく使われてるの。

 と言うのも、英雄よりも前の時代のヒノモト出身者が人間の国全体にお風呂を広めた説もあるけど、説は説。諸説ありだね。

 体を洗い終え、私達は湯船に浸かった。


「いや~。極楽極楽~。なんだかんだ、遊び回るだけでも疲れるから気持ちいいぜ~」

「そうだねぇ~。お風呂に疲れが溶けていくよ~」


 丁度良い湯加減。私達はゆったりと過ごし、体の疲れを取っていく。ただ遊ぶだけでもそれなりに疲れる。一日の締めはお風呂が最適だね~。

 お風呂から上がると、部屋には食事が用意されていた。


「グッドタイミングだな。今完成したところだ」

「わあ! 美味しそう……!」

「料理も出来るんスね~」

「そりゃあな。そうでなくては一人で経営は出来ないさ」


 そこにはお姉さんがおり、丁度料理を並べているところ。並べられた料理はどれも美味しそうで空腹を刺激される。

 早速席に着き、私達はそれらを食した。


「美味しいです!」

「二つの意味でウマいッスね!」

「ふふ、喜んでくれて何よりだ」

「こんなにやれるなら裏路地でも繁盛しそうなもんッスけどね」

「来た客にはなるべく広めないように言っているのさ。なんせ一人営業だから客が大量に来るとてんやわんやで大変な事になるからな。今や趣味の延長のようなものだし、維持費もそんなに掛からないから今の状況で十分なんだ。それに、この辺は治安もあまり良くない。客人を巻き込む訳にはいかないさ」

「そうなんスか~」

「うむ。では、私はロビーの方に居るから何かあれば呼んでくれ」

「はい。ありがとうございます!」

「ウーッス」


 ご両親から受け継いだ宿泊施設。そんなに人が居なくても費用は意外と掛からないらしく、あくまでちょっと豪華な自宅みたいになってるから今のままで良いみたいだね。

 気儘に経営しながら時折来るお客さんの相手をする。それがお姉さんの在り方なんだ。そしてこの辺の治安についても言及があった。そんなに良くない場所なんだね。

 お姉さんは立ち去り、私とボルカちゃんだけが部屋に残った。ご飯について話したりこの宿屋について語ったり、楽しい一時を過ごせたよ。


「ふう、お腹いっぱい……。美味しい料理だったね!」

「ああ。満足だぜ。そう言や、此処から景色は見えたりすんのか?」

「あー、裏路地だもんね。見えても影になるビル群くらいかな?」


 食事を終え、ふと気になったのでカーテンを開いて外の景色を見やる。

 此処に辿り着いた時点で街灯とかもほとんど無い場所だったし、ある程度の予想は付くけど好奇心からチラっと覗いた。


「わぁ……ある程度は予想していたけど、本当に薄暗いね」

「人影もチラホラ見えっけど、明らかにカタギじゃねえよな~。何かしらの取り引きしてらァ」

「取り引き……?」

「ま、薬屋みたいなもんだ」

「お薬屋さんなんだ。私、行き着けのお店でお薬の勉強もしてるからアドバイスとか貰おうかなぁ」

「やめとけやめとけ。ティーナの思うそれとはまた違う何かだ。人体に害を及ぼす系だな。適量なら治療にも使われたりするけど、アイツらは勝手が違う」

「そんなお薬が……確かに初等部の授業でやったかも……家庭教師さんのだけど」

「薬と毒は紙一重だからな。そろそろ本格的な授業でもやるんじゃないか?」


 そう言ったお薬があるのは知っている。小さいうちからお勉強するもんね。

 まだ本格的には教わってないけど、将来的には必要になりそうな知識だね。


「あ、やべ……」

「え?」


 ボルカちゃんが慌てるようにカーテンを閉めた。

 どうしたんだろう? それについて彼女は話す。


「この辺で明かりが点いてるのこの宿屋だけだし、もしかしたら見られたかもな」

「見られた……!? それってつまり……」

「この宿屋に乗り込んでくる可能性がある」

「そんな……!」

「まあ、あくまで“かもしれない”だから懸念の領域は越えないけどな」

「一応お姉さんに手を回しておくよ」

「オウ。こう言う時ティーナの感覚共有は良いよな~。アタシも気配を追っとくか」


 既にお風呂には入った後なので何かあっても長丁場は可能。眠るにも少し早い時間だから、もし乗り込んで来たりしたら対処出来るかも。

 外を見ようとしただけでこんな事になるなんてね。夜中は危険が多いや。


「……って、噂をすりゃ気配が動いてんな」

「ホントだ……ティナにも映ってる……」


 気配が動き、ティナの視界にも人影が。

 ロビーのお姉さん気付いていないらしく、またタバコを吸って雑誌を読んでいた。

 寛ぐようにのんびり過ごしているお姉さん。これは気付かれるよりも前に対応した方が良いかな。


「一丁やるか」

「うん。まだ杞憂の可能性自体はあるから、様子を窺いつつね」

「ああ」


 再びカーテンを開け、窓も静かに開けて屋根に跳び移る。

 宿屋の前には人だかりが出来ており、私達は屋根の影に身を潜めている。けど、あの人達は部屋の方を見ているね。

 これはほぼ確定かな……。ティナをそちらに伸ばし、その人達の会話を聞く。


「オイ、本当に見られたのか? ブツの取り引き……」

「ああ、間違いない。窓からこっちを見る影があった」


 他は曖昧だけど、一人が強く主張している感じ。ブツの取り引きってなんだろう……。一応まだ違法なアレの取り引きじゃない可能性もある。

 例えば、たまたまお友達と話していたらあたかも違法取引のように聞こえちゃった。なーんだ、そんな事か~……的な展開が……。


「どうする?」

「んな事決まってる。見られたからにゃ、落とし前付けなきゃな。警団に報告されちゃ俺達が捕まる」

「誰であってもか?」

「ああ。なんなら、拐って売るのも悪くない……!」


 あ、これダメなやつだ。内容はよく分からない……というより分かりたくないけど、これダメなやつ。

 私刑は問題があると思うけど、野放しにしたらまた別の被害が出てくる可能性がある……せめて行動不能にしておかなきゃかな……?


「ボルカちゃん……! 実は──」

「成る程な。そんじゃ、証拠と一緒に警団に付き出しておけば丸く収まるな。錯乱状態で同士討ち。結果、全員が意識不明……って事にすれば自然に済むさ」

「ス、スゴい……そんな事を一瞬で思い付くなんて……」


 流石……というべきなのかは疑問だけど、放置しておくといけないのは明白。

 世界的には治安が良い方の人間の国でも、犯罪行為は何かしら起こっている。その現場を目撃したなら通報が良いけど、この場所はそれも難しいので取り敢えず気絶させてボルカちゃんの言う通りにしておこっか。

 今の時期、人が多いから表通りならまだパトロールとかしている人も居るだろうし、しれっとそこに置こう。


「それじゃ……“変装樹葉”……!」

「お、ナイス。これで顔を隠せば良いんだな」

「うん。でもなんか私達が犯罪してるみたい……」

「私刑も罪に問われるからな~。だから偽装して付き出す訳だ」


 取り敢えず顔を隠し、体格とかも誤魔化しを入れる。

 特定されないように気を付けつつ、私達は飛び降り、それと同時に集団を植物に包んで飛び去った。


「な、なんだこれは……!?」

「浮いてる……!?」

「草か……!?」


 大きな葉っぱに包み、ボルカちゃんの炎で加速。大通りに近くも人通りの少ない場所に運び、私達は躍り出た。


「何者だテメェら!?」

「一体何をしやがる!」


「通りすがりの正義の味方だ。お前達、なんか危ないブツの取り引きしてるだろ!」

「それを止めに来ました!」


「なんでその事を……!」

「窓から見てた奴らか?」

「女が子供の声音だな……」


 声色は変えているので私達って気付かれはしないけど、女の子か子供って事はバレちゃった。低音は難しいもんね~。

 けどそれくらいなら問題無い。声から身体的特徴を把握する程()けている訳でもない街のチンピラさんみたいなものだし、特定までは行かないと思う。


「一応聞きたいけど、偶々(たまたま)会話が不穏に聞こえただけで全然普通の物って線は無いよな?」


「あ? んな事決まってんだろ。これを吸うと快適になるんだ。マフィアから買ってるんで値は張るが、止められる訳が無ェぜ!」

「バッ、お前……! そこは普通のって言う所だろ! もうクスリが頭に回ってんな……そんな一気に吸ったらすぐ無くなっちまうだろ!」


 どうやら確定みたい。そんな事無いと思いたかったけど、残念。あくまで夜の裏路地。昼間に表には出てこないような人達だとしても、いつか絶対悪い事が起きちゃうもんね。……他の人達にも彼ら自身にも。


「止めます!」

「「「…………!」」」


 少し弱めた植物を放ち、複数人を捕らえる。周りの人達は魔力を込め、私達に狙いを定めていた。


「植物魔法……!」

「珍しいが、規模はしょぼいな」

「俺達の炎に焼かれて消えな!」

「俺は風だけどな!」

「俺は土」

「水だ」


 色んな属性の魔導が放たれ、まとめて撃ち込まれる。

 だけど全然大した事無い攻撃。薬品で脳に悪影響が及んでおり、考えが覚束無いのか雑に魔力を放っているだけのような状態だった。

 これなら身体能力強化だけでやれるかも。


「はっ!」

「……!」


 懐に入り込み、顎下を打ち抜いて脳を揺らす。そのまま意識を奪い去った。

 此処で奪ってもすぐに起きちゃうから睡眠作用のある植物を織り混ぜ、次々と気絶させていく。


「よっと!」

「……っ」


 ボルカちゃんも身体能力で圧倒。同時に相手の顔へ炎を纏わせ、酸素を奪って意識の奪取。次々と倒していき、残りの一人も意識を消し去った。


「一丁上がり。後は人目に付きやすい路地裏に捨てとくか」

「更正してくれると良いね」


 此処から大通りの方へ向かい、私達は見つからないように人目の付きやすい裏路地へ。

 そこに寝かせ、わざと見えるように置く。これで誰かが気付いたら通報してくれるかな。植物を纏って私達の指紋とかも隠したから、誰がやったとか考えにくいよね。殴打を中心に意識を奪ったから、ボルカちゃんのアイデア通り、錯乱からの殴り合いの喧嘩に発展して今に至る……みたいな偽装が出来た。

 後は本人達の証言になるけど、多分私達の事は覚えていない。それくらい脳に回っていたから。可哀想だね……。

 何はともあれ、私達はお姉さんに気付かれる事無く宿屋に戻り、残りの食器を纏めて置いた。


「片付けに来たぞ~。あれ? なんか様子が違うか?」

「そ、そんな事ありませんよ?」

「満腹になったからッスね~」


 私達の違和感に気付き掛けていたけど、取り敢えず誤魔化した。

 お風呂の匂いやこの料理の匂いじゃなくて大通りや裏路地特有の香りになっちゃってるからね。それが原因かも。

 何はともあれ、お姉さんには悟られる事無く脅威を振り払った。後はベッドに横になり、しばらく私達でお話をする。そして就寝。

 私達の二泊三日旅行。満喫した初日だけど、一日目の終盤ではちょっとゴタゴタがあったね。


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